【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
自宅に帰った硝太はミヤコと話をしてフリルの考えを理解しようと歩み寄ることにした硝太は電話をかける。




#83 やるべき事(後編)

 一方、アビ子宅。

 

 硝太が一人で帰宅した後残されたツクヨミ、フリルはその場に残っていた。フリルは硝太の突然の殺意にしばらく身体が動かなくなっており、ツクヨミはそんなフリルを黙って眺める。

 

──だから言ったのに。

 

 言葉にすることは無かったが、ツクヨミがそう思っているのはフリルにも伝わってきた。

 硝太が変わった子だとは知っていた。常識外れな考えをすることも多いし、自分でも『異常』だと言い切ってしまうことも。普通の人とは明らかに違う不思議な気配も。だからかもしれない、ツクヨミの言葉も()()()()()()()()、と簡単な気持ちで受け止めてしまった。半年間毎日のように昼休憩に現れて(ルビー)と仲良く話をしていたのを見ていたから、私も話をしていたから。友達だと、思っていたから。先程の硝太の目はこれまでの付き合いで作られてきた斉藤硝太という人間像を破壊するには十分だった。好きな男の子だった斉藤硝太が、同姓同名の別人に見える。

 

 インスタントバレット。悪意から生まれる個人が持つにはデタラメすぎる魔法。物語の中から現実にそのまま抜け出してきたようなソレは常人が持てるものでは無い。それを持っているということは硝太は最初から私とは全く別の存在だった。奇人変人の類いでは無い。社会に馴染むこと自体が恐ろしい人の姿を保った災害。

 私はあの青い瞳を恐れている。軽く見られただけなら良かった。それでも少し怖かったが、硝太が硝太のままでいてくれたから驚きの方が強かった…と思う。だがあの殺意と共に睨まれた時、認識が全て書き換えられた。次あの青い瞳に睨まれたら、自分で心臓をとめてしまいそうな程に怖い。今から帰ってもこの恐怖には終わりがない。文字通り死ぬまで私は彼に脅える生活を送ることになるだろう。

 

「分かった?あれがインスタントバレット、斉藤硝太。昨日までの彼の印象は捨てた方がいい」

 

 心配してくれているのだろう。ツクヨミは背中をさすって近くの椅子に座らせてくれた。彼女なりの気遣いなのかツクヨミはこちらに顔を向けない。

 ツクヨミは硝太の本性を知って尚対等に接していたのか、と考えると今まで友達として接していた自分は思慮浅いと思う。

 

「…今なら逃げられるけどどうする?」

 

 落ち着いてきたのを見計らって顔を背けたままツクヨミが提案する。

 事件から逃げる。既に警察等の間ではストーカー事件は解決した事件。最後まで関わる必要は無い。硝太も言い方からして邪魔さえしなければわざわざ殺しにくることはなさそうに思う。事件さえなければ学校で会うのはきっといつもの硝太になるだろう。そしたら遠巻きで眺めるだけもヨシ、今日のことは綺麗さっぱり忘れて同じ関係を続けるもヨシ。きっと硝太はどれであろうと気にしない。邪魔されしなければ明日も明後日も、まるで何事も無かったような態度をとる。きっと、硝太にとっては私の動向は()()()()()()()()なんだろうと思う。仮の話だが硝太と私で殺し合いをしたとして私が何百人いたとしても本気の硝太には傷一つ付けられないだろう。単純な力比べ、戦闘センス、それを生かすための頭脳。全てに大きすぎる差がある。だから私が参加してもこれといった成果は出せないと考えて警戒しないだろう。硝太が人を避けるのは警戒しているからなのでアビ子や私のような硝太が自ら接しに行くタイプの人間は硝太からすれば「敵にならない」か「敵になっても即座に殺せる」かのどちらかでしかない。私は恐らく後者だ。

 逃げたっていい。私には最初から責任も何も無い。事件後に至ってはむしろ硝太に巻き込まれた側である。考える時は硝太に期待されていたものの、氷室(マネージャー)や他の人は離れることを望むだろうし肝心な硝太も今後私の手を借りようとはしないだろう。もう、硝太から逃げていい。逃げるべきだ。そう否定的な事を考えると同時に『本当に?』と自分に問いかける。本当に、私は硝太から逃げたいのか。確かにあの瞳は怖いしあの短い時間で今まで積み上げてきた斉藤硝太の人物像は崩れ去った。それでもあれは演技でも嘘でもない。どちらも斉藤硝太という人間のひとつの側面に過ぎない。

 

「羨ましい…」

「え?」

 

 そんなことを考えていると奥で机に向き合っていたアビ子の独り言が聞こえた。聴き逃すことも出来たが、あまりにも場違いな発言に思わず聞き返してしまう。

 

「あ、いや、その…彼と喧嘩できるって羨ましいなって。硝太くん私の扱い結構雑なので」

「喧嘩ってものじゃないですよ」

 

 椅子を回してこちらに少し気まずい表情を見せたアビ子は言い淀みながら文句を言うように不満をつく。いくら殺意が直接向けられた訳では無いとはいえ、即座に殺す気だったのはその場にいたアビ子にはわかっているはず。そんなアビ子の反応には流石のツクヨミも驚いたようで口をポカンと開けたまま絶句して言葉も出ない。

 喧嘩するほど仲がいい、という言葉もあるがそれは仲直り前提。しかもお互いに言いたいこと言い合ったというより譲りたくない場所が噛み合わなかった結果、硝太が行ってしまっただけなので喧嘩すらできなかったような気がするがアビ子からすれば仲良いじゃれ合いにしか見えなかったようで残念そうに口をすぼめながら俯く。

 

「彼、吉祥寺先生に連れられてここに来たんですけどその時から先生の付き合いで来てるって感じがするんですよね。まぁ、初対面でだらしないところ見せた私も私なんですけど」

 

 吉祥寺先生、『今日は甘口で』の作者吉祥寺頼子先生だろう。そういえばJIFの時も仲良くしていたし、ルビーも『硝太の彼女候補(恋のライバル)』と語っていた。聞いた時は本気か、と疑ったがアビ子に聞いても似たような反応が帰ってくる気がする。マザコンを併発しているのでやはり硝太は年上好き、それも10歳以上離れていた方が好きなようだ。

 

「それに彼、『東京ブレイド』のファンだって言うくせに舞台に出るお兄さんと先輩(?)さんが居なかったら私のところ来なかったみたいな事言ってて──ほんっっっと!私の扱い雑なんです!」

「──うわぁ…」

 

 硝太への不満はまだ止まらない。出会った時は口数が少なくてコミュニケーションが苦手なタイプだと思ったがどうやらアビ子はそうでは無いらしい。これまで仕事で出会ってきたマンガ家とはまた違うタイプだ。それはそれとして硝太が『東京ブレイド』が好きという話は本人からもルビーからも聞いていたが流石に兄のアクアが舞台の仕事を勝ち取った方を気にしているようだ。自分の好き嫌いより兄やB小町の有馬かなの仕事状況を優先するのはとても彼らしい対応に見える。扱いが雑なのも硝太から敵にならないと信頼された証なのだろう。そういえば氷室相手にもかなり雑だった。

 文句を言いながらも寂しそうに硝太の座っていた椅子を眺めるアビ子の目線には覚えがある。ツクヨミもその正体がわかったようで顔を青くしながらドン引きしている。

 

「…そうですか」

 

 私も先程までの話を聞いていなかったような文句に大きなズレを感じるが、同時に少し羨ましく思った。硝太のあんな姿を見ておきながら羨ましいとすら言えてしまうほど硝太に惚れ込んでいる姿は真っ直ぐで純粋、タイプは少し違うがルビーを見ているような気分になる。私も気持ちで負けてる訳では無いし、相応に努力した結果今の地位があるとは思っているがこうして好きなことに何も考えずに突き進めるのは成功する秘訣のように感じた。

 

「あれ…硝太…!?」

 

 その時、ポケットに入れていた電話から着信音が鳴る。スマホを取りだすとそこには先程出ていったばかりの硝太からの着信が。アビ子曰く喧嘩にあたるやり取りをしてもう会えないかもしれないと思った直後に電話をかけてくるのだからタイミングがいいのか悪いのか分からない。

 私の声から硝太からの着信と気付いたツクヨミは黙っているがスマホと私の顔を見て覚悟の在処を問う。この着信を気付かなかったことにすれば今後逃げるのは容易。だが電話に出て話をすればこのまま事件に最後まで巻き込まれかねない。なんならツクヨミに渡してしまえばツクヨミから硝太に話を通すぐらいのことはするだろう。ツクヨミの表情からそれを期待しているのを察した。

 

──でも、それでいいのかな。

 

 逃げるのは簡単。それに責める人もいなければむしろ賞賛する人が出てくるような案件。だけど私は本当にそれでいいのか。

 怖いから逃げるのか。硝太に殺されそうになったから避けるのか。それでは、硝太を孤立させた他の人と変わらない。

 

「ちょっと出ますね」

 

 家主のアビ子に一言だけそう言って部屋の隅に行く、ツクヨミは目を伏せて私が座っていた椅子に腰かける。「もう私は止めないよ」そう言っているように見えた。理由がなんであれ、助けようとしてくれたことに内心感謝して着信を取る。

 

「もしもし」

「もしもし、フリル。僕だ。少し話したいことがある…今いいか?」

 

 先程までのやり取りを完全に忘れたような言葉に少しだけ腹が立った。硝太が怖いと怯えた自分を馬鹿にされたような気がする。

 だが硝太に悪気は無い。本人にとって譲れないもののためなら私はいつ切り捨てても構わないと言うだけ。そんな迷いのなさがかえって恐ろしいが今はその感情に蓋をする。

 有馬かなや黒川あかねのような演技派女優には劣るが、演技そのものは得意だ。電話越しの硝太にこの気持ちを隠す程度造作もない。

 

「いいよ、私も言いたかったことあるし」

「そっか。都合が良くて助かる。お母さんにね、言われたんだ。君はきっと僕のことを考えて動いている、と」

 

 話があると聞いていたので事件のことか、と思ったが全く予想していなかった方の発言に少し驚いた、がそれは演技で隠した。

 考えてみれば不思議な話ではない。あの後硝太が家に帰って何より大切に思っている母親を確認するのも、そんな母親が私とのいざこざを察して助言をするのも。硝太の母親は硝太に近いのか勘が異様に鋭い、というより硝太に詳しく隠し事が通用しない。硝太が必死に隠していたはずの病院内で硝太を刺したストーカーが私狙いだったことですら初見で見抜かれた。硝太のことを知り尽くしていて硝太の細かな表情等の変化から隠し事を見抜いているということなのだろう。

 硝太はそんな優しい母親を何より大事に思っていて母親の命令なら基本なんでも聞く。今連絡しているのも硝太がしたいから、する必要があると思ったからではなく母親にやった方がいいと言われたからそうしているだけ。少し悲しくなったが今の状況はそこまで悪くない。私も本心で硝太と話をしたいと思っていたのでその舞台を作ってくれた硝太の母親に感謝して話を始める。

 

「そうだよ。私は硝太に危険なことをして欲しくない」

「…君には関係ない話だ。ツクヨミにも引けって言われたんでしょ?」

「なんでそれを?」

「ツクヨミが君に優しいから。態度が事件に関わる前の僕の時と同じだから」

 

 ツクヨミの態度から硝太が私の状況を読み解くのは予想通り。どうやらツクヨミは最初は硝太にすら事件に関わらせない予定だったらしい。もしかしたらこのツクヨミという神様を名乗る少女はとんでもない情報を握ったままなのかもしれない。硝太に対してカラスを伝書鳩にして連絡という特殊な連絡方法を持っていて今回ツクヨミがインスタントバレットの情報を持っているのを硝太が知っていたことから二人はそれなりに高い頻度で連絡を取りあっていることが伺える。今日の話も私が知らないことを前提とした話があったかもしれない。1人だけ除け者にするような二人の対応は癇に障るが今考えれば何がなんでも情報を得たい硝太が私という別の視点を持って適度に事件に関わりを持っている存在を使ってツクヨミと交渉をしかけたのかもしれない。ツクヨミは事件に関係ない人が関わるのを嫌っている。私が最低限のことしか知らないことを確認し、これ以上立ち寄らせないようにすることを条件にインスタントバレットのことを伝えた、とすれば違和感は無い。

 

「ツクヨミさんは関係無いよ。それより、硝太の話を聞きたい」

「…何故?」

「言ったでしょ。全部伝えてって」

 

 ツクヨミと硝太が互いに繋がっていて一緒にいるのに蚊帳の外に置かれていたのは癇に障るがそれを怒るのではなく、硝太の口から引き出そうとする。嘘が下手な硝太の態度から推理するのではなく、優しい人の味方になろうとした真っ直ぐな硝太に含みのない発言として言って欲しい。無感情なものでも、淡々と事実を述べるだけでも構わない。

 硝太と二人でした約束を守って欲しい。少なくとも今はそれだけ。

 

「…ン」

 

 何か引っかかることがあるのか硝太の言い淀む声が聞こえる。硝太は何らかの真実に気づいているがツクヨミにすら言うことをはばかられている。その様子から硝太の家族、母親かルビー、アクアの誰かに関係していることは察せられる。そんな話は当然私には伝えたくもないだろう。だが約束は約束、守ってもらう。

 しばらく黙っていた硝太だが私が強情だと気付くと重い口を開ける。

 

「…犯人がインスタントバレットに詳しい場合、僕のインスタントバレットを狙う可能性がある。そして、もしも僕のインスタントバレットを使いたいなら悪意を途切れさせちゃいけない…敵の狙いは──母さんだ」

「──!」

 

 なんとなく分かってはいたが硝太が言葉にすると全身に寒気が走る。硝太の母親は記憶喪失に陥っただけでなく、数多の精神障害やエンパスになった硝太をごく普通の子供として育て上げた女性だ。硝太以外のインスタントバレットと出会った訳では無いが昨日まで私の中にあった斉藤硝太の人間像を作り出したのも、間違いなく彼女。硝太の精神的支柱である母親を失えば硝太は言葉では言い表せないほどこそ絶望や失望、なにより破壊衝動を抑えなくなる。悪意が力の源であるインスタントバレットにとってこれほど都合のいいことは無い。

 しかしその理論には穴がある。確かに母親を失った硝太はこれまででは考えられない悪意を出すだろうがそれを制御できるかどうかはまた話しが別だ。何より愛している母親を殺した相手に硝太が従うとは到底思えない。母親が死んだのなら、母親の為に何かをすることはもう出来ないのだから。

 

「でもそんなことをする相手に硝太が大人しく従う?」

「だから狙いをつけたんだろ、他者を支配できるインスタントバレットに」

「ストーカーの共犯者…あえて見逃して魔法に慣れさせている…」

 

 点と点が線で繋がる。

 他者を支配する魔法なんて発動条件云々気になることは多いが下手に物理的な破壊力が高い魔法より注意しなければならない。組織なら内部から破壊される可能性が常に付き纏う。硝太の魔法がなんであれストーカーの共犯者の方が脅威のはずだ。ストーカーの共犯者が組織からインスタントバレットについて何らかの情報提供を受け取っているのなら少なくともその組織はストーカーの共犯者のインスタントバレットについて知っているはず。手のひらに置いておくだけで危険な魔法をなぜ見過ごしているのか。

 硝太のような明らかに危険なタイプのインスタントバレットを懐柔する為と考えればそれも腑に落ちる。

 

「ストーカーの共犯者もインスタントバレットだ。組織がなんであれ間者を仕込ますなりなんなり対策はとってるだろうけどね。とりあえず運がいいのは共犯者側と組織側で目標が食い違っている事だ」

「組織は硝太が欲しくてストーカーの共犯者は硝太を殺したい」

「ああ。そこを突いて殺す」

 

 簡潔に、無感情に殺すと発言した。分かってはいた。分かっていなかったとしてもここまで説明されれば馬鹿でも理解する。ストーカーの共犯者にしろ、彼にインスタントバレットのことを教えた組織にしろ狙いは硝太の母親だ。母親が危険に晒されるぐらいなら硝太は皆殺しにすることを迷わない。

 『人殺しはいけないこと』だとか『警察に相談しよう』といった常識的、道徳的な事を言っても硝太には通用しない。仮にそれらの方法で解決できる可能性があったとしても硝太にとっては殺してしまった方がリスクも少ない。仮に拘束する程度に留めて警察に捕まえさせたとしても、刑務所から抜け出す可能性もあれば出所した後に狙われる危険もある。犯罪者として自分が捕まるよりそちらのリスクの方が硝太にとっては楽なのだ。

 行うことの難易度としても、精神的な負担を考えても。硝太は最初から大切なもの以外全て壊してしまいたかった。

 

「──硝太はずっと、そうしたかったんだね」

「…」

 

 硝太はうんともすんとも言わずに黙る。だがその沈黙は肯定と受け取れる。二人で最初に出かけた時、ストーカーの共犯者を見逃すような発言をしていたのが気掛かりだったが、今理解した。内心ではずっと殺したかったが、母親が今後抱えるであろうリスク等を考えて手を出せなかったのだ。殺したい以上に守りたかったから。つまり守るために殺さなければならないのは硝太としては一番楽。苦し紛れの手段ではなく今まで拒否されてきただけの最善案。

 母親を守るためなら硝太は決して止まらない。犯行がバレて警察に捕まる、と言っても警察には魔法の知識がないことから組織側が警察の組織でもなければ完全犯罪も可能だ。そもそも硝太にとって警察は最初から邪魔でしかない。姉のアイさんを守らないくせに、犯人を追い詰めることはせず法と倫理観で足を引っ張ることしかしていない。

 

「私はそれでも硝太に人殺しはして欲しくない」

「邪魔しなければ殺さない」

 

 それでも、硝太に人の道を踏み外して欲しくは無い。これは効率だとか最善だとかそういう話ではなく完全な感情論だ。硝太に人殺しになって欲しくない。警察に捕まって会えなくなるのも嫌だがそれ以前の話だ。

 

「そういう意味じゃない。私は、硝太に人殺しになって欲しくないって言ってる」

「なんで」

「…私が、硝太のこと好きだから」

「──あ?」

 

 好きだと告白したのに何言ってんだこいつ、とでも言い出しそうな硝太の声に思わず笑い声が零れる。そう、硝太はこういう子だ。対面した相手の感情を推し量ることはしてもその動きに疎く、恋愛感情においては存在しか知らない。その結果デリカシーに欠けたような発言が目立つ。

 人殺しだとか皆殺しだとか穏やかじゃないことを言うのも硝太だがこの分かってそうで何も分かっていない姿はこれまで築いてきた斉藤硝太に噛み合っている。

 

「ごめん、ちょっと安心した」

「いや、それはいいんだけど。そうか、フリルは好きなのか…それでも殺すな、って言うんだ」

「うん。そうだよ」

 

 私の気持ちに気付いているのかいないのか、大切に思っているのに危険に晒すようなことを言うのかと問い詰めてくる硝太の言葉を素直に肯定する。硝太が硝太で居続けるために何より必要なのは母親の存在でそれを守るために硝太が人を殺すしかない。それでも、人を殺して犯罪者になって欲しくない。

 好きだから。母親のためなら文字通り世界中の人を殺せる覚悟が出来るのも。優しい人の力になりたいと言ったのも。芸能人も普通の人だと言い張れたのも。全てが斉藤硝太という一人の男の子の一側面であり、演技でも嘘でもない。ただの純粋な子供が多面的な要素を持つだけ。そんな硝太の一側面を好きになったのなら、全部を包んで愛してしまいたいと、思う。

 未熟かもしれないがこれが私の結論だ。

 

「殺すしかないって硝太は言うけど。他にも方法は絶対ある。私が何とかしてみせるから、信用して欲しい」

 

 それしかないと言われてもその手段が嫌なら別の方法を探すしかない。希望的観測、不可能と言い捨てられるのかもしれないが警察に捕まえてもらう等の硝太が手を汚さなくても済む方法で何とか納得させたい。当然普通にやって解決するはずがない。なにか別の方法、もしくは硝太が安心できる手段が必要だ。もちろん簡単では無いが無理を通すならやるしかない。

 

「どうやって?僕より弱いその力で?その頭脳で?どうやって止めるつもりだ?手段も何も君の手には残っていないというのに」

「そこは──考えるしかないね」

「呆れた」

 

 硝太の声色が冷たくなる。単純に私への興味を失ったのか、それとも明確な手段を出せないことから嘘だと思われたのか。正直今も考えながら喋っているのでいい方法は欠片も浮かんでこない。私一人では無理だ。ツクヨミや硝太とまた話して考えるしかないとは思う。

 

「でも、本気だよ。硝太の手は絶対に汚させない。そうなる前に私が止める。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「──っ!なんで、君が──!」

 

 必死に説得を続けると硝太が驚きのあまり言葉を失ったのが伝わってきた。歯を食いしばって出てきた苦悶の声が微かに聞こえる。

 

「…君の気持ちは分かった。少しだけ、信じみようと思う」

 

 暫く待って、硝太は重い口をようやく開く。出てきたのは、迷いながらも人の善性を信じた母親に似た精神性の男の子としての発言だった。

 

「硝太──」

「細かい調整はまた今度話そう。僕はしばらくお母さんの護衛をするよ。ツクヨミにも何羽か八咫烏を配置させるように頼んでおいてくれ」

「わかった」

 

 硝太の母親が危険になるなら護衛は当然必要。犯人を直接殺しに行かないなら頼むぐらいは当然やる。

 何より、硝太からこの発言が聞けたのが嬉しかった。母親を見捨てた訳ではない。殺す殺さないが全ての判断基準の最初にあった硝太にほんの少しではあるが余裕が生まれた。人を信じるという人らしい余裕が。これは今後硝太がインスタントバレットではなく人として生きるのに必要なもの。

 

「あと勘違いしてもらうと困るから最後に忠告をしておく──僕は君をお母さんの相手としてはぜっっっっったいにっ!認めないからな!」

「え?」

 

 最後にそう言い残すと返答する間もなく硝太は電話を切る。ツーツーと電話が切れた合図の音と電話を受け取る前のスマホの画面を見てそれを理解した私は最後に首を傾げることしか出来なかった。




Qフリルは何故硝太のヒロインになるの?
Aつよつよすぎて硝太から離れないから
フリルさん原作でも割と芯強くてブレなかったの凄かった。ある意味そんな精神性がなければ硝太みたいな暴れん坊の相手なんてしていられないのである。…これラブコメと言うより介護だな。
鋼メンタル…というより形状記憶合金メンタルで硝太のインスタントバレットの目に耐え抜いた鉄の女と小学生(と本人は思っている)相手が構ってくれないと嘆く情けない漫画家。
───そりゃ硝太もマザコンになるわけだ

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この作品一度死にかけるとメンタル完成する傾向でもあんのか?
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