自由への航海 作:天の川
この世界に産まれ落ちて早二十年。
違う世界で生きた記憶が有ると気付いてから十五年の月日が流れた。
この世界は地球世界と比べれば危険が一杯、天変地異に巨大生物、そして、凶悪な海賊が数多といる。
世はまさに大海賊時代。
そう……ここは大人気漫画、ワンピースに酷似した世界なのだ。
海を渡れば海賊に出くわし海王類にぶつかる。
危険極まりない世界でこの年まで無事に生き延びた事が奇跡!
なんてことは、全然、全く、これっぽっちも思わない。
何故なら俺は、産まれながらにして世界最強の力を保持している……但し、自由と引き換えに、だ。
この世界に置ける最強の力とは何か?
覇気?
六式?
悪魔の実?
いずれもノーだ。
俺が手にした力、権力こそが最強だと言い切る。
時は、大海賊時代……そう呼ばれていても、決して無法の時代ではない。
寧ろ無法者に対抗すべく、海軍は全世界に支部を持ち、各国が加盟して世界政府なる組織を形成するこの世界の権力機構は絶大なモノと言える。
俺は……その権力機構をアゴで使える天竜人の一人として産まれたのだ。
天竜人……傍若無人を絵に描いた様な存在。
前世に置ける大人気漫画にあって、好意的に見る人は皆無であろう完全なる悪役的存在。
そして……謎に包まれた存在だ。
多くの読者は天竜人に腹が立つと同時に、天竜人が何故偉いのか疑問に感じたのではないだろうか?
何故か偉そうな馬鹿貴族を、何故か海軍の最高戦力である三大将が護る。
読者であった頃の俺は『大将が馬鹿を殺せば良くね?』と思ったモノだ。
しかし、俺の知る限り、原作でその様な展開は描かれず、天竜人に関する詳しい事情も語られることは無かった。
だから俺は、自身が天竜人の一員であると認識したその日から、天竜人の真実を追い求めている。
天竜人の傍若無人が許される確たる理由が解らないと、馬鹿みたいに偉そうに振る舞う事など、仕返しが恐くて出来やしない。
だが、その結果は芳しくなく、原作以外に判った事は状況から導きだした推測に過ぎないのだ。
不可思議な事に、天竜人について問うても肝心な部分はほとんどの人が知らず、知っていても教えてくれないのだ……天竜人である俺が命じても、だ。
実の所、絶対権力者であるハズの俺の命令が拒否される事は往々にして有る。
例えば、ホンの小さな子供の頃の『お外に行きたい』や『裸に成れ』に始まって、最近命じた『最強の悪魔の実を用意しろ』等がそうだ。
と言っても、外出や裸に関しては現在は認められている。
これは、年と共に命令権が拡大したと解釈出来るのだが、命令権の拡大は何時、何処で、誰が決めているのか?
新たな疑問が生じ、それと同時に自らの自由の無さに気付いた時の衝撃を、今でも克明に覚えている。
何不自由無く暮らせている様で、その実、与えられた自由の中でしか動けない籠の鳥……それが俺だ。
勿論、籠の鳥と言っても天竜人だ……凡そ一般人なら許されない事も数多く出来る。
例えば、勉強を嫌がれば即座に終わり、物や奴隷が欲しいとねだれば大抵の物は即日ゲット。
男女問わず裸に成れと命じるのも十歳を境に可能になり、メイドへの性行為の強要も十二歳を境に可能となり、十五歳を境に海軍大将を呼びつけての覇気修行が可能になっている。
街に出れば、不敬な者への無礼討ちは何の問題もなく許されている。
そう……『許されている』のだ。
幼い頃から巧みに我が儘放題を叶えつつ、時折叶わない事も有ると刷り込む……こう教育する事で、傍若無人な馬鹿貴族が完成するのである。
俺に前世の記憶、ワンピースを読んだ記憶が無ければ、何の疑問も抱かずあの馬鹿貴族の様に成長した事だろう。
では一体、誰が何の為にこの様な馬鹿げた教育方針を取るのか?
答えは『世界様』と呼ばれる天竜人の当主であり俺の祖父が、跡取りを見定める為だと推察出来る。
直系の子孫に愚民化教育と物を与えて甘やかし、そんな中でも頭角を表す者に全てを与え次代の天竜人の礎とするのだろう。
百を超える天竜人と呼ばれる人の全ては、世界様の子であり孫であり、曾孫である。
世界様の血が流れない天竜人は居ないのだ……つまりだ……あまり考えたくないが、次代の天竜人に選ばれなかったら……いや、止そう。
推測に推測を重ねた仮定はさておき、馬鹿の多い天竜人にあって、世界様はハッキリ言って異常だ。
数少ない謁見時の覇気具合を見る限り、世界様は三大将を軽く超える強さを有していると思われる。
強いから偉いのか?
世界様が強いから一族の傍若無人が許されるのか?
多分、そうではない。
如何に強かろうとも所詮は個人。
緻密な作戦を練り上げて逃げ道を塞ぎ、多大な犠牲を払って波状攻撃を続ければいつかは殺せるだろう。
では、何故偉い?
何故、傍若無人が許される?
傍若無人を許してまで跡目争いをさせる意味は?
そもそも、天竜人とは何なのか?
恐らく聖地マリージョアに居る限り、この答えにはたどり着けない。
俺は、それ等の答えを知りたいが為に、住み慣れた聖地から旅立つ。
そして、本当の自由を謳歌する為にも、世界様のおわす謁見の間の扉を叩くのだった。
天竜人って謎ですね。