舞台初日が終わったあとアクアはあかねと同じ休憩室で舞台について小さな反省会のような感想会のようなものを開いていた。
その中でアクアが出演者や同業者のDNA情報が取れるものを抜き取っていたのを見る。アクアはそれを使って自身の父親を探そうとしていた。あかねは呪いに取りつかれるように復讐を押し進めるアクアを心配するも突如襲来した硝太に会話を邪魔される。急に現れた硝太の対処に二人が置いていかれている時、ブレイド役の姫川大輝が二人の休憩室に現れる。
硝太はそんな姫川大輝を見て過去知り合ったある女性の気配を感じとった
アイリ。
硝太がフリルのストーカーに襲われ、重症を負った後生死の境を彷徨っている時に出会った女性の名前である。名字は名乗ら無かったため硝太は知らない。
出会った、とは言っても当時入院中の彼の元に訪れた訳では無い。意識の無い硝太が辿り着いた世界、『地獄』や『天国』よりも『夢』に近い死の世界にいた。硝太と出会った時点で愛梨は既に亡くなっており、硝太がみたのはその世界でのみ擬似的に肉体を持っただけの亡霊と言っていい。実際に見て触って感じた硝太でさえ、実感が湧かない。あそこで見たのは全て死に瀕した子供が考えた泡沫の夢、と言われても納得してしまう。ただ自らのインスタントバレットをなんとなく形として掴んだのは今思えばその時だったと感じている程度。
その程度の思い出でしか無かったものが舞台の後で──否、一人の男と出会って大きく変わった。
◇◇◇
「姫ちゃん?うん、結構同じ現場で仕事することあるけど、それがどうしたの?」
アクアとあかねがいる個室から逃げた硝太は近くのトイレに籠ってフリルに電話をかけていた。
姫川大輝という名前を出すとフリルは仲がいいらしく、「姫ちゃん」という愛称で知り合いだと言った。マルチタレントとして有名な不知火なら姫川大輝のことを知っているかもしれないと思って試しに電話をかけた硝太だったが最初から当たりを引いたようで心の中でガッツポーズを作る。同時に「姫ちゃん」という苗字から作られたと思われる愛称をつけられていることから姫川大輝の親兄弟と個人的に仲良くしてる可能性は薄く見えるのは少し残念に思った。
もしフリルがアイリの事を知っていれば、墓参りの一つぐらい出来たかもしれない、と考えると確認すらしていないのに肩透かしをくらった気分にもなる。アイリに性被害を受ける直前まで行った硝太も物理的なものではなかったこと、何よりアイリ側の感情を読み解けてしまったことから彼女に同情的な考えをしてしまっているが硝太はそれに気づきながらも変えようとはしていない。
「結構長いのか、そいつ」
心の中でガッツポーズを作り、同時に冷めながらも氷上や声色には出さず、淡々と確認したい情報を聞き出す。フリル相手に警戒しなくてもいいとわかっているのもあり、直接的かつ砕けた物言いになる。
「劇団ララライの看板役者だよ。最優秀男優賞とかとったこととか、月9で主役を取ったこともあるし。役者としてだけなら私より有名なんじゃないかな」
「…役者としての腕とかはどうでもいい。なんか変わった噂とか気になることとかある?犯罪歴とか」
芸能事務所の社長の息子とは思えないほど世俗に疎い硝太でも凄いとわかる功績を並べられるとフリルの言葉も素直に頷いてしまう。だが、今回の場合必要なのは姫川大輝の人柄等「姫川大輝」という個人の話であって俳優「姫川大輝」は興味を持たない。せいぜい『ブレイド』役の人なんだ、と思う程度である。
それはそれとして役者として長く、フリルともそれなりに付き合いがあるのならフリルからの情報は必然的に確証が高いものになる。もしかしたら姫川大輝の関係者であるアイリも名前ぐらいなら聞いたことがあるかもしれないと思いつつもそのことは隠して話を引き出させる。
「姫川って名前が母方の名前ってことは聞いたことあるかな。両親が小さい頃に亡くなって苦労したって。生涯一人で寂しそうって感じする」
姫川という名前は母方の苗字。両親が幼い頃に亡くなっている。芸名とはいえ母方の苗字を名乗っているということは父親にいい思いがないのか、母親を尊敬しているのかどちらかの可能性が高い。両親が幼い頃に亡くなっているのも加えるとアクアマリンやルビーと似た境遇と思われる。この状況で芸能界に進んで成功できるのだから彼を育てたのは
そこまで考えてフリルの言葉に違和感を持った。それは生涯一人で寂しそう、と言ったこと。硝太から見て姫川大輝は自身の倍以上の年齢を持った大人だ。実際は最近20歳になって酒とタバコができるようになったばかりの青年で硝太とは4歳差しかないのだが硝太がみた姫川大輝の姿が化粧をしてまでキャラに合わせて演技をする姿と姫川大輝個人を映し出す髭面の姿のふたつの側面しか無いため、姫川大輝個人の年齢を高く見積っている。これには人は化粧で年齢をいくらでも誤魔化して綺麗になれるという母の言葉と姿を見ていたのもあり、演技をしている時の若々しさが見た目の良さよりおっさん臭い内面と処理してない無精髭の方から年齢を考えてしまっているから。だが、フリルですらまだその事実には気付いていない。
「…えっ、娘とか妹とかいないの?」
アイリが姫川大輝の妹か従兄弟だと思って思っていたのもあり、フリルの言葉と矛盾することに硝太は頭を抱える。
アイリの年齢は硝太以上姫川大輝未満と硝太は見積っている。見た目もそうだが、それよりアイリから見える情動、感情の動きから歳をとっていたとしても30歳前半だと見積もった。そこから姫川大輝の妹か従兄弟だと考えたが天涯孤独の身らしいフリル評の姫川と合致しない。アイリも芸能人だということはなんとなく理解しているのもあり、姫川大輝が隠す理由はこれと言ってない。だが硝太は自身が会ったアイリは既に亡くなった人物であり、亡くなってから10年以上月日が経っていることを考慮出来ていない。
「いないよ?…一応言っておくけど姫ちゃん今年二十歳だよ」
「はぁ!?いくらなんでも見た目と実年齢離れすぎだろあのおっさん!40歳の間違いじゃないの!?」
「…なんで姫ちゃんが40歳なの?」
硝太の言い方から姫川が実年齢より老けて見られていると思ったフリルは姫川大輝と実年齢を硝太に言った。
硝太から見ればいくらなんでも姫川大輝がMEMちょより年下は無理がある。MEMちょなんて25歳だが姫川大輝よりは若々しいし可愛い。勢いで言ってしまいそうになるMEMちょの真実だけは口から出す前に隠したが、姫川大輝が20歳だという真実は未だに受け入れられず、否定しようとする。が、自身が見て感じたものより何度も仕事している相手であるフリルの方が信用できる情報というのもあり、不服ながらも受け止めることにする。実際は世間的に姫川大輝は老けて見える訳ではなく、20歳相応の見た目になっている。硝太が無精髭とおっさん臭い反応から40歳と決めつけているがこれは当然世間的にはズレた対応である。
「それ、私以外には言わないでね。失礼だから」
「…むぅ」
実年齢より若く見えるというのならともかく老けて見えるというのは一般的には失礼にあたる。姫川大輝本人はそこまで気にしないだろうが何かの間違いでファンに聞かれた日にはまた硝太が刺されかねない。
勢いに任せて言ってしまった言葉ではあるものの、躾けるように言っておくフリル。硝太は電話越しでは分からないものの不貞腐れた様子で頷く。
「そもそも、それに関しては硝太が言っちゃいけないと思う」
「え?なんで?僕まだ16なんだけど」
「(その見た目で)16だからだよ」
フリルや友人から見れば見た目の年齢と実年齢が大きく離れている、の代表格と化している硝太だが本人にその認識はない。無精髭やおっさん臭いところはあれど見た目はちゃんと20代の姫川に対して硝太はどこからみても小学生にしか見えない。家族の次に仲のいい吉祥寺にすら小学生だと思われている程でフリルは自身やみなみと言った陽東学校生徒を除くと身内しか硝太の実年齢を知らないのではとさえ思ってしまう。いくら姫川もそんな硝太に実年齢と離れて見えるとは言われたくないだろう。
「…それはさておき。あの男、アイリと関係あるのは間違いない。もしかしたら…アイリの」
硝太はそれ以上言わなかった。まだ確定していない情報をペラペラ喋るのを嫌うのもあるがフリルに聞かせるような話ではない、というのが一番の理由だ。
20歳という年齢の姫川大輝。アイリが何者なのか硝太は知らないがその存在感から取り付いているように見えていた。偶然の産物としては考えずらく、何かしら二人には因縁があったと考えるのが自然。
──アイリは自らの死の原因が旦那が仕掛けた心中だと言っていた。けど旦那がアイリを殺した後、アイリはどうやって旦那が後を追ったと知った?旦那がそう言ったとして、信用出来るのか?
頭の中に思いつく最悪の可能性。だがそれをフリルの何気ない発言が簡単に壊す。
「アイリ?姫川愛梨さんのこと?」
「…知ってるの?」
「知ってるも何も昔いた有名な女優さんだよ。私も一緒に仕事はしたことないけど」
姫川愛梨。姫川大輝と同じ姓を持つ女性、そして姫川大輝はあくまで芸名であり、姫川は母親の旧姓。
姫川大輝はアイリの身内か、と思ったが姫川大輝は両親を失って以降は母方の苗字を芸名に使っているが姉や妹、従兄弟の存在はフリルはいないと言っている。つまり前述の説が正しい場合姫川大輝が気付いていない、もしくはフリルにすら隠し通している事になる。フリル相手に隠し事を通した経験がある硝太としては後者の可能性が最も高いと考えられるがそれを証明する方法は存在しない。硝太は立場的にも姫川大輝に接触するのは無理に近く、連絡を取り合えるような立場でもない。役者としての腕がよくフリルに隠し事を通してしまうほどなら硝太も全て見抜けるとは思えない。
だが忘れかけていたものとはいえアイリは死にかけの硝太と出会い、結果的にとはいえインスタントバレットの覚醒に一役買った女性である。死体同然の硝太とともにいた『夢』のような謎の空間のこともあり、放っておくには不安定要素が大きすぎる。息の根を止めて楽になる、という相手でも無さそうなので硝太が個人として取れる選択肢はゼロに等しい。
「…フリル。今晩空いてる?」
「うん。空いてるけど?」
「じゃあちょっと、頼みたいことがある」
斉藤硝太として取れる選択肢がゼロなら個人として動かなければいい。人を動かすのは基本的にアクアマリンやミヤコがやってきたことで硝太の不得手とするジャンルの仕事ではある。だが、姫川大輝の牙城を崩すにはこれしかない。
ちょっと早いですけど今回はここまで。
本当は次回の後編も合わせて一話分にするつもりでしたが執筆が間に合わなかった為丁度いいところで切りました。
感想、高評価、お気に入り登録よろしくお願いします!
演じてる時はともかくオフの姫川さんは真面目に20歳に見えないけどそれをネタにしてる人誰もいない…いなくない?