【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
アビ子宅で事件の推理を進めていた硝太達一行。
悪意から生まれる魔法、インスタントバレットを使う魔法使いという点から犯人への考察を進める。そこからある事実に気付いたら硝太はアビ子宅を抜け出そうとするもフリルに止められる。
急に焦りだした硝太はフリルすら切り殺そうとしてしまう。直前でツクヨミに止められた為行動に起こすことは無かったがしようとした事実は消えない。


硝太もインスタントバレットを使う魔法使いの一人だということを忘れてはならない。


#81 魔女襲来

 舞台『東京ブレイド』の公演日も近くなったある日。ルビーとみなみは舞台の稽古場へと足を向ける。

 ルビーの目的は当然、兄のアクアの仕事ぶりの視察だ。最近晩メシ時にならないと帰ってこない硝太と深夜まで帰ってこないアクア。夏休みが終わった辺りから二人の様子が変わったのを見て自分が一人で置いていかれているような感覚になったルビーは『家族』としてその視察を強行することにした。

 (実際は鮫島アビ子の元にいるが)硝太の居場所と思われる吉祥寺頼子の自宅も連絡先も分からない為、まずは行き先の分かるアクアの方へと来たのだ。

 

「あかんてぇ〜」

「大丈夫大丈夫!」

 

 他の事務所が主催する稽古を覗くことを問題視したみなみは頭を抱えるものの、ルビーを心配して帰ろうとはしない。そんなみなみを傍目にルビーは稽古場のあたりを歩き回る。

 

「やっぱり妹としてはね!兄が心配なの!いわばこれは授業参観!これも家族の義務だと思うの!」

「アクアさんなら大丈夫やないかな〜」

 

 熱心に兄の心配をするルビーに対してみなみはやんわりと止めようとする。精神的に不安定かつ左腕に大怪我を負っている硝太はともかくアクアは同級生と比べても大人っぽい、精神的には完成された社会人の一人。入学式直後のように友達がすぐに出来ないことはあるだろうが、今回は黒川あかね(美人な彼女)もいて、有馬かな(同じ事務所の同僚)もいる。そこまで危険視するような状況では無い。

 そんな中一人の男がルビーたちの近くに現れる。舞台版『東京ブレイド』において新宿クラスタ所属のギザミを演じる鳴島メルトである。彼は『今日は甘口で』にて凄まじいまでの大根演技を披露した役者である。『今日は甘口で』を見ていたため見覚えのある顔にルビーはゼロ距離まで接近してその顔をよく確認する。

 

「あっ、今日あまのドラマに出ていた──」

──大根の人!

 

 流石に出会い頭に問題発言をするのだけは止めたルビー。

 大根役者として酷い演技を見せてきたメルトが舞台とはいえまた同じ演技の場に出ていることに内心驚いたが、「あれから演技の練習頑張ったんだろう」と片付けて本来の目的を果たすことを優先する。

 

「俺のこと知ってるの?」

「はい!星野ルビーです!兄がお世話になってます」

「ああ、アクアの妹かなんか?」

「ですです」

「弟と比べると結構似てるんだな…ああ、アクアならもう帰ったよ」

 

 まずは礼儀正しく自己紹介、その後にアクアに会いに──とまで考えたルビーだが直後にもうアクアは帰っていると知らされる。

 

「えっ!?」

「今日の稽古ももう終わってるし、俺はちょっと居残りさせてもらってる」

「そ、そうなんですか」

 

 メルトに言われて覗き込むが確かに人の気配はほとんど無い。アクアが帰ってくるのは日付が変わる頃なので真夜中までやっていると思っていたのだが違うらしい。真夜中まで演技のために身体を犠牲にしてでも稽古をしていると思っていたので少し安心した。アクアの自罰的な側面を見るのはもう沢山だ。帰ったのならそれでいい。

 

「あれ、じゃあお兄ちゃんは夜中まで何を」

「さあ?最近は黒川と一緒に帰ってるのを見るけど」

 

 メルトのように居残りで稽古をしている、というわけでもない。黒川あかねと二人揃って行くようなところもルビーには考えられない。

 

「教えてあげようか?」

 

 そこに、聞き覚えのない声が聞こえる。

 声のした方向を振り返ると先程まで誰もいなかった場所に一人の女が立っていた。年齢はルビー達とそう変わらない。女子高生、最高でも20代前半ほどの若い女性。白っぽい銀髪を靡かせて、自然と会話に加わってくる異質さはあるが何より目を引くのはその服装。小学生が思い描く魔女ような円錐形の帽子に黒いローブ。ハロウィンでもない時期に街中にこんな格好をする変人を少なくともルビーは知らない。

 

「…誰?」

「んー魔女、とでも呼んでよ。君達に名前を名乗りたくないんだ」

 

 魔女、と格好通りの名前を名乗った女はルビーが先程メルトの顔を確認した時の真似をするようにルビーに近寄るとその表情を確認する。

 魔女は今、名乗りたくないと言った。その時点で魔女視点からルビーやメルトとは親しくなりたい訳では無い、むしろ敵視しているような側面があると理解する。

 格好はもちろん、突然現れて自然に会話に参加していることや名前すら明かさない上記の行動に天真爛漫なルビーですら警戒せざるおえない。弟ほどでは無いとはいえ警戒心剥き出しのルビーに気にせず至近距離まで近付いた魔女はルビーの顔を確認するとルビーにだけ聞こえるような小さな声で一言呟く。

 

「さすがに転生は初めて見た」

 

 背後にいるメルトにすら聞き取れないような小さな独り言だが、そのインパクトはルビーの表情を一変させるには十分すぎた。

 

「───本当に、誰?」

 

 思わず出した声が震える。──何故それを知っている。そう言葉にするのははばかられた。

 星野ルビーは転生者である。転生前は天童寺さりなというアイドル好きの少女だった。アイのいたB小町のファンだった小さな少女は病室のテレビの前に大量のグッズを飾り毎日のようにライブの映像を見ていた。東京に住む家族から引き離された宮崎県の山奥の病院にいた彼女にとってはB小町とそのライブ映像を一緒に見ていた一人の研修医だけが心の支えだった。しかし悪性脳腫瘍の病気で12歳という若さで亡くなった。

 天童寺さりなの名前なら、調べようとすれば誰でも調べられる。知り合いや病院にもその手を伸ばせば12歳で亡くなったこと、B小町のファンだった事なども知り得る情報だろう。だが、その少女とルビーを同一人物とみなす、転生となると話は別だ。

 

 転生なんて、普通に暮らしてきた人なら願うことはあれど実際にあると思い込むことは無い。ルビー本人も恋した男に「もし芸能人の子供に産まれたらって考えたことない?」と聞いて実際に産まれてきたが転生自体を完全に信用していた訳では無い。それこそ、同じ経験をしたアクアを除けば考えもしない事だ。

 アクアが転生する前どんな人だったのかルビーも知らない。恋した研修医と若干似ている性格をしているところはあれどルビーは聞いたこともない。もしかしたら目の前の魔女と名乗った変人はアクアと転生の話をしたことがあるのかもしれない。アクアがそんな大事な話を勝手に進めるとも考えずらいがルビーにはそうとしか考えられなかった。

 

「アクアになにかしたの──!?」

「いやいや。別に私は知ってるだけ」

 

 掴みかかりたくなる体を理性でしっかり押えて目の前の女性に震える声のまま聞くが彼女はこちらの様子を気にせずに「何故そんな発想になる?」とでも言わんばかりに首を傾げる。

 もしかしたら彼女たちの間では転生は何も珍しいことでは無いのかもしれない。魔女という名前通りの風貌も今はそれっぽく見える。

 

「ルビーちゃん?」

 

 ルビーの震えに気付いたみなみが心配しながらも不思議そうに近付いてくる。無理もない。彼女からすれば急に現れた風変わりな女にルビーがビビっているようにしか見えない。「転生」という単語はルビーにしか聞こえていないし、仮に聞こえていたとしても普通なら理解できないことはあっても怯えることは無い。弟の硝太や兄のアクアと比べて人当たりのいいルビーが、見知らぬ人に怯えることなんてまず有り得ない。突然兄のアクアの名前すら出して何を考えているのか、みなみには全く分からない。

 

「ここにアクアさんおらへんみたいやし、もうええやろ?」

 

 分からないなりに、友達が宜しくない状態に置かれている事だけは分かった。無理矢理にでも引き剥がそうと横からルビーの腕を掴んで魔女と名乗った女から離れようとする。

 横から見たルビーの表情は人混みに巻き込まれた時の硝太のように近い表情をしていて、そんなところからも姉弟を感じる。

 

「すんません、ちょっと具合悪いかもしれへんしウチらは…」

「ああ、待って。まだ話は終わってない」

 

 周りの2人にはそれっぽく言い繕って逃げようとするが魔女は手を伸ばしてルビーを引き止める。みなみにもルビーにも何が何だか分からないがこの魔女と長話をしたくない。

 

 その時、遠くから黒い何かが二人の間に強引に入って来た。

 

カアァァァァ!カアァァァァ!

 

「えっ、きゃっ」

 

 大声で鳴きながら、爪で魔女腕をガッチリと掴み、翼で何度も魔女の頭を殴り付けるのは三本足の不思議な烏。まるで飼い主を守ろうとする番犬のように魔女に集る姿は魔女が可哀想に見えるが今だけは感謝する。

 たかが烏に叩かれているだけなので魔女も帽子を落とす程度でこれといったダメージは見られない。だが、あまりにも執拗に追い詰めようとするので魔女はその場で尻餅をついてしまう。

 

「ちょ、こいつ!」

 

 そこになにか棒状のものを持ってきたメルトがそれを振り回して烏を撃退する。メルトにはルビーが怯えているのも烏の被害に見えたのかその棒には力が籠っている。

 

「大丈夫か?」

「早いね、流石は『奇蹟』の名を持つインスタントバレット」

 

 堪らなくなったのか烏がどこかへ飛び立つとメルトは尻もちをついていた魔女に手を伸ばす。魔女はその手を取るとメルトに対するお礼でも烏への怒りでもなく、聞きなれない単語を呟いて立ち上がる。その目は明らかにメルトではなく烏が飛び立って行った方向を見ていた。

 

「…」

 

 烏が間に入って落ち着く余裕が出来たルビーは深呼吸をして頭の中を切り替える。

 

 魔女は転生を初めて見たと言っていた。嘘をついていないならアクアから聞いた訳では無い。なら硝太かミヤコがルビーとアクアの事情察して話したのか。それは有り得ない。硝太とミヤコがルビーとアクアのことを売るようなことを言うはずがない。二人のどちらかもしくは両方と友好的な関係を築けた友達だって言うならルビーに名前を言えないはずない。言い方からしてあくまで知識としては知っている、と考えるべきだ。

 

 そう思っていると魔女がルビー達の方に再び振り向く。ルビーが分かりやすく怯えることは無いものの、警戒はし続けている。その警戒心を読み取ったのか魔女は少しだけ考える仕草をすると言い残す。

 

「もう時間ないし私行くね。じゃあね、次は高千穂で会おうか」

 

 ほんのそれだけ言い残すと急な西日が顔にかかって三人とも目を閉じる。恐る恐る目を開けるとそこにはもう不思議な格好をした魔女は影も形も無かった。

 

◇◇◇

 

「ただいま…」

「おかえりなさい」

 

 アクアの稽古の様子を見に行ったのになんの収穫もないどころか魔女と名乗る変な女に目をつけられて苺プロ兼自宅に帰宅する。

 別れる際、みなみちゃんは心配そうにしていたが無理もない。あの時の私は本当に硝太と同じだった。みなみちゃんは「やっぱり姉弟やね」と優しく笑う程度で流してくれたが実際はそうとも行かない。

 

 いつも通りのミヤコさんの挨拶に返事をする気にもなれず自室に戻り、壁に貼ったアイのポスターに視線をやる。魔女と名乗った女は私を見ただけで転生者だと言い当てた。星野ルビーが天童寺さりなの生まれ変わりということは友達にも、アイにすら言ったことがない情報だ。仮に何らかの手段で転生を知っていたとしても、それだけの情報で星野ルビーがそうだと決めつけるのは無理がある。アイ亡き後の苺プロを離れた旧B小町のメンバーや事務員にしても、だ。だが知っているとするならルビーにとって最悪の情報を知っている可能性がある。

 

「もしかしたら私とお兄ちゃんがママの子だってことも…」

 

 転生者だと言うなら気になるのは、生まれ変わる前と転生者を産んだ親だろう。B小町のアイが子供産んだことを知っているのは私とアクアを除けばミヤコさん、元社長、そして硝太しか知らない。みんなこんな大切なことを知らない人間に話すような人ではない。嘘が下手な硝太と話をした時にそれっぽいことを言ったのか。だとするなら硝太はあの魔女と名乗った女を見過ごすはずが無い。

 もしかしたら、硝太に狙われていると知っているから私に名前を名乗ろうとしなかったのか。いや、それは無い。硝太は幼少期からそういう輩を無傷で逃がすことは無かった。いくら最近様子がおかしいからと言っても私達はともかくミヤコさんに報告すらしないわけが無い。

 ミヤコさんが気にしている様子もない、となると魔女は別の方法で知ったのだ。ならそれはなんだ。私には検討もつかない。

 分かるのはただ一つ。今ここで対応できるのは私だけということ。

 

「私が何とかしないと」

 

 硝太は不安定。ミヤコさんには話題からして言えない。アクアは舞台で忙しくてダメ。残るは自分の手しかない。

 

 しかし、もし──魔女がアイと私たちの関係に気付いていたら、どうすればいいのだろうか。




これまでは一応推しの子側のキャラとしか掛け合いをしてこなかったインスタントバレットのキャラが明確にルビーに絡んできたお話です。原作だとアクアがトラウマで倒れた辺りですね。芸能関係ガン無視して本編進めた結果アクアが空気化した弊害がこんなところに…
魔女がインスタントバレットと比べると4割増ぐらいで不気味なやつになってますがまぁルビーに対してはこんなものだろう、って感じです。魔女も思考回路は硝太と大した違いねぇし…

感想、高評価、お気に入り登録よろしくお願いします!
スレではここで硝太とメルトが初対面していたんですけど、こちらではフリルのストーカー事件とアイの事件の関係性をすぐに気付かせてしまったせいで硝太に余裕が無くなりメルトとの話がすっ飛ばされてしまいました。(まぁキャラ的に東京ブレイド勢と関わること自体おかしなキャラですが)


あとすいません。来週はちょっとお休みします
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