自由への航海 作:天の川
ぼったくりバーは夜を迎え静かに時を刻んでいた。
日中、馬鹿な海賊達が身ぐるみ剥がされ、地面にめり込むという実に他愛の無い出来事もあったが、概ね平和な1日だったと言えよう。
因みに、馬鹿な海賊達はアレでも一応、3200万の賞金首だったらしい。
賞金額がイコール強さでもないが、アレで3200万ならバギーやクリークにアーロン……コイツラはどんだけ弱いんだって心配になる。
元読者としてはワンパンでKOされる東の海の強者の姿は見たくないが、俺に舐めた態度を取れば一発KOは免れまい。
願わくば穏便に遭遇したいものである。
え?
我慢しろって?
何それ? 美味しいの?
「シャッキー。今帰った」
馬鹿な妄想をしていると、破壊され開けっ放しとなったままの入口に、荷物を肩に下げたマント姿のレイリーが立っていた。
「あら? レイさん、お帰りなさい」
「遅ぇよ! ったく、どんだけ待たせるんだ」
漸く現れたレイリーだが、やはり二人の関係はよく分からない。
別段、レイリーに悪びれた様子はなく、シャッキーも又、喜ぶでもなく普段通り。
一人でカリカリしている俺が馬鹿みたいだ。
「おや? 誰かと思えばキミだったか……私にはキミを待たせた覚えはないのだが、こんな所に一人でどうしたのかね?」
なるほど……確かに、待っているとレイリーに伝えていないし、勝手に待っていた俺が怒るのはお門違いかもしれない。
シャッキーの言う俺の我が儘とはこの辺りか?
「ちっ……俺じゃねぇよ……シャッキーだ」
だが、勝手であっても待っていたのには変わりなく、文句の一つも言ってやらないと収まらない。
「なんとっ!? キミが人の心配をするとはな……シャッキー、明日は悪天候に注意せねばなるまい」
「勿論よ。早速だけど、入口の修理をお願いね」
「うぉい! どういう意味だ」
隣の席に腰掛けたレイリーにビシッと突っ込みを入れておく。
「すまんな、冗談だ。それよりキミが一人で居るのは、ついに天竜人を辞めたからかね?」
「私は本気よ」と呟き酒の用意を始めたシャッキーはとりあえず無視するとして、「ついに」って事は海に出ようとしていたのは、レイリーにもバレバレだったのか?
だとすれば、少しマズイな……これから海千山千の相手を向こうに回しての航海が始まるんだ。
もっと上手に立ち回る事を覚えねば成るまい。
それと、レイリーの言う「一人」は周りに護衛や監視が居ない的な意味があるだろう。
この世界に産まれて以来、常にまとわり付いていた監視と護衛の目が無くなっているのだ……俺の見聞色でも確認していたが、未だ追われる身のレイリーが言うならほぼ間違いなく、俺は一人きりだ。
一人きり……なんて清々しい響きだろうか? コレこそが俺の求めた自由への第一歩だ。
とは言え、天竜人を辞める気もない。
「辞めてないさ。俺は、天竜人として海に出る! と言っても、ワール・D・オーザとして名前を偽るけどな?」
「面白い男だとは思っていたが、まさか、その様な暴挙に出ようとは……全く、畏れ入る。しかし、天竜人であるキミがDとは大胆不敵が過ぎるのではないかね?」
「そうか? てか、Dの意味とか知らないし…………そういや、レイリーなら知っているのか?」
「それは、Dの意志についてかね……それとも、天竜人の事かね?」
「オーザちゃんよ? 両方に決まってるわ」
「はっはっは……そうであった。オーザ君は片方だけで諦めるような男では無かったな。欲しいモノは手に入れる、それがキミだったな」
運ばれたグラスを片手にレイリーは上機嫌だが、俺って2人にどう思われてんだ?
物凄い我が儘野郎に思われてそうで心外だが、これも天竜人としての宿命か。
天竜人イコール我が儘。
これは世界中の者が抱くイメージだから仕方がないのだ。
「で? 結局レイリーは知ってるのか?」
「無論、知っているとも。Dの意志……天竜人……空白の百年……長い航海の果てに我々は全てを知ったのだ」
「へぇ〜〜」
ロビン辺りが聞けば泣いて喜びそうだな。
あれ?
そういや、原作のルフィやロビンは聞いたのだろうか?
…………。
ダメだな……思い出せない。
こんな事ならもっと原作を読み込んでおけば良かったが、まさか自分が転生するだなんて思ってもみなかったし、細かい所までは覚えてなくて当然か。
「どうする? 今聞くかね?」
「いや、今はいい……今聞くのは面白味に欠けるってもんだ。 苦労して航海の許可を獲たのに使わなきゃ損だろ? グランドライン前半の海を制覇して、この地に戻ってきた時に聞かせてもらおう」
レイリーの提案は実に魅力的だが、聞いてしまえば俺の旅は始まる前に終わってしまう。
天竜人の謎を解き明かすのも大事だが、自由に旅をして世界を巡り、麦わらの一味と交流するのも俺の目的の一部となっている。
世界の謎はグランドラインを半周した暁に聞く……全てを兼ねるこの辺りが妥当な目標になるだろう。
「はっはっは……大した自信だが前半の海であってもグランドラインは甘くないぞ。十分に気を付けたまえ」
「別に甘くは考えてないさ……生きて再びこの地に戻る! コレは決意表明みたいなもんだ」
「そうか……ならば老人の出る幕はあるまい。私はここでオーザ君が為す事を楽しみにしているとしよう」
俺の答えに満足したのか、笑みを浮かべたレイリーはグラスをグイッと飲み干して視線を落とした。
でも、話はまだ終わっていないんだな。
「いや、出る幕はあるぞ? 女ヶ島への航路を教えてくれ」
「あら? 早速、女を求めに行くつもり?」
「違うし。大体、自由の欲しい俺が女に縛られてどうするんだよ」
「それはオーザちゃんの偏見よ? 縛らない女も居るし、全てを捧げたくなる様なたった一人の女もいるわ……世界は広いのよ」
なるほど……縛らない事で自由が信条のレイリーにとっての唯一無二の存在で有り続ける。
かと言ってシャッキーが無理をしているわけでもなく、縛らない関係の理想を体現しているのがこの二人か。
「ふんっ」
言いたい事は解らなくもないが、鼻で笑ってグラスを飲み干した。
素晴らしい女は世界に匹敵する……こんな意見を耳にした覚えも無くもないが、やはり今の俺には必要ない。
「ふふ……オーザちゃんには難しかったかしら?」
頬杖つくシャッキーは俺の態度を特に気にした風でもなく、タバコに火を付け煙を吐いた。
「良いではないか。オーザ君が何を求めるかはオーザ君の決める事だ。それでキミは、女ヶ島に行って何をするのかね?」
レイリーが値踏みするような視線を俺に向ける。
俺の原作知識が確かなら、十数年前に逃げ出したゴルゴン三姉妹を保護して匿ったのはレイリーであり、女ヶ島への行き方を知っていると踏んだのだが、思ったよりも過保護らしい。
善からぬ事を企んでいるなら教えない……そんな意志がレイリーの瞳には宿っている。
「そう睨むなって。ゴルゴン三姉妹がどうなっているのか、会ってこの目で確めるだけさ」
「そうか……彼女達を救った天竜人の問題児とはオーザ君、やはりキミの事だったのか」
見聞色の為せる業か?
それとも単なる察しの良さか、レイリーは俺が問題を引き起こした天竜人だと気付いた様だ。
てか、天竜人の問題児ってなんだよ!?
俺の扱い酷くね?
いや、そもそも人違いだな。知らないけど、きっとそうだ。
「さすがオーザちゃん。昔からやんちゃ坊主だったのね」
「助けてねぇし、やんちゃ坊主でもねぇ!」
立ち上がって手を振るい、抗議の意志を表してみたが二人は楽しげに笑うだけだった。
こんな風に、時にからかわれながら、時に経験を話されながら、楽しい夜は更けてゆく。
それから一夜明け、レイリーから女ヶ島への永久指針を託された俺は、日の出と共にアマゾン・リリーへ向けて小型船に乗り込むのだった。
次回!
「ハンコック登場!」