【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
前世の自分、雨宮吾郎の足跡を辿るアクアは働いていた病院で行方不明扱いになっていることを知る。既に亡くなって16年。復讐を終え、若干無気力なアクアを見てあかねはアクアが何かを抱えていることを知るが、それを外には出さないようにしようと心に決めた。


#98 MV

「えーこんなのところも撮るんですか?」

 

 ダンスパートに区切りがついて小休憩。サンドイッチ片手に遅めのお昼を食べている。そんな時にアネモネがカメラマンを連れてルビーに向けてカメラを向ける。裏表のないアイドルのルビーとはいえ、撮影中と撮影外は切り替えると思っていたのでアネモネの行動に驚くも、手に持ったサンドイッチを食べる手は止まらない。変な反応を示すのではなく嘘が見えない、ファンが思い描くアイドルのオフ。その様子にアネモネも満足そうにしている。

 

「アイドルのMVはダンスパートと撮影パートを分けてるでしょ。メインはダンスだけどちょこちょこ個々の可愛いところを切り取ったカットも必要なの」

 

 ダンスパートに力を入れているB小町だが、他のアイドルの例に漏れず、MVではずっと歌って踊っている訳では無く、所々にメンバーの個性や可愛さを抜き出して貼り付ける。特に他のアイドル同様目立つセンターに居続けているルビーのカットは割合的に多くなるだろう。

 今回は撮影スケジュールが詰め詰めなこともあり、休憩中もアイドルであり続ける撮影となる。これは少なくともルビーにとっては当然のようにやっていることなので苦ではない。

 

 食事が終わり、カメラマンが少し離れたのと入れ替わるように硝太がルビーの元に近付く。

 

「姉さんはカメラ映りいいよね」

「ふふーん。やっぱりぃ、アイドルとしての素質ってのが見えちゃってるんだよねぇ!」

 

 初めてのMVとあり、上機嫌なルビーはいつものように硝太を抱き上げて膝の上に乗せて可愛がる。

 

「おっ、いいカット。あ、けど弟くんはカメラ撮しちゃダメか」

 

 ルビーが小さい硝太を可愛がっている画はいつものことなので真新しさはないが、その分ルビーの可愛さと特徴を表すいい画だが、あくまで一般人の硝太と映す訳にも行かず向かわせようとしていたカメラマンを止める。

 B小町のチャンネルを見続けているものなら知ってるルビーの兄と弟。特にマネージャーだったこともある硝太は動画に何度も映り込んでいるのでファンからすれば当然のように知ってる事だが、今度のMVはそのファン層を増やすのにも使われるだろう動画。いくら恋愛相手とするには見た目が幼すぎるとはいえ異性の、それもアイドルどころか芸能人ですらない硝太を混ぜる訳には行かない。

 しばらく硝太を膝の上で遊ばせていたルビーだがふとなにかに気付いて硝太を抱き上げて地面におろす。

 

「硝太、ちょっと軽くなった…?」

 

 そう、硝太が軽いのだ。軽いと言っても見た目から考えると別に違和感はない。おかしいのはいつもの方でいつもの硝太は見た目に反して平均的な成人女性以上の重さを持つ。筋肉の密度が常人のレベルを遥かに超えているのがその原因だが、それをいつも持ち上げるルビーも大概である。それはさておきそんな硝太が軽くなればルビーも当然驚く。

 

「別に?気のせいじゃない?」

「ちゃんと食べなきゃダメだよ」

 

 思い出せば腕を怪我してから硝太の食事量が減ってる気がする。小さな違いだがそれが数ヶ月続いたことで硝太の筋肉量も落ちて体重が軽くなった…のかもしれない。

 ルビーの周りに硝太が張り付いているのでアネモネは次に有馬の方にカメラを向けさせる。

 

「ほら、かなちゃん。カメラを大好きな人だと思って振り返って」

「なんて?」

 

 ルビーの様子を傍目に見ながら休憩していたので自分にもカメラが向くだろう、とは思っていたがまさかのシュチュエーションに有馬は聞き間違えたのかと思ってアイドルらしく笑顔を作りながらも中途半端に顔を顰めたヘンテコな顔で振り返る。ヘンテコな顔でカメラの方を向くのでヘンテコな有馬の顔をカメラマン、アネモネの他にその背後にいたルビーと硝太も見てしまう。

 

「あはは!」

 

 全員有馬のヘンテコな顔に爆笑。自分の表情が唯一分からない有馬も全員笑い始めたことに顔を赤くして怒りながら即座にカメラの方に向かう。

 

「な、わ、笑うなー!」

「あはは!ごめんごめん」

 

 アネモネは口だけ謝るもののカメラマンに有馬のヘンテコな表情を保存させる。どう考えてもMVに使えない映像だがどっかのタイミングでネタ的要素として使えようという采配…というのは方便で面白かったので思わず保存したくなっただけだが。

 

「何何ー?かなちゃん何あったのー?」

「見なくていい!」

 

 少し離れていたMEMちょも笑いに引き寄せられてカメラマンの撮った映像を見ようとするが、そこに有馬が割って入り、掴み合いとなる。文字にすると仲が悪い喧嘩ばかりのアイドルグループに見えるが実際見てみると子猫のじゃれ合いのようなもので周りのスタッフも二人の様子からB小町の仲の良さを伺い知る。

 10代後半から20代前半の女子ばかりアイドルグループといえば承認欲求と思春期特有の不安定さ、そこに集金しなくてはならない事務所運営が重なり嫉妬や軋轢を生み出しメンバー同士は不仲などあって当然。それでもカメラを向けられれば仲良くするのがアイドルというもの。だが少なくとも新生B小町は三人とも仲がいい。これは運営の手腕も多少あるだろうがそれよりも三人の人間性が上手く嵌った結果だとアネモネは判断した。

 天真爛漫で楽しんでアイドルをやる可愛がられやすいルビー。アイドルの仕事自体が好きには見えないがいい具合に流されやすく、周りに合わせられる実力者の有馬。器が大きく、おバカキャラをしながら二人の活躍を調整できるMEMちょ。

 三人が上手く嵌った結果オンオフ共に空気がよく、仕事も拾える理想的なアイドルグループになっている。下手に一人増やしたり、誰かが引退すれば崩れてしまいそうなバランスではあるが、このことをミヤコが理解していないはずがない。彼女なりに上手くやりくりするだろう。

 

「この三人はウケるわね」

 

 有馬のヘンテコ顔に三人でわちゃわちゃしてる姿をカメラマンに撮らせながらアネモネはMVの完成図を頭の中で作り直し始めた。

 

 

◇◇◇

 

 撮影も順調に進み、夕日が見えてきた時間帯。アクアとあかねが撮影場所にやってくる。

 

「アクたんとあかねおかえり〜」

 

 一先ず後回しにされてるMEMちょは置いておくとしてルビーと有馬は撮影中。撮影メンバーの中にミヤコも混ざっている。いつもはそんなミヤコの足元に混ざっているはずの硝太は何故かMEMちょの近くのパイプ椅子の上に猫のように丸まって寝ている。左腕に三角巾を巻きながら寝てるので腕を痛めないか非常に心配になる。

 

「硝太のやつ…」

 

 自分の出番がないからと言ってルビーと有馬が撮影してる中で寝てるのは非常識と言うしかない。無理矢理でも起こそうとアクアは近付くがMEMちょが無言でアクアの腕を掴んで止める。

 

「あはは、慣れない場所だから疲れて寝ちゃったんだよ」

 

 空港に、飛行機の中に、撮影場所。人が集合する人口密度が高い場所は硝太にとって相当苦手な場所になる。アクア達は空港で待ってる間や飛行機に乗ってる間は身体を休められたが強いエンパス能力を持ってる人間がそんな場所で体を休められるはずもなく疲労感が溜まった結果こんな場所で寝てしまったのだろう。

 とはいえ仕事ならばそんな言い訳が通用するはずがない。今の立場的に硝太はただついてきただけの弟なので今だけなら問題ないが今後マネージャー業をやるのならこのような体たらくでは戦力として数えることは到底できない。B小町が今後売れるのなら苺プロの身内だけの学校の部活動のようなレベルでは会社の問題になってしまう。責任は軽くない。

 

「慣れない場所って、ここは?」

 

 「硝太は慣れない場所にいて疲れている」というMEMちょの言葉を聞いてアクアは周りを見渡す。硝太が本当に警戒しているならこの撮影場所も例外から出てこない。

 カメラマンには助手が二人ぐらいついていて証明に三人。おまけに美術や衣装メイク。諸々含めると10人はいる。当然全員初対面で人間性など知るはずもない。いくら疲れていようとも警戒して休もうとするはずがない、ましてや椅子の上で寝るなんて硝太らしくない。

 

「最近硝ちゃん色んな人に会ってるみたいだし、社会的になったんだと思うよ〜」

 

 不審に思うアクアに対してMEMちょは変化を喜ばしく感じている。人と繋がれるようになることは間違いなくいい事だし、他人を必要以上に警戒していた硝太も『今ガチ』の前後から人と関わることが増えた。MEMちょの言うように高校生として当然の社会性を身につけた…と思われるがアクアにはそれでも違和感が拭いきれなかった。この末っ子が、こんな場所で無警戒に寝ることなんてありえない。これではまるで()()()()()()()()()()()()()()みたいだ。最も近くにいるMEMちょは当然硝太の味方、近くに家族がいないと寝れないことも多い硝太にとっては有馬とMEMちょは既に家族と同じ枠として数えられてると言っていい。だがその家族枠を除いた現地のスタッフは全員初対面、アクアでさえ警戒するのに硝太が警戒しないはずがない。

 

──もしくは、もう誰も怖くないのか。

 

 例外があるとすれば硝太がこの場の全員を既に調べあげている場合。

 思い出すのは有馬に再会した時の硝太の反応。あの時硝太は驚くほど流暢に有馬と話し、先輩と敬語をつけて呼んだ。後にその様子を驚いて聞いていたところ硝太は有馬の事を「怖くなかった」と言った。それは硝太が既に有馬の情報を頭のてっぺんからつま先にかけて全部知っていたから、その上で自身の脅威にならないと知っていたから。記憶を失っておきながらその判断を下せるあたり硝太の情報吸収能力の高さが伺える。

 その時と同じようにここのスタッフを全員調べあげていたとしたら。硝太はMEMちょに言われる前からここでPV撮影をすることを知っていた。つまり調べる余裕は存在した。アネモネはもちろんカメラマン、照明など全員の情報をSNSなどから調べあげて無警戒でいられる相手、つまりルビーやミヤコに危険を及ぼさない相手と判断したのなら、筋は通る。

 

「撮影は順調?」

「ルビーとかなちゃんのドラマパートは撮り終わって今ダンスパート」

 

 アクアが黙って硝太の不審な行動について考えている間に代わりにあかねがMEMちょの方を向く。

 撮影はどうやら順調に進んでいるようだがルビーと有馬に対してMEMちょの個人パートの撮影が終わっていないことにあかねが気付く。

 

「あれ?MEMちょは?」

「うん。後回し」

「…なんで?」

「ははは!」

 

 あかねが当然の疑問を指摘するとMEMちょが感情の籠ってない笑いを見せる。

 

「未成年者は深夜22時以降の撮影が禁止されてるからねー!ちっとも未成年じゃない私はド深夜に撮影出来ちゃうからねー!」

「なんか、ごめんね。」

 

 MEMちょは成年、つまり18歳以上しか取れない免許証を取りだして見せつける。ルビーは16歳、有馬は17歳で未成年だがMEMちょは(公式で)18歳。既に成人女性であり、未成年者と違い深夜であろうと撮影ができる。だから後回しなのだ。

 

──ゴールド免許?

 

 MEMちょの引き攣った顔に驚きながらも持っているゴールド免許にあかねは気付いたがすぐに見なかったことにした。ゴールド免許は免許取得から5年以上無事故無違反であることが条件なので最低でも23歳で取得することになるのでMEMちょは自ら実年齢が18際ではないことをバラしていることになるがあかねは考えるのを放棄することでMEMちょの心を守ることを選んだ。

 

 そんな調子で撮影を続けること数時間。ルビーと有馬の撮影が終わる。時間はスケジュール詰め詰めのハードだったものの、最初から予定を組んでいたからか22時をギリギリ超えずに済んだ。

 

「はーいお疲れ様ー。未成年組は宿戻ってー」

 

 アネモネの言葉にルビーと有馬は衣装を脱ぎ、来てきた服に着替える。明日はまた別の曲のMVを1日で撮影することになる。相当ハードなスケジュールだが仕方がない。だがルビーは体力が有り余っているのか元気そうにしている。アクアとあかね、硝太も未成年としてこれから宿に戻る。そんな中MEMちょは着替えずに撮影スタッフと共にいる。

 

「MEMは成年してるから居残りねー。18歳だもんねー」

「はいー私は18歳以上ですぅ」

 

 そう。これからMEMちょは撮影が残っているのだ。実はアネモネはMEMちょの友人として彼女の実年齢を知っている。公式の年齢でも18歳でぎりぎり成人女性なので他のスタッフや(理解しないようにしている)あかねにわざわざそのことを伝える事なく済んでいるのは不幸中の幸いか。それはそれとしてB小町で唯一成年してる女性と告げられたMEMちょの目は死んでいる。

 

「お母さん」

「ごめんね硝太。ちょっとMEMちょの撮影見てから戻るから先に宿に居てね」

「うん、わかった」

 

 ミヤコも宿に連れて行こうと硝太は話しかけるがミヤコはMEMちょ以上に面倒な仕事がまだ残っている。撮影が終わっても明日の撮影、完成までのスケジュール、内容の確認などやることが死ぬほど残っている。余裕そうにしているがミヤコは「今日はオールになりそうね」とため息をつく。

 

「硝太ー行くよ!」

 

 ルビーに呼ばれて硝太は未成年組と合流して撮影スタジオから出る。「おっ泊まり、おっ泊まり」と可愛らしく謎の歌を歌いながらスキップしているルビーを先頭にあかねやアクアが続く。

 

「あっ、そうだ!部屋割りどうする!?」

 

 少し歩くとルビーは急に思い出した宿の部屋割りの話を思い出す。今回の旅行はB小町の三人に硝太とミヤコ、そしてアクアとあかねの七人。ということで三人部屋が一部屋と二人部屋が二部屋という話を事前にミヤコから聞いていた。

 

「男二人が二人部屋一つとして…私とアンタとMEMちょで三人部屋でいいんじゃない?」

「ちょ──?何言ってるんですか有馬先輩。二人部屋は兄さんとあかね姉ちゃんの二人に決まってるじゃないですか」

 

 性別で分けようという常識的な判断をする有馬は、ルビーを指差してアクアと硝太、ミヤコとあかね、B小町の3人の部屋割りを提案する。それに対して、アクアとあかねの恋人同士を一部屋に纏めようとする硝太。

 あまりにも自然に、表情を変えることなく爆弾発言を落とした。

 

「あ・ん・た・ねぇ!」

──あれ?

 

 有馬は叶わない恋心とはいえ、アクアに好意を抱いているのもあり、アクアとあかねを二人部屋で二人きりにするのに抵抗がある。だがそれを明確に言葉にする訳にも行かず強く睨む。

 あかねはその時硝太になんとも言えない違和感を感じた──だが、それを言葉にすることは出来ない。言葉が浮かばないと言うより、それを言葉にする事をはばかられた。

 

「君たち、ちょっといいかな?」

 

 そうしていると近くの獣道から声が掛けられた。未成年全員が声をかけられた方向を向くと獣道の方から懐中電灯を片手に持った二人の警察官が姿を現した。警察服に警棒と見慣れた姿をしている。どうやらこの地域に長くいるようで撮影に来たルビーたちをすぐにこの辺りの学生じゃない、観光に来た高校生達と判断したようで一人が周りを見ながら内ポケットをまさぐるようにに手を入れるともう1人がルビーの目の前まで歩いてくる。懐から警察手帳のようなものを出して名乗ろうとしたがそれより先に先頭にいたルビーが近寄って警察官に話を聞く。

 

「はい、なんですか?」

「この辺りで暴力団の組員がいるって匿名の通報があってね、危険だから見回りしてるんだ」

 

 どうやらこの辺りに暴力団、つまりヤのついた自由業の人間が出ているらしい。アクアは一瞬、硝太の方を見ると硝太はすぐにルビーの隣に立ち、彼女の手を握る。傍から見ればヤクザに怖がった末っ子が姉に助けを求めてるように見えるが実際は逆。一番危険な姉の護衛を自ら買って出たのだ。アクアもあかねと有馬をルビーの背後に回らせてその後ろに回り、スマホのライトをつけて懐中電灯代わりにする。

 素早い男二人の対応に警察官は気付いて顔を綻ばせる。

 

「へぇーそうなんですか」

「だから寄り道せずに宿に行くんだよ」

「はーい」

 

 男二人が即座に動いたのに対してルビーは怖がりもせずに警察にぺこりと頭を下げると横を通る。ルビーのような女子高生にとってヤクザが怖くないわけが無い。旅行で有頂天になってるのもあり、対岸の火を見てるような他人事として捉えてしまっている。

 それを感じてアクアはより一層警戒しながら周囲を見回す。有馬もそれに習ってスマホのライトをつけるがあかねはその警察官を見て顎に手をやって何か考え始める。

 その時、警察官の背後に立った硝太が警察官の方を振り向く。ルビーは硝太の行動を不審に思って足を止め、つられて残りの3人も止まる。

 

──その瞬間。

 

「迎撃して、ヘルメス」

 

 硝太が何か言葉を放つと同時に地面から黒い物体が飛び出してその場にいた警察官を突き飛ばした。





B小町の3人は本当に絵になるな…ほとんど原作通りとはいえ三人でわちゃわちゃさせるだけでちゃんと可愛い。個人的にこの辺で好きなのは18歳(25歳)のMEMちょが撮影後回しにされてるシーン。アニメで声付きで見るとまた新しい反応で好き。その後のルビーの声優さんといい、凄すぎる。


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