その日も、少年は耐えていた。
恐怖も混じっていたが、こんな感情が人生には存在したのか、という未知の感情に対する忍耐だった。
「ええと……これでいいかしら?先生。確認をお願いします」
「……はい」
「先生、俺も書けました」
「……はい」
先生と呼ばれた少年。
ペイジは精緻な異形の女神像のような相貌の、六腕の女性から紙を受け取ってその内容をゆっくりと読み下した。
“はくぢのハだの 愛しいあなた 今夜 いつしょに 星を みまセんか? あなたに愛される あおはだより”
“凶の空もうつくしいですね まるて あなたの すでらかな はだの用でス”
ペイジは絶望した。
なんで読み書きの練習の書き取りをする時、六腕の女性、アヴェに対してその相方であるリッチの男性モモンガに対して手紙を出すような形式で練習しましょう、なんて言ってしまったのか。
そのせいでペイジはこのところ、語彙はわずかに増えてきたものの、まだまだ拙い、誤字もある幼児が書くような恋文を何十通も読む羽目になっている。
今だってこの通り、夜に星を見ましょうだとか、空の色が貴女の肌のようだとか。
とてもじゃないが子供の自分が読まされるような内容だとは思えない内容の手紙ばかり、自分を中心に行き来している。
その事実に頭がどうにかなりそうだった。
恥ずかしかったりするだけじゃない、この目の前の異形種のカップルがなにか、そうなにか……爆発系の魔法で粉々にならないかな、みたいなくらい感情が沸いてくる。
勿論、こんなことを考えているのが目の前のリッチ(モモンガ)に伝われば身の破滅だというのは解っている。
だが、それでも少年には止められないパトスがあった。
“リア充爆発しろ”
彼の気持ちを現代文にするなら、こうなるだろう。
だがそんなことはペイジには解らない。
ただひたすらに、本当に、過去に戻れるならペイジは過去の自分に「手紙形式の練習はやめておくんだな、おまえにもかぞくがいるだろう」と言いたくなっていくだけだ。
ああ、だがやんぬるかな。
時間は魔法で止められて(時間停止魔法への対処はユグドラシルでは基本、らしい)も、巻き戻すことはできないのだ。
……自身の状態を数秒前に戻すスキルがあるのは、また別の話なのだが。
いや、もしかすると<<ウィッシュ・アポン・ア・スター>>という、経験値を消費して願いを叶える魔法ならワンチャンあるのかもしれないが……。
ともあれ、世は無常であった。
少年が熱々のラブレターの中継点にされる生活は、当分続きそうであった。
閑話ということで二話同時更新です。
よろしければ前話の本編もお楽しみください。