眼の前には清々しい笑顔でこちらを見てくる男。
俺の残る手札も少ない。せめて校舎や机が木製であれば手段はあったのだがこの学校はコンクリート製なのでどうすることも出来ない。
「さて次は何をしてくれるんだクソガキ」
完全に遊ばれている。悔しいが兎に角今は生きることを考えて行動するしか無い。まだ痛む口を開く。
「お前は...お前はどうしてこんな事をしてるんだ?それだけ力があればヒーローにだって成れただろ」
恐らくコイツはただ力を振りかざしたいだけのヴィラン。会話に乗ってきてくれるかは分からないが生き残るためにはやるしか無い。慎重に言葉を選びながら発言を続ける。
「今だったらまだ引き返せるだろ?早くこんな事やめろよ?な?」
多分このときの俺はまだ平和ボケしてたんだと思う。この世界のことを舐めてたしヴィラン事を甘く見ていた。犯罪者だって善の道に引き返すことが出来る。そう思ってた。だが実際は違う、本物のヴィランは会話をまともに出来る訳が無い。
「はぁー、詰まんねぇなお前。少しは面白いかと思ったけどよぉ。なんでやってる?そんなの楽しいからに決まってんだろ!!」
そう締めくくると俺に向けて走り出す。
思いっきり振りかぶってから繰り出される右の拳、それをよく見て一歩後ろに下がることで避ける。体が思うように動かないのでギリギリになってしまい少し鼻をかする。
「大体引き返すだぁ?こっちはもう十人以上やってんだよぉ!!」
左手に見える光。不味い!と思い俺は咄嗟にイチョウを左側に成長させる。
ドゴォン
瞬間起きる爆発。先程まで守ることが出来ていたイチョウの壁が突破されている。それに驚愕していると男は愉快そうに笑う。
「ハッ何を驚いてんだ。俺の爆破はガキに阻まれるほど弱くはねぇよ」
さも当然であるかの様に言う男に苛立ちを募らせる。今までの爆破は手加減してたって事か?ふざけた事しやがって...
ヘラヘラ笑う男を睨みつけるも全く気にされない。
「どうしたガキ?悔しいなら見返してみろよ」
ただただ苛つく男の発言を聞きながら考える。
ヒーローはまだ来ないのか?あとどのぐらい俺は耐えられる?残りの種は?....色々な事を考えるも答えが纏まらない。
「おい、固まっちまってどうした。もう終わりか?」
何をするべきか分からない。次の行動を考えれない。
だが男から感じた殺意に反応してか俺は無意識のうちに走り出す。
「死ねぇぇぇぇぇ!!」
そのまま男に近づき一発思いっきり腹を殴る。だが圧倒的余裕からか男は一切動かずに男は拳を受入れた。
ペチ
「なんだコレ?全力でコレか?デコピンよりも雑魚いぜぇ」
「黙れヴィラン」
「ギャハハ、言うじゃねぇかクソガキ」
俺の全力で繰り出した拳は虚しくもダメージすら与えれなかった。どうやらデコピンよりも弱いらしい。
コレ勝ち目はあったのか?そんな事を考えるても時すでに遅し。力を使い果たした俺はヘタリと倒れる。
「まぁそれなりには楽しめたぜガキ、地獄で会おうぜ」
男は俺の頭を掴み力を溜めている。
俺は故事で死ぬのだろうか?殺すならせめて一撃でやって欲しい。苦しむのは流石に嫌だ。男の手が光り俺の命が尽きる寸前。
ドカァン
大きな音と共に窓が割れ学校全体が揺れる。俺の意識があるという事は多分爆破の音ではない。なら一体何が起きたんだ。一瞬で起きた出来事を理解し頭がクリアになると俺は大男にお姫様抱っこされていた。
それを見てヴィランの男は今までで一番の笑みを浮かべている。
「遅くなってすまなかった少年。だがもう大丈夫」
こちらを見てニカッと笑い言う。あぁこの人が来たなら俺はもう大丈夫、そう思い安心してしまう。
「私が来た!!」
そう俺を助けに来たのはNo1ヒーロー、オールマイトである。
オールマイトは離れた場所に俺を降ろして男に向き合う。
「まさかアンタが来るとは思わなかったぜオールマイトォ」
「すまないな、ヴィラン!!少年が心配だから手短に終わらせよう!」
「そんな事言うなよぉ!楽しもうぜオールマイト!!」
手を光らせて爆発を起こす男に対してオールマイトは一切動じない。男の攻撃がオールマイトに直撃すると思った次の瞬間オールマイトの姿が消えて男は体が宙に浮いていた。
ドサリ
男が地に落ちる。一瞬の出来事に俺は脳が追いつかず何度も頬を抓った。圧倒的、正にその一言に尽きる。
ハッとなり倒れている男の表情を確認するも男は白眼を向いて気絶している。俺が手も足も出なかったこの相手に一瞬。初めて見たヒーローの活躍に俺は夢中になってしまった。
凄い!カッコいい!語彙力が終わっているが他に形容し難い。今まで分からなかったヒーローに憧れる気持ちを完全に理解してしまった。
「少年!本ッ当によく頑張ってくれた!」
オールマイトに褒められた。その事で嬉しくなる。
今までこんな感じに憧れたことが無かったのでどう返答して良いか分からなくなる。
「そうだ!少年を早く病院に届けなければ!!」
有無を言わせず俺を再びお姫様抱っこにして空をかける。
そのまま近くの病院まで運ばれる。
「少年、君ももう大丈夫だ。安心して休んで欲しい」
そう伝えるともう何処かに飛び立ってしまいそうなオールマイトに慌てて俺は聞く。
「お、オールマイト!!俺でもヒーローになれると思いますか?」
「君はもうクラスメイトのヒーローじゃないか!!」
少し俺の期待した返答では無かったものの嬉しくて泣いてしまった。それに対して優しく声をかけた後、今度こそ飛び立とうするオールマイトを再び引き止めサインと写真を沢山取ってもらった。