許して
道場に入門してから早くも数年が経過して俺は中学二年生になった。小学生の時にあったヴィラン襲撃事件の事が遥か昔の事のように感じられる。
小学生から中学生に上がってから変化したことがいくつかある。1つ目として体周りのこと。小学生のとき150も無かったが今では165まで成長した。中学生にしてはまぁまぁだろう。これからも伸びるだろうしあんまり危惧していない。
2つ目は個性について。今まで散々検証を重ねて理解しようとしていたが、年齢が上がると共に色々と変化していた。変化と言っても成長させられる距離が伸びたとかそういった限界値の変化だったので個性そのものが大きく変化した訳では無い。それに関しては少し残念。
「お前ってさ、結構モテるよね」
「そんな事は無いと思うけど?」
「イヤだってさ聞いたぜ?昨日も告られたんだろ?」
「まぁたしかに」
そしてコレが3つ目。何か告白される回数が異常に増えた。小学生のときもこういうことはそれなりにはあった。それも数度だけで何十回という回数ではない。
だけど中学に入学してから今に至るまで告白された回数が増えた。それも鰻登りに。今年だけでもう10回は超えている。多分コレがモテ期ってやつだろうか。でもモテ期は人生で二回だけしか来ないらしい。ソースは眼の前にいる友人。情報源は定かでは無いがそんな事を言われたら少し不安になる。普通に生きてたら人生で告白されることは数度と無い。なので小学生時代もきっとモテ期だったのだろう。そう考えると俺のモテ期はコレで最後なのでは無いかと偶に思い出しては思ってしまう。だが今は恋愛をしている時間はない。将来の夢のため全ての告白を断っている。
「それにしても明日怠くね?」
「そう言うな、先輩たちの最後ぐらい見送ろう」
「変なところで真面目なんだよ、卒業式なんて行きたいヤツだけ行けばいいのに」
そう明日は一個上の三年生の先輩の卒業式なのである。
目の前のバカが言う通り卒業式は正直怠い。二年生は強制参加なのでサボることが出来ないのがめんどくささに拍車をかけている。でも関りが少なかったとはいえ先輩のめでたい日なので俺は文句を言わずに参加する予定である。
「先輩に関わりがあんま無いんだよなぁ」
「それは俺も同じだから頑張れよ」
「はぁー行きたくねぇ」
こんな感じで似たような会話をぐるぐる回していく。
俺たちが話している裏では先生が明日の連絡をしているが誰も聞いていない。
なんか俺は今最高に中学生をしていると思う。
「それでは皆さん分かりましたか?同じことは二度は言いませんよ」
「分かってるってせんせぇー」
「早くかえらせてよぉ」
先生の小言に対して全く興味のない悪ガキたち。まぁ俺もその悪ガキの内の一人なのだが。生徒たちの心ない行動に先生は何も言わずに教室から出てってしまった。少し可哀想な気もしなくも無いがまぁこれも時代だろう。
「なぁカラオケでも行かね?」
「すまんな今日も道場に行く予定なんだ」
「今日もかよ。よく飽きないな」
「お前も始めるか?結構楽しいぞ」
「いや遠慮しとく」
アホを武術の道に誘ってみたが嫌な顔をして断られたので肩をすくめて席を離れる。
終礼は先生がいなくなってしまったので終了、生徒たちは皆各々好き勝手に行動している。俺も先生を待つという無駄な時間を過ごしたくないので別れを告げて学校を出る。
特に途中で何かがあった訳でもなく普通に移動していく。最寄りの駅から電車に乗り三駅ほど先にある道場をめざす。道場に入ってから約6年ほどたった。楊のヤツに言われた通り三年近くを掛けて様々な方について学んだ。中国拳法由来のものだったりムエタイ由来のものだったり種類は様々だ。
修練は地獄だったが確実に身になっている実感を得られたのでとても楽しかった。
だがな楊、修練と称してボコボコにして来るお前だけは断じて許さん。
今では型の訓練を終えてひたすら組み手をしている門下生の人達にも勝てないが相手はプロヒーローもいるし長年武術を修めているバケモノたちなのだ戦えているだけで十分だろう。
「早く楊をボコボコにしたいなぁ」
ふと口から洩れる。隣に座っていたおばさまに少し暖かい目で視られた。あ、あの中二病では無いんです。思わず本心が出てしまったせいであらぬ疑いを掛けられた。許さぬぞ楊。
「あっはははは」
「何笑ってやがんだ」
「いや思わず俺様をボコしたいって言ったら暖かい目で視られたって」
「...」
「全くお前も思春期なんだな」
「ぶち殺す」
「ほんとに威勢だけは良いんだよなお前」
今俺は道場で楊と組み手を行っている。俺は全力で戦っているが楊はあんまり苦しそうに見えない。他の人達と戦っているときは成長を実感できるのだがコイツと戦っているときは全くと言って良いほど成長を時間できない。多分俺が成長するペースに合わせて手を抜いてるんだと思う。じゃないとおかしい。
「まぁお前も強くなったと思うよ」
「また人の心の内を読みやがって」
「ただ俺様の手加減が上手すぎるだけって話だよ」
ふざけた表情をしながら俺の拳を避ける楊。俺が拳を振るった事で出来た隙を狙い楊が蹴りを放ってくるがそれをもう片方の腕で防ぎ楊の足を掴む。身動きがとれなくなった楊に俺は顔に向って肘鉄を放つ。顔を逸らして簡単に避けられてしまったがそこに蹴りでボディに追撃を入れる。
「まぁココまで出来たら及第点か」
楊がそう呟くと同時に雰囲気が変わる。俺の蹴りをそのまま受けた後に腕の拘束を力ずくでほどく。自由な状態になった楊はそのままこちらへと距離を詰める。
俺はまずいと思い両腕で楊の拳を防ぐためにガードを作る。だがしかしいつまでたっても衝撃が来ない。一体何が?と思った瞬間に首元に嫌な予感がする。
「ゔっ」
「ゲームセットだ」
いつの間にか背後にいた楊によって俺は首を絞められる。中学生の俺がこの状態を解除するのが難しい。どうするかを考えている内にどんどん視界が狭くなる。
あ、もう無理だ。考えるのも虚しく俺の意識は飛んだ。
「やっと起きたか間抜け」
「第一声がそれかよ」
目が覚めると目の前には楊がいた。起きて最初が中年オヤジとか普通にヤだな。
それにしても絞め技でさいごやられたのか...最近の組み手でその手の技は使われて無かったから完全に頭の中から除外していた。それを読み取られてまんまと負けたのは少し悔しい。
「まぁこの道場の者としてお前に及第点をやろう」
「は?それってどういう意味?」
「うちの道場の出身者として認めてやるって言ってんだよ」
「え、俺って一門として認められてなかったの!?」
「気づいてなかったのかガキ」
俺いままで散々あの道場出身だから~とか言ってたけどもしかして出まかせ言ってる痛いヤツだったってコト?なんでこんな目に合わんといかんのだ。少し記憶を封印したい気持ちになる。
「それより俺にも他の門下生に対してみたいに敬語使えよな」
「無理」
「何でだよ」
「お前は少しも尊敬は出来ないから」
さて昨日俺は無事に門下生として認められたわけだが少し悲しい事が起きても今日は絶対に出席しなくてはいけない。卒業式と言うイベントごとなんだから仕方ないとは思いう。
なんとか眠気を抑えながら校長先生の話や卒業生代表の話を聞く。相も変わらず校長先生の話は長いが小学生のころと比較すると内容のレベルが上がっているので退屈することは無かった。
無事に卒業式が終わり卒業生が体育館から退出した後に在校生の俺たちも退出する。
教室に戻り先生から謎の説明を受けた後卒業生の皆さんとお話する時間が設けられた。
正直あんまり関りのない卒業生たちと話すことは無いのだが強制参加との事だったのでアホと一緒に指定の場所へと移動する。
部活に所属していた人たちが卒業生に色紙などを渡す中俺たちはぼーっと其の光景を眺めていた。
青春してんなぁ、俺ももう少しそっちに時間を振ればよかったかなぁとか色々思う。
そんな事を考えていると先輩の一人から声を掛けられる。
「あの少し時間良いですか?」
声の方を振り返るとそこにいたのは見たことが無い女子生徒だった。
顔立ちは美人で凄くタイプではある。少しヤバそうな雰囲気がまさにジャストである。
先輩に言われるがままに付いて行き校舎の誰もいないところにやってくる。
移動する前にアホに「羨ましいぞお前」って言われたが今回ばかりは同意する。
「それで先輩なんの用ですかね」
「ワタシはアナタと同じ小学校でした」
先導するために後ろを向いていた先輩がこちらに振り向く。そして先輩は口を開き俺の質問をスルーしたまま語り始める。
「覚えてないかもしれませんがヴィラン襲撃事件のときワタシはアナタ見ました」
ヴィラン襲撃事件...多分アレのことだろうがその時の記憶にはクラスメイトたちの事しかなく先輩に関しては全く思い出すことができない。
「その時血だらけになったアナタを見て好きになっちゃいました」
先輩の口元がニヤリと笑う。楊の薄っぺらい笑みと似ているが全く異なる笑み。この先がどうなるかは分からないがきっと地獄なのだろう。
「渡我被身子って言います。練白蓮くん好きです、付き合って下さい」