(回想だけど)アクアが遂に真実に進んでいく…あかねがちゃんと味方な都合上話がポンポン進む
後日。何気なく話しかけるように装って姫川に母親のことを聞いてみると姫川は思ったより簡単に口を割った。
「俺の父親の名前は上原清十郎。売れない役者だった」
姫川が言うには父親は自分に才能がないコンプレックスを才能がある女を抱くことで誤魔化そうとするような男だったらしい。アイはその頃アイドルとしての全盛期でこそ無かったが当時でも若く、才覚はあったので才能がない役者に目つけられるのも不思議では無い。言ってしまえばアイは浮気相手、アクアとルビーは浮気相手との子供となるのでアクアはあまりいい気持ちはしないがそれは自分たちが産まれた時点から分かっていた話なのと何より姫川には異母兄弟の件は話すのはまだリスクが高いと感じて黙っているのでバレるような表情をするのは避けた。
──とはいえ隠す気はあまりないみたいだな。
姫川は少し表情は悪いが死んだ親の話を隠そうとせずに軽く聞いた程度で素直に話した話してもらう為にDNA検査の結果を突きつけようとしていただけにアクアにとっては意外な結果である。だが出さないなら出さないでむしろバレる相手が減るので都合がいい。
先に検索した情報通り、姫川愛梨と上原清十郎は心中していた。姫川が5歳頃、遺体として発見され姫川はその後ララライの金田一に拾われ役者として育てられた。
「母親と親父が心中した理由は分からんがなんとなく察することは出来る…俺も子供の頃から親父が嫌いだった」
「だから姫川…芸名は母親の苗字なんですね」
たまたま(を装って姫川の逃げ道を塞いでいた)あかねが確認すると姫川は頷く。姫川の言い方からして多少話しを盛ってるのはあるかもしれないが根本的な所が嘘とは思えない。
──つまり、俺の復讐の対象はとっくの昔に死んでいる。
アイが死んでからの星野アクアとしての人生全てをかけて打ち込んできたものが無意味に終わる。その絶望は他の言葉では言い表せない。完璧に終わらせられたのなら途中の手段がどうなっても納得出来ただろうが、今回の場合は途中で全てが徒労だったと分かってしまった、つまり全て無駄だったことになってしまった。だが同時に解放された、とも思ってしまう。
「あー嫌なもんだな。悪い、こんなこと聞かせて」
「いえ。聞いたのはこちらなので」
姫川は気分の悪い話を聞かせたと反省して謝るがそもそも話を引き出す為に話しかけたので気にしていないと意思表示をする。
姫川にとっては五歳頃までしかない両親との記憶は人生の4分の1。ただでさえ忘れやすい年齢の記憶なのに時間として短すぎる。そしてその時間も割合的にはこれからどんどん短くなっていき、いつかは綺麗さっぱり記憶から消されてしまうのだろう。それ自体は良い悪いで分別できることではなく、必然的なこと。姫川からすれば嫌いな親の記憶なんて忘れた方が身のためだろうしそれでいいのだろう。
──問題は、俺だな。
姫川の記憶が忘れ去られていくのなら、アイが亡くなった年齢から考えてアイと共に過ごした時間の短いアクアもアイの記憶が無くなるのはもはや言うまでもない。雨宮吾郎としてアイと過ごした妊娠期と、オタクとしてアイドルのアイを一方的に見ていた時間もあるので一概には言えないが、復讐が終わった以上アイを思い出す機会も、だんだん無くなっていく。現に雨宮吾郎としての精神も、星野アクアという体に順応してきている。それでいいのか、悪いのか決めるのかはアクア自身だ。あかねにも、ルビーにすらも決められることでは無い。
──いいのか?真っ当に生きて。
復讐を捨て、星野アクアとして生きる。普通の、俳優もやってるだけの男子高校生として自由に生きる。普通に仕事して、恋をして、夢に向かって生きる。そんなことを望んでも、いいのか。ルビーは既にそうしている。アイのいたB小町を再生させてそのセンターに。毎日大変だろうに本当に楽しそうに、笑って過ごしている。あの人馴れしていなかった硝太ですら、もう普通の高校生と言われても遜色ない。
心の中の熱が癒える。アイを失った事実も、それで苦しんだ過去も消えはしないがそれを蒸し返して復讐する必要は無い。
「アクアくん?」
アクアの変化を感じ取ったあかねがアクアに話しかける。
「どうした?あかね」
あかねに話しかけられたアクアは瞳から星の輝きが消えていた。復讐という星野アクアとして戦う理由を無くしたアクアは闇でありながら人から視線を奪う輝きを失った。その代償に柔らかい表情のごく普通の男子高校生がそこにいた。
──アクアくん、まさか
彼女として喜ぶべき反応なのにあかねは素直にアクアの変化に喜べない。あかねはアクアが復讐をしようとしていることを知らない。だがアクアが自身の父親を探していること、その為にDNA検査までするほど必死に探していたのをその目で見ている。動機は分からないが母親のアイがアクアが幼少期の時点で亡くなっており、その犯人が捕まっていないことからその動機は察している。
それを察したのは硝太がストーカーに刺されて死にかけた時。ストーカーの犯人に共犯者がいた可能性を考えたアクアは警察に相談するのではなく、アイに関係することだからと一人でやろうとしていた。それはつまりアイの死の真相を探していた。そして「アイを殺したのはおそらく父親だ」とも。そこから父親を探してすることと言えば復讐しかありえない。
あかねはそれを理解した上でアクアに寄り添い、手伝うことを決めた。だからアクアがどんなモチベーションで復讐を進めていたのかよく理解している。だからこそ
──まさか、上原清十郎が本当にアイを殺したストーカーだって勘違いしているの?
その上でアクアの復讐はまだ終わっていないと断言出来る。何故なら姫川が父親だと言った上原清十郎は少なくともアイの死の真相とは関係ないからだ。
そうでないと、時系列がおかしい。
姫川は上原清十郎と姫川愛梨が亡くなったのを五歳の頃と言った。ネットニュースの記事で出てきた時期ともズレてないので正しいと思われる。だがその頃姫川とアクアの年齢差から考えてアクアは二歳頃。アイがストーカーに刺されて亡くなるまで一年以上空白の時間が空く。死人が人を殺すことは出来ない。つまり、上原清十郎はアイを殺した真犯人ではない。だが死人に口なし、死人が人を殺せないように死人がアイの死の原因が自分ではないと言うことは出来ない。誰かが言わない限り、アクアはアイを殺した犯人は上原清十郎として処理するだろう。だが、それも何処かで修正される。
──鍵は硝太くんだ。
アイの事件の真相を追っている訳ではなさそうだが、姫川大輝を見た瞬間に姫川愛梨の名前を口に出した事からして彼は姫川愛梨についてそれなりに詳しいことになる。姫川愛梨のファンとは到底思えないし、硝太は面白半分でそんな過去の事件を掘り返すような子には到底思えない。
おそらく、探しているのは自分を刺した犯人の共犯者。病院にいた頃の硝太の傷を思い出すと腹と腕以外にも多くの傷を負っていた。不意打ちで一撃、という訳ではなく相当激しい格闘戦をしたと推測できる。硝太の身体能力なら大抵の相手には逃げられる。これまで不意打ちで刺された後逃げる体力を失い、もがいた際に他の傷を負ったと思っていたがそう考えるのも強引すぎる。おそらく当時の硝太には逃げられない理由があった。硝太の性格と、アクアの推測からして、それは家族関係である可能性が高い。だが事件当時ルビーもアクアもミヤコも先に自宅に帰っていたと聞いているのでその場にはいなかった。その為何を守っていたのかは分からないが直接的なものではない、別のもの、例えば情報を命をかけて守ったと考えられる。そうなると硝太が共犯者の可能性を考え、次を警戒するのもそれをアクアやルビーに話そうとしないのも自然な話。
例えばその情報が『B小町のアイの子供がアクアとルビーの双子』だとしたら。その情報を調べた硝太が姫川大輝とアクアの関係性に気付いても不思議では無い。そんな硝太の元に復讐が終わったと思っているアクアをぶつけたらどうなるか。硝太はアクアが復讐をしていることを知らないはずなので直接的に聞く可能性は極めて低い。問題は硝太が自分のやっていることを思わず言ってしまったり言動を気にしたアクアが調べた時真実に気付いてしまう。アクアが気付くとしたらそこだろう。そこをなんとかしない限り、アクアの幸せはない。
──私が何とかしないと。
運がいいのか悪いのか硝太は黒川あかね個人を慕っており、本人に自覚は無いらしいが恋愛感情を持っている。あかねからアクアのためと言って相談すればわざと言う可能性は無くなると見ていい。だがここまでのあかねの推理もあくまで推測の域を出ない。硝太がアイの事件に全く興味がなかった場合、アクアがアイの事件のことを調べていると伝えているのと同義。それではもし上手くいったもしてもアクアの頑張りを無駄にしているようなものだ。
つまりあかねは硝太の情報を取ってから対応を変えなければならない。最近まで避けていた硝太相手に、上手く立ち回らなければならない。
◇◇◇
──数日後。
空港のターミナル。
「お邪魔します」
PVを撮るB小町の三人に苺プロ社長のミヤコ、そしてアクアと硝太の六人の元にあかねが現れる。事前に『東京ブレイド』の慰安旅行を兼ねているので呼んできたとアクアが話している。
「いらっしゃいあかねお姉ちゃん!」
げっそりした顔の有馬の発言を遮り、ルビーがあかねの近くまで寄ってその手を握る。二人が会ったのはJIFのB小町のライブでそこから『東京ブレイド』の舞台は見たが連絡を取り合ったり直接話しをする機会に恵まれたわけではない。それでも二人の相性は悪くなく、あかねはJIFの時同様、姉と呼ばれたことが嬉しくなって姉としてルビーに接している。
「硝太くんも、よろしくね」
「うん」
普段のテンションを取り戻したところであかねは懸念していた硝太の方に目線を向ける。人当たりのいいルビーとは対象的に硝太は人が多い所だからか若干顔色が悪い。母親のミヤコの隣にガードマンのようにしているが小さい身体にサングラスやヘッドフォン、おまけに首元に謎の機械がついた結果不審者にしか見えない。
──少なくともアクアくんの様子が変わったのを不信がっている、って訳じゃなさそうだね。いつもの硝太くんを詳しく知っている訳じゃないけど…
あかねは普段の硝太をよく知っている訳では無いがアクアの変化を感じ取ってはいてもそれを不信に感じたり、警戒している訳では無い。そもそも世間一般的な価値観では復讐は良くないものであり、アクアが勘違いとは言えそれを止めたのはいいことである。硝太に世間一般的な価値観が通じるとはとても思えないが。
「げっ、なんで部外者がいるのよ」
ルビーに遮られていたげっそりした顔の有馬がわざわざ嫌味を言いに来る。有馬からすればあかねを除いた今のメンバーから誰か増えたとしても苺プロの関係者ぐらいなものだろうと思っていたのでアクアと共に宮崎で過ごせると思っており、頭の中で理想的な旅行生活を思い描いていた。それが突然恋敵(と有馬は思っている)のあかねが来たことにより音を立てて崩れる。有馬はただでさえ仕事として宮崎に行くのにアクア同様フリーの、それも公式も認める彼女のあかねがいればアクアは当然あかねを優先する。有馬たちが仕事をしている間当然二人はオフなのでデートに行ったり、お楽しみの時間がある。
「何言ってるんですか有馬先輩、あかね姉ちゃんは兄さんの彼女、つまり僕の姉です!」
「私のお姉ちゃんでもあるもん」
そんな有馬の目の前に移動した硝太は有馬の手を取ってあかねは家族、部外者ではないと強く言い放つ。その姿にあかねは家族大好きな硝太の姿を重ねて先程の言葉を頭の中で訂正した。
──うん、何時も通りだ。
いつもの硝太を知らないと言ったが、深く考えなければ斉藤硝太という人間はとてもシンプル。家族は好き、特に母親は大好き、他人は嫌い、周りは怖いし、敵なら殴る。成果が伴っていない努力家は放っておけないし、上手く立ち回る大人の男には嫌な顔をする。そんなものである。
可愛がられている末っ子体質の硝太とルビーに言われれば自他ともに認める性格が悪い有馬もそれ以上は言えない。
その様子をみてあかねは一先ず硝太への警戒を解く。硝太が事件に干渉していないなら、あかね側が下手に干渉することで墓穴を掘る可能性が高い。それなら普段通りに接した方がいい。
──あとはアクアくん、だけじゃなくて他のみんなもアイさんを殺した相手がまだ生きてるって知るまでになにか対策を打てれば…
理想はアクアがアイの死に分別をつけて復讐を二度と考えなくなることだがそんなに上手くことが運ぶとは思えない。事件を立証して警察に捕まえてもらうか。それならアクアや硝太が変な行動をする前に司法による罰が与えられる。だが、事件から既に10年以上の時が経つ。実行犯は逃げ続けているだけだが、共犯者の存在は疑われながらもいるかいないかすら、確定していないまま。父親が警視とは言え、娘の一言で動く訳にも行かないし、例え動いたとしても捕まえられるだけの証拠が揃えられるとは思えない。
なら、アクアが復讐より優先する何かを作るか。普段の生活が楽しければ復讐の相手がいることを知っても直接手を出されない限りわざわざ成功する確率も低い上にその幸せも奪っていく復讐をするとは思えない。ある意味犯人を捕まえることより大変な方法だがあかねにとってはそれが最善の方法であった。
彼女として、命を救われた相手として。恩返しをするなら、それが一番いい。そう思ったあかねは自身の意志をより強く持った。
歩道橋ではなくアクアの唯一の味方として情報共有されてる為話をアクアと共に聞けるあかね。原作通り復讐は終わってると思ったアクアと温度差が違い、旅行についてくる時もちゃんと周りを見てる有能。
高評価、感想、お気に入り登録よろしくお願いいたします!
硝太の味方としてフリルがいるけど本人たちのスペック差の問題でどうしてもあかねの方が出来ること多いな