エ・ランテル市庁舎の会議室。
ここには今、モモンガとアヴェ、ラキュースの三人が先日の危険人物捕縛の清算をするために集まっていた。
「これは都市の治安を乱す違法組織の摘発に関わった貴方達への分け前よ」
「ありがとうございます」
お辞儀をするモモンガに、律儀な男?だと思いながらラキュースが金貨の入った革袋を渡す。
「それから、今回の事件で見せた貴方達の力を鑑みて、冒険者組合へ登録する場合の推薦状を私達「蒼の薔薇」と都市長パナソレイ様の連名で書かせてもらったわ」
「ええと、冒険者組合というのはイグヴァルジさんとかいう人の所属してる組織ですよね?」
「イグ……?ああ、私達が来る前に貴方達を圧しとどめるために懲りずに何度も挑んでいたというミスリル級の冒険者ね」
「だと思います」
「冒険者組合を尋ねたら文字の読める人にこの推薦状を見せてみて。私達「蒼の薔薇」のサインと都市長パナソレイ様の印璽が捺してある書類を持つ貴方達に妙な事をすればその冒険者はこのエ・ランテルでは仕事を失うでしょうね」
「なるほど」
納得しました、という様に頷くモモンガとアヴェに対して、更にラキュースは説明を加える。
「それに、一般職員などへの見せ札である推薦状を書いただけじゃなくて、冒険者組合の支部長アイザックさんには個人的に貴方達の事をお話してあるわ。その点でも心配しないで大丈夫よ」
「なんというか、色々ありがとうございます」
「私達の為に骨折りして頂いて本当にありがとうございます」
話は付けた、というラキュースに頭を下げるモモンガとアヴェに、彼女は大したことじゃないというように手を振りふり言葉を付け足す。
「とはいっても、あくまで私達が話を付けたのは頭にだけ。末端の冒険者たちには、正直中々受け入れられないかもしれないわ。申し訳ないけどそこは貴方達が頑張ってね」
「そんなことありませんよ。きっかけを作って貰えただけで俺達にはありがたいですはい」
申し訳ない、という言葉にかぶりを振るモモンガ。
そんなモモンガに続いて。
「本当に、話を一切聞いてもらえず追い返される日々は辛かったでしたからね、モモンガさん」
そういって改めてラキュースに感謝の意を伝えるアヴェ。
示された謝意に、ラキュースは改めて微笑んで、モモンガに二人分の紹介状と思しき封蝋で封をされたスクロールを渡す。
「それじゃあ、二人とも。今回はいい仕事だったわ。貴方達がエ・ランテルで名声を轟かせたら、またどこかで一緒に仕事をすることもあるかもね」
「お疲れさまでした。ところで他の皆さんは?」
「あ、それは私もお聞きしたかったんです。他の皆さんはどうなさったんでしょうか」
内心、やはり異形種相手には思う所があるのだろうか、と思いながらモモンガとアヴェは「蒼の薔薇」のラキュース以外の面子の行方を尋ねる。
「ん。それは一足先に今回私達がリ・エスティーゼからやってきた依頼の依頼主に報告に向かったからよ。依頼主は王都から動けないから、本来貴方達を見極めたらとんぼ帰りする予定だったのよ」
「あー、あくまであの……」
モモンガは実際尋問に立ち会ったわけではないので、カジット達と相対したときに名乗っていたのを聞いただけなので若干うろ覚えだったのか、組織名がすんなり出てこない。
それを見てラキュースが補足する。
「ズーラーノーン、ね」
「ええと、ズーラーノーンの構成員の制圧は予定外の特殊な処理だったんですもんね。そういうことでしたか」
「雇用主への報連相は大事ですからね」
そういう事なら、と嫌悪されているのがここにいない「蒼の薔薇」の面子が欠席している理由ではないようだと解って、安堵するモモンガとアヴェ。
「そういう事。それじゃあ、私もそろそろみんなの後を追うわ。二人に幸運がありますように」
そんな二人に会釈して、ラキュースは部屋を退室していく。
彼女を見送って、自分たちも会議室から出て、街中に出るモモンガとアヴェだが。
その二人を見つめる街の人々の瞳に宿るのは恐怖。
不信ですらない、ただただ危険な存在が、自らに手を伸ばせる距離にいるという恐怖を瞳に宿している人々ばかり。
「……正直、きつくないですか?アヴェさん」
「あら。辛いのが私だけみたいな言い方をなさるんですね、モモンガさん」
二人が進む方向の人波がさーっと引いているので、普通に会話する分には他に聞く人もいないだろうと、口火を切るモモンガに、アヴェはあなたもでしょう?と返す。
「俺は……ほら、男、ですから。黙って背中で語るってことで」
「ふふ、大丈夫ですよ。恐怖の視線に晒されることに思わない事がないとは言いませんけれど、この視線をあなたと一緒に信頼の視線に変えていくことを思うと、楽しいくらいです」
「そういってもらえると嬉しいんですけど。それにしても不思議ですね」
「何がですか?」
モモンガが立ち止まって中空を見つめて放った言葉に、アヴェも立ち止まって疑問を返した。
だが、モモンガはその問いに応えなかった。
「いや、街中で話すようなことでもないので落ち着いた場所に着いたら話します」
「そうですか?それなら一先ずは置いておきますけれど」
そんなやり取りをして、再び歩き出そうとしたモモンガの後をアヴェが蛇体をくねらせて続く。
「えーと、冒険者組合はこっち……でいいんですっけ」
「「蒼の薔薇」の皆さんと打ち合わせをした時に教えてもらった街の地理からするとそうですね」
「正直、あの地図はこの世界の見た目の文明レベルに対して結構高度な地図だなーって感じだったんですけど。どう思います、アヴェさん」
「そうですねぇ……やはり「蒼の薔薇」の皆さんレベルの立場になると色々特典というか、優遇措置のようなものがあるんでしょうね」
アヴェの分析に、モモンガも頷く。
そして尚も話しながら冒険者組合への道中で会話を続ける。
「やっぱりそうですよね。じゃなきゃ正直今回の不審者制圧の仕事も、都市長の認可があったとはいえ、本来なら衛兵でなければ冒険者組合の支部長がチームを選出したりしそうなところを、頭越しに俺達の起用をしましたからね」
「冒険者のアダマンタイト級というのは、それだけ重いんでしょうね」
「まあ、冒険者としての名声だけで上司を顎で使える組織って言うと不安が残りますが」
「ええと、思うのですけど、形式としては平社員と上司みたいでも、実際の立場的にはもう少し対等なのかもしれませんね」
「と、いいますと?」
「エ・ランテルは大都市らしいですから、当然冒険者組合の規模も大きいと思うんです。でも、冒険者の側にも活動する場所を選ぶ権利がありますから。有望な人材を逃さないためには支部長側もある程度の配慮が求められるのではないでしょうか」
「なるほどー。そういうことなら思ったよりラキュースさん達の権限が強いのも頷けますね」
「私達もそんな配慮を受け取れるくらい、活躍しましょうね。モモンガさん」
「ははは、そうですね。ある程度位階が上がらないと収入も上がらないみたいですし……アヴェさんに良い暮らしをしてもらうためにも俺、頑張りますよ」
「もう、モモンガさんったら」
そうして駄弁りながら冒険者組合へと向かう二人。
その行く手の通りでは、話していた人々がわき道に隠れたり、対向の歩行者が引き返すなど、やはり二人は街の住民に恐怖を振りまく存在だというのが見て取れる。
それを視界に収めながら、モモンガもアヴェも、早く都市の為に貢献して自分たちに対する偏見だけでも取り除こう、と誓うのだった。
書いた時は冒険者組合の「政治不介入」的決まり忘れてて、思い出してから街の有力者からの紹介状って効果あるかなぁ、と思ったんですが。
冷静に考えれば政治的な意味はないとした上で社会的信用のある人が「この人も信用できます」って紹介するのはグレーゾーン(政治的な意味はないよ?意味はないが、分かってるね?扱いされる可能性はあるのかなぁ)だけど許される気がするのでまま、えやろ…と。