「いいですね。貴方は森の賢王さんを妻として養い、子を育むんですよ」
「はっ。承知しました母上」
アヴェの前で首を垂れて目をつぶる可愛らしい巨大ハムスター……森の賢王の同族の雄である。
「ううむ。期せずして出会った当初に言っていた通りアヴェ殿が某の義母殿になってしまわれたでござる」
「こんな偶然ってあるんですねえ」
「うーん。出会っちゃったらこうなるのは運命だったのかもしれませんよ?何せ私、異形種の母ですから」
「ふ、ははは、そうかもしれませんね」
「もしそうなら某、運命に感謝!でござる」
「拙者も母上に産んでいただける運命だったのならば、運命に感謝する」
「それじゃあそろそろ行こうか、森の賢王」
種族的なものなのか、生み出すのに森の賢王の血を使った影響なのか。
堅苦しい雰囲気の語りをする雄をアヴェが撫でてから、改めて森の賢王が先頭になるように移動を促すモモンガ。
「じゃあ、皆の幸運に感謝して……」
「出発しますか」
「まっかせるでござるよ!皆、ついてくるでござる!」
「承知!」
「あ、そんな走らなくてもいいだろ!俺はマジックキャスターなんだからフライでも使わなきゃそんな機動力ないんだよ!」
「はいはい、皆落ち着いて。逸れたら大変ですからね」
結局、賢王の同族の雄が満足に動けるようになるまでにさらに日は傾き、森の賢王の縄張りの縁まで行き当たるころには世界を夕日が照らしていたのだった。
「某の縄張りはここまででござる。このまままっすぐ行けばいずれ人間の住む地域にぶち当たると思うのでござるが」
「案内ありがとうな、賢王」
「後はモモンガさんと二人でなんとかやってみるわ」
「なんのなんの、感謝するのはこちらの方でござる。番を生んでくださるなど奇想天外、なれど望外の幸運なれば」
森に生える木の間隔がそれなりに開けてきたところで、ちょっとした雑談をしてモモンガ達と森の賢王達は別れる。
それぞれに、未知の領域へと向かうものと、自らの領域に戻るもの。
一時だが確かに交差したもの達はこうして別れた。
それから森の中を、ユグドラシルの中で習得した(かつてのギルメンたちに教授された)森歩きの知識を生かしてまっすぐ進み、何時しか森は開け、幾筋かの白い煙が夕日の中にたなびく、そこそこの規模の村が姿を現した。
「お、運よく村に当たりましたね」
「そうですね。一先ず村の人に顔を見せて反応を探らないと……」
「あー、でも俺達この外見でまともに受け入れてくれるんでしょうかね」
「それは異形種ゆえ致し方なしということで……突撃してみるしかありませんよ」
ここにきて、お互いに視線をかわすと明らかに人ではない外見が目に入って、村に立ち入ることを躊躇させるが。
躊躇していても仕方がないのも事実。
「そうですね。まあ、このくらいの規模の村なら俺達を傷つけられるレベルの存在はいないと思いますけど」
そう、ことさら明るい調子で言うモモンガに、アヴェはそっと微笑んで同意した。
そして、ひとまず村人の集まるであろう村の中央と思われる方向に向かって二人は歩き出し……。
「ひ!」
第一村人発見。
「あ、すいませーん」
モモンガが、相手を警戒させないように気さくな声色で声を掛けた。
「アンデッドぉぉぉぉお!」
その結果、ものすごい叫び声を上げながら村の青年はどこかに向かって駆けて行ってしまった。
「……すいませんアヴェさん。ダメかもしれません」
「仕方ありませんよ。どんまいどんまい」
落ち込んだように肩を落とすモモンガを、アヴェは言葉で鼓舞した。
それからも村人を求めて村の中をさまようも、遠目にモモンガ達を見るだけで逃げ出す村人達は捕まらず(走って追いかけるのは余計に怯えさせるだけだろうという常識的な判断の元お互いに却下した。異形種なのにそのまま村に入るのは良いのかと言えば、それは上策とはいえないが、アヴェという隠しようのない異形が同行している以上、仕方のない事なのである)村の方々を歩き回ることになった。
そしてその結果。
唐突にアヴェに向かって矢が飛んできた。
無論何の効果もない矢玉など、リング・オブ・イモータルを装備したアヴェには毛筋一つ傷をつけられなかったが。
モモンガがこれに反応した。
咄嗟に<<絶望のオーラ>>という、広範囲にネガティヴな影響を及ぼすスキルを使いそうになり、すんでの所で<<負の接触>>が味方であるはずのアヴェに効果を発揮していたことを思い出し、彼女に無害な<<絶望のオーラ二>>に留めて効果を発揮し。
「ひぎゃああああああ!」
アヴェに弓を射かけてきた中年男性を、色々垂れ流しながらの大逃走に走らせてしまった。
「あー……やっちゃった……」
「モ、モモンガさん……<<絶望のオーラ>>はレベル高いと即死効果もあるスキルですから、運用は慎重に……」
「ですよね。咄嗟にそのことに思い至って二に抑えはしたんですが。すいません」
「いえいえ、こうなったら殺さなかっただけ丸儲けと思いましょうか。まだ決定的な敵対行動に出たわけではないですよ……多分……きっと……May be……」
「そんな不安になること言わないでくださいよアヴェさーん」
「ふふ、すいません。言いすぎました。きっと大丈夫ですよ」
「とほほ~。だといいんですけどねぇ」
そんなほのぼのした二人はさておいて、村は大混乱だった。
村の地理に明るくない二人には解らなかったが、二人の通過すると思われる方向は回避して全力で避難勧告がだされ、リッチと謎の亜人相手では村の集会所も避難所たりえずと判断され、各家族ごとに準備ができ次第避難、という指示が村長から出ていたのだ。
先ほどの弓矢の男はこの村の唯一の猟師で、命がけで一秒でも長く避難の為の時間を稼ごうとした勇者だったのだ。
それはさておき、各戸順次避難という形がまだまだ人間間隔を引きずって人間より優れた五感を持つ異形種の特徴を生かせない二人から、村人は村外に全力脱出しているという事実を悟らせずに脱出を成功させていた。
その結果……。
「あれー、この家にも誰もいませんねー」
「本当ですね。わ、料理が火にかけっぱなしですよ。危ないですねえ。でもこれ勝手に消しちゃっていいものか……」
「うーん。他の家見廻ってる間に出火したら事なんだけど、住人の方はどうしてるんでしょうね」
見事に村に置き去りにされた異形種×二という状態になったのだった。
なお、この村はカルネ村と言い、住民が一斉避難して空っぽになったところを某国の工作部隊が襲うも、誰もいない村に疑問を抱え。
ついでに後ほどアンデッドと亜人の出現により避難を開始した村人たちの情報をキャッチしたカルネ村の属する王国。
リ・エスティーゼ王国の王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフの誘因という任務が未達になるのだが、それはまた別の話。
実はここら辺を最初書いた時、この話数に当たる話が終わる部分でモモンガさんとアヴェさんがお互いを本名で呼び合うことにする、というルートがあったのですが。
ええ、やめました。
なんかそっちに行かない展開の方が好み!ってなってその展開は消しちゃったんですよね。
で、なんでそんな小話をあとがきに書いてるかというと。
アヴェさんのリアルでの本名がマリアだからというマジどうでもいい話をする為でした。
ごめんちゃい。