モモンガさんと異形の母、二人   作:belgdol

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「人」として生きていくために

 あの読み書きの教授の依頼から三か月半。

ペイジ少年には結局一か月半までの期間延長をお願いし、金貨四枚を支払ってなんとか基本的な読み書きの技能は習得したモモンガとアヴェ。

今では自分で依頼掲示板の依頼を読み解き、引き受け、達成する日々を送っている。

依頼人と顔を合わせる機会のある依頼は、いまだに依頼人側に拒否されることもあるものの、そうではない依頼や、常設の亜人の間引き任務などで稼ぎを得る生活を送っていた。

 

 そして、いざ依頼を受け始めれば二人は破竹の勢いで討伐依頼をこなしていった。

本来ならば調査任務なども受けられるアイテムの在庫はあるのだが……消耗品の補充が見込めないこともあって、慎重派のモモンガはいざという時の調査の為にそういう方向のリソースを温存することに決めていた。

アヴェもそれに同意し、二人の受ける依頼は討伐系に偏っていったので、結果としてそうなったのだ。

 

 それはさておき、今の二人がどんな場所で起居しているかというと……。

 

「……」

 

 モモンガか固まっている。

アンデッドになってから、身動きしないことに何ら抵抗を覚えなくなって久しい。

が、エ・ランテルに入って「宿」を取ってから朝の時間にはピクリとも動けない状態が続いていた。

 

「んん……んふ……」

 

 それはモモンガの身体を蛇体で巻き上げ、女性の上半身の多腕で抱きしめるアヴェの抱き枕にされているからだ。

正直、モモンガは「こんな堅くてゴツゴツしたものが抱き枕になるのか?」と思っていたが、アヴェの方から「こう」したいのだと言われて、やむなく……そう、やむなく抱き枕役に徹しているのだ。

 

「んん……」

(うぉ……やわらか……」

「ぅん~……?すー……すー……」

(おっと、声に出してた。やばいやばい……)

 

 ……邪まな感情は無いはずである。

まあ、あったとしても今や完全にモモンガの事を夫扱いしているアヴェが嫌がるかと言われれば、それは無いと言えるのだが。

 

 そうこうしているうちに、「宿」である馬を維持している冒険者向けの、そこそこのグレードの宿の厩の中に朝日が差し込み始める。

それを見たモモンガは、そろそろアヴェを起こす頃合いだな、という事で、自身を抱きしめているアヴェの背中から腕を回し、肩を揺する。

 

「アヴェさん。朝ですよ。起きてください」

「ん~……ふあぁぁ、おはようございます。モモンガさん」

 

 同衾して初めのうちは肩を揺する程度ではなかなか起きなかったアヴェだったが、リング・オブ・サステナンスで飲食睡眠不要になった影響と、習慣づいてきたからか、モモンガからの覚醒の促しには素早く反応するようになってきていた。

 

「準備したら出て、朝ごはんを屋台で食べたら組合に行きましょう」

「はい。では少しお待ちくださいね」

 

 厩のわら布団の上で寝ているせいで、さすがに衰えることを知らない見事な銀髪や蛇体にも、わずかに寝藁がまとわりついている。

それを手早くエ・ランテルに来てからモモンガに送られた櫛で落として、出かける準備が出来たことをアヴェは夫に伝える。

 

「それじゃ行きましょう」

「はい。今日もいい仕事があるといいですね」

「今日何にもなかったら常設の間引き依頼こなしにいきましょうか」

「そうですね。私の格闘勘もまだまだですし……」

 

 その日の簡単な方針を、簡単な朝食を取れる屋台街に向けて歩きながら話し合う。

そんな二人に向く周囲の眼は、三か月半前エ・ランテルに訪れたばかりの頃とはずいぶん違うものになっていた。

 

「お!亜人の姉ちゃん、今日はうちで食ってかねえか!鳥串一本三鉄貨だ!」

「こっちの野菜スープもうめえぞ!こっちは二鉄貨」

 

 すっかり街の名物コンビになった二人の、主にアヴェばかりに屋台の売り込みが掛かる。

アヴェばかりに声がかかるのは、なにもいまだにモモンガがアンデッド故に恐れられているからではない。

単純に、アンデッド故に飲食が不可能だからだ。

売れない相手に売り込みはしない。

商売の基本である。

 

「んー。今日は何を食べましょうかね……」

「いつも朝ごはんは迷いますよね、アヴェさん」

「だって、こんなに沢山屋台があって、以前みたいにシリアルバーしか食べるものがない時とは比べ物にならない贅沢ができるんですもの。それは迷ってしまいますよ」

 

 にこにこと上機嫌で居並ぶ屋台を品定めするアヴェの笑顔を見ているモモンガは、何とも言えない、ぼんやりとした温かいものが胃の辺りにあふれるのを感じる。

確かに、モモンガは食事という行為を楽しむことはできない。

だが一杯食べる君(アヴェ)を見て、満たされた気持ちになることはできる……と思うのだ。

 

「んー……よしっ。すいませーん。このピタパン二個ください」

「あいよ!毎度有り!」

 

 アヴェが、野菜と肉を半円型の小麦を焼いた生地で包んだ食べ物を注文する。

代金を払い、商品を受け取り、もっもっと「美味しい」と口にせずとも、食べるのを楽しんでいるのが伝わるほど美麗な顔を喜びで崩しているのを、モモンガは満足げに観察しながら歩く。

 

「お腹いっぱいになりました?」

「はい。今日も一日頑張る元気、でてきました」

 

 モモンガには、元気を示すように六本ある腕の半分で力こぶを作るようなしぐさをするアヴェも愛おしい。

効率だけで言えば、飲食不要の指輪を装備しているアヴェに食事を摂らせるのはナンセンスだろう。

だがそうではない、そうではないのだ。

この世界に来て、初めて「生」の食材を口にした時のアヴェの、喜びすぎて泣いていた顔を、きっとモモンガはこの先ずっと忘れない。

 

 その体験は、大切なのは、これから先も思い出を作っていくこと。

どんな小さなものでもいい。

この世界に、あなたといて嬉しい。

そう思える思い出の積み重ね。

それこそがアヴェと自分自身を「人」で居させてくれるのだろうと、モモンガにはそう思わせるだけの説得力があった。

 

「じゃあご飯の為に、今日も頑張って仕事を捜しましょう!モモンガさん!」

「……はい、俺も、まだまだ一杯食べて笑顔になるアヴェさんが見たいですから」

「ふふ。じゃあ私、ずっとモモンガさんにご飯を食べる顔を観察され続けますね。観続けてくれますか?」

「ええ、勿論」

「嬉しい!」

 

 多分、この暖かい気持ちはモモンガだけのものではない。

アヴェの胸にも宿っている。

 

 そのぬくもりを胸に、二人はこれからも、「人」としてこの世界を旅していくのであろう。

だがそれはまた別の話。

今はこれをもって話の結びとするとしよう。

どっとはらい。




一先ずここで完結、とさせてください。
飛び地のようにこのさきこの二人はこういうイベントをこなすのかなーというアイディアだけはあるのですが。
アイディアを文章の構想に消化できないのと、文章を書ける波が去ってしまってこれ以上手を加えると色々崩壊してしまう気がするので、この話はここでお終い!閉廷!
十三話+閑話二話にお付き合いいただき、ありがとうございました!

なお鉄貨は一泊銅貨いくらだから~もっと安い単位で買えないと気軽に買い食いも出来ないよね…とおもって捏造した独自通貨になると思います。
そもそも原作でそんなお金の話がやりたいことに対して不足があるとかの話はあるけど単位とか種類の話はそんななかったと思うので…といってもうろ覚えですが。
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