【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ

MV撮影を進めるB小町の三人。アクアとあかねが戻る頃にはMEMちょの個人パート以外の撮影はほとんど終わっていた。
22時以降、まだ撮影が残るMEMちょと付き添いのミヤコを残して残りは宿へと戻る。その途中、二人の警察官が周辺に暴力団の組員がいることを伝える。その警察官を、ヘルメスと硝太に名付けられた八咫烏が強襲する。


#99 欺瞞

 地面から出てきた黒い何かに突き飛ばされた警察官が空を舞う。それを見たもう一人の飯能は早かった。素早く懐から()()()()()()()()拳銃を取り出すとその照準を、()()に向ける。明らかに黒い何かと硝太の関連性に気付いている、というより最初から知っていた反応だ。

 

「走って!」

 

 誰かの声がその場に響く。硝太はルビーを引っ張るとそのまま警察官が出てきた獣道の方に入る。

 その背中に銃を向けた警察官、だが先程一人を突き飛ばした黒い何かがその警察官にぶつかるとその警察官はスーパーボールのように地面を跳ねて転がる。その隣に最初に突き飛ばされた警察官が落ちてくる。

 

「ええっ!?」

 

 警察官が急に突き飛ばされたと思ったらもう一人も倒れ、何故か硝太がルビーを連れて距離を離した有馬は意味がわからなくなり声を上げる。ルビーも何が何だかわかっていないようで硝太にそのまま連れていかれてしまった。

 

「あの、大丈夫…」

「逃げるぞ有馬!」

 

 とりあえず警察官を介抱しようと近づこうとする有馬の手をアクアが引っ張る。

 

「は!?何言ってんの!?」

「偽物だよ、下手な変装で騙そうと考えたんでしょ──っ!」

 

 有馬が抵抗してる間にいつの間にか戻ってきた硝太が立ち上がった警察官──否、偽警官の首を引っ掛けるように回し蹴りして身体を地面に叩きつける。硝太の素早い動きに偽警官は対応しきれていない、だが何も響いて無かったかのように二人とも立ち上がる。

 

──やっぱり、こいつらも。

 

 いくら身体がまだまだ成熟しきっていない硝太とはいえ首を勢いよく蹴られれば痛みを感じなくても意識を失う、最悪そのまま即死だ。そんなダメージを何事も無かったように受け止められる相手となると不知火フリルのストーカーの同じ状態と考えられる。

 これはまだ仮説の段階だが所謂伝承防御、プロットアーマーと呼ばれるものだと思われる、何らかのルールに従わなければ攻略は不可能。何十回何百回叩こうと彼らには致命傷にはならない。そしてこの偽警官、というより傀儡達のルールは不明。この場で戦うのは危険と言わざるおえない。

 

「逃げるよ!」

 

 硝太は逃走を選択。この場合逃げるなら普通、先程までいた撮影場所で籠城すると考える。それを読んだのか傀儡のうちの一人が素早く歩いてきた道に回って逃げ道を塞ぐ。本来なら絶体絶命だが硝太にとってはむしろ()()()()()。近くの石ころをもう1人の傀儡に投げつけ牽制しながらルビーに先に行くようにジェスチャーを送る。

 最初から逃げようとしていたアクアに引っ張られてあかねと有馬も獣道へと入り、そのまま走る。硝太は三角巾に手を突っ込んで黒い筒を取り出すとピンを抜いて地面に強く叩き付ける。すると黒い筒から白い煙が出て六人の退路を隠す。煙幕、要するにスモークである。当然一般高校生が持ってていい代物ではない。周りがいちいち驚いていられる状態じゃないからこそ惜しみなく使える。

 スモークもゲームならともかく実際の戦場では有効な手段であることは確かだが無敵ではない。身体能力が上がっている傀儡に通じるかどうかは分からない。

 

──ここで戦闘が激化するのも良くないし、通じてくれないと困るけど

 

 下手に戦い始めれば周りを庇いきれる自身も無いし、MEMちょやミヤコの方にも危険が及ぶ。硝太としては相手を引き付けつつ距離を離すのが理想。

 スモークを背にして獣道を走る。チラチラと後ろを確認するが煙の先から誰かが出てくる様子は無い。森はいくら土地勘があるとはいえ迷いやすく、野生動物がいて危険。真夜中なら尚更、それでもあの偽警官の傀儡に比べたらマシだと全員が判断している。

 

──無理に突っ込んでこないね、陽動かな?

 

 煙が晴れても動いてくる気配がないのでアクアが一旦戦闘を走っていたルビーを止めると背を低くして草に隠れる。他もそれにならい、草や木に隠れて一旦息を整える。突然意味のわからない襲撃にあっても全員パニックに陥る事なく最悪の事態だけは避けている。平和な世界で生きてきたアクアやルビーがこういった事態に耐性があるわけが無い。運がいいのか、或いは。その理由を硝太には探る理由もない。

 

「なんなのよあれ。パトロールしてるお巡りさんじゃないの?」

「そうだよお兄ちゃん、あのお巡りさん可哀想だよ」

 

 暴れることは無いが有馬が当然の疑問をアクアにする。突然出てきた警察官も、パトロール中だと考えれば自然。夜中に近くに暴力団の人間がいるからとこの時間にパトロールに出るのがおかしい話にはとても有馬には思えない。だが一通り話している間に少なくとも硝太とアクアは偽警官だと気づいて対応していた。あかねも不審に思っていたようなのでB小町の二人だけがまだあの偽警官を本物だと思っているようでルビーも有馬の意見に頷いて同調する。

 

「それは」

「警察手帳が内ポケットだしホルスターが明らかに軍用だった。パトロールしてる割には手錠も警笛もないし間違いなく偽物だよ。ちょっと野生動物が暴れた程度で僕に銃向けてきたし」

 

 アクアが警官が偽物だと気づいた理由を話そうとするが、話し始めた瞬間に硝太が遮って代わりに理由を説明する。

 普通、警察官は警察手帳を内ポケットではなく制服左胸のポケットにしまう。ホルスターも拳銃がオートマチックだからか民間用ではなく軍用になっていた。普通の警官ならそう簡単に拳銃をぶら下げて歩き回ることは出来ないし、出来たとしてもリボルバー。オートマチックの拳銃を使うとすればそれこそ撃ち合いを前提としたSAT等だが二人で普通の警官に変装する必要は無い。そのくせ手錠も警笛も携帯しておらず、烏が暴れだしただけで硝太に銃口を向けたのは八咫烏を誘導したのを硝太だと知っている、つまり硝太の正体に気付いているから。それはもう、味方を除けば正体は自ずと絞られる。

 

「へぇー」

「よく見てんのね」

「狙いは二人っぽい。芸能人だから誘拐でもすれば身代金がたんまり貰えるって。多分撮影場所に張られてたね」

 

 おそらく偽警官の狙いは硝太の暗殺──ではなく捕獲。ルビーやアクアの前で行動したことからもわざと目立とうとしているのがわかる。その割には簡単に抜け出せた、つまり逃げ込むのは敵の作戦のうち。いつまでもここで隠れていても状況は変わらない。

 

「とりあえずこのまま隠れててもしょうがない、本物の警察を呼ぶから兄さんは周りを警戒──兄さん?」

 

 硝太はスマホを取りだして電話をかけようとする。だがその腕をアクアが掴む。

 このままでは事態が好転しないのも、だから警察に通報して助けてもらうのもなんらおかしくない普通の話。だがアクアはその行動に強い違和感を感じた。

 

「硝太」

 

 そんな調子の硝太にアクアはこれまでずっと考えていた不信感をより募らせる。いくら喧嘩に自信があるからとはいえ拳銃を引き抜いた相手に勝てると思うほど愚か者ではない。警官が一目で偽物とわかるものとはいえ硝太は相手が動くより前に先手を打った。烏に突き飛ばされた偽警官への対応が早かったので実際にしかけたのが硝太なのかどうかは置いておくとして動き出す準備はしていたことになる。いくら硝太が強いとしても不自然としかいいようがない。何より、これだけの事件になっても硝太がまず警察に伝えようとしている。いつもの硝太ならまずまだ撮影場所にいるだろう()()()()()()()()。相手がなんであれ、話しかけられたタイミングからして芸能人を狙った犯行の可能性が高い。ならまだ味方がいる、あるいは相手が撮影場所に入ってミヤコをターゲットにするのも有り得る。今回の件が硝太のせいだとはとても思えないがこの件に関する大切な何かを硝太は隠していると確信した。

 

「何?」

「全部話せ」

 

 アクアは硝太の腕を掴んだまま強く硝太を睨む。「俺はわかっている」、そう目線で伝えられ硝太は先程まで変えていなかった表情から焦りが出た。

 

「…場所を変えよう。ここだとあの偽警官もそうだけど動物とかに殺られる」

 

 話題を逸らしたいがそんなことが出来る状態でもない。だが()()()はその辺の話を避けたい硝太はせめてもの時間稼ぎとして場所を変える提案しかできなかった。

 言ってることは最もなのでアクアは無言で頷くと四人を先導しながら歩き始めた。

 しばらく歩いた後、場所を変えようと提案されてアクアが連れてきたのは先程あかねといた雨宮吾郎の生家。古臭く、人の気配のない割には小綺麗な一軒家。

 

「ここは?」

「知り合いの家。もう全員故人だけど」

 

 アクアは再びポストから鍵を取りだして玄関を開ける。一番最初に中に入ったアクアは玄関に飾ってあった写真立てを倒して、建物の中を確認する。中は当然アクアとあかねがいた頃から変化は無い。偽警官も完全にアクア達を見失ったようで後をつけられている気配もない。全員が中に入って床に座る。

 

「…もう、最悪。何が何だか分からないし」

「なんでこんなことなってるの?」

 

 まだ状況を飲み込めてないのか有馬やあかねは相当疲れた様子が見える。あかねとルビー、有馬は一応他人の家だがそんなことを気にしていられる余裕もなく、寝転んで今の状況への不安を声に出している。ここに来る前の硝太がしたように誰かが警察に通報してしまえば終わりの話だろうに三人とも通報する様子はない。それだけの空気感がそこにはあった。

 まだ余裕がある方のアクアも冬だと言うのに額には汗が滴り落ち、顔からは疲れが見える。それでも兄として硝太の方を向き、先程の続きを促す。

 

「硝太」

「…どこから説明すればいいかな」

 

 硝太はアクアに背を向け、複雑そうに慣れない畳をいじる。まるで時間が経ってアクアが諦めるのを待っているような態度にアクアも反応を変える。

 

「これがお前のせいじゃないってことぐらい分かってる。だけどお前が知ってることを共有しないと」

 

 出来るだけ優しく、だが現実の厳しさを強く突きつける。実際は今の状況は硝太を狙った結果、つまり硝太のせいとも言える訳だがアクアがそれを知る由もない。現実アクアが知っているのは今回の件の対応が硝太らしくない──急に襲われたことでパニックになっている訳ではなく、むしろそれすら想定内として扱ってるようなまるで作戦に組み込まれているような行動を取っていること。硝太は今回の件を知っていた可能性がある。一度刺された時といい、嘘は下手だがが隠し事は貫き通すことはもう知っている。その上硝太は旅行直前に自動車暴走に巻き込まれている。その時に何か知っていても不思議では無い。

 

「知ってた方が最悪の状況を招くとしたら?この世の中には知らない方がいい情報ってのもあるよ」

 

 それに対して硝太はアクアに視線を向けることなく誤魔化そうとする。実際、今回の件はインスタントバレット──常人の理解の範疇を超えた魔法の話なので下手にアクアやルビーに伝えていいものではないし、知ったことでcolorful(カラフル)や世界の端っこに殺される危険が常時付きまとう。他のインスタントバレットにもターゲットにされる可能性はあるし、最悪彼ら本人からインスタントバレットが現れる可能性も捨てきれない。

 家族から人とは違う、社会から弾かれたような存在が出るのを許すほど硝太は甘い男では無い。

 

「だったら尚更だ。そんなことを弟一人に背負わせる兄がいるか」

「そうだよ、ちゃんと言葉にして話さないとお姉ちゃんわかんないよ」

「…」

 

 硝太の「最悪の状況を招くのは自分だけでいい」と言っているような自己犠牲な言葉に火がついたアクアがより強い言葉で硝太に話すように促す。ルビーもアクア同様硝太の自己犠牲精神を見て硝太の正面に場所を移して両肩を掴む。

 二人とも間違いなく怒っている。そうしてやっと硝太は自分の発言が地雷を踏んだと理解した。頭を抱えてここから逃げる手段を考えるもアクアとルビーに挟まれた上にルビーに掴まれてしまった以上硝太からはなにか行動をとることが出来ない。

 

「兄さん、誰か来てる。かなり近い」

 

 その時だった。潜伏中のこの家の方向に一人の人間が来る気配がした。先程まで話をしていた為音や匂いで判断するのが遅れた。どこか寄り道したり迷ったりすることもなくごく普通に歩いてきている。まっすぐ小さいが足音もする。硝太はすぐに背後にいるアクアに声をかける。まさか先程の偽警官だろうか、と考えたアクアは急いで隠れられる場所がないか探し始める。だが隠れられそうな場所といえば小さな押し入れぐらいなものでその中に全員隠れるのも無理がある。しばらく中にいることを踏まえたらせいぜい二、三人が限度だろう。

 

「あーもうなんなのよ!」

「二人だけでも隠れてろ」

 

 撒いたと思っていたところに来たので有馬もあかねもかなり焦っている。アクアは一先ず二人だけでも押し入れに隠し通す。

 これで二人から外の様子を確認することも出来ないが外の人間が二人に気づくことも無い。

 

「アクアくん」

「…絶対に顔を出すなよ」

 

 あかねが心配そうにアクアを見るがアクアはあかねの方を向くことなく、硝太とルビーの方に向かう。あかねは寸刻だけ考えるがすぐに押し入れを閉じた。

 

「くっそ」

 

 隠れられるだけ隠れて奇襲をかけるか。そう判断した硝太が台所から錆びた包丁を拝借する。その間にも足音は近付き、若干の加齢臭を含んだ薄い匂いが鼻腔に入る。年齢は40代か50代、性別はおそらく男性。身体に大きな不調はないと思われる。

 

「硝太、隠れないと」

「僕が奇襲をかけて制圧するから」

「ダメだよ!…あれ?」

 

 また戦いが起こるのかと思ったルビーが硝太から包丁を奪い取って台所に投げ捨てると腕を掴んで一緒に隠れようとする。だが仮に相手が偽警官だった場合戦えるのは硝太しかいない。当然それを知らないルビーは囮になるとしか思えない硝太をより強く引っ張る。

 その時、別の違和感に気付き、硝太から手を離した。ルビーは硝太の顔と手を何度も見比べると顔がみるみる青白くなっていく。

 

「──誰?」

 

 ポツリとルビーが言葉を零すと硝太は目を大きく見開いてルビーを見る。その顔は驚きというより諦めの感情が見える。

 

「ん?誰かいるのか?」

 

 そうしてる間に一人の男が雨宮吾郎の家に入ってきた。大きな白衣に黒の刺々しい短髪。上に縁のないメガネに小綺麗な格好をした見た目は20代、雰囲気は40代後半っぽい男性。見た目だけの情報では小学生にも殴り合いで負けそうな弱々しい。

 偽警官のような強そうな男が出てくると思ったらあまりにも呆気ない弱そうな男が出てきた事で全員動きをピタリと止めてその男に目線が集中する。男も何が何だかわかってないのかルビーたちの方を見て首を傾げる。だがその中でアクアと硝太はまるで死体でも見てるかのように顔を真っ青にして目を大きく見開く。

 

「…せんせ?」

 

 先程の硝太を見ていたが出てきた男の姿に目を奪われてしばらく見ていたルビーが一言呟く。その一言を聞いて硝太は自身が考えていた最悪の可能性が当たったことを確認した。

 

「最悪だ」

 

 

◇◇◇

 その頃、撮影場所。アクア達が偽警官に追われているなんて考えてるはずもなく、先にチェックインしているだろうと思っているミヤコはMEMちょの個人パートの撮影を見学する。

 MVで一番尺を使うであろう三人のダンスパートは既に撮影が終わっており、後はMEMちょ個人のダンスとドラマパートのみ。みんなと合流するのにそう時間はかからないだろう。

 そう考えていると少し焦った様子のスタッフが来る。

 

「すみません、斉藤さん。ちょっと」

「あ、はい」

 

 有馬とルビーの撮影した映像に不備でもあったのだろうか。地下アイドルなら少々過激な服を使う事もよくあり、そこからなにか見えた見えてないという問題が発生することは珍しくない。ルビーや有馬の衣装は別に過激なものでも無いし他にコンプライアンス問題が発生しような動きもなかったはず。では渡された資料にミスでもあったのだろうか。明日の予定の変更だろうか。なんであれ呼び出される以上社長としてのミヤコに用事があるのは確か。スタッフに連れられ撮影してるスタジオから出て別室へと案内される。

 案内されたのは三人の控え室。二人の荷物は既に持っていかれているので無いが、MEMちょの私物はまだ置いてある。何故、こんなところに案内されたのだろうか。社長として確認して欲しいことがあるなら三人の控え室にわざわざ呼ぶ理由はない。別の部屋が無いわけでも無いし、この部屋に呼び出される理由があるようにはとても見えない。

 あるとしたら、ここは他のスタッフが絶対に入ってこない場所ということ。しまった、と気付くより早く背中に硬いものが押し付けられる。

 

「大正解」

「えっ、えっ…?」

 

 ミヤコを連れてきた、前を歩いていたはずの男がいつの間にか背後に回っている。その上ミヤコの心を読んだような発言。背中から嫌な汗が吹き出る。意味のわからない恐怖に身体がピクリとも動かない。

 

「ああ、動くなよ。その体に風穴が開いて欲しいのなら話は別だがな」

「こんなおばさん使って何がしたいの?」

 

 男の笑いを必死に隠そうとしている下衆な声に今ミヤコは銃を突きつけられていると理解する。発砲された訳では無いのでおもちゃのエアガンの可能性も、なんなら似たような形状をしただけのもの可能性もあるがそれを確認する術はミヤコにない。振り向いて確認しようとすれば確実に殺られる。

 

 目当ては金か?身体か?どちらにしろルビーや有馬が戻ったあとで狙われていないのは不幸中の幸い。だが既に絶体絶命の事態であると気付かない訳が無い。他のスタッフが気付いて助けに来てくれるとは思えないし、仮に来ても人質にされるだけだ。最悪なのは撮影を終えたMEMちょが戻ってくること。鉢合わせたら罪悪MEMちょも人質にされてしまう。この状況で誰かに知らせるのはもちろん警察に連絡することなんてできるわけが無い。MEMちょに来ないでくれと心の中で強くお願いする。当然その声がMEMちょに届くはずがない。

 

「まさか、お前みたいなババアに興味は無い。ただ、餌になってもらうだけだ」

「──っ!あの子達に何を!…あ」

 

 やはり狙いはルビーや有馬だ。社長のミヤコを先に捕らえておいて餌になってもらうだけということは目的は金ではない可能性が高い。彼女達を襲うのが目的か。そんなことは絶対に許されない。男の一言で先程まで指先一つ動かせなかった恐怖心は振り払われた。社長としてではなく、母親としてミヤコは振り向いて男に抵抗しようとする。

 だが、頭に血が上っていた為忘れていた。男は既にこちらに武器を向けていたことを。

 

「ふはっ、じゃあな」

 

 愚かな女を笑う下卑た笑い声に絶望する。ここで撃ち殺されてルビー達を呼ぶための文字通り釣り餌に使われる。死ぬことより、痛みより、母親として守ることも出来無い絶望。絶望を抱いたままミヤコは抵抗すらできず、腹部に当たった9ミリの鉛玉に心臓を撃ち抜かれ、その場で即死した。

 ミヤコは鮮血を纏って飛ぶ男の右腕と、そこに握られた拳銃──そして、ナイフを片手に飛んできた息子の姿を見た。




次回───『【硝子玉の子】』
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