モモンガが「俺がアヴェさんを守護らなきゃ……」と決心してから話題を変え、改めてアイテムボックス内のアイテムを確認し終えたところで「それ」は現れた。
「んー。なんでござるかぁ?何とも言えぬ馥郁たる香りがするでござるよ……」
「!?」
二人とも索敵スキルなど持っていない上に、感覚としてはつい先ほどまで一般人だった二人である。
静かに近寄っていた「それ」に気づくのが遅れた。
素早くアヴェの背後に忍び寄った「ソレ」……巨大なジャンガリアンハムスターが無遠慮にアヴェの香りを嗅ぎ始めていた。
「きゃあ!」
「うぉ!?なんだお前!」
驚きのあまり身を引く二人のうち、アヴェの方を追いかけて鼻をせわしなく動かして匂いを確かめるその巨大生物の仕草に、アヴェが一瞬固まる。
それを見て取ったモモンガが<<グラスプ・ハート>>を詠唱しようとしたが。
「か、可愛い!」
「ん?某の事を可愛いなどと……だがなんというでござるか。お主の良い匂いはそんなことどうでもいいと思わせるに十分な芳香でござるよ~」
「ね、ねぇ。撫でてもいい?」
「む~。本来なら拙者の自慢の毛並みに無神経に触るようなら滅っしてやるところでござるが。お主ならいいでござるよ……某、お主にとても親近感を抱いておる故」
「そう?ありがとうね。じゃあ失礼して……わっ、モフモフかと思ったら意外と剛毛……」
「そうでござろう?手触り自体は良くとも拙者の毛は並の剣など通さぬ逸品ゆえ」
「すごいのねぇ」
「う~……お主なかなかのテクニシャンでござるな。お主に撫でられていると……見たこともない母君の姿が見えるようでござるよ……」
「ふふふ、もっと甘えていいのよぉ」
咄嗟に発動しようとした魔法を止めるも、なんなのこのげっ歯類、なんで俺も嗅いだことの無いアヴェさんの匂いを遠慮なく嗅いでるんだクソっ、という気持ちになってしまったモモンガ。
彼は先ほどのような急な精神状態の変化はなく、なんかもやもやするなぁ~という気持ちで巨大ジャンガリアンハムスターをもふり続けるアヴェを見守る。
「あっ。す、すいませんモモンガさん。ほったらかしにしちゃって……」
「いえいえ、いいんですよ。アヴェさんが楽しかったなら」
「にゃー。某もうこの女御なしには居れぬでござるよぉ……」
「あらあら……」
「ふぬぬぬ。某いつか番を見つけて子を成すのが夢でござるのに……」
「アヴェさんを奥さんにしようとか言ったらぶっとばすからな?」
アヴェとの子作りを匂わせるかのような発言をした巨大ジャンガリアンハムスターに、モモンガは眼窩の炎を燃え上がらせる。
だがそんな彼の怒りをアヴェの一言が鎮めた。
「モモンガさん、この子女の子ですよ」
「へ」
かっくんと顎を落とし、目を点にするモモンガに、完全に弛緩したごろ寝状態で巨大ジャンガリアンハムスターが声を発する。
「そうでござるー。某は雌でござるよスケルトン」
「いや、某とかいってたからてっきり雄かと……アヴェさんは見ただけで分かったんですか?」
「はい。この体になった影響か、魔物の雌雄とか種族とかハッキリわかるみたいですね。種族:異形の母の種族スキルの影響でしょうか」
「種族が異形の母でござるか?では某が母上とお呼びしても?」
「別に「絶対だめだ」……ごめんなさいね」
「ひ、酷いでござる……母上は某よりもそのスケルトンの方が大事なのでござるか」
断るの自体はアヴェの言葉にかぶせるようにしたモモンガの声だったが、同意したアヴェに対して目を潤ませてひげをくしゃくしゃにして自分を優先してくれと訴える巨大ジャンガリアンハムスターに、彼女はそこだけははっきりさせて言い聞かせる。
「このスケルトン……モモンガさんは私の旦那様ですからね。残念だけれどあなたより優先度は上よ」
「がーん」
「そうだぞ。俺はアヴェさんの夫だからな」
「母上ー、番えない相手を伴侶とするのは不毛でござるよー」
「この……!」
あくまで獣らしく生殖本位で発言する巨大ジャンガリアンハムスターに対して拳を振り上げるモモンガを、手振りで止めてアヴェは語る。
「例え番えなくても共に歩み、共に喜び、共に悲しみたい相手が出来る。それはとても幸せな事よ。それに……子供が欲しいなら私、一人で産めそうな気がするし」
その言葉に巨大ジャンガリアンハムスターはさておき、モモンガはショックを受けた。
「ひ、一人で産めるって俺を捨てて……うううぁぁぁぁあああああ!」
「モモンガさん!?違いますからね!?種族スキルでモンスターを単性生殖できそうな気がするだけですから!」
「……ほんとうに?」
「こんなことで嘘ついてどうするんですか。私だってどうせ子供を産むなら旦那様と温かい家庭を築きたいんですからね」
「……っはあぁぁぁぁぁ、安心したぁ」
ひとしきりアヴェの一人で産む発言に対してエキサイトして静まったモモンガに、巨大ジャンガリアンハムスターから冷たいツッコミが入る。
「モモンガ殿。男はもっとどーんと構えていないといかんでござるよ」
雌の、巨大ジャンガリアンハムスターに男の何が解るのだろうという疑問は置いておいて。
アヴェに関する反応をモモンガはもう少し落ち着かせなければいけないのかもしれない。