【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回までのあらすじ
旅行に来ていた硝太の正体はツクヨミでした(!?)


#102 後始末

 目の前の身体は動かない。呼吸もあるし心臓も動いてはいる為死にはしないが意志を持って行動することはもうないだろう。つけた傷はもう完全に再生されているので社会的に見て殺人罪として問われることは無いだろうがこの現象は間違いなく硝太自身が引き起こしたこと。

 

「っふー」

 

 溜めていた息を吐いて近くの壁に体を預ける。『道具』に成り下がっていた身体から徐々に『人』としての機能が復活する。心臓が急に脈打ち、血液が流れて全身に酸素が行き渡る。これらの自己暗示はインスタントバレットに関係ない、あくまで硝太が生まれ持つ「殺し合い」への才能から導き出した個人技能でしかない。そのためインスタントバレットよりオンオフは容易に切り替えられ、ある程度制御もできる。

 この建物内の警戒を続けながら身体のダメージを確認してそこに意識を集中させる。多少壊死した細胞は見捨てる。重要な器官さえ再生すれば今より動けるようになる。身体を細胞単位で把握して本来無意識が補う場所を意識的に動かす。──そう体を動かすことで恐怖心を殺し、煮こごりを消した相手への純粋な殺意だけを持って戦うことが出来る。

 

「やはり、いたか。」

 

 しばらくそこで立っていると聞き覚えのある声と共に大人の男の足音が近づく。

 

「白岩…こいつ引き取ってくれ、役目だろ」

 

 現れた男──白岩は雑な警察の変装ではなく営業マンのようにきっちりスーツを決めて来ている。白岩は亮介が倒れて動かないのを見ると思うところがあるのか少し目を細める。白岩の事情をよく知らない硝太だが白岩側の感情を推察するのは避けて無視することにした。

 

「了解した。…にしても今のところ全部作戦通りだな」

 

 白岩は片膝をつくと亮介の状態を確認する。

 白岩が言ったように、ここに彼がいるのは硝太が狙った作戦である。フリルとの買い物で起きた事件後に高千穂の時に敵の狙いを定められると知った硝太は敵をこの地で倒すことにした。ある程度白岩達が口出ししたとはいえ大元の作戦を作ったのは硝太、要するに戦闘の素人だと言うのに今のところ全て上手くいっている。作戦を聞いた時にも感じたことだが硝太の才能は明らかに平和な世界には似合わない、戦場寄りだと思う。インスタントバレットになっている時点でその兆候はあったがいくらなんでも差が大きすぎる。白岩はこれを社会にある程度いさせている母親の偉大さを改めて思い知ることになった。

 

「相手の狙いが僕のインスタントバレットだと気付けたから、あとは軽く誘導すればいい。」

 

 硝太のインスタントバレットはcolorful(カラフル)を始めとして多くの組織にとって有益なものだと自覚している。どれだけ効率的に殺せるか、どれだけの破壊力を持つかという点では硝太のインスタントバレットより強いものはいくらでもあるが()()()()において硝太のインスタントバレットより優位性のあるものはない。 

 フリルのストーカーを除くこれまでの襲撃も全て『斉藤硝太を生かして捕らえる』ことが目的だとすれば話が通る。硝太の病室に来た動く死体(リビングデッド)は『オペラ座の怪人』になぞられて作られていた。『オペラ座の怪人』は話の中で怪人がクリスティーヌという名前の歌姫をを誘拐するシーンがある。誘拐するシーンはどの舞台でも変わらない、最初から決まってるシーン。生かして捕らえるのが目的だから都合のいい存在だったのだ。

 だが硝太はそう簡単に従ってくれるものでも無い。洗脳しようにも簡単に破られる、仮に出来たとしても下手に手を加えたらインスタントバレットの発動が困難になる可能性もあり、これも手を出せない。あくまで硝太自身の意思で発動させなければならない。そしてインスタントバレットの魔法の力の根源は人の持つ悪意、破壊衝動である。だがそんなものを強く持たせたらどれだけ高尚な目的を聞かせても離反する危険性は大きい。強い悪意を持たせながらも言うことを聞かせるにはどうすればいいか。簡単だ、人質を作ればいい。生きていても死んでいても構わない。硝太の認識で『本当は嫌だが、従わなければならない』としてしまえばそれでいい。そうなればもっとも硝太にとって大切な人物、母親のミヤコを狙う。

 そこまでわかってしまえばあとは簡単。高千穂でわざとミヤコを孤立させる隙を作って狙った相手を一網打尽にすればいい。

 

「そのためにわざわざ、か。」

「可能だからしたまで。変装道具もそっちから借りれたしな」

 

 この作戦の問題点は小さなミスや相手が上手だった場合目的通りミヤコを人質にされてしまうこと。そのため硝太は24時間常時ミヤコに貼り着く必要がある。それを相手側にバレないようにするにはどうするか。()()()()()()を作るしかない。

 そこで白羽の矢が立ったのは異性のツクヨミ。声や性別は違うが背丈はほぼ同じ、体格も適当な変装で騙せそうなほど近い。敵も存在を知っていても常時監視できるような相手でもないので本物の硝太さえバレなければツクヨミが変装しているなんてまず思わない。一応変装道具は白岩達が持っている。ヤクザはいつ何時もヤクザでいる訳ではない、ということだろう。芸能人として変装経験のあるフリルの手も借りてのツクヨミの偽『斉藤硝太』化は順調に進んだ。

 声だけはどうにもならないので骨伝導式イヤホンを改造した通信機をつけて硝太が話す声を聞かせる、という対策で済ませることになった。硝太が移動できるのは実質アクアとルビー達が寝ている夜中のみ、ツクヨミが硝太として活動している間は本物の硝太も身動きが取れないので電話特有の声の反響をノイズキャンセリングを利用して消すことでツクヨミのみに聞かせる声と周囲に聞かせる声を分別して出すことに成功した。

 それだけ準備が出来ればツクヨミに旅行に同行してもらいながら硝太が一人で高千穂まで来てしまえばいい。もしもの時のことと、見られるのを防ぐため使える交通手段は限られる。必然的に硝太は自らの脚で高千穂まで走ってくる羽目になった。

 硝太に積み重なっていた多くの問題をツクヨミの変装で纏めて解決させた硝太だが、ここに新たな問題が発生することを白岩が気付かないはずもない。

 

「問題はそこじゃない。お前、結局家族に嘘をついたことになるってのをわかっていないわけじゃないだろ?」

 

 白岩も言い淀むことは無いので素直に硝太に言いたかった言葉をぶつける。

 硝太は嘘が極端に下手だ。嘘をつこうとすれば呂律が回らなくなり、傍から見ても嘘だなとわかる。書いた文字や結果的に嘘になるという言葉ならある程度緩和されるがそれでも近くですごしてきた兄姉と母親に隠れたり、騙すのは一筋縄では行かない。

 実際、この時の2人は知る由もないがこの時点でアクアとルビーは硝太が偽物(中身がツクヨミ)だということに気づいてしまっている。

 

 その理由の一つに硝太がその3人を始めとする家族に罪悪感を抱えていることがある。何も出来ない自分が生きるための介護に時間を使い、そのせいで人生を棒に振ってしまったこと。限られた人生の時間の極端な浪費はその人の未来を奪うという意味では殺人と大した違いは無い。息子、弟という立場に甘えてそんなことをしてしまった硝太は家族に強い罪悪感を抱えている。それは吐き出すことすら出来ない心の闇。嘘をつく時もその罪悪感が足を引っ張り、思ったことをそのまま口に出すことすら出来ない。

 そういう意味ではアクアやルビーに罪悪感なく関係なく嘘がつけるツクヨミは硝太にとっても都合が良かった。だが明確に嘘をついたわけでは無いとはいえ、硝太が家族を騙したことに違いは無い。ちょっとした冗談でも罪悪感を感じるのに、ここまで大きなことに巻き込んで硝太が罪悪感を感じないはずがない。そんなことでこれからやれるのか。白岩が心配しているのはそこだ。

 

「それは…仕方ないだろ。敵を騙すならまず味方からって言うし」

 

 白岩の言葉で気にしていたところを付かれた硝太は絶妙な顔をして、話をきるためにその辺を歩き始める。

 硝太と亮介が戦った廊下は戦いの衝撃で割れ目や傷が出来ているが人がよってくる様子は無い。MEMちょがなんとなく押さえてくれているのかもしれないが、それも完璧という訳では無い。ある程度は隠して置く必要がありそうだ。明らかに壊れているのは今硝太に変装してるツクヨミに修復させれば謎の力で何とかできることは硝太は入院していた時の戦いで既に知っている。変装しているツクヨミと入れ替わるタイミングで頼んでやってもらうしかない。

 建物の損害を確認した後は亮介のすぐ側に落ちている拳銃を拾い上げる。亮介が使っていたベレッタ、軍用拳銃として完成度も高い1品は当然一般人が買える代物ではない。組織的──それも拳銃の売買に詳しい組織に所属して行動していたと見て間違いは無い。最後には投げ捨てられた拳銃だが見たところ損傷は無く、そのまま使えそうだ。当然ながらナイフや拳と比べれば武器としての性能は比べられないほど高い。実際今回の戦いでも硝太は間合いの外からの攻撃に一番苦戦していた。弾数の補給ができる保証がないとはいえ戦利品としてはこれ以上に良いものはない。使えると分かれば迷わず拳銃を手に取る。

 

「お前…」

 

 目の前で銃刀法違反を犯す見た目小学生の高校生に流石の白岩も苦言を呈する。このまま硝太が苺プロから離れて龍珠組に入るならこの対応はただの犯罪者になるだけで済むが硝太が苺プロに居続ける、つまり斉藤家の家族として暮らすのなら本来必要が無いもので、持っているだけで周りに被害が及ぶ。

 あくまで素人の硝太が持っても戦力がそこまで大きくなるとは思えない。力が無くても最低限の威力を持つ銃とはいえ使い手次第ではただの爆音が鳴って位置を知らせるだけのものに成り下がる。

 

「武器は武器」

 

 だが硝太は白岩の苦言を何処吹く風と受け止めることもなく懐に納める。見た目がちっこいせいで服越しに拳銃のありかが分かりやすくなっているが本人は気付いていない。

 本来なら一言言うべきだろうが見た目が小学生のくせに銃を隠しているのが様になっている硝太の姿に言う気も失せた白岩はため息混じりに愚痴を零す。

 

「銃弾弾ける化け物に本物のチャカがいるのか?」

「見れば学ぶ。そっち筋で対策は出来たし」

 

 バトル漫画とかだとありがちな銃が効かない展開だがあくまで生身の人間であり、インスタントバレットでバリアを作れる訳でもない硝太からすれば依然銃という簡単に強い力を出せる武器は最大の弱点になる。だからこそ、硝太は戦いの間に『銃は効かないが殴っていれば倒せる』と亮介に誤認させることで倒した。それが殴打にはわざと当たり、銃撃のタイミングを誘導して全力で防ぐという一見回りくどいが本質的に見るなら、全てが最後の一撃を決めるためだけに発生しうるイレギュラーを徹底的に潰しにいく詰将棋のような戦闘になった。

 

 そのためにしたことが一発わざと撃たせた弾丸から初速を割り出し、指の動きを見ながら引き金を引いたと反応する前に脊髄反射で動けるように身体を切りかえたという文字通り人間離れした方法なので白岩が化け物扱いするのも当然だが。

 

「後の残存兵はそっちの持ち物だろ?任せる」

「こいつはもう動かない。ならここからは龍珠組の責任だな。組のやつには俺から話す」

 

 話せば話すほど不利になる拳銃の話を切ってこれからの作戦について再確認する。白岩も亮介が危険物を持っていないことを確認すると静かに頷く。

 まだ外にいた偽警官のような亮介の味方、というより傀儡はまだいると思われる。だが現時点で出てこないような命令も大したものをかけられてないものなら龍珠組で十分対処出来ると二人は考えた。確実性を取るなら硝太がそこら辺を走りながら目に付いたやつを切り倒して行けばいいが、緊急性のある案件がある訳でもないのにここにいるミヤコやMEMちょは置いていけない。

 

──兄さんと姉さんが宿に戻ってないのも変だ。残存兵がいたとしてもツクヨミが護衛してるんだから宿に行くぐらい造作もない。

 

 硝太は戦闘中にミヤコのスマホを使って確認したツクヨミ──硝太のスマホを持っているツクヨミの現在地について考え始める。

 ツクヨミが今いるのは地図を見ても何処にでもあるような田舎の一軒家があるだけの場所。龍珠組を待機させた予定もない、周りを確認できるような高台にいる訳でもない、周囲からの射線を切れる他の家や建物に囲まれているような場所でもない、と逃げ隠れるとしても普通は選ばない場所。ツクヨミがいる以上アクアとルビー、そしてあかねと有馬がそこにいるのは確実。だが5人ともそこに留まる理由は無い。敵も確実に息の根を止めるならともかく逃げるだけならツクヨミがやれる。バレない為に力を使うのを抑えている、という可能性もあるが、だからといって攻め込まれたら降伏するしかなくなる古い空き家に入ることは無い。下手したら火でも放たれて余裕はすぐになくなる、危険極まりない。

 

──となると、上手く誘導されたのか?いや、傀儡にそんな知恵があるとは思えない。

 

 危険な場所にわざわざいる理由を考えたら誘導されたとしか思えない。だが戦いが起こる事を知らないアクア達四人が誘導されたのならともかくツクヨミが付いていて逃げ回って追い詰められたとは考えずらい。外にいた傀儡の数が多かったとしてもこれまでの経験から傀儡の思考力は低いことはほぼ確実。狭い場所に追い詰めるような戦い方をするとは思えない。

 そうなると次に浮かぶのは別の敵の可能性。現在近くにいるであろう龍珠組から連絡は無いがあくまでヤクザの集まりでしかないので傀儡はともかく訓練された兵がいるならかわしきれてもおかしくは無い。

 そんなことを考えていると遠くからカァーカァー、とカラスの鳴き声が聞こえてくる。ツクヨミが使役している八咫烏の鳴き声だろう。ツクヨミから借りているヘルメスと名付けたカラスは今現在ツクヨミが硝太に変装しているのをごますためにつかせているので硝太の手元にはおらず、どの個体か区別は出来ない。ツクヨミのことを考えていたので噂をすれば影がさす、か。と思いながらも同時に某鬼狩り漫画のように喋ってくれたら連絡が楽なのにとどうでもいいことを考える。

 

「八咫烏?お前のか」

「ああ…」

 

 白岩も同じことを考えていたのか同時に鳴き声が聞こえる方向に顔を動かす。起伏の大きい田舎にいるのと夜中で見にくいのが重なり、姿は見えない為大まかな方向と位置しか分からない。

 そもそも、なんで今八咫烏は鳴いているのだろうか。八咫烏が理由なく鳴くとは考えずらい。事前に何らかの合図として決めていた訳でもなく、気分で鳴くようなカラスにも見えない。そう考えると考えつくのはこれが硝太に向けての連絡の可能性。

 八咫烏が鳴く直前まで考えていたツクヨミの居場所が隠れ場所として合ってないことを同時に考えると本当に龍珠組の目を掻い潜んだ誰かに追い込まれたのか。だがここで硝太が走り出したらそれこそ相手の思う壷。フリーになったミヤコとMEMちょが危険に晒される。一応白岩がここにいるが白岩のことを完全に信用しきっている訳では無い硝太は少なくともミヤコとMEMちょを出すまでここから離れられない。

 

「お前らの兵隊回せるか」

「カラスの位置か。任せろ」

 

 硝太が動けないとなると動かせるのは龍珠組のヤクザ。すぐに隣にいる白岩に連絡させて自身も拳銃を取り出す。八咫烏の声はこちらだけに聞こえる訳ではない、硝太が援護に行った場合のことを考えて何者かがこちらに手を出すのかもしれない。もちろん八咫烏の声が敵の罠だと思っている訳では無いがツクヨミを誘導出来るだけの戦略家なら八咫烏の声で硝太が釣れた場合の行動をするはず。その対処の為隠した拳銃を出して薬室に弾丸があるのを確認した時、硝太は自身の背後に気配を感じた。先程まで誰もいなかった場所にまるでワープでもしてきたかのように現れた気配に硝太は素早く銃を構えながら振り返る。

 

「──大丈夫。あっちにはもう誰もいないよ」

「…誰だ」

 

 そこにいるのはムウマ〇ジを人にしたような格好をした女子大生と見られる女。黒いローブは闇に潜むのに合っているが無駄にでかい帽子から明らかに戦闘を考えていないことがわかる。

 だが硝太は拳銃の狙いを魔女の心臓に定める。気を抜いてはならない相手だと、己の本能が告げている。亮介に与えられた傷は軽傷に留めたのですでに癒えている。相手の女は安っぽいナイフを隠している程度で他に武器は見当たらない。

 

──殺すなら、今だ。

 

 引き金を引けば勝てる。そう思いながらも同時にそれでは殺せないと本能が否定する。何も準備なしに拳銃を持った危険人物に声をかけるバカはいない。撃たないと高を括っている、という訳ではなく文字通り撃たれてもいい対策を取っている。

 

「時間のインスタントバレット…未来視って言えばわかるだろ。お前も聞いてる魔女だ」

「…ああ、なるほど」

 

 黙っている魔女に変わって白岩が女について答える。時間のインスタントバレット、未来視と聞けば硝太は自分を利用した『世界の端っこ』の藤波木陰の顔が思い浮かぶ。魔女は藤波木陰の仲間、つまりフリルを見殺しにしようとした『世界の端っこ』のメンバー。彼女は未来視のインスタントバレットを否定したいと言っていた。会話の内容からして未来視を否定することで藤浪木陰と魔女が得をする何かがあるということが考えられる。

 

──つまり、こいつが逃げないのは未来視で自分が死ぬタイミングを知っているから、か。

 

 魔女の魔法が藤波木陰が言ったようなラプラスの悪魔と言われるタイプの未来視なら今現時点で硝太が殺そうとしようが逃げようが結果は変わらない。ここで死ぬ未来が見えているなら撃った弾は当たり、魔女は死ぬ。見えていなければ撃った弾は外れるなり、そもそも撃てないなりの理由で魔女は逃げ切れる。元よりそういう感情変化や細かい過程でさえ最初から決まっている。未来視の魔法は未来視というイメージを外せば傀儡を作り出した魔法ととても近い。自分が望む未来を見れれば自分も敵も世界中がそれに味方するのだから。ならば龍珠組の目を掻い潜るのも容易。ツクヨミの動きを止めるのも、自分がここまでたどり着く未来を見ていれば苦労せずともできる。

 

──八咫烏が鳴いた原因は間違いなくこいつだ。

 

 八咫烏が鳴いたのはツクヨミが行動不能にされたから。日本神話でも相当強力な力を持つ神を何とかできる魔法使いがそうあちこちに生えてくるはずがない。ツクヨミは戦う前に魔女が死なない結果に従わされたのだ。

 

「はじめまして、だね。奇蹟のインスタントバレット、斉藤硝太。私は魔女って呼んで」

 

 にこやかに自己紹介をする魔女に対して瞳を青くして魔女を狙い続ける硝太。硝太のインスタントバレットは未来視の影響を受けない。藤波木陰がそれを魔女に話していない理由は気になるが、魔女を殺すなら油断している今だ。

 そう思った瞬間、頭の中になにか妙な引っ掛かりが出来たのを感じた。

 

──いや、待て。それは変だろ。

──まさか、こいつ。

 

 引っかかりの正体に気付いた硝太は一瞬躊躇ったものの、素早く魔女を狙いから外して建物の外に向けて発砲する。

 

「何やっているんだお前!」

 

 魔女に銃を突きつけるならともかくいきなり外に発砲したことが白岩には理解できず目を丸くして硝太と撃たれて割れた窓ガラスを見比べるように見る。その間に魔女は音も立てずに消えてしまった。硝太は知らないことだか魔女のインスタントバレットの能力は未来視だけでは無い。──時間操作。瞬間移動のように不意に現れては消える力は消耗が激しいながらも圧倒的な力だ。そんな魔女を殺せたかもしれないのに、硝太は見逃した。これまで素直に従うと決めている時を除き高い判断力を持って行動していたからこそ、このミスというよりわざと起こしたようなミスを白岩は許せなかった。

 

「終わりだ」

 

 何故殺さなかった、未来視の影響下とはいえ魔法を使えば殺せたはずだ。そう言おうとする白岩に向けて硝太は短く言い放った後窓の外を指差す。

 自分が撃った方向、白岩はその指に従ってライトをつけて辺りを確認すると何者か──人ではなく犬猫のものとみられる足跡があった。足跡とわかるのは濡れていたからではなく、明らかに凹んでいたから。形は犬猫のものだが重量は明らかに違う。その近くに弾丸が転がっている。つまり、その何かが硝太の放った弾丸を弾いたということ。その何かはすでに姿を隠しているのか白岩の目には見えない。硝太もそのようで壁にもたれかかってまたため息をつく。

 

「とんだ化け物と殺し合いさせられるところだった」

 

 多分そいつもお前には言われたくないと思う。その言葉を言わないように口を噤みながら白岩は再び硝太の方に顔を向ける。

 硝太が撃ったのは明らかに魔女を守ろうとしていた。硝太が、魔女に向けて発砲していた場合未来視の効果を無視して魔女を殺せたとしても次の瞬間硝太はその化け物に殺されていた、そう言っているように白岩には見えた。硝太でさえ、魔女の殺害よりより無力化を優先する化け物がまだこの世界にいる。白岩はその事実にただ恐怖するしかない。

 

「とりあえず今回はこれで終わりだな。めんどくさい後始末頼む」

 

 だが当の本人は涼しい顔でそれだけ告げると軽く手を振ってミヤコが気絶している別室へと行ってしまった。今日何度も死を覚悟するようなことがあっただろうに静かにしている硝太はいつも以上に不気味に感じる。

 彼はこれからの後始末をめんどくさい、といった。実際壁はヒビができて窓ガラスは割れている建物を管理者にどう誤魔化すかは考えるだけでめんどくさい。──だが硝太自身に残っている後始末の方が大きいのではないか。そう思ってはいられない。

 

「…この世界は化け物ばかりだな」

 

 誰も居なくなり、静かになった廊下で白岩はそういうとどこからともなく羽根ペンを取り出した。




今日の話は100話の解説でした。
ツクヨミが硝太に変装した理由、その方法。あの場で戦うことを選んだ理由。これまでの硝太の動きの説明になったかと思います。
あとは硝太と魔女の対面。これまではルビーとしか会ってなかった魔女が遂に硝太と対面。あまり長い会話はしなかったものの、硝太に強い印象を刻み込むことになった魔女。尚ルビーが魔女がゴローせんせを殺したと思っていることはまだ知らない。

高評価、感想、お気に入り登録よろしくお願いします。
今回の話で白岩の正体分かった人多そう。
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