モモンガさんと異形の母、二人   作:belgdol

9 / 15
蒼の薔薇

「どうにも手詰まりですね」

「うーん。どうしたもんですかね……」

「あの王国戦士長の、ガゼフ・ストロノーフさんでしたっけ?あの人はちょっと話通じるかしら、という感じだったんですけれど」

「そういう人でも「俺なら勝てる、とは言えぬ。だが民の不安を払い王国に安寧をもたらすのが我が務め。交戦の意思なく、この地を無用に騒がせるのでなければ早々にこの地を立ち去られよ」ってけんもほろろでしたからねー。ガゼフさんが現れるまでに何度か都市の門に近づいた時に防衛に出てきた衛兵の叫びから零れ聞くに、この世界のアンデッドってほんと生きる者全ての共通の敵って感じっぽいのがなんとも……」

 

 エ・ランテル付近の草原の茂みの中で夜を明かすようになって数日が経っていて、今は夜である。

その過程で交渉をしようとエ・ランテルに近づこうとして投げかけられた罵声は、じくじくと痛む擦り傷のようにモモンガを苛んでいる。

そのささくれた心を癒すように、今はとぐろを巻いたアヴェの蛇体の上で蛇枕としゃれこんでいる。

 

「……すいませんアヴェさん。俺がアンデッドなせいで……。アヴェさんだけなら変わった亜人として街に入れたかもしれないのに」

「気にしないでくださいモモンガさん。文明の中で暮らしたいとわがままを言っているのは私なんですから。モモンガさん一人ならそれこそどうとでもなっていたと思いますよ」

「そんなもんですかね?はぁー、それにしてもなにか前向きなアイディアを出さないといけませんね」

「正直、この都市の他の出入り口からの筋道とか、街道の分岐を辿ってもっと別な土地に行ってみる必要があるのかも、ですね」

「あと数日、頑張ってみてだめなら本当に新天地を目指しますか……」

「そうしましょうか。考えてみれば、どうしてもこの街にこだわる理由も私達にはありませんしね。宛てのない旅になりますけど、それでもモモンガさんと二人ならきっと……」

「アヴェさん……」

 

 二人の間に流れる糖蜜のように甘い空気。

それに突っ込む他者はそこに存在しない。

二人だけの世界を形成して、夜を明かし、次の日もエ・ランテルに押し入ることはせず、交渉を呼びかける。

そんな繰り返しの数日が、確かに運命を変えたのだった。

 

 

 

 

 その日のエ・ランテルの門前は空気が違った。

毎日モモンガ達が訪れることに慣れた、というのとは違う、どこか弛緩した、しかし謎の熱量を感じる盛り上がった雰囲気。

それを感じ取って戸惑いながらも衛兵の槍衾が展開された門に近づいたモモンガとアヴェの前に、三人の女性達……約一名、おそらくと付けそうになるむくつけき体つきの人がいるが……が現れた時、その熱量は頂点に達する。

 

 五人の女性のうち、金髪で白いブレストプレートを身に着け、両手剣を構えて浮遊する剣を従えた女性が口火を切る。

 

「貴方たち!トプの大森林からこのエ・ランテルまで近づきながら毎日何もせずに帰る。何が狙いなの!」

 

 詰問するような口調に、毎回交渉役を務めたモモンガは若干またか、とうんざりしながらも丁寧に言葉を返す。

 

「俺達は都市に入り、仕事に就き、暖かな食事を摂り、暖かな寝床で眠りたい。それだけです」

「アンデッドが仕事をして生活の糧を得るために都市に入りたがる。そんな言葉を信じろというの?」

「俺達としては信じてください、と繰り返し伝えるしかないですね。まあ、それもあと何回かで諦めて他所へ行くつもりですが」

「その言葉も信じろと?」

「あと数日で前向きな話し合いができないなら他所へ行くというのは、そちらが信じなくても数日たてば事実に変わるだけです」

「そう……では少し目先を変えましょう。もし都市に入れたとして、リッチである貴方にどんな仕事ができると思っていて?」

「それは……」

 

 その問いかけに、モモンガは思わず口ごもる。

なぜならこの世界の都市にどんな求人があるか把握できていないためだ。

自分に合う求人を捜すのではなく、求人要件に自分を合わせる。

それが管理社会でサラリーマンとして就職したモモンガ達労働者の常識だったからだ。

 

「答えられないかしら?」

「ええと、それに付きましてはまず都市内にどのような求人が存在するのかという点を存じ上げないので軽々に返答させていただくことはできず……」

「……貴方、本当に変わってるのね。アンデッドといえば通常は生者への憎しみに囚われて殺そうとするばかりなのに」

「……それは交渉が前向きに進んでいると捉えても?」

「好きに取ってくれて構わないわ」

 

 どこか機嫌よさげにモモンガの問いに答えた金髪の女性の横合いから、三人の中で最も小さい……といっても、大柄な女性(に疑問符がつく体格)と、スラリとした美人の対話中の金髪の女性、そして仮面を被って赤いローブを羽織った小柄な女性だと思われる人の三人なので残るは大きいか小さいかなのだが……が横から口を挟む。

 

「おい。ラキュース。面倒な交渉はもういいだろう。こいつらが本当に人類に敵意を抱いていない存在なのか、私が試してやる」

「ちょっとイビルアイ。貴女またそんなこといって……」

「貴様。良く聞け。今から私がお前の性根を試してやる」

「ちょっと!」

 

 ぞんざいな物言いで、上から目線の発言をする仮面の小柄な女性イビルアイを、金髪の女性ラキュースが窘めようとしているようだが、イビルアイは言葉を続ける。

 

「私の攻撃を受けてなお人間を傷つけようとしないならお前たちを認めてやろう。アダマンタイト級冒険者の保証だぞ。人間社会の中で後ろ盾が欲しいお前達には喉から手が出るほど欲しいものだろう」

 

 正直、モモンガもアヴェも「なんだ(でしょう)この人」と思っているが、口には出さない。

イビルアイの言う通り、人間社会の中に入り込む後ろ盾は本心から欲しいものだからだ。

 

「それは望むところですが……貴女の攻撃を受けて、というのは勿論ただ殴られろということではありませんよね?」

「勿論防げるなら防いで良い。そして私レベルの攻撃を受けて理性を保てるなら……お前らは真に人間に友好的な異形種なのだろうな」

 

 格好をつけるように腕を組んで胸を張りそういうイビルアイの言葉を、モモンガは冷静に考える。

 

「モモンガさん……受けるんですか?」

「俺は悪くないと思ってます。このまま街に近づくたびに威嚇されてすごすご帰るっていうルーチンに生じた俺達に有利な変化です。これを掴まないてはありません」

「あの子の攻撃を受けても大丈夫ですか?」

「敵対行動になるので補助魔法でのステータス看破などはしていませんけど、まさか俺を一撃で殺せる攻撃はだせないと思います」

 

 不安そうにモモンガの左腕に縋りつくアヴェの肩を、安心させる様に抱き寄せるモモンガ。

彼は「よほどのLv差が無ければワンアクションで即死させるほどの攻撃はありえないだろう」と若干楽観的な見方をしただけなのだが、そんな彼にイビルアイは侮られたと思ってか肩を怒らせて威嚇をする。

 

「おい!聞こえているぞ貴様!何が「俺を一撃で殺せる攻撃はだせない」、だ!お前は死に瀕するほどの攻撃を受けることになるぞ!そうでなければ試しの意味がないからな!」

「……そういった点を考慮しても貴女の提案を受けましょう、イビルアイさん。どうぞ攻撃してきてください」

「後悔するなよ……<<クリスタルダガー>>!」

 

 台詞は挑発に乗っているように見えて、戦闘巧者なのだろう。

こと戦闘に関しては油断した様子を見せず、腕を組んだまま詠唱し、水晶で出来た短剣……短剣とはいうものの、一般的なロングソードほどの長さで、縦幅は比べ物にならないのに鋭さをもった水晶片だ……を射出するイビルアイ。

 

 対してモモンガは慌てることなく見てから余裕でしたと言わんばかりに呪文を練り上げる。

 

「<<ウォール・オブ・スケルトン>>」

 

 モモンガの足元から現れたスケルトンが絡み合ったような障壁が、イビルアイの水晶を受け止め、あっさりと砕き、消える。

 

「な、なに!?」

「これで試しは終了。でいいですか?ここから攻撃に移らなければいいんですよね。まさかこのまま殴られ続けろなんていう理不尽なことを言われれば、俺達も自衛せざるを得ませんよ?」

「ふ、ふん。中々やるじゃあないか。どうやらこちらに敵意がないアンデッドというのは本当のようだな。ラキュース、お前都市長に話を付けてやれ」

「ちょ、ちょっとイビルアイ!貴女ねえ!」

「はー、話は済んだか?イビルアイ、お前投げっぱなしにしねえで不躾な試験を押し付けて申し訳ないくらい言えよな。お前さんより強い男?だぜ。しかも童貞っぽい」

「うるさいゴリラ筋肉。……ああ、悪かった!これでいいな!ふん!」

 

 突然の童貞認定に内心、「この人達ちょっとキャラが濃すぎる……というかかなり失礼だし」と思うも、なんとか表面には出さずに堪えたモモンガは、ラキュースに問いかける。

 

「これから都市の長の方に話を通すという事は、俺達はもうしばらくこの近辺で待機でしょうか」

 

 イビルアイの態度に困り果てる様子を垣間見せながらもラキュースは返答を返す。

 

「ええ。このエ・ランテルの都市長はパナソレイ様と仰るのだけれど、その方に貴方たちは特例の存在だという証文を書いていただいて、それを私達が貴方達に届ける、という事になると思うわ」

 

 こほん、と若干わざとらしい咳をして見せてから今後の段取りを説明するラキュースに、アヴェから質問が飛ぶ。

 

「その、証文が届ける先が解らないと困りますよね?私達が証文を待つ間、待機する場所は用意していただけるのでしょうか?」

「それに付いては……申し訳ないけど門衛の詰め所に居てもらうことになると思うわ。都市周辺を歩き回らせて所在地が掴みにくくなっても困るけれど、かといって都市内に今いれるわけにはいかないし」

「そうですか……では、指定の場所で待たせていただきます。いいですか?モモンガさん」

「俺はOKですよ。とにかく人間社会に受け入れてもらえるならもうなんでもいい!って気分です」

「ふふ。もう、モモンガさんったら」

 

 にこやかに……とはいっても骸骨のモモンガの表情は分からないが……一応都市に受け入れられそうな状況を喜び合うモモンガとアヴェを少し見つめてから、ガタイの良いトリオの最後の一人を連れて、門衛の隊長に用を言いつけに行こうとして、ラキュースは足を止める。

 

「聞き忘れていたわね!私はラキュース!貴方達の名前は!?」

 

 聞き間違えられまいというかのように、大声で問われた言葉に、モモンガとアヴェは元気よく自分の名前を答えたのだった。




Q.カルネ村周辺が襲われてないのになんで王国戦士長がそのタイミングでるんですか?

A.カルネ村周辺も周辺という距離の村はまだ襲われていませんでしたが、いくつか集落が襲撃されたという報告自体はガゼフさんに届いていました。その為出撃自体はしたものの陽光聖典とかち合うほど引き回される前に、この話のモモンガさんとアヴェさんを見て緊急避難を始めた難民たちの情報が入ったため事実確認の為に一時エ・ランテルに帰還。その折に一度モモンガさん達と対峙していた、というわけです。
なおその対峙の後は元の任務に戻りましたが、モモンガさんとアヴェさんから非難する住民が多く、ガゼフさんを誘引する拠点が上手い具合に嵌らなかったこと、予想外の事態に大事を取った陽光聖典も一時退却したため遭遇戦に至らず、というのが構想だけあります。
その後また辺境村襲撃事件を引き起こすかはちょっと僕のシミュレーション能力を超えているのでかんがえてにゃいです…。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。