「……終わりなんですねぇ。アヴェさん」
「そうですね、モモンガさん」
渦巻く星雲のように煌めく光が漆黒の闇の中を僅かに照らす、まるで宇宙空間のような場所にて。
その場に溶け込んでしまいそうな漆黒の、肩に赤い球体から腕に沿うように角のようなものを伸ばしたパーツを覗かせる、縁を金糸の刺繍が飾るローブで身を包んだ、体格のいい骨格標本と言った様子の存在。
そしてもう一人……いや、一体と言った方が良いだろうか?
自らの理想を彫刻であるガラテアに彫り込んだピュグマリオンが創造したといわれても不思議のない。
超然とした美貌を備えた銀髪に青肌の六つの乳房を隠すブラを纏った人間の上半身を持ち、左右三本ずつ、上中下の、中央の腕の指にだけ指輪をはめた、下半身が巨大な蛇の横に長い……俗にいうエルフ耳をした女性型の異形が寄り添っていた。
「モモンガさん。我儘をいった私が聞いていいのか、とは思うんですけど確認させてください。いいんですね?」
「……そうですね。いいんですよ」
「じゃあ、その言葉に甘えます」
「はい。甘えてください」
アヴェ、と呼ばれた女性の異形が言った我儘、とは。
奈落の宇宙という、このゲームのマップ。
そう、二人がいるのはサービス開始から12年が経過したDMMO-RPGの中。
ユグドラシル内に存在する、ヴァルキリーの失墜という、ファンタジーメインだった世界観に大幅に追加されたSF要素で追加されたこのMAPで、サービス終了の時を迎えたい、という物だった。
この二人、モモンガの方はかつてゲーム内で大多数の人間に様々な意味で敵対されていた有数ギルドのギルドマスターであり、当然思い出のあるギルド拠点を所有している。
その思い出は、全てではない(アヴェはギルド創設から新規募集打ち切りギリギリの間までにはいった口なので)が、ある程度共有している。
それなら、なおさらなぜアヴェの我儘で思い出の場所ではなくこの凶悪なアクティブモンスターも闊歩する中、スポーンポイントから外れて滅多にモンスターがやってこないとはいえ、見栄えが良いだけのデートスポットに居るのかというと。
「モモンガさんがまだ皆の事を好きなのは解ってるんです。でも、次のゲームでまた私と遊んでくれるとしても、この「ユグドラシルで終わるモモンガさん」を私だけのものにしたかったんです。こんな重い女は、お嫌いですか?」
「嫌いになれるわけないじゃないですか。その「最後まで付き合ってくれる最後の人」なのに」
怯えるアイコンを出したアヴェに、笑顔のアイコンを出すモモンガ。
それを見てモモンガと並んだアヴェはより一層肩を寄せる。
「ふふ。安心しました。それにしても、ゲームが終わるこんな時になるまで狩場とナザリックの往復ばっかりだったんですねぇ。二人になってからの私達って」
「あー……そうですね。すいません。告白してもらって、ゲーム内で結婚までしてるのにそういうの全然気が回らなくて」
汗かきアイコンを出すモモンガに、首振りアイコンを出して、そういう事じゃないんです、と言うアヴェはさらに言葉を続ける。
「いえ、ゲームの中なのに、まるで私達社畜みたいだったなぁって」
「う゛っ……言われてみればそうなのかなぁ……。で、でもユグドラシルの戦闘は乱数とかあってそれにアドリブで対処するのが楽しいのがやっぱり「遊び」って感じでしたよ!」
「ああ、それはあるかもしれませんね。それに、こんな素敵な物をくれた人たちのよすがを護るために戦う事を社畜と同列にしたのは失礼ですよね、謝罪します」
「あ、いや、うん。ギルド、アインズ・ウール・ゴウンのギルド長としてその謝罪を受け入れます」
右手の中指に填めた指輪を撫でながら頭を下げたアヴェに対して、気にしなくていいですよ、と言い掛け。
いや、それは胸の中に残る思い出の人たちに対する礼儀として違うよな、と判断して、謝罪を受け入れるモモンガ。
ギルドメンバーのうち、既にいない四十人がいまだ健在だったころにアヴェに残したものとは。
リング・オブ・イモータル。
身に着けている限り死亡しないという効果を持つ、ユグドラシル内でも隔絶の能力を持つといわれるワールドアイテムの一つ。
ワールドアイテムとしてみれば「身に着けていれば死亡しない」というのは比較的低位の効果である(上位の者になれば運営に直接要望を届けられたり、使用した対象のアカウントを抹消できるなど、MMO-RPGとしては通常許容されない効果を持つことを考えれば比較としてそうなる)のだが。
アヴェがプレイヤースキル的に特に優れているわけではなく、ステータス・スキル構成的にも「狙われると脆い支援の中枢」という適性をみればこれ以上なく相性のいいアイテムだった。
「これがあるから他の皆がいなくなってからもモモンガさんと気兼ねなく狩りにいったり、フィールド観光したりできたんですものね」
そういって、そっと目を閉じるアイコンを出すアヴェを見て、若干モモンガは気恥ずかしくなる。
この奈落の宇宙に前衛職のいない現状で、自分一人で到達するならまだしも、アヴェを介護しながらだとリング・オブ・イモータルなしで到達できたか怪しかったから。
「まぁ、それを残してくれた皆さんには感謝するとして。今はこの光景を楽しみましょうよ」
「そうですね」
ここには、二人以外誰もいない。
それはサービス終了間際になりユグドラシルが過疎になっているというのもあるだろうし、この奈落の宇宙が単なるデートで来るには難易度的に重い、というのもあるが。
ともあれ、今ここに存在するプレイヤーは二人きりだった。
「ねぇ、モモンガさん」
「はい、なんですかアヴェさん」
「楽しかったですね」
「そうですね!」
心折れそうな時に楽しみを教えてくれる出会いがあった。
心引き裂かれそうな別れもあった。
でも、二人は互いに最後の時を共に迎える片割れに出会えた。
地獄のような現実から逃避するように遊んだDMMO-RPGの中で、そんな出会いが出来た。
それだけで二人は満足だったのだ。
そして、一度結んだ縁はその後も続いていく。
「サーバー停止の十二時まであと十……九……」
「……二……一……」
それでもそこで、一度の終わりを迎える。
「筈」だった。
ヤバいと思ったが書きたい気持ちを抑えられなかった。
というわけでこういうのもn番煎じになるほど数あるのかなぁと思いつつオリ至高とモモンガさんの二人旅物です。
宜しくお願いします。