【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
『今日は甘口で』の撮影を終えて帰宅してきた兄、アクアマリンの頬にぶたれた痕があるのを見て硝太はアクアマリンの自己犠牲精神を再度確認させられる。
自分を大切にしないアクアマリンを心配する硝太はボディガードとして打ち上げパーティーに参加して『今日は甘口で』の作者、吉祥寺頼子と会って話しをした。


#7 入学式

 陽東高校入学式。

 高校生で人生で初めてとなる入学式を終え兄弟妹(きょうだい)仲良く並んでそれぞれの教室に向かう。

 向かいたい、のだが。

 

「うっぷ...」

 

 斉藤硝太15歳、現在体調不良で倒れかけていた。

 演技も出来ないのでめちゃくちゃ気持ち悪いのを周りに隠すことすら出来ず、何とかアクアマリンとルビーに隠してもらいながら多くの生徒が歩く場から逃れる。倦怠感と吐き気が先程からとても強い。所謂グロッキー状態、というやつだ。広い体育館に座ってるだけとはいえ、密室かつ校長並びに来賓やらなんやら話があれば人酔いも普通に有り得る。オマケに行き来はともかく学校内で対策のサングラスやヘッドフォンをつけることは出来ない。まだ人酔いしやすい体質に病名がついていたならそれも可能だったろうが残念ながらそれも厳しい。

 

「大丈夫?顔白いよ?」

 

 ルビーに手鏡を向けられるが硝太は首を振って見ないようにする。自身の顔が想像通りの事態ならそれを見たら今やっとの思いで止めてる吐き気がもう止められなくなる。そうなれば終わりだ。初日にして学校で吐いた男、なんて恥ずかしくてこれ以上学校には行けない。

 

「だいじょばない...」

「だから休んでろって言ったんだ」

「だってぇ〜」

 

 一応義務教育である小学校と中学校と違い、高校は留年という概念が存在する。決して身体の強くない硝太は出席日程次第では留年してアクアマリンやルビーと一緒に卒業できない可能性が考えられる。一応成績はこの学校でも上位の自信はあるのでそこまで勉強をサボったりしなければテストで赤点はないだろうし救済措置もそこまで厳しい学校では無いのでちゃんとしたものがあるのだろう。それでも不安要素は少しでも消しておきたい。

 

 運がいいのかそれとも学校側が気遣ってくれたのかは分からないが硝太とアクアマリンは同じクラス。少なくとも一年間は周囲の関わりを断ち切っても生存することが出来る。

 

「とりあえず...トイレ行く?」

「ううん、平気...ちょっと落ち着いてきた」

 

 人酔いも人もまばらで開放的な中庭にいれば落ち着いてくる。この後はホームルーム、入学式の後となれば自己紹介やらなんやらして教材購入。初仕事なだけあり重要な事柄ばかりだ。硝太としては学校はアクアマリンとルビーがつつがなく少し、そのまま卒業さえ出来れば極論どうでもいいのだが、その為にもある程度の人脈、この場合は友人関係は確保しておきたい。特に二人のそばに居る人物と浅くなく、深くもない関係を持って彼ら、あるいは彼女らを情報源としながらあちらからも気遣うように導く必要がある。その為にも最初のホームルームで悪印象を持たれる訳には行かない。

 

「入学おめでとう、アクア!あとルビーと硝太」

 

 深呼吸をして頭を切りかえ大通りに出ようとする二人の後ろをついて歩き始めた時、後ろから見覚えのある顔が出てきた。

 

「有馬先輩。パーティぶりですね。お久しぶりです」

 

 いつの間にか名前を覚えられていることに驚きながらも、見知った顔があることに少し安心する。とはいえ、彼女は上級生かつ芸能科。会える回数もそこまで多くは無いが。

 だが、彼女はアクアマリンに何かしらのものを感じている。出会った時の対応といい、少なくともアクアマリンに悪印象は抱いていない。面倒見も悪くなさそうだし、仲良くなれそうだ。

 

「久しぶり、ってほどでもないけどね。陽東高校は授業日程は融通が効くけど、違いと言ったらそれ位のものでほかの学校と大した違いは無い。ああ、もう一つ大きな違いがあるわね」

 

 有馬先輩はあの人は俳優、あの人はアイドルと指さしていく。知っている芸能人こそいないが誰もが美形としか言いようのない優れた容姿を持ち、人前に立てるだけの胆力、そして目を引く動きを意識的か無意識かは分からないが常時行っている。芸能科のような場所でもなければ一人でひとつのクラスぐらいなら支配できそうな能力。アクアマリンはともかく僕には一生持ちえないもの。

 そしてそれはルビーが無意識に行えていることでもある。芸能人としての才能を測ることは僕には出来ないが、周りの人の意識を感じ取ることでなんとなく『見られる才能』というのはそれなりに感じられるようになってきた。その勘が仮に正しいというのであれば一番芸能界の才能があるのは、ルビーだ。

 

「ここは日本で一番()()()()()が多い高校。歓迎するわ後輩──芸能界へようこそ」

 

 芸能界へと入る二人、そして既に芸能界に浸かった一人。三人が向かい合った空間はまるで結界が張られた異界のように見えた。

 いや、この場合その異界という名は相応しくない。言い換えるのなら、そこは劇場の舞台の上に見えた。

 僕にはどうしても、三人が同じ場所で演技するのをどっかの誰かが暗に伝えているようにしか見えなかった。

 

◇◇◇

 

 芸能科は当然一般科と比べれると人数も少ないので1年F組1クラスに纏められる。硝太()アクア()、そしてロリ体型の重曹舐める天才子役と離れ教室の前に立つ。

 重曹先輩には「養成所でも撮影所でもなくて普通の学校なんだから緊張することは無い」とは言っていたがこちらは芸能界の活動が何も無いのだ。それでもやらなければ始まらない。

 緊張を胸の中に押し込み、扉を開く。

 

 扉の先にあったのはまるで異世界のような場所だった。右を見れば美女、左を見ればイケメン。教室にあるもの自体はほかの学校や地元の中学と大した違いは無いはずなのにドラマの小道具のように見えてしまう。そんなテレビの先にあるような世界に圧倒される。

 

──でも、私もアイ(ママ)の遺伝子を受け継いでるわけだから顔では負けてない。

 

 私も芸能人なんだ!そんな気持ちで窓際の席に座る。今頃硝太とアクアも教室について友達の1人でも作っているのだろうか。と物思いにふけるが即座に否定する。二人とも簡単に友達が作るとは思えないからだ。

 アクアは闇系に見える...というか実際闇系だが人当たりは悪くないからそこに心配は無い。少しおじさん臭いところはあるがそれでもあまりある顔の良さとコミュニケーション能力があるので問題は無い。

 問題があるとしたら硝太。あの子は言い方は悪いが少し問題児だ。パッと見は何一つ問題のないコミュニケーション能力の高い子に見える。身体は小学生のように小さく、声変わりもしていないという見た目で区別しやすい特徴がある。嘘がつけない、というより騙せる人が存在しないほど下手という点もあるが愛嬌があるので人は選ぶものの友達付き合いなら大きな問題なく進める。───なんて思うのは慣れた相手に対してのみの対応。あの子は本当に警戒心が高い。一度慣れれば甘えん坊で可愛らしいものだが慣れるまではまるでヤマアラシ。人好きなようで本当は人嫌いで排他的。人が集まったりするところは苦手で人の輪に入れない。そのくせ寂しがり屋で誰かが近くにいてあげないと寝ることすら出来ない。いつもはミヤコさんの布団に枕片手に潜り込んでくるのだがミヤコさんが仕事をしていたりすると私の布団に潜り込んでくることも何度かあった。当然対人経験も乏しくマトモに接してきた相手なんて小さい頃から構ってもらっていた苺プロの人たちと私たち家族ぐらいなものだ。巷の言う犬系男子とは違う意味でかなり犬っぽい。

 

「あの子大丈夫かな...」

 

 クラスで寂しい思いをしていないだろうか。アクアがいるのでその辺は大丈夫だろうが、アクアが友達を作りたくなったらきっと硝太はそれを察してアクアから離れて一人になり始める。あの子はそうやって一人で塞ぎ込んでしまう子だ。中学校の時も私とアクアからクラスを離されると問題行動に出たりする訳では無いが、まるで空気のように存在をなくしていた。そう考えるとたまに一般科に行って構ってあげるべきだろうか。

 

 そう考えながらなんとなく気になって隣を見るとそこには私より先に座っていたのだろう。一人の女子生徒が座っていた。芸能科にいるだけあって顔がいい。ふわふわのピンク色の髪はほかの子より明らかに目を引く肌も白く丸っこい。がそれより...おっぱいがでかい。

 

─なんか凄い子おる!

 

 思わずそう叫びそうになるのを押えて心の中だけで叫ぶ。それほど驚きだった。身近にいる大きな人と言えばミヤコさんが思いつくがそのミヤコさんよりでかい。

 

「あ...すんません。ジロジロ見てもうて。めっちゃ美人いるな思て。やっぱり芸能科って凄いわぁ」

 

 こちらに気付いたのだろう。胸の大きな女子生徒がおっとりとした声で話しかけてきた。関西弁で。

 

「も、モデルさん?」

「あ...せやねん一応。うち寿みなみ言います。よろしゅー」

 

 芸能界で生き残るだけあってかなり特殊な子だ。

 聞いたことない名前だったので失礼ながらもその場で調べる。寿みなみ...グラビアアイドル。Gカップの持ち主とすごいことが色々と書いてある。

 

「へぇーグラドルやってるんだ」

「目の前でググるんは非人道的やない?」

 

 寿さん、もといみなみちゃんが若干引きながらそう言うのを見てあの子に少し近いものを感じた。

 

 

 昼休み。

 前からアクアと硝太と決めていた場所に集合する時に一緒にみなみちゃんを連れて行った。

 その場にはアクアと当然のように再びグロッキー状態の硝太がいた。人慣れしていない硝太は知らない人間が30人単位で敷き詰められたクラスでもああなる。全員になれて入れば100人であろうと平気なのだが、まぁ初日はあんなものだろう。

 

「───って感じで仲良くなった寿みなみちゃん!」

「どういう感じだよ」

「───ぅゎぁっ...!」

 

 先程までのみなみちゃんとの出会いを伝えると硝太は顔を少し赤くして何やら可愛らしい声を出して照れている。

 さてはおっぱいに釣られたな?

 この子は対人経験が少ないことから女の子に対する免疫も恋愛経験も当然欠片もなくエッチな事柄の耐性も小学生以下、いやそれ未満。そのくせ共感体質で色んなものを見聞きするので耳年増となっている。この子は何かの間違いでエロ本でも買って読んでしまえばそれで昏倒してしまうだろう。

──今更ながらこの子に彼女が出来るかお姉ちゃんはとても心配です。

 そう思いながらも硝太の反応が久しぶりに可愛くてからかいたくなってきた。

 

「硝太ーチラチラ見るのは失礼じゃない?」

「あ、ごめ...ひゃっ」

「まぁまぁルビーちゃん。弟君困っとるから」

 

 にやけながらも硝太の顔を覗き込むとみなみちゃん胸の方をチラチラこちらを見ていた硝太と目が合い、硝太が小さく可愛い悲鳴を上げながら顔を背ける。

 

「んんっ、姉がお世話になります。斉藤硝太です」

「え?」

 

 みなみちゃんの助け舟に反応したのか、咳払いをした後自己紹介をして硝太が右手を差し出す。まさか───握手、だろうか。

 

 硝太が初見の人に照れるのはかなり珍しいがみなみちゃんのような凄い体型をした子や過激な服を着た女性相手となれば硝太がこうなることもままある。だが、握手。つまり身体的接触を相手から求めるならともかく、硝太の方から求めるということは初見の相手ではとても少ない。少なくとも、私の記憶には無い。

 

「寿みなみです。よろしゅー」

「よ、よろしくお願いします」

 

 みなみちゃんが芸能人らしくその手を笑顔で受け取り握手をする。その間も硝太は照れはしているがその手を自分から離したりはしない。

 命令されたわけでも、事故的なものでもない身体的接触。これは10年以上共に過ごした仲として言わせてもらうと硝太が甘えている時の症状だ。

 

──有り得ない。だからこそありえない。

 

 相手はミヤコさんでは無いし私たちでも無い。人酔いで頭がおかしく──この場合は正常になってしまったのだろうか。それとも変なものでも食べたのだろうか。

 

「え、ええぇぇ!?」

「マジか、硝太。お前どうした」

「え?」

 

 私が驚きの声を出すと同時にアクアも驚いたようでアクアが硝太の頭をのぞき込むように見る。一人だけ状況を理解していないみなみちゃんだけが疑問符を浮かべた状態で立ち尽く状態となる。

 

「みなみちゃん!?硝太に何したの!?」

「え?ウチは何も...弟くん、やなくて硝太くんと握手しただけやけど」

 

 みなみちゃんは握手のことを言うが握手の前から硝太の様子がおかしい。これではまるで別人だ。顔が同じそっくりさんが演技してると思った方が納得できる。

 

「姉さん、僕だって人付き合いくらい学ぶさ」

「クラスでは話し相手すらいないくせに?」

「うっ...」

 

 硝太がみなみちゃんから手を離してこちらに向けて胸を張るがアクアのツッコミにその場に倒れる。

 

 なるほど。アクアの言い方と硝太の動きからなんとなく察した。友達がいないことに危機的状況を察してとりあえず私の友達ということで警戒心を弛めて近付いた、ということだろう。

 それにしては中学生の頃に勧めた友達は断っていたが。ミヤコさんの友達を作って欲しいという感情を読み取ったのか。或いは、ロリ先輩にいい影響でも受けたか。どちらかだろう。

 

「硝太、友達できなかったよね?」

「僕は兄さんと姉さんさえつつがなく卒業出来ればそれでいいから」

 

 試しに硝太に聞いてみると硝太は予想通りの反応を示した。硝太本人は話題を逸らそうとしているのだろうが、これではむしろ言い訳を言っているようにしか見えない。

 同じく意味がわかったのだろうアクアも小さくため息をつく。

 警戒心が高いのは仕方ないが、ここまで来ると筋金入りだ。アクアだって来年には違うクラスになるかもしれないし何より硝太に友達が出来ないのは姉としてみていられない。ここは補助輪...という訳では無いが内側から友達になってくれる子を探してあげるべきだ。

 となれば硝太が妙に警戒心の薄いみなみちゃんが一番適任だ。いやなんでこの子みなみちゃんに対して警戒心薄いんだろう。

──やはりおっぱいか。おっぱいは全てを解決するのか。

 

「ごめんねみなみちゃん。硝太と友達になってくれる?」

「あはは、ええですよー。硝太くんおもろいし」

「友達をおすそ分けするな」

 

 アクアには言われてしまったが硝太の友達第一号はみなみちゃんだ。クラスどころか科まで違うが硝太の事だ。一度仲良くなったのなら仲良くしてくれるに違いない。

 

「ほな、硝太くんよろしゅー」

「は、はい。よろしくお願いします」

「そんな固くならんでもええのに」

 

 友達になったということからか硝太に話しかけるみなみちゃんと頷く硝太。これでは警戒心が高いと言うというよりただ緊張して友達ができない子のように見える。

 硝太も一皮剥けようとしているのだろう。姉として確かな満足を感じる。

 

「にしても芸能科の方が賑わってたみたいだけど、なんかあったのか」

 

 硝太の友達問題がひとまず解決したと判断したアクアが芸能科のある方の教室を見ながらそう呟いた。

 アクアからすれば芸能科と言うだけあり、容姿端麗な子はいるが有名な人はおらずそんなに緊張する必要は無い、という判断なのだろう。だがそれは違う。ホームルームの直後に起こった()()、否。とある有名人の入学には度肝を抜かれた。

 名前を言うだけで高揚しそうになる。

 

「凄い人がいたんだよ…」

 

 何を言おうとしているのか察したのか硝太が唾を飲み込む。

 

「──不知火フリルが」

 




硝太のお友達第一号、寿みなみちゃん爆誕。
ひたすらに硝太を心配するお姉ちゃんルビーの助けもあり、人生初めてのお友達(有馬は別枠)を得る硝太。ただし女性への免疫が無く、大きなおっぱいという目に付く要素があるみなみちゃん相手に友達やれるかどうかは不明!心配ダネ


それはそれとして次回は運命の出会いです。お楽しみに


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