紺野エリカの机を倒した犯人は俺だけど白状禁止にされてる 作:Brahma
ガッシャ―ン...
教室の机が倒れる。
口角をつりあげて、その机の主、眼鏡をかけた大人しい美少女-まあ俺からみてだが-をほくそえむようにやぶにらみするのは、クラスの女王紺野エリカ。
なぜこうなったか。前日の体育祭で俺たちのクラス、2年2組は男女ともに学年優勝した。女子ソフトボールの優勝の立役者は、紺野エリカ。彼女の投打にわたる大活躍のおかげだった。
しかし、紺野は見てしまった。キャプテンを務めた友人の泉優鈴が先日告った相手の中村修二とタガが外れたように喜び合う姿を。そしてそれは、やり場のない怒りとなって、眼鏡をかけた大人しい美少女-まあ俺からみてなんだけど-平林みゆきにぶつけているのだ。
むりやりにキャプテンを押し付けられたみゆき。しかし泉がエリカにやる気出してもらおうとキャプテンを引き受けた。後で聞いた話だが、気になる男の中村に振り向いてもらいたい、ライバルの日南に負けたくない、友人である優鈴の力になりたいという三つのモチベを満たすために体育祭のソフトは自分をアピールするための絶好の機会だったわけだが、それが裏切られたので、その腹いせがキャプテンをことわったみゆきに向いているのだ。
ある日は、椅子をけ飛ばす、偶然に。ある日は紙飛行機がみゆきの頭に当たる。ある日は、みゆきの筆箱に、紺野の腕が当たって、床に文房具が散らばる。同じことを紺野の取り巻きの秋山や神前がやることもあった。みゆきはおとなしく自己主張しない。それにつけこみやりたい放題する紺野グループのやり方は、許せなかったが俺にはどうしようもない。しかし、そんな弱キャラの俺でも、みゆきの状態を見ていられない。どうしかえししようか、紺野がやったことと同じことしてやろうか…だらだらまよっているうちに一週間がたった。
しかし同じように義憤を抱いている者がいたことを意外な方向から思い知らされる。
紺野たちがみゆきをバカにするトークをしていたときだった。毅然とした表情で小柄な女子生徒がたちあがって、つかつかと紺野に片腕を挙げて糾弾するように指をさして叫ぶ。
「紺野、いつまでやってんの?いいかげんそんなくだらないことはやめる!」と
誰もが口に出せないことをいう。俺は驚いた。彼女、夏林花火は、口数はすくないがいったん言い出したら聞かない気かんぼうで自己主張が強い空気が読めないだけの変わり者だと思っていた。しかし正論を歯に衣を着せず正々堂々という。俺は凄いと思った。
「はあ、何言ってんの?」
「そういうのいらない。中村取られたからってやつあたりとかありえない。」
紺野は、ほくそえんで、夏林の肩を握り、
「なに花火だいじょうぶw?震えてるじゃんw」
夏林は、紺野の腕を振り払う。紺野は
「いったーい」
と大声をあげた。血は出ていないようだがうでにこすったような白い線が見える。
「そんなに強くは…」
「先に手を出したのはそっちだからね」
紺野は夏林をにらみつける。
それからみゆきにしたように同じように、机をけった。ばらばらとペンケースや教科書、ノートなどが床に散らばった。
「あ~ごめんw」
「紺野、いまわざとやったでしょ!」
「はあ、勝手な決めつけやめてくれる?それにあやまったじゃん」
「謝ったとかそういう問題じゃない!」
「ああ?また暴力?暴力はんた~いw」
「わたしは暴力なんてふるっていない」
その後毎日、「偶然」机にぶつかり、「偶然」椅子に足をかけて倒し、「偶然」シャーペンの芯が折られるなどの嫌がらせが紺野とそのグループの女子によって繰り返された。そのたびに、夏林は抗議する。最初は夏林に同情的だったクラスの空気は、(たしかに紺野は悪いけど、クラスの空気が悪くなるから、夏林ももっとやり方があるんじゃないのか)という空気がじわじわ醸成されつつあった。
それを食い止めているのは、日南葵と七海みなみだった。お昼休みには、七海は夏林と楽しそうに昼食を食べて話しかけている。日南は、クラスの女子たちに話しかけて夏林への同情心をあおっている。
俺は視線を時々感じるようになった。ふりむくと日南が手招きしている。
「山下くん」
「ん、なんだ?」
「あとで話しできる?」
「いいけど」
放課後、だれもいない空き教室に呼び出された。