紺野エリカの机を倒した犯人は俺だけど白状禁止にされてる 作:Brahma
店頭での会話を聞いていると、ブランド品ほど高くはなく、おいしくて見た目もいいので買っていくようだ。
「夏林さん、けっこう繁盛してるね。」
「まあ、今日はそういう日だから書き入れ時。二人はここでいいの?」
「ああ、買う人ばっかりだからゆっくりはできるけど、ちょっとせわしないかな。」
「ごめんね。」
「場所移すか…その前に、みゆき」
「ん…。」
「ル・プティ・ボワ本命パッケージたまバージョン」
「え、ええ…。」
「ふふん。」
夏林と俺は顔を見合わせる。
「山下と平林さんのために一生懸命作ったんだよ。あけてみてよ」
クッキー、マシュマロの包みに、ラ・フランスのスライス、もものスライスを使ったミニケーキ、いちごののったミニケーキがプラスチックのケースのなかに並んでいる。
「これ…夏林さんが…。」
「そう。わたし製作だけど当店の総力をこめています。たいへんだった…。」
「ほんとうにありがとうな。夏林」
「ううん、山下の恋…うぐぐ」
俺は夏林の口をふさいで
「自分で言うから」と小声でささやく。
不思議そうに俺たちをみているみゆきに向き直った。
「えっと、みゆき、好きだ。つきあってほしい。」
「....」
「ん、どうした?みゆき?」
「ううん、山下くん。ありがとう。夏林さんも」
「山下。わたせてよかったね。」
「ああ、ありがとう。」
「ごちそうさま。」
俺たちは、立ち上がって、振り返るように夏林に手を振って
ル・プティ・ボワのイートインをあとにした。
こうして晴れてみゆきと恋人同士になれた。
さて異変は進級してから間もなく起こった。
「日南さんが、登校してこないの」
「なんだって?」
「友崎君や七海さんから何か聞いていない?」
「日南の誕生日をYontendoワールドで祝った後何か家族のビデオレターを日南に見せてから様子がおかしくなったとはきいたけど….。」
「それはわたしも聞いてる。」
「みゆきは、たまちゃんと葵に助けられたんだもんな。気になるよな」
みゆきはうなづき、
「何か悩んでいるなら力になりたいけど…」
まもなく友崎から日南の家の前に張り込んで、妹さんと知り合うことになったという話を聞く。その後、伝え聞いた話によると、菊池さんと友崎がリードして、七海、夏林、水沢、泉、友崎、竹井たちが日南を元気づけたという。いつしか風のたよりで友崎は菊池さんと別れて、日南と付き合うようになり、日南は東大に行くとともに、友崎、水沢と会社を興すことになったという話を聞いた。
10年後。
関友高校2年2組の同窓会。3年では文系、理系、特進クラスにわかれ、受験一色になるのでそういう区分のない高校生らしい思い出深いクラスの同窓会だ。しかし思い出したくない記憶もあるクラスでもあった。
俺はみゆきと結婚して、その同窓会に参加していた。
「へえ、哲司は、みゆきと結婚したんだ。」
「ああ、そうだよ。たま。あのときはありがとうな。みゆきを助けてくれて。ずっとお礼をいいたかった。」
「ううん、わたしは、ぜったいあのときの紺野を許せなかったからいいんだ。」
「紺野」
「ん、山下。お久しぶり。」
「おまえ、みゆきに何か言うことないか?」
「ああ、おひさしぶり。」
「はい、おひさしぶりです…。」
「ほんとうに言うことはないのか」
「結婚おめでとうか?しつこいな。わたしはまだなのに。いやみなのか?」
「そうか。お前がそういうつもりならいいや。」
「まだ、何かあるのか」
紺野はため息をつく。
「いや、時間がたったから冷静になれるのかなと思ってな」
「何言っているかわからないな。へんなやつ。」
いじめっ子は自分がいじめたことを忘れている。やられたほうは心の傷になりずっと覚えているのだが。俺もまさしく寝た子を起こすのはやめようと思った。
しかし、俺のなかでは、お前の机を倒したのは俺なんだという気持ちがくすぶっていた。
俺は、神前真央のところへ行き、謝った。
「真央」
「ん、山下、どうしたの?」
「すまん、10年前、おれのせいでケガさせちまった。申し訳ない」
「10年前?」
「ああ、紺野にみゆきがいじわるされてたろ。俺それが許せなくて紺野の机を…そのせいでお前が…」
「ああ、あのとき…」
真央は考え込んでいたが、にっと笑うと、俺の頬を目じりまで軽く指で斜めにこすった。
「…?」
それはかすかな痛みしかなかったが意味することは分かった。
「これで許してあげる。あのとき、わたしは、びくびく生きてきたのをやめて自分を取り戻せたから。おめでとう。みゆきと結ばれたんだね。」
「ああ」
俺は、うなずいて笑顔を真央へ向けた。