自由への航海 作:天の川
「お? 誰かと思えば町長のおっさんか? 死にに来たのか?」
階下には革製と思われる鎧に身を包み、細い槍を持ったこの街の町長、プードルが息を切らせてやって来ていた。
原作とタイミングが違う気がするのは、気のせいだと思いたい。
『やはりソコにおったか、この卑怯者めが! 道化のバギーも許せんが貴様はもっと許せん!!』
顔を覗かせた俺を見るなり、何故か町長が激怒している。
「はぁ? 端からおっさんの許しなんかいらねーし。てか、卑怯者ってなんだ?」
『惚けよるかっ。ワール・D・オーザ! 先行した貴様がこの街の様子を探り、道化のバギーを導いたは明白! ワシと勝負しろぉ!!』
「なんだオメエ? 悪い奴か?」
檻の中に囚われたままのルフィが、何処か惚けた声を出す。
ルフィの自由を奪っていたロープはいつの間にか外されており、事の成り行きをリラックスして楽しんでいる様だ。
「まぁ、良いか悪いかで言えば悪い奴だな」
「あら? 自覚があったのね?」
キキョウを連れて寄ってきたニコ・ロビンはこんな時でも涼しげだ。
「まぁな。で? あのおっさんはどうして怒ってんだ? そもそも俺はこの街で名乗った覚えがない……町長が何故、俺の名を知っている?」
「さぁ、分からないわ。だけど、何か勘違いしているようね」
『己っ、何処までも惚けおるかっ! 見よっ、コレが動かぬ証拠じゃ!!』
俺とニコ・ロビンのやり取りを聞いたプードルが懐から一枚の紙切れを取り出し、コチラに見せようと天に翳した。
見よ、と言われても細かな所は見えないが、レイアウト的には俺の手配書と見えなくもない。
「うほぉ!? お前、賞金首か! 良いなぁ……幾らだ?」
檻を掴んだルフィは体重を前後に掛けて檻ごと隣に移動してきては、俺と一緒に手配書を見ている。
「知るかっ! 大体だな、賞金首の何が良いってんだ!?」
「なんだお前ぇ、知らないのか? 海賊は賞金首なんだぞ」
「いや、俺は海賊じゃねーし。ってか賞金首ですらないぞ?」
「じゃぁ、アレは何なのよ!? 遠くてよく判らないけどアレってアンタよね!? 確かさっきワール・D・オーザって名乗っていたし」
「同姓同名の他人の空似だな。俺が賞金首になるなんて事は有り得ない」
これでも俺は天竜人だ。
支配者が追われてどうするって話である。
『そうかっ……さては貴様、賞金首に成った事を知らぬのじゃな? ならば教えてやるわい!』
再び懐に手を入れた町長が新聞らしきモノを取り出すと言葉を続ける。
『海軍狩りのオーザ!! 貴様は海軍の船と見れば問答無用で襲い掛かり、この1週間だけでも12隻の船と200人近い海兵が犠牲となったのじゃ! 幸い死人は出ておらぬ様じゃが、精神に異常をきたす者が数多く出ているとこの記事には書かれておる! 貴様に懸けられた懸賞金はっ……100万じゃ!!』
「ぶわっはっはっは」
「小物じゃねーかっ」
「笑ってる場合かっ、海軍狩りなんて、どう聞いても危ない奴でしょっ!?」
「なんだテメェ? 初頭手配にビビってオレ様に庇護を求めたのかぁ?」
「大変ね、その金額だと小物狙いの賞金稼ぎに狙われるわ」
「素直に姫様の好意を受ければこの様な面倒事にはならんモノを……貴様の考える事は分からん」
俺の賞金額を聞いたルフィ、ゾロ、ナミ、バギー、ニコ・ロビン、キキョウの反応である。
「はぁ!? 揃いも揃ってふざけんな! 大体なぁ……なんだ、その安い金額は!? 100億の間違いだろうがっ!!」
そもそも、天竜人である俺がどうして賞金首になってるんだ?
センゴク辺りの嫌がらせか?
「ふふ……ホント、おかしな人ね。でも、100億は言い過ぎだけど、ターゲットさんの強さを考えれば100万は低すぎるわ……海軍支部が独自に懸賞金を懸けたのかしら?」
「は? そんな事が支部に出来るのか?」
「えぇ。本部に報せる程でもない小さな案件や、報せたくない不祥事の絡む案件なんかは支部が独自に手配書を発行するそうよ」
なるほど……支部単位だと予算が無いから金額が安いって感じか。
原作には無かったシステムだが、考えてみれば広い世界の全てを本部が取り締まるのも無理がある。
ある程度の裁量権を支部に持たせているのだろう。
「つまりこれは、あの中佐野郎の仕業って訳か? やってくれるぜ……まぁ、賞金稼ぎに追われるのも一興か。死なない程度にあしらってやるさ」
いよいよ面倒となれば、本部に掛け合って手配書を取り下げさせれば良いだけだし、大した問題は無さそうだ。
「…………私のせいにしないの?」
意味の分からないことをほざくニコ・ロビンは何時になく真剣だ。
「なんだそりゃ? 頭の良い奴ってタマに意味わかんねぇ事を言うよな? ニコさんや……お前は一切、関係無い」
町長の持つ新聞に書かれている事は事実だ。
事の起こりは、海軍支部の街でニコ・ロビンの素性に気付いた中佐野郎に「彼女は七武海の部下」だと告げてもクソ真面目に逮捕しようとした事に始まる。
原作再現を心掛ける俺は当然、中佐野郎をブッ飛ばした。
それ以来、執拗に追ってくる海軍船を覇王色で無力化する日々が続き、当初は何の目的で航海しているのか確認していたが、最近では海軍船を発見、即覇王色となっている。
イチイチ確認するのが面倒なのだ。
この俺の行動が記事に成っているのだろう。
ここに、ニコ・ロビンが責任を感じる要素は一切なく、俺が俺の意思で動いた結果でしかない。
「そう…………それで、この状況をどう治めるのかしら?」
「そう、だな……」
周囲の状況を改めて確認する。
ルフィは自由な手を伸ばしてゲットした肉を檻の中で喰い、重傷を負っていないゾロはまだまだ闘えそうだが、戦意が全く感じられない。
この二人が明らかに原作から外れた行動をとっているのも問題だが、更にマズイのはなんと言ってもナミである。
彼女が警戒の眼差しで俺を見るのは良いとして、このまま檻を砕いてルフィを出してやったとしても、バギーと麦わら一味の戦闘が始まるか微妙な感じで、ナミの仲間入りフラグが成立しない気がして成らない。
ここに至っては歴史の修正力に期待するしかないが、どうしてこうなった?
次に原作干渉の機会が有れば、更なる注意が必要となりそうだ。
「とりあえず、町長のおっさんには寝てもらうか」
これ以上無駄に騒ぎ立てて、事を大きくされても面倒だ。
俺は階下で騒ぎ続ける町長に向けて覇王色の覇気を放った。
『むむ……小わっぱの分際でワシを威圧するかっ! じゃが貴様の思い通りにはさせんっ! ワシはこの街の町長じゃぁ、例え死んでもこの街は護ってみせるわい!!』
覇王色を受けた町長はビクッと身体を硬直させて汗を噴き出すも、大声を張り上げて意識を保とうと食い下がる。
「へぇ〜? コレに抗うか? 大したモンだな……だが、何人も俺には抗えない……何故なら俺が、偉いからだっ!!」
見事な覚悟と意思ではあるが、高々名も無き街の町長に抗われては天竜人の沽券に関わる。
更なる意思を籠めて覇気を放つ。
――ドサッ!
俺の全力に近い覇気を受けた町長が白目を向いて力なく崩れ落ちた。
「こんの派手阿呆がぁ! 派手にやり過ぎだ!」
「あん?」
「見てみやがれ! コレから海賊狩りを仕止めようって時に、オレ様の部下まで倒れてるじゃねぇかぁ! カバちゃん!? モォジィ!?」
大袈裟に騒いだバギーは謎の名を叫びながら、手下の元へと駆けていった。
その先では確かに手下が白目を向いて倒れている。
俺が町長に向けて前方に覇王色を放ったダケで倒れるとは、情けない奴等だ。
「そんなモンは倒れる方が悪いっつーの……余波だけで倒れるって、ドイツもコイツも覚悟が足りてないんじゃないのか?」
手下よりも近くに居たルフィ達は健在なのだ。
今日バギーの一味が負けるのは確定事項だが、グランドラインの航海に耐えられるのか心配になるレベルである。
覇気とは意思の力。
そして、覇王色はそれが顕著に現れる。
町長が俺の覇王色に抗ってみせた様に、肉体的な強さよりも精神的な強さがモノを言うのだ。
まぁ、肉体的に強い奴はそれが自信に繋がり精神的にも強いので、単純に覇気に耐える奴は強いと考えるのも間違いではない。
それはさておき、バギーにゾロとやり合う気が残っているのなら、それを利用すれば原作の修正はなんとかなりそうだ。
「今のって、何……? アンタなにしたのよ!?」
「殺気……とも違うようだな? 一体、テメェ何をしやがった!?」
「すんげぇっ! おい! お前っ! どうやったんだ?」
順にナミ、ゾロ、ルフィだ。
三者三様に聞き方は違えど、似たようなコトを聞くのは類友だからだろうか?
「馬鹿かお前等? どうして今日会ったバッカリの奴等に教えてやらなきゃいけねぇんだ? 知りたきゃ自分で何とかしろ」
「ケチな奴だなぁ。オマケになんか偉そうだし、オレ、お前のコト嫌いだなぁ」
檻の中で胡座っぽく座るルフィは「アハハ」と笑いご機嫌だが、激しく間違えている。
「ちょっと、ルフィ!?」
「おいっ! 麦わらぁ!!」
俺の怒声を聞き檻に近付こうとしていたナミが立ち止まる。
「なんだぁ?」
「俺は偉そうなんじゃないっ! 偉いんだ!! そこんとこ間違えるなっ!」
「そうか、わりぃ。お前、王様か何かか?」
「そんなワケないでしょ! 何処の世界に賞金首になる王様が居るのよっ……ハァ、アンタ達二人とも意味わかんない」
何故か疲れた顔したナミが額を押さえて天を仰ぐと、大きく溜め息を吐いた。
「案外いるかも知れないぞ? ま、俺は王様じゃないけどな」
「ふーん。だったら、お前はどこが偉いんだ?」
ルフィは鼻をホジリながらも、中々鋭い事を聞いてくる。
「さぁ? 判っているのは自分が偉いというコトだけだ……何故偉いのか自分でも判らない……だから俺は自分が偉い理由を探す為に旅を続けるのさ」
「何よそれ?」
「ふふ……変な人ね」
「何言ってんだ? バカかおめえ」
「あん? 調子に乗るなよ、麦わらぁ……檻の中なら安全だとでも思ってんのかぁ? オラァ!!」
コンクリートで出来た檻をペチペチと叩いた俺は、軽く力を込めてチョップを繰り出した。
――バゴンっ!!
派手な音と共に砕ける石の檻。
「ウッヒョー! お前、やっぱ良いヤツかぁ? 出してくれて、ありがとー」
檻から飛び出たルフィは肩を回すと、お礼の言葉を述べて軽く御辞儀した。
自由奔放に見えて、要所で礼儀を押さえているのもルフィだな。
「その手があったか」
「ちょっと!? 石を砕くなんて人間業じゃないわよ! どうして皆驚かないのよ!!」
「いや、コレくらいソイツ等にも出来るだろ?」
「あぁ、忘れてた」
「盲点だったな」
「私にも出来るぞ!」
ルフィとゾロに張り合う様にキキョウも話に加わり、場はカオスの様相を呈してきている。
全くっ……どうしてこうなった?
「アンタ達は一体なんなのよぉ!?」
「ふふ……私は出来ないから安心して、娘さん」
叫ぶナミを慰めるニコ・ロビンのナミに対する呼び方もおかしいし、サッサとこの場を収めた方が良さそうだ。
次回!
「俺の冒険は今からだ!」