空っぽになった村から続く街道を辿って、一路モモンガとアヴェはリ・エスティーゼ王国の交易都市であり、隣国バハルス帝国との会戦時の要衝である城塞都市エ・ランテルへとたどり着いた。
そしてそこで二人を待っていたのは。
「どうしてこうなった……」
「困りましたねえ……」
「こんなトプの大森林方面からなにがくるっつーんだよ……暇な仕事だ……ぜ……?」
「お、おい。なんだあの亜人」
「知らねえよ。見たことねえ」
「な、なあ、あの亜人の隣の奴、リッチじゃないか!?」
「や、やべえ!俺冒険者ギルドに走る!リッチの相手何ぞ衛兵の手に余るっつーの!」
「ま、待て貴様!勝手に持ち場を……ええい、伝令はださねばならんか!他の者は槍持って陣形を組め!時間を稼ぐぞ!」
「やめてくれよ……」
「リッチ相手に陣形とか<<ファイアボール>>で一網打尽コースじゃ……?」
「ええい、つべこべうるさい!とにかく冒険者が来るまでの防衛線を構築せんかー!」
大騒動である。
怯える衛兵たちに気を遣って、一定距離をあけてモモンガとアヴェは並んで立っているのだが。
とにかくエ・ランテルの衛兵たちは一定距離から槍を突き出すのを止めない。
「あのー。すいません。話がしたいんですけど」
「黙れリッチ!アンデッドのお前が何を言ってもこちらの耳が穢れるだけだ!黙って都市から離れるなら今なら見逃してやらんでもないぞ!」
「……処置無しですね、モモンガさん」
まったくモモンガ達の交渉希望という声に耳を傾けず、衛兵たちは警戒をあらわにし続ける。
と言ってもこれはエ・ランテルの衛兵たちが特別狭量であるとか、差別主義者であるというわけではない。
この世界に置いてアンデッドとは、ひたすら生きているものを呪い、殺そうとし、一人でも多く自分たちの仲間にしようとする邪悪な存在……というのが定説なのだ。
故にリッチ扱いされているオーバーロードのモモンガが居るだけで都市側との交渉は難易度ルナティックなのである。
だがこうなっても力づくで解決というわけにはいかない。
人間社会の中で生きるならばなおさらだ。
「えー、繰り返します。俺達に交戦の意志はありません。交渉を希望します。繰り返します。交戦の意志無し。交渉希望です」
務めて平静な口調で繰り返し意思表示をするモモンガを、アヴェは隣に並んで見守る。
そんな二人の前に衛兵たちの槍衾をかき分けて四人の男たちが姿を現した。
「俺達はクラルグラ!ミスリル級の冒険者チーム!都市の門前に居座るリッチとやらを退治しにきたぜぇ!」
「おお、来てくれたか!頼む!奴らを倒すか、追い払うかしてくれ!」
「へっ、追い払うだァ?舐めて貰っちゃ困るぜ。このイグヴァルジ、リッチ程度は軽く始末してやる!」
ミスリル級冒険者という、等級の高い冒険者の登場に、衛兵たちの士気があがり声が沸く。
その場の衛兵の胸にはこれで邪悪な不死者を退治してもらえる、という希望が輝き燃える。
「<<オール・アプレイザル・マジックアイテム>>……低階位の武器かぁ。俺のパッシブスキルだけで無効化できちゃうな、これは」
「ああん?何をごちゃごちゃ言ってやがる!」
衛兵たちのように武器を構えて取り囲むだけならまだしも、抜身の武器を誇示するかのように動かしながらモモンガ達に向かって歩み寄り始めたイグヴァル時達を、暫定敵対者として武装を鑑定魔法で一通りチェックして、自らの<<上位物理無効>>を抜くことのできる武装の人間はいないと、改めて確認するとモモンガは息を吐く。
そして改めて交戦の意志がない事、交渉を希望することを告げる。
「うるせぇ!何企んでるか知らねえがテメーみてーな死にぞこない野郎に貸す耳はねえんだよ!死に直しな!」
やはりそれには耳を貸さず構えた武器でモモンガに襲い掛かるイグヴァルジをはじめとしたクラルグラの面々。
しかし、モモンガはパッシブスキルによりその攻撃をそよ風ほどにも感じていない。
ただちょっとイラっと来ただけだ。
「話を聞いてくださいよ」
「うるせー!」
延々そんなやり取りを繰り返しただろうか。
武器を操るイグヴァルジ達の息が切れ、これなら話を聞いてくれるだろうというタイミングでアヴェも口を挟んだ。
「あの、モモンガさんがアンデッドだからお話を聞かないと言っていらっしゃるようですけど、それってあんまりにも一方的じゃありませんか。少しは冷静に話し合いを……」
「うるせぇ!リッチのオマケの亜人女が!テメーもどうせアンデッドなんだろうが!」
だが一切攻撃が通じていないモモンガから、声を掛けてきたいかにも無防備そうなアヴェに狙いを変えたイグヴァルジが彼女に対して投擲武器を投げようとする。
そして、それを察知したモモンガが若干切れた。
「話を聞けって言ってるだろうが!!」
咄嗟に殴りそうになったが、瞬時に鎮静化された思考で使用している装備品からしておそらくレベル百の腕力で殴ったら殺してしまう、という事に気づきなぜるような接触による<<能力値ダメージ四>>に留める。
これによりイグヴァルジはその場に頽れ、立ち上がれなくなった。
それを見たクラルグラの残りの面々は絶望した様な表情になりながらも、一矢報いんとするかのようにそれぞれの攻撃を開始した。
……のだが、(おそらく鎮静化されない程度に)切れていたモモンガによって残りの面子もイグヴァルジと同じ運命をたどった。
とはいっても、能力値の一時減少が回復するまでの間の話だが。
そんな戦闘を披露した結果、ミスリル級冒険者チームが撃退された事により逃げ出す者、徹底抗戦の意志を固める者、等々衛兵達に大混乱を呼んだため。
「モモンガさん」
「はい。なんですか?アヴェさん」
「一旦、出直しましょうか……」
「……そうですね」
モモンガとアヴェは都市訪問の日を改めることにしたのだった。