【硝子玉の子】   作:みっつ─

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今回は母の日なので回想という体で斉藤家の母の日を書きました。
これは一応スレの方で出した話の加筆修正verとなります
時系列的には中学生、細かく言うと中二の頃の話です。

みんなも母の日はスティンガーなんて撃ってないでお母さんに感謝を伝えましょうね


斉藤家の母の日(回想・中学編)

 これは、中学生の頃の記憶。

 

「今年は、カーネーションにします」

 

 4月の人生初めての進級を終え5月に入ったある日。硝太は兄と姉を密かに自室に呼び出した。片付けた部屋のカーテンをしめ、暗くした後に部屋の中央にキャンプで使用するランタン型のライトを置いて今から怪談話でもするのかというテンションで開幕の一言目を告げる。

 母親はオフィスで仕事中、こちらに気付くことは無い。気づいた時の為に近くに起動直前状態にしたゲームを置いておく。これで母がこちらに来ても3人でゲームをしていたということにしてしまおうという算段だ。

 

「...ドノーマルだな」

「逆に今までなんで出てこなかったのか不思議なくらいだね」

 

 ここまで下準備の理由と何のカーネーションなのか瞬時に察した兄と姉は神妙な面持ちでそれぞれの感想を述べる。

 今回の議題は母の日のプレゼント。カーネーションと言えば母の日。母の日と言えばカーネーション。そういうものだ。

 

「これまで変な方向性に流れていたからね、ここは原初に帰るべきだと思う。プレゼントばかりに凝って気持ち忘れたら本末転倒だからね」

 

 基本的にカーネーションという選択は陳腐、シンプルなものとされる。しかしシンプルというのは使い古されながらもそれが良いとされた王道という意味だ。

 やはり大切なものは気持ちだと、去年は痛感したものだ。そういう意味ではシンプルなものはそのままその記念日を祝う気持ちを反映してくれる。

 

「それ大体硝太のせいだけどね」

「ヴェっ!」

 

 そこに姉のルビーのツッコミが来なければかっこよく決まっていたのだろうと鋭すぎるツッコミが来た瞬間に強く感じた。

 

「小学生──いや、10歳の頃だったか?アゲハ蝶探して幼虫取ってきたりしてたな。あの時のミヤコさん引いてたぞ」

「あ、あーいや、そんな時も、あったねー」

 

 アクアが少し口元を緩めながらした発言は、昔の古傷を抉ってきた。

 その時のことは硝太もよく記憶に残っている。小学生特有の『自分が貰って嬉しいものは他人が貰っても嬉しいだろう』という勘違いの結果、というよりそういうプレゼントという概念をあんまり理解していない上に学習しようとすらしなかった結果。硝太はわざわざ遠くまで遠征してアゲハ蝶の幼虫を捕獲して帰ってきた。アゲハ蝶の幼虫、つまり芋虫をもらって喜ぶ女性はまずいないだろう。しかもアゲハ蝶の幼虫はパッと見鳥の糞にしか見えない見た目をしている、その上こちらは育て方を知らない。ただ成虫になれば綺麗になるぐらいのイメージしかない状態で馬鹿なことをしたという記憶はこの時期になると必ず思い出される。

 

「去年なんだっけ?硝子の指輪だっけ?」

「それは去年のミヤコさんの誕生日だろ。母の日は薔薇だった」

「あー、監督さんに騙されたやつだ。ミヤコさんあれ押し花にして持ってるの見つけたんだけど」

 

 最初の神妙な面持ちは何処へやら、今からゲームを起動して遊びながら話すような雰囲気で去年の失敗を仲良く話す(アクア)(ルビー)

 去年のこともよく覚えている。誕生日に渡した硝子の指輪はよく結婚指輪とかに使われるダイヤの指輪のダイヤが硝子なだけのパチモンだが、薔薇は棘を抜いただけの正真正銘本物だ。五反田というアクアがよく手伝いに行っている監督さんのところにお邪魔して話をした時だ。「母の日は薔薇を渡すもの」だと嘘をつかれた挙句まるでカップルの告白のようなシチュエーションを用意されたのだ。

 あの時の五反田のおじさんの顔は一生忘れない。あの時拳が出なかったのは硝太も大人になった証拠と言うやつだろう。多分、きっと、メイビー。

 

「去年はもういいから!──え、それほんと?」

「ほんとほんと。オフィスの本棚のところにあるよ。嬉しかったんだろうねミヤコさん」

「へーそうなんだ。後で確認しよー───じゃなくて!カーネーション!カーネーションにします!」

 

 ルビーの言っていた事は気になるがそれより今年の話だ。後でオフィスは確認しなければならないが、今年を踏み出さなければ意味が無い。これでもカーネーションのことについてはそれなりに調べてある。

 ナデシコ科ナデシコ属の多年草。南ヨーロッパおよび西アジアが原産。花言葉は『女性の愛』や『純粋な愛情』がある。確かに母の日に送る花としてピッタリという意見も頷けるものだ。

 

「はいはいごめんね。それで?買い物に付き合って欲しいの?」

「それで買ってきたものがこちらですね」

「三分クッキングかよ」

 

 アクアのツッコミを無視してベットの下に隠しておいたカーネーションのドライフラワーを出す。透明な容器の中に入ったピンク色の大きなカーネーション。ドライフラワーなのでかなり長持ちする。流石に造花では無いので永遠、とまではいかない湿気などの対策もしているので下手なことをしなければ10年は持つものだ。

 買う時も学校帰りを狙ったのでまずバレることは無い。予想通り僕より確実に頭が良いアクアもなんだかんだよく見ているルビーの目も掻い潜って買ってきて今日まで隠し続けられた。

 まずバレないだろう。ベットの下なんて死角に隠すなんてことを想像することはまずない。

 

「あれ?じゃあ私達なんで呼ばれたの?」

「ああ、それはね...」

 

 用意されたカーネーションをまじまじと眺めながらルビーが当然とも言える疑問を出す。ルビーの言葉にアクアの顔がカーネーションからこちらに向く。どうやらアクアもわかっていないようだ。

 何を用意するかを決める会議ならまだ分かる。

 どこで買うかを決める会議ならまだ分かる。

 サプライズで渡すための用意ならまだ分かる。

 しかし今の状態でアクアとルビーに手を出すことは無い。もう渡すものも準備されており、もう当時手渡しをするだけだ。

 

「これを、3人で渡したいんだ」

 

──それが僕だけのプレゼントという前提がつくなら、だが。

 

 硝太の言葉に二人の顔が分かりやすく曇る。間違っても母親へのプレゼントの用意をしている子供の表情では無い。

 

「──硝太、それは」

「わかってる」

 

 重苦しい表情で何かを言おうとしたアクアの言葉を無理矢理切る。

 アクアの言いたい言葉は理解出来る。恐らくルビーも同じことを考えているのだろう。

 

「確かに、二人のお母さんはアイさんで、間違っても()()お母さんじゃない」

 

 星野アクアと星野ルビーの母親は斉藤ミヤコではなくアイドルの星野アイだ。二人はただ、星野アイ(二人のお母さん)が亡くなった後斉藤ミヤコ(硝太のお母さん)に拾われたからここにいるだけ。

 だから硝太とは血の繋がった兄弟ではなく、ただの引き取られた先の家族と引き取られた双子でしかない。

 

「でも、お母さんにとっては二人も子供だから」

 

 硝太もアイのことを悪く言うつもりは無い。記憶喪失の影響でアイの事は欠片も覚えておらず、ルビーに見せられた過去のライブ映像でしか見ていないがそれでも二人が何より大切にしていることは分かる。斉藤ミヤコ(硝太のお母さん)のことを母親として認められないかもしれない。

 

「僕のわがままなのはわかってる。だけど僕はお母さんに喜んで欲しいから、2人にも祝って欲しいんだ」

 

 斉藤ミヤコはアクアもルビーも自分の子として育ててる。二人にかけてる愛情は実の息子の硝太にかけられているものとほとんど変わらないだろう。硝太自身お母さんが二人に接している時に構って貰えないことに拗ねたりしたことも何度もあったが、硝太は二人のことを本当の兄弟だって思っている。

 だからその日だけでも家族でいて欲しい。斉藤ミヤコ(硝太のお母さん)のことを、『お母さん』と呼んで欲しい。

 

「硝太は本当にミヤコさん大好きだね」

「...それは、まぁ」

 

 黙っていたルビーがポツリと言葉を零す。二人も決してミヤコのことを信用してないわけでも感謝してない訳でもない。生まれの母しか認めないと意気地になってる訳でもない。ただアイの存在が大きすぎるだけだ。

 少し申し訳ない気持ちにもなる。そんなアイはもういない。硝太の場合母親には今からでも抱きしめにいける。仕事中であろうとなかろうと硝太に甘えられるとミヤコは抱きしめたり、頭を撫でる程度ならどれだけ忙しくてもミヤコは答える。だが、二人にはそれが出来ない。その対象がいない。いくら義理の母親がいたとしても産みの母親がいないという事実は簡単に薄れるものでは無い。

 仮の話だが、ミヤコが死んだら、それでも生きろと言われても硝太は躊躇いなく死を選ぶ。自殺以外の選択肢を意識的、無意識共に省く。消し去ってそれで「この選択肢しかないよね?」と言うだろう。

 

「お母さんはお母さんだから」

 

 そんなアイの存在を上回ることは硝太とお母さんが一生共に居たとしても変わることは無いだろう。そもそも上回ることを望むこと自体が間違っている。二人にとっての生きる理由であるアイを上回ることはまず無い。それでも寄り添いたい、寄り添って欲しい。硝太が求めるのは、それだけだ。

 

 二人の暗かった顔が少し呆れたような顔になる。どうやら、納得して貰えたようだ。

 

「分かった。お兄ちゃんもいいよね?」

「あそこまで言われたらな」

 

 ルビーの言葉にアクアは軽く頷く。少し仕方ないという雰囲気もあるにはあるがやってもらえるだけで充分だ。

 

「これ、みんなで渡そっか」

 

 ルビーがそう言って出したカーネーションの容器を撫でる。

 僕は、黙って頷いた。

 

◇◇◇

 

 母の日。

 今年は三人でやるということでミヤコを労うため三人で家事を行い、仕事も極力手伝うことにした。料理の場合はネットで調べればレシピは星の数ほど出てくるのでその中で適当な物を選んで食材を買ってレシピ通りに調理する。その他も手分けをして行う。去年までは硝太が料理をやると言い出してカロリーのことなんて欠片も考えてない雑な高カロリー料理、男飯を出して引かれていたが今年はその辺のブレーキ役をアクアとルビーが努めているのでそこまで失敗せずに順調にことが進んだ。

 そして晩御飯を食べたあと硝太は席を外して部屋に戻る。ミヤコも毎年のことなので流石にこのタイミングでプレゼントがあるということは気付いている。狙ってなのか不明ではあるが毎回変な方向性にズレたプレゼントを用意してくる息子の事を考え今年はなんだろうかと考えを巡らせる。しかし今回はそんなミヤコのド肝を抜くサプライズを隠している。

──このプレゼントは3人から。

 正直硝太自身もプレゼントをサプライズとしてそこまで大切に考えている訳では無い。渡すのはシンプルなカーネーション。部屋やミヤコに似合うようにとは考えたものの、それより『3人から』という事実こそが大きな意味を持つ。たとえ準備の大半を硝太自身がしたとしても、それより渡す瞬間に家族で揃っているのは何よりも大切なものだと思ってる。

 

「手札は十分、切るタイミングも計算済み。勝ったな」

 

 何に勝ったのかはさておき、ベットの下に隠しておいたカーネーションを取り出す。そのカーネーションはこの前ルビーとアクアに見せた時と違いカーネーションを入れた透明な箱の上にまた綺麗に梱包されている。

 プレゼントを大事に抱えて階段をかけおり、アクアとルビーがミヤコと話している部屋に入る。

 

「おかーさんっ」

 

 硝太が猫なで声でミヤコ呼びながら抱きつく。それに反応したミヤコが硝太の頭に優しく手を置く。年頃の中学生と母親の距離感として考えると異端とすら言えるが、この家では有り触れた光景。母の日という特別な日に限らず硝太がミヤコに甘えるのは毎日見られる。何時もならここで状況を察したアクアとルビーが部屋から離れたり、傍から眺める体制に移るのだが今年の母の日は違う。

 

「ミヤコさん、いつもありがとうございます」

「え?」

 

 これから硝太からの母の日のプレゼントがあり、アクアとルビーが少し遠くで微笑ましそうにそれを眺めているという図を想像したミヤコはアクアの急な感謝の言葉に思わずたじろいだ。

 

「私、ママがいなくなっちゃった後のお母さんがミヤコさんで良かったって思ってるよ」

「ルビー?え?どうしたの、急に」

 

 驚きのあまり身体が硬直しているミヤコにルビーがアクアと同じように感謝の言葉を伝える。驚くのも無理は無い、毎年母の日と言えば硝太とミヤコの二人の日、という印象があるこの家では二人がミヤコに話しかけるのはともかく感謝の言葉を言うようなことはまず無い。

 

「そりゃ、母の日だし」

「いや、でも二人の母親はアイさんで...」

「でも、ここまで育てたのはお母さんでしょ?だから今年は三人からのプレゼント」

 

 事態に頭が追い付いていないミヤコに硝太が梱包されたプレゼントを差し出す。数秒間鳩が豆鉄砲でも食らったかのようにぽかんとしていたミヤコもプレゼントを確認してその意味を理解した。これを仕組んだのが実の息子の硝太だということに。

 

「硝太...貴方ね...」

 

 硝太の方に振り向き、複雑そうな表情を見せる。

 ミヤコもアクアとルビーからの感謝が嬉しくない訳では無い。戸籍を調べてみれば本当の息子は硝太一人だということはすぐに分かる話だ。二人は星野アイの子供、たまたま預かり育ててきただけ、そう思われているとミヤコが思い続ける限り、この罪悪感は払拭できない。

 二人の愛をアイから奪っているのではないか、と思ってしまうことは預かる親なら誰しもが思ってしまう感情だろうから。

 

「別に悪い事をしたわけじゃない。二人の言葉は本心だよ」

「...」

 

 そんなミヤコの本心が分かるからこそ、硝太は嘘をつかずにアクアとルビーの言葉を肯定する。ミヤコの目には疑いがまだ見えるがこればっかりはどうしても直ぐに払えるものでは無い。

 

「それより、プレゼント。プレゼント」

「虫の幼虫はもう勘弁してね」

「いつの話蒸し返すの!?」

 

 硝太が持ってきたプレゼントを茶化しながらも開けていく。綺麗な包装を開くとそこにあるのはピンク色のカーネーションが置かれているプラスチックのケース。

 母の日へのプレゼントの王道中の王道、カーネーションを確認して逆に違和感を感じてしまうのは母親としての性か。それとも慣れか。どちらにしても恐ろしいものでこの後でかい爆弾でも隠れているのではないかと勘ぐってしまう。

 

「...硝太、これ貴方が考えたの?」

「そうだけど?」

「捻りにこなかったのね」

「捻った方が良かった?」

「まさか」

 

 硝太は芸能人のような特筆すべき特徴があるわけでないので、そういうのを作りたいと思うのか変に捻った行動をよく行う。そしてその全てが案の定おかしな方向性へと突き進んでいくという困った性格をしている。

 それさえなければこのような困ることの無いプレゼント選びも出来るのだが。

 

「捻らない方がいいもの出せるじゃない」

「純粋な愛情ってだけだよ。もちろん、僕達からお母さんの、ね」

 

 マザコンここに極まれり。

 高校生という反抗期に入っていてもおかしくないの子供の言うセリフでは無い。しかしそんな野暮なことを考える者は少なくともこの場にはいない。

 

「そうね──ありがとう」

 

 ミヤコがそう言って三人を抱き寄せる。後ろに回っていた硝太も素早くミヤコの目の前に移って、ルビーもアクアも抵抗せずにそのまま抱き寄せられる。

 3人の視線が外れた瞬間にミヤコは自分の子供達を抱きしめながら一人音を立てずに静かに泣いた。




【悲報】斉藤硝太少年。社会復帰前にアゲハ蝶の幼虫を捕獲しに行く。
こいつ中学校入学まで社会復帰出来てないんだぞ…一人で外に出たら普通に失踪扱いされる時期だぞ。都会でアゲハ蝶自生してる場所とかあんのかよ。硝太の事だし23区外まで走ってそうなんだけど
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