モモンガさんと異形の母、二人   作:belgdol

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危険な女

「危険人物の討伐要請、ですか?」

 

 あの門前での試験から数日後。

モモンガとアヴェを特例として都市に出入りを認めるという証書を受け渡したラキュースが、二人をエ・ランテルの市庁舎の会議室に招いて切り出した要件にたいして、モモンガは訝しげな声を上げた。

これにはアヴェも続いて、疑問があると切り出す。

 

「何故私達なんですか?貴方達「蒼の薔薇」は冒険者の最高峰、アダマンタイトなんですよね」

「まあ当然の疑問だと思うけれど、これは貴方達にとっても悪い話ではないと思うわ」

「理屈は解りますけれど……」

 

 そう、都市にとっての脅威を、都市側からの信頼を得るために外来人が打ち倒す。

よくある話だ。

だが、それはあくまでも同じ人間種同士の話だ。

 

「ラキュースさん、アヴェさんが言いたいのはそこで「只の新参者より信頼度マイナススタートの異形種の二人に任せていいのか?」ってことですよ」

 

 つまりはそこである。

同じ人間同士なら最低限存在する信頼感というものが、構築できていない。

その段階でそんな重要な任務に人外であるモモンガとアヴェをあてるのか、ということ。

 

「……正直に言うわ。王国戦士長級の敵が、目的の分からない危険集団と思しき人間たちと連携を取ろうとしている。その企てを阻止するのに、私達「蒼の薔薇」だけでは「確実」といえないの。その点、能力だけで言えば貴方……アヴェさんの方は分からないけれど、モモンガさんの方はうちのイビルアイとの試しで力をある程度証明しているわ」

「危機の前で、同じ人間と戦うなら人外の存在の力も使う、という事でいいですか?」

「そう取ってくれて構わないわ」

 

 ラキュースの真意を見通そうとするかのように問いかけるモモンガに、真っ直ぐとした視線で答えるラキュース。

そんな彼女の様子に、アヴェも納得がいった、という様子で再び口を開く。

 

「解りました。危険かもしれませんけど、抜き差しならない状態で助けて欲しい、と言われれば私達としても手を貸さない、とは言いにくいです」

「ご理解いただけて光栄だわ」

 

 アヴェからの了解を、モモンガからも了解が取れたと解釈したのかラキュースが頭を下げる。

そんな彼女にモモンガから一つ提案が出された。

 

「うーん。じゃあ……「蒼の薔薇」の皆さんと俺達で改めて打ち合わせをしませんか?俺達は斥候職の働きが出来ませんから。「蒼の薔薇」にはそういう方もいらっしゃるんでしょう?」

「あら、何故そう思うの?」

 

 どこか悪戯っぽく見せながら、抜け目なくモモンガを観察する目をするラキュースに、モモンガは自分の見解を述べる。

 

「冒険者が上に行くには正面からの殴り合いだけじゃ務まりませんからね。先日お会いしたイビルアイさんと……大柄な方は明確にマジックキャスターと戦士職ですし。そういう方も別にいるかなと」

「正解。ちなみに大柄な彼女、ガガーランっていうの。先に教えておくわ。あの時は名乗らせるきっかけがなくてごめんなさいね」

「いえ、お気になさらず」

 

 いきなり自分を童貞認定してきた人を紹介されてもリアクションに困っただろうなぁ、と思いながらモモンガは気にしていない風を努めた。

そんな夫の内心を知らず、アヴェはラキュースに確認を取る。

 

「それで、私達と「蒼の薔薇」の皆さんでミーティングをするのはいつごろになさいますか?」

 

 それに対してラキュースは決然とした様子で応じた。

 

「私が呼べばすぐさまこの会議室に合流できるわ。貴方達はそれでいいかしら?」

 

 モモンガもアヴェも、そういわれれば都合がいいと即座に承諾。

その場で会議の場が設けられることになったのだった。

 

 

 

 

 エ・ランテルにはバレアレ魔法店という、ポーションの大店がある。

鳥の視点でよく観察してみれば、その近所をバレアレ薬品店から一定の距離を保って様子を伺う不審なローブの人物が確認できただろう。

そして「青の薔薇」の斥候である忍者のティアとティナは、鳥ならぬ身でその人物の動きを捉えることに成功していた。

だから、その人物がバレアレ薬品店から離れてスラムに入る所まで把握していた。

そして。

 

「……動きが止まった」

「誘い?」

「そういうわけじゃないみたい。今のうちに鬼ボス達を呼ぼう」

「いざとなったら足止めする」

「お願い。なるべく急ぐから」

 

 

 

 

 街路に血に濡れた男が横たわる。

その男は死んだわけではないらしく、細かく痙攣しつつも、まだ目に光を宿していた。

 

「やっぱさぁ。溜るんだよねぇ。定期的に殺らないとさぁ。もう血を見ない日はストレスがたまっちゃってたーいへん。だからぁ、あんたみたいな屑にご協力願ってる、わ・け。解るぅ?」

 

 びくびくと反応する男の、致命傷にならない部位に刺突短剣を突き刺して弄ぶ女。

彼女の名をクレマンティーヌという。

 

「ほらほら、がんばれがんばれ。まだ死んじゃだめだよぉ。あたしが楽しんでんだか……」

 

 しかし、唐突に男を弄ぶことを止めると、刺突短剣に弄ぶ対象を変えたかのようにくるくると短剣を投げ廻して手元に収めることを繰り返す。

そして、街の一角に向けて視線を固定し、静かに挑発を放った。

 

「んん~。どこの誰だか知んないけどさぁ……臭うんだよ、くっせぇくっせぇ犬の臭いがさぁ。出て来いよ」

 

 しかし反応はない。

勘違い……ということはないだろうか。

その場に他人がいればそう思った事だろう。

だが、クレマンティーヌは確かな確信を持っているかのようににらみつけることを止めない。

 

「ふ~ん。出てこないつもりなんだぁ。ならいいですよー。あたしこのままどっかいっちゃうだけだしぃ」

 

 それでもそういうと、パッと気まぐれな猫が視線を変えるように体の向きを変えると、男を放置して歩き出そうとする。

そこに隙有りとみたか、物陰から手裏剣が飛ぶ。

 

「ばぁぁぁぁあか!見え見えだっつーの!」

 

 だがクレマンティーヌは瞬時に振り替えると、その動作に回避を兼ねて手裏剣の出どころに向けて一瞬で駆ける。

そして、そこで「蒼の薔薇」のティアと刺突短剣を忍者刀と交差させる。

 

「く!想像以上の化け物」

「ひひひ、ひっどぉ~い。あたしみたいな女の子にぃ、化け物とか言っちゃっていいわけぇ?そんな悪い口は……縫い合わせねーとなぁ!」

 

 さらに数合剣戟を交わすも、二人ともまだトップギアではない。

 

「ふふ、たーのしい。粘ってくれちゃってぇ……んじゃギアあげまーす」

「う……!」

 

 クレマンティーヌが身体能力を底上げするバフスキルのような武技<<能力向上>>を発動させ、刺突短剣を突き出すストロークを短くする。

 

「ぐ、うぅぅ……この自称女の子の痛いおばさん、強い……!」

「誰がおばさんだってぇ?あんたそう歳かわんないんじゃないのぉ?自爆ぅ?」

「私はピチピチ。自称()女の子の貴女とはちがう」

「は、いってろよボケ。その強がり、いつまで続くか楽しみぃ~」

 

 お互い、余裕がありそうな口調だが、まだ底を見せないクレマンティーヌに対し、本来隠密伏撃や戦闘補助をメインに行う遊撃である忍者のティアが正面から渡り合うのは分が悪い。

何度か避けるのがきつかった刺突を<<不動金剛盾の術>>などで誤魔化す場面が見え始めている。

そのままなら遠からず、ティアの死体を残してクレマンティーヌには逃げられる……かと思われた時だった。

 

「<<ペネトレートマジック>><<マキシマイズマジック>><<トリプレットマジック>><<マジック・アロー>>」

 

 <<フライ>>という飛行魔法で空を飛び一足先に急行したモモンガが、空から落ちながら最大威力・抵抗難化した必中の<<マジック・アロー>>を三重に……合計三十発解き放つ。

 

「なに!?リッ……ぐえ!げあ、づ……こ、このやろ……がっ!」

 

 囮となり追い詰められていたティアの前で、魔法一つ(補助魔法をカウントしなくていいかは謎だが)でクレマンティーヌを沈めたモモンガはティアに声を掛ける。

 

「無事ですかティアさん!」

「ん。ナイスタイミング」

 

 ズシンと街の石畳に着地したモモンガに、サムズアップで返すティア。

 

「殺しちゃいましたかね……?」

「んー……ギリギリ、ってところかも」

「そうですか。一安心です」

「ボスたちは?」

「イビルアイさんはもしもの為の共同墓地の抑えに残ってます。ラキュースさん、ガガーランさん、アヴェさんは徒歩ですからね、どうしても俺より到着は遅れますよ」

「そ。じゃあボスたちが来る前にこの変態女を捕縛する」

「変態女?」

「スラムの通りすがりを拷問して遊んでた」

「うわぁ……」

 

 一仕事終えた開放感を味わいつつも、その後にもまだタスクが残っているので業務連絡を交わしていたモモンガだが、ティアのクレマンティーヌへの変態女呼ばわりの理由を聞いてドン引きしてテンションを落とした。

 

「それにしても、この女がこんな簡単に片付くとは思わなかった」

「そうなんですか?」

「貴方は自覚が薄いけど、王国戦士長と並ぶヤバさの女をこんなあっさりのしちゃうのは超激烈にヤバい奴認定だから」

「は、はぁ……そうですか」

「貴方が味方で本気でよかったと思ってる」

「……それなら嬉しいですね」

 

 その後は、クレマンティーヌに縄をかけて合流してきた四人のうち、ティナが今度はイビルアイと合流しに向かい、モモンガ、アヴェ、ラキュース、ガガーラン、ティアの五人で警邏隊の本部にクレマンティーヌを引き渡した後、イビルアイとティナに再び合流し、共同墓地に巣くう怪しい集団を制圧すると、ひとまずエ・ランテルの危機は去ったのだった。

なお、共同墓地の戦闘は死の螺旋という儀式を執り行っていたカジットというマジックキャスターと、その弟子たちに加え、魔法絶対耐性という有名な能力を有するスケルトリ・ドラゴンが二体召喚されたが。

前衛を含んだ臨時同盟の前にはあっさり砕かれ、特に見せ場もなく終わったのだった。

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