モモンガのマジック・アローで、森の賢王が戦闘不能になるわけではないが模擬戦を継続するのは嫌になる程度の痛手を負って模擬戦が終わったことで、森の賢王はアヴェに毛繕いを要求した。
内心「このハムスター……」と思いながらもモモンガは結局それを見守る姿勢に。
そして……。
「あぁ~……肉の奥に響いた痛みが消えていくようでござるよ~。アヴェ殿の毛繕いは不思議な癒しがあるでござるなぁ」
「実はね。私の種族スキルに<<毛繕い:魔獣>>っていうのがあるの。魔獣型の異業種限定で治癒の効果を発揮するの」
「なるほど~。あぁ~治癒の手触りでござる~」
下半身の蛇の部分も入れれば森の賢王の全長よりもアヴェは長いとはいえ、人間の女性部分はまるで毛並みに埋もれるようにして毛繕いをしている。
それを見てモモンガはぼんやり「羨ましい……」と思いながら森の賢王が一息つくまで待つのだった。
「ふぅ~……。しかしお二人を庇護下に置こうなどというのは拙者の思い上がりでござったな。改めてお二人はこれからどうなさるのかお聞きしてもよいでござるか?」
そうして問われると、モモンガとアヴェは首を傾げる。
「うーん、どうといってもなぁ」
「この周辺で異形種がどんな扱いなのか知らない事には決められませんよね」
「ですよね」
顔を見合わせて頷き合う二人を前に、森の賢王も腕を組んで考えるも。
「ううーむ。できればお二人の力になりたいところでござるが。拙者も森の外に出ていくことはない故そこらへんはさっぱりで……」
と芳しくない答えだ。
「え、じゃあ森の賢王って誰がつけたんだ。お前の親か?」
「以前森に侵入してきた人間を退治しようとしたところ、拙者の事をそう呼んだ者がいたでござるよ。それ以降響きが気に入ったので名乗っているでござる」
「なるほど。偶然つけられた名前なのね」
「そういうことでござる」
アヴェが森の賢王の名前の由来に頷く一方、モモンガは参った……という様に額に手を当てる。
「それはいいですけど、それだと今後の行動の方針が決まりませんね……どうするかなぁ」
「リング・オブ・サステナンスを付けているので食料や水で困ることは当面ありませんよ?」
「いや、食事取れるなら取った方が良いと思いますよ。心のリフレッシュになりますからね」
「そうでござるよ。骨身のモモンガ殿はともかく、アヴェ殿は生身なのだから食べなければ飢えるでござるよ」
「ああ、森の賢王さん。実は……」
アヴェには食事をとって欲しいというモモンガと、アヴェが食べないで済むのは蛇型異業種の食いだめ的なサムシングだと思ったのか当面困ることはないという点には突っ込まなくとも、飢えることは既定路線として語る森の賢王にアヴェはマジックアイテムの効果で飲食・睡眠が不要なのだと説明した。
「なるほど。素晴らしいアイテムをお持ちなのでござるなぁ。しかしそれならお二人とも森にとどまっても良いのではござらんか?」
説明を受け、納得した森の賢王は迷うなら留まればいい、と勧める。
だがモモンガは一概にそれに賛同というわけではないようで、腕を組んで尚悩む様子を見せる。
「いや。アヴェさんには温かくて柔らかい寝床を用意してあげたいし……これだけ自然豊かな世界なら合成食品じゃない食べ物も食べさせてあげられるかもしれないし……」
「ごーせーしょくひん?なんでござるかそれは」
「いや、そこは本題じゃないから流してくれ。ともかく、俺はアヴェさんを文明の中で暮らさせてあげたいんだ」
「それ、アヴェ殿はどう思ってるでござるか?」
アヴェにいい暮らしをさせたい、という恋人としては自然な欲求を口にするモモンガだが、そこで森の賢王に彼女の気持ちはどうなんでござるか~?と突っ込まれると、自然とアヴェの顔を伺わざるを得ない。
そして、じっと見つめられたアヴェは長く伸びて流れる直毛の髪の毛先を弄びながら答える。
「えっと、こんなことを言ってモモンガさんを困らせてはいけないと思うのだけれど。正直野宿とかは経験がなくて……それに今身に着けている服も替えが欲しくなるだろうし……街に、出たいです」
そういってから、恥じ入るように摘んでいた毛先に顔を埋めるように多腕の並べた中に顔を隠した。
「いや、アヴェさんは恥ずかしがってますけど。こういうので遠慮して後で不満を貯められる方が困りますからね。正直に言ってくれて助かります」
「そう、でしょうか」
「そうですよ。変にアヴェさんに我慢させて嫌われたらと思うと……俺は耐えられません」
「モモンガさん。ありがとうございます。私も、変に我慢して貴方の事を嫌いになりたくないのでなるべく素直にします」
「アヴェさん……」
「モモンガさん……」
お互いを慮った発言をして、何度目かのいい雰囲気になりそうな二人を、森の賢王は処置無し、といった感じで放置することにしたようだった。