紺野エリカの机を倒した犯人は俺だけど白状禁止にされてる 作:Brahma
「つうかさあ、お前ら中学生カップルかよ。付き合いたてだからって、そうやって手を取り合って戦いますって、まじ寒いんだけど」
強気にふるまいながら紺野の目からは涙がこぼれていた。
「何なの?お前ら。バカにするのいいかげんにしろよ。別につきあうのは、個人の自由だけどさぁ、『わたしたち、息ぴったりです~』ってアピールされるの、まじキモイだけだから。」
「…あのさ」
日南がゆっくりと口を開く。
濡れた視線が日南をにらみつけるが、日南はかけらも動揺していない。
それどころか
「エリカの気持ちはわかるけど、優鈴たちはエリカをバカにするつもりなんてないよ。ただ仲直りしてほしいと思ってるだけだって」
異論をはさむ余地なく事実をつきつけ、しかも悲しそうなトーンを言葉に含ませるのも忘れない。
「今、お前になんか話していないんだけど」
「今もそうなんだけど、…エリカ、たぶん、『好き』っていう気持ちが暴走して、周りが見えなくなっているんだと思う。」
紺野の顔が赤く染まり、再び目から涙がにじみ、流れる。
「わたしもそういうことあったからわかるよ。けど、今はいったん落ち着こう?ね?」
聖女を思わせるような優しい口調。
(日南、怖すぎる。なんだよ。この女。「そういうこと」なんてないだろ。お前のように合理性ばかりの冷血女に。こいつこそ女王じゃないか…いや魔王と言った方があたってるかも)
俺は、釘付けになったように動けず、言葉も出ない。
そのとき意外な人物が日南の背中を軽くつついているように見えた。「日南…。」という小声が聞こえる。半年前までボッチ、ダサさ全開のキャラだったが最近垢ぬけた友崎だ。
日南は、はあとため息をつくと、手をパンと叩いた。
「ってことでこの話はおしまい。こめん、変なことばかり言って。今は冷静になれないと思うから、また今度けんかっぽくない時に話そ。」
日南は、仕切り直すような空気をかもしながら、明るいトーンに声色を変える。
「とりあえず、涙拭こう。えっとティッシュ…。」
日南はスカートの中のポケットをごそごそとまさぐるが、なにもなかったようで中村に声をかける。
「ごめん修二、ティッシュ貸してもらえる?」
「ああ、いいけど」
中村は、自分のポケットに手を突っ込んでティッシュカバーに包まれたポケットティッシュを取り出して紺野に渡そうとした。
友崎は何かに気が付いたように何やらつぶやいて体を乗り出したが、その前に紺野が一瞬固まったかと思うと、怒りに表情をひらめかせて、中村の手を勢いよくはらった。
パシツという軽い摩擦音をたてて、ポケットティッシュは床に落ちた。
「何?今の?」「なんで?」
クラスメートは紺野の態度が意味するものを理解できなかった。中村や日南のやさしさをつっぱねたようにしか映っていない。
悪意と怒りが紺野に津波のように向けられる。
「ありえないだろ。さすがに」
「つうか、前から思ってたけど自分勝手すぎだろ」
「ほんとだよな。どんだけ女王様気分なんだよ」
「なんでも自分の思い通りになると思い込んできたんだろうな。」
「あきれてものいえんわ」
「好きな男取られて別のやつにやつあたりとか、ダサすぎだろ」
「てか、さっきから泣いてるけど泣けば許されると思ってんのかな」
くすくすという嘲笑が聞こえてくる。
背後から神前真央が
「自業自得じゃない?」
責めるトーンで言葉が投げつけられる。
「あ~わたし、トイレ行こうかな~」
思いっきり紺野の机をけとばす
ガシャーンという音をたてる。
「あ~ぐうぜ~んw」
紺野は、神前真央をにらみつけるが真央もにらみ返す。
「あ~ぐうぜ~んw」
運動部のだれだろうか、カンペンケースがけられる。
「あ~ぐうぜ~んw」
今度はシャーペンがけられてころがっていく。
俺も本当はやってやりたい気持ちもあったが、自分が犯人なのにこれ以上紺野を追い詰めるのはという気持ちと、日南の中村と泉をつかったようなやり方にさすがに引いていたのでそのまま様子をながめていた。
その時だった。紺野を包む激しくくすぶる黒煙のような空気を切り裂くようにはきはきした声が教室に響く。
「こら、そーやって一人をみんなで攻撃するのはやめる!」
そこに仁王立ちになっていたのは夏林だった。
紺野のいやがらせの最大の被害者なのにまったくブレることがない。