アクアはDNA鑑定の結果を元に姫川から真実を聞く。上原清十郎。姫川の父親の名前と既に亡くなっていることを聞いて復讐が終わったとアクアは判断した。
一方上原清十郎がアイの死と無関係だと気付いたあかねは旅行について行き、アクアが真実に気付かないようにすることを決める。優しい嘘をつくことにした。
東京から飛行機で2時間。そこから手続きやレンタカー借りたりでまた1時間。レンタカーに乗って2時間。家を朝早くに出たというのに高千穂についた頃にはもう昼頃になっていた。
『ようこそ神話と渓谷と安らぎの町高千穂へ』
そんな看板を横目にもう少し走るとMEMちょの友達がやっているというデザイン会社に辿り着く。
「いらっしゃい高千穂へ。映像
車から降りてすぐに迎えに来たのは長髪の若い女性。一部藤色に染めた髪の毛を綺麗に束ねているやけに目立つ存在感を持った女性。アネモネという名はMEMちょの友人として皆聞いている。
「アネモネ!おひさー!」
「MEMちょ!おひさー!」
車から降りたMEMちょがすぐさまアネモネの元に駆け寄ると勢いよくハイタッチをする。MEMちょ同様付き合いやすいタイプの人間だとその場の全員が理解する。MEMちょも友達と再会を喜ぶのと同時に皆──特に硝太の警戒を解くためにアネモネと仲良しアピールとしてハイタッチをしたのだ。
「この度はお忙しい中こんな田舎に来て頂いて!」
MEMちょと久しぶりの交流を終えるとアネモネは代表者のミヤコに挨拶をする。MEMちょのハイタッチの時もそうだったがかなり勢いがあり、その勢いにミヤコも少し押され気味である。
そんなミヤコの袖を握って始めて会うアネモネを警戒している硝太は周囲の街並み、というより空気感をその肌で感じとる。
「…凄いね、ここ」
「おっ、僕パワースポットとか好きな感じ?それとも田舎が好きなのかな?」
硝太がポツリと感じ取った空気感への感想を言うとその姿を見てまだ親に引っ付いていたい小学生の子供だと思ったアネモネは膝を曲げて硝太に視線を合わせて話しかける。
急にアネモネに話しかけられるとは思ってなかった硝太は半歩後ろに下がるも、アネモネの視線に根負けして先程の感想をもっと詳しく言い直す。
「街全体が一種の結界みたいになってる、神域と言うには人の手が入りすぎてるけど。噛み砕いて言うならギリシャの神殿を拡大した形かな」
「おお…オカルトだねぇ。小さい子は霊感とか強いって聞きますもんね」
田舎特有の匂いとか、虫が多いとかそういう話をするかと思ったらあまりにもオカルトチックな感想を出されてアネモネも素直に驚いて母親のミヤコの方に向く。
「ええ、この子人一倍そういうのに敏感で…」
「なら気にいると思いますよ!ここには芸能の神様が祀られてることで有名だから。確か名前は…」
実際看板にあったようにこの高千穂という街は日本神話に縁がある街として有名。霊感が強ければこのような感じ方もする、とアネモネは納得する。まさかたまたま仕事できた芸能会社の社長の子供、が霊感が強い子供だったとは。この場で商談することは多かったが霊感がここまで強い子に接することは無かったので高千穂で仕事して長いが珍しい出会いになる。珍しい出会いに高千穂で暮らした記憶を思い出してガイドのようなことをしたくなる。いつも商談などで使う話といえば芸能の神様が有名でアイドル事務所の彼らにも合っている。いつものようにその事を話しているガイドならともかく過ごしているだけではそういった知識は出てこない。
「
言い淀むアネモネの代わりに硝太がその名を呟く。
高千穂の荒立神社はアメノウズメを祀っている。他にもアメノウズメを祀っている神社はあるものの、日本神話エピソードに関連した縁のある場所となると特別感が生まれる。
「おおっ、詳しいねー。歌や芸能の神様でね。縁起もいいから商談にも困らない」
「へぇー!参拝行こー!」
「話には聞いたことあるけど行ったこと無かったのよねー!」
アネモネも間接的にとはいえご利益を貰っているようなもの。芸能の神様の神社に参拝した地で構えておけば必然的に芸能関係者が集まり、そこから仕事が生まれる。神社に参拝してご利益を得られると気分が上がっている相手が止まることなく何回も来るのでアネモネのいる会社は大変助かっている。
今回はPV撮影が目的だが一日は観光に使える。神話の街を渡り歩くのは悪くない。有馬とMEMちょの二人も盛り上がっている。
「うんうん楽しんでねぇー…でもその前に。今回MV二本ですからね!スケジュール詰め詰めなんですわ!」
しかし、その前にB小町には撮影がある。短期間で2本分のMVを撮るので事前に組んだスケジュールはかなり撮影時間を詰めている。撮影中に観光のようなことは残念ながら出来はしない。
B小町の三人の後ろにミヤコ、アネモネ、硝太が並んで三人の肩を押して撮影場へと向かう。歩き出してすぐ、有馬が数秒ほど後ろをついてくる硝太を見つめたが硝太が何かを言う前に今度こそ二人に連れられて歩き始めた。
アクアとあかねも同行しても良かったが二人は撮影とは無関係。「がんばれー」と声だけかけて六人を見送る。
「私達はどうする?」
六人を見送った後残されたあかねはアクアに声をかける。撮影を目的に来たB小町と違い、アクアとあかねにこれといった目的はない。ただ慰安旅行として行くだけで高千穂以降の行き先も決めていない。
「近くには日本神話の天の岩戸があるんだって、ほらさっき話に出てた天鈿女命のアレ」
「神話、か…」
あかねはスマホを取りだして近くの観光名所等を調べ始める。神話の街と言われるだけあって日本神話に縁のある名所が数多い。先程話に出た天鈿女命が登場する天の岩戸もその1つ。実際に天鈿女命を祀っている荒立神社は有馬とMEMちょも行きたがっていたのでB小町とミヤコと硝太のみんなで揃ってから行った方がいい。みんなでは時間的に行けなさそうな名所、と考えながらあかねはガイド記事を眺める。
そんなあかねの隣でアクアは遠い目をしながら周囲を眺めている。もしかしたら神話とかあまり興味ないのかもしれない、と思って恐る恐る聞いてみる。
「あ、アクアくんオカルトとかすき?」
「好きというか、まぁ…中には真実もあると思っている」
「うんうん良いよね!そういう話!」
アクアの反応が思ったより良かったのであかねは素直に喜ぶ。硝太は神話が好き…というよりオカルトチックな子供だがルビーはそういったものにあまり興味がなさそうだった。旅行の思い出と考えたら楽しむだろうが神話そのものへの興味はどうしても薄い。そんな弟妹に囲まれたアクアのスタンスが気になっていたがアクアは好き嫌いはあまりしないようで一歩引いた位置から見ているが若干興味があるように見えた。想像より反応が良かったのであかねも喜ぶ。
「…けど、その前に行きたいところがある」
「うん、アクアの行きたいところでいいよ?」
「病院。俺とルビーが生まれた病院が、近くにあるんだ」
しかしアクアはあかねとは目線を合わせず遠くの丘の上を指さす。指の先に見えるのは丘を一部切り開いた場所にある大きな病院。そこはアクアとルビーが産まれた病院。そして、アクアの前世の雨宮吾郎が亡くなった場所でもある。
アクアとルビーが産まれた場所、つまりアイが二人を出産するために入院していた病院ということであかねの背筋に冷たい汗が走る。アイが出産したということはアイの父親も関わってる可能性が高い。
──いや、考えすぎか。
アイが亡くなった後子供のアクアとルビーを事実上放っている男だ。アイのことを愛していたとは思えないし、アイが入院していた病院に近寄っていたとは思えない。その頃はアイも確か活動休止中で全盛期と比べると知名度もかなり落ちていたはずとは言えアイドルの周りに身内でもない大人の男が寄りつけば事務所に知られてアイへの対応やら問題が見えていたのは当然。それらを全てかいくぐったとしてもアイの出産は10年以上昔のこと。もうデータですら残っているか怪しく、転勤もある病院関係者でまだ覚えているものはいないだろう。
「アクア達の産まれた病院…あれ?アイって別にここが出身って訳じゃないよね」
「ここだとファンはいないだろうから、って選ばれたらしい。」
アイが妊娠期間、活動停止中だったのは既存の情報から少し調べればすぐに分かる。同時にアイが施設育ちだったこともあかねは既に知っている。東京から離れて出産するとしても里帰り出産とは考えない。
周りにはアイドルに興味のないようなおじさんおばさんしかいない人目につかない場所とは言え近くに観光地があるので完璧であったかは疑わしいが、この地にアイが来る理由はそれぐらいしか考えられない。アイは元々孤児院育ちで苺プロとしてもこの場所に縁はない。
「MEMちょはこのこと知ってるの?」
アイが二人の母親だということはともかく、ルビーとアクアの産まれた病院が高千穂にあるということを知られるのは特に問題ない。今回の旅行を計画したMEMちょにルビーかアクアから話して帰省旅行を兼ねて来たとも考えられる。
「いや、全くの偶然。俺も驚いたよ」
しかしルビーもアクアもMEMちょにそんなことは話していない。MEMちょが知らなければ当然有馬も知らない。そもそも自身が産まれた病院をルビーが覚えているかどうかすらアクアにとっては怪しい。
ルビーとアクアが産まれた病院の場所を知っているのは前世でその病院で働いていたアクアと当時から前社長と結婚しており、アイの子供を隠す計画を知っていたミヤコの二人だけと思われる。
──いや、もう一人最初から知ってるやつがいたな。
『宮崎の高千穂かな?アマテラスの逸話が有名なところだね』
硝太は、MEMちょが計画を話すより前に行き先を知っていた。マネージャーとして話をされていたわけでもない。先に計画を聞いていた母親のミヤコから聞いたとも考えずらい。硝太は何処からMEMちょの計画を知ったのだろうか?何故調べたのだろうか。
アクアは背後を振り返りルビー達が歩いて行った方向を見る。そこには当然小さいままの末っ子の姿はなかった。
アネモネ登場。出番は短いけど結構好きなキャラだったりする。この辺からMEMちょのコミュ能力と人脈もしかして化け物だな?となっていくのだがちゃんと読んでいたら最初から化け物だった。なんだこの25歳。
復讐をやめてもなんだかんだ弟妹のことを見ているアクア。そんなアクアを見てるあかね。次回は雨宮吾郎の足跡を辿ります。
高評価、感想、お気に入り登録よろしくお願いいたします!
オカルトチックな回答に引くアネモネ。残念ながら目の前の男はオカルトの塊です