色々場が混沌としたりもしたが、落ち着いたならとりあえずお互いに自己紹介だろう。
そういう事になってモモンガとアヴェ、そして巨大ジャンガリアンハムスターは互いに名乗りあった。
「もう知ってると思うけど俺はモモンガ」
「そして私がアヴェです」
「某、他所のモノからは森の賢王と呼ばれているでござるよ」
その名乗りにモモンガは若干あんな本能丸出しでどこが賢王なんだ、と思ったものの、大人のスルー力を発揮して何も言わなかった。
一方、アヴェはリアルでの愛玩動物はサイズ相応の賢さしかなかったらしいし、それに比べるとサイズ相応に知性をみせ、言語を操るのは確かに賢王なのかしら、等と思っていた。
「それで、お互いに名乗りあった所で、でござる。モモンガ殿とアヴェ殿は何をしにこのトプの大森林にいらしたでござるか?某の縄張りを侵すのが目的ではなさそうでござるが」
「あー、それが……なんといったらいいのか」
「それに付いては私達も混乱しているところなの」
「どういう事でござるか?」
改めて森の賢王に問われると言葉に詰まる二人。
ゲームで遊んでいたのに気づいたらここにいた、なんて自分自身でも信じられない。
だが、それ以外にどうも説明のしようがない。
明確に何かを誤魔化さなければいけない、という差し迫った状態でもないため、モモンガの言いくるめロールも発動しない。
故に……結局二人は素直に二人で遊んでいて気づいたらここにいたのだ、ということだけを簡潔に伝えるにとどまったのだった。
そしてそれに対する森の賢王の反応は、というと。
「ふーむ。何かの魔法でもかけられたでござろうか。お二人とも災難でござったなぁ」
と、軽いものだった。
「それで、お二人は今後どうなさるおつもりでござるか?アヴェ殿が一緒ならモモンガ殿もそれがしの庇護下においても良いでござるよ」
「庇護下って、森の賢王はどの程度強いんだ?」
この場にいる説明以前のやり取りで社会人としての社交スキルを使う気もなくしたのか、かなり雑な態度でモモンガが森の賢王に問いかける。
「この森の縄張りを一匹で確保する程度には強いでござるよ。モモンガ殿は……なんだかあんまり強い感じはしないのでござるが。差がありすぎると相手の強さは測れなくなるという奴でござろうか」
「んー。正直自分の能力についてはまだ掴みかねてるところがあるのも正直な所なんだけど……一つ森の賢王が模擬戦の相手を務めてくれたりしないか?」
森の賢王の挑発にモモンガが乗ったとも見えるような模擬戦の申し込みに、整った顔を慌てて崩れたものに変えてアヴェが口をはさむ。
「モモンガさん。あんまり危ない事は……」
「だいじょーぶでござるよアヴェ殿。拙者、手加減が出来ぬほど脳筋ではござらぬ故。きちんと痛い目を見る程度に抑えるでござるよ」
「モモンガさんも……」
「アヴェさん。どっちみちこの場所で生活していくならある程度の生息域を単独で確保してる相手にどの程度やれるかは試しておきたいんですよ。それなら殺意がない森の賢い王相手が最善だっていうのは解ってくれますよね?」
口を挟まれても、意思を変えるつもりはないという様にアヴェの肩を掴み、目を合わせるモモンガ。
アヴェは彼が見せる意志に挫かれたように顔を伏せる。
「それは……はい。解りますけど」
「言い負かすような事をしてすいません。でもアヴェさんは心配しないで見守っていてください。俺、負けませんから」
「はい。頑張ってください」
やにわに、場に甘い空気が流れそうになる。
だがそれを森の賢王がインターセプトする。
「甘ったるいの禁止でござるー!ほらほら!モモンガ殿の気が変わらない内に模擬戦、やるでござるよ!」
「んっ、んん!分かった」
「こ、こほん。二人とも、怪我しないでくださいね」
誤魔化すようにモモンガと森の賢王、二人に声援を送るアヴェを傍目に、モモンガと森の賢王が向かい合い、模擬戦の条件を詰める。
「モモンガ殿は……前衛職には見えぬでござるが。マジックキャスターでござるか?」
「ああ、その通り。森の賢王の方は異業種なのはわかるけど、前衛後衛で分けられる能力してるのか?」
「拙者基本は格闘戦でござる。でも遠距離攻撃手段がないわけではないでござるよ」
「じゃあ開始位置は……」
「いいでござるね……模擬戦でござるし、モモンガ殿が必要なら壁を出す一手を譲るくらいはするでござるが?」
「そこまでしてもらう必要はないかな。壁が必要なら必要になってからで間に合う」
「ほー、結構な自信でござるな」
「俺もアヴェさんが見てる前で一方的に負ける気はないからね」
「その意気やヨシ!では一丁揉んでさしあげるでござるよ!」
「よろしくな」
そうして、お互いに見合って森の賢王五頭分ほどの距離をあけてから、森の賢王が四つん這いの身体をさらに低く、モモンガが豪奢な笏を鷹揚に構えると戦闘が始まった。
見た目の丸っこさに反して鋭く素早いジグザグ走行で森の木々の間をすり抜けてモモンガに接近する森の賢王。
それに対しモモンガは素早く魔力を練り上げると詠唱する。
「<<マジック・アロー>>」
対象に取った標的を確実に追尾する不可避の光弾が十個、森の中を森の賢王に向かって奔る。
「ぬ!?なかなかやるで……いた、いたた!モ、モモンガ殿!?これ模擬戦でござるよね!?割と本気の魔法を放ってござらぬか!?」
「へ?」
木々の間に紛れていた森の賢王がぎこちない動きで前足を上げながら現れる。
「いや、本気も何も一番低位の様子見呪文だけど……」
「かー!こんな様子見があるでござるか!?モモンガ殿、実力を隠していたでござるな!?こんなの弱いものいじめでござるよ!」
言いながらぎくしゃくとした動きでモモンガに近づく森の賢王。
一見可愛らしかった容貌に前歯を覗かせて噛みつくかのような勢いだ。
「あ、あれ?なんか俺怒られてる?」
「一発一発が体の芯に染み入るように響いて……模擬戦ゆえ多少の痛みは覚悟の上でござったが、これは明らかにライン越えでござるよ!」
「あー、その、ごめん」
そのあまりの剣幕にモモンガは思わず頭を下げていた。
謝る謝らないは単純な強さでは決まらないと証明された瞬間である。
「もー。とんでもない御仁でござる。模擬戦はここまで!お終いでござる!某の降参でござるよ!」
「ごめん。だから自分でもどのくらいの強さなのかよくわからないっていったろ」
わちゃわちゃとモモンガにちょっかいを掛ける森の賢王が二人でアヴェの所に戻ってくると、彼女はぽかんとしていた。
「ええと。私戦闘は得意じゃないからよくわからなかったけど。モモンガさんの勝ち、なの?」
「そうでござる。モモンガ殿はあの魔法が一番低位の魔法とか言ってたでござるがほんとうにござるか~?」
「なんでそこで疑うんだよ!」
綺麗な人はぽかんとしてても綺麗なんだよなぁ、というモモンガの思いを知らず、信じられないといった反応のアヴェ。
そしてモモンガのブラフを疑う森の賢王に彼は声を荒げる。
「一応、一応でござるよ」
「マジック・アローよね?確かにあれは第一階位の魔法のはずね」
「まーじーでござるか……某自信を喪失しそうでござる……」
アヴェにモモンガの言葉を肯定されると、森の賢王はひげをくちゃくちゃにして眉間にしわを寄せ、しわしわピカ様のような様相でへこみ始めたのだった。