貝原亮介を倒した硝太は白岩と合流し、今回の作戦の進みを確認する。
今回の作戦で硝太は家族に『嘘』をついた、その事実を突きつける白岩。
そんなところに先程までルビー達の所にいた魔女が現れる。魔女は硝太の様子を確認すると消えてしまった。
天童寺さりなという少女は生まれつき病弱で人生のほとんどを病院のベットの上で過ごした。
日に日に病に犯されていく体に両親は向き合う勇気を失い、遠い山奥の病院で最期の時を過ごした。親にも見捨てられた少女にとって幸せな時間はテレビの向こうにいるアイドル『B小町』の映像だった。その中でも不動のセンター、星野アイの輝きはさりなにとって生きる希望だった。
──アイドルになりたい。
アイの輝きに照らされたさりなが病弱な身体ではありえない、少女らしい夢を抱くのはさも当然の話。親に愛されない少女はそれでも身勝手なお嬢様になることなく、健気で、儚い少女だった。だからこそ誰かに愛されたいと思った舞台の上で歌って踊って、ファンに愛されるそんなアイドルになりたいと。だが同時にそんなことは天地がひっくり返ってもありえないと知っていた何せ自分の体だ。健康になることは有り得ないと知っている。夢を持ちながら、その夢が誰よりも遠いことを幼いながら自覚していた。
そんなさりなの元に一人の研修医が訪れた。その名前は雨宮吾郎。さりなのような見舞いが来ない患者の元をサボりという名目で回り、話し相手になっていた若い男の研修医。学校も行けないさりなにとってはたまに会う看護士と雨宮吾郎だけが会話の相手だった。
さりなは彼に自分の推しているアイドル、『B小町』を紹介した。最初はまだ10代前半の少女たちが歌って踊る『B小町』に忌避感さえ覚えたがさりなの強い勢いに折れ、B小町の動画を見たりCDを聞いたり、1人では少し広い病室がいつの日にか2人だけの空間になっていた。
「退院したらアイドルにでもなればいい。その時は俺が推してやるよ」
あとは死ぬのを待つだけだったさりなに、その言葉はどれだけの救いになったのか。叶わない夢だとしても、それを何気なく言ってくれた言葉は忘れたことは一度もない。
年こそ離れているがさりなにとってはゴローが最初で最後の恋だった。非情な現実がさりなを死に追いやったとしても。さりなは幸せだったと言える。数多くいるアイドルの中からアイを見つけられて、ゴローに会えたのだから。
そんな彼女に奇跡が起こる。
最期、ゴローに愛の言葉を伝えて亡くなったと思っていた次の瞬間には、彼女はアイに抱きしめられていた。アイが産んだ双子の妹、星野
──生まれ変わり。
仏教だと輪廻転生と呼ばれる、死んだ命が新しい命として生まれて来ること。私は天童寺さりなとして死んで星野瑠美衣として産まれてきたのだと知った。どうやらアクアも誰かの生まれ変わりらしく、赤子のくせに立って歩くし喋りだした。赤子の口で流暢に喋る姿はとても気持ち悪かった。
それはともかく星野瑠美衣は健康な赤子として生まれた。健康な身体はさりなにとって何より欲しかったものだ。病院の上で寝て過ごすことも無い、手すりに引きずられるように歩くことなく自分の足でよたよたと歩ける。しかも傍にはあのB小町のアイがいるのだ。健康な身体に目の前には推し、しかも自分は推しの子供ときたら甘えるしかない。さりなは今やアイ=ママの図式で繋がる子供なのだ。近くにアクアがいるが仕方ないのでアクアにも妹として甘え倒してやろう。兄なのだから妹に構え。ママの膝の上を譲れ。
ルビーはこうしてさりなの時には得られなかった全てを得ていた。そうなると次に欲しくなるのは前世で恋した男、雨宮吾郎。アイも好きだが推しと恋心はまた違う。健康な身体になれたのだから「今度こそアイドルになって、ゴローせんせと結婚するのだ!」とルビーは微かな記憶とインターネットの力を頼りに雨宮吾郎のいた病院に電話をかける。
どうやらルビーとして生きている今はさりなとして生きていた時間から何年か経っているらしい。ゴローはもしかしたら偉くなっているかもしれないし、他の病院に転勤してるかもしれない。ゴローのことだから知らない女の人を引っ掛けている、なんてことも有り得る。幼いさりなも女なので病院のベットの上にいても周りの大人の女癖の悪さはよく耳にしたものだ。さりなはルビーとなって生きています!とすぐにでも言わないとゴローは何処ぞの馬の骨を引っ掛けて結婚してしまうかもしれない。赤子の身体ながらもすぐに連絡した理由がそれだ。ゴローの事だ。女を引っ掛けていたとしてもさりなと最期にかわした約束のことは覚えているだろう。最後に渡したアイのキーホルダーも持っていてくれるはず。
そう思って連絡したルビーの耳に入ってきたのはゴローがいる話でも転勤したという話でもなく、連絡がつかず、行方不明になったという話だった。
それを最初に聞いた時「遅れた!」と思った。顔がよくなんだかんだ異性の押しに弱いゴローの事だ、大方女性トラブルでトンズラこいたか責任を取らざるおえない立場にさせられたのだろう。ルビーがまださりなだったことも似たような話を看護師に聞いたことがある。あの時はプレゼントのB小町のライブチケットを取りに行ってくれていたので女性トラブルでは無かったが。その時も女性トラブルを起こしそうと言ったら否定しなかったのでそれなりに経験はあるのだろう。もしかしたら、もう誰かと結婚してしまっているのかもしれない。そうなってしまったらルビーはもうゴローとの結婚は諦めるしかない「結婚して!」と何度も言った恋心は離れてしまった今も尚冷めることは無いがゴローのしあわせを奪うほどでは無い。彼がそこで幸せなら結婚は諦めるぐらいの分別はある。──それでも会いたいことには変わりないし、仮に結婚が無理だとしてもアイドルとして推して貰うことぐらいはできるはずだ。ルビーがアイドルとして誰もが知るほど有名になれば、ドルオタとなったゴローの耳には必ず入る。握手会やライブで探せばゴローの姿を見ることもいつか出来るはずだ。
アイを失い、失意の中でもゴローの存在がルビーにとって唯一の光だった。ゴローに会いたい、この気持ちを伝えたい。そんな純粋な気持ちがあったからこそルビーは芸能界で長い二人を差し置いてセンターとなっても役不足にならないだけの人気を手にした。
──ああ、本当に。
──それで終われたのなら、どれだけ幸福だったか。
◇◇◇
「姉さん…姉さん!」
「…硝太?」
いつも聞いているはずなのに、やけに懐かしく感じる声に目を覚ます。どうやら少し気絶してしまっていたようで目を開けると一番最初に隣で倒れているアクアの姿が視界に入ってくる。アクアも気絶しているのか、それとも眠っているのか隣で横たわっている。小さな呼吸音とその度に上下する胸がなければ死んでいると勘違いしてしまいそうな程に静かだ。声がかかった方に首を回すとそこには硝太がいる。手を伸ばしてその腕を、つねってみる。薄い皮膚越しに硬く厚い筋肉を感じる。それでやっと誰かが変装している訳ではない本物の硝太がいると安心できる。硝太も私が目を開けたのを見ると安心したようでほっと胸を撫で下ろす。
「良かった、なんか痛いところとかない?」
「ううん。何も無いよ」
硝太に言われて自分の身体を確かめるが痛みや傷は見られない。それどころかひと眠りした後のようにスッキリしてMV撮影の疲れすら消えているような気さえする。疲れて宿で眠ってしまったのか、そう思って身体を起こして周りを見回すとそこはとても旅館には見えない、暗くオンボロの一軒家の中。外も暗くスマホで時刻を確認すると時間は23時半過ぎ。22時過ぎに撮影スタジオを出たのでそれからだいたい1時間半過ぎてることになる。あの後30分以上はなにかしていたはずなので1時間程度の睡眠で身体の負担がここまで落ちているのはとても運がいい。
ここはどこだろう。そんなことを考えながら辺りを確認すると未だに寝ているアクア、少し離れたところには有馬と黒川も同じように寝ている。寝る直前何があったのか、寝ぼけた頭で思い出す。
今日の撮影が終わりまだ撮影が残っているMEMちょと付き添いのミヤコを残して先に宿にチェックインを済ませに行こうとスタジオを出る。その後確か警察の格好をした誰かに声をかけられて、不審者だからと硝太とアクアに連れられて逃げてこの一軒家の中に入った。そこまですぐに思い出せたのだがその続きがよく思い出せない。
「えーっと…確か」
この一軒家で隠れてる間に誰かが入ってきて、その人が──
そこまで思い出した時、あなたの中に電流が走ったような衝撃を感じた。なんでこんな大事なことを忘れていたのか、数秒前の自分を殴り倒したくなるのを押さえる。
「硝太!」
「えっ、何?どうしたの?」
思わず起きている硝太に怒鳴るように声をかける。アクアを起こそうとしていた硝太は急に大きな声をかけられてビクンっと一瞬跳ねるもすぐに小さな顔をこちらに向けてくる。
いつもなら大きな声を出したことを謝るがいまはそんな余裕が無い。
「こ、ここに、先生いなかった!?」
先生と言っても分かるわけないだろうに気付けば硝太の肩を掴んで聞いていた。何も知らない硝太に何をしてるんだ、と思うと同時にそれより強い気持ちで先生の居場所が知りたい。無事なら会いたいと思う気持ちがある。
こちらの強い気持ちが伝わったのか硝太は軽く首を傾げて少し考えるとなんとも絶妙に気まずそうな顔をしたあとゆっくりと体を横にずらして壁の仕切りもどかす。すると仕切りと硝太の体で影になっていた場所に血痕がある地面が見える。その近くには刑事ドラマでよくあるような遺体が置いてあるところを示す白いテープの囲いと番号の書いてある札が置いてある。
「あーここにあった死体のことかな。警察が回収して行ったよ。姉さん達も災難だね。道に迷ったのか知らないけどこんな死体見つけちゃうなんて」
「した…い?」
硝太はルビー達が道に迷った末に遺体の放置されている一軒家に入ってしまい驚きあまり失神したと思っているのか気まずい顔で頬をかく。だがそんな硝太の姿はルビーの目には映らない。ルビーの目に映っているのは遺体があったという証明のために書かれた線と近くに置いてある番号札のみ。
死体。既に死んでいる人の体。
そんな簡単な事を理解することでさえ時間がかかる。ここにいたのは間違いなく雨宮吾郎、ゴロー先生のはず。それが死んでいたということは既にゴローはこの世に居ない、死んでしまった。ルビーが気付かないうちに。
「嘘…」
「ああ、大丈夫。警察は僕が追い払っておいたから。遺体も死んでからだいぶ時間が経ってるから取り調べとかもないよ。あとはみんなを起こして宿に戻るだけ」
硝太はこれから取り調べやらなんやらで時間を取ると気にしたのか今後の対処について言うがルビーにその言葉は聞こえない。やっと会えたと思ったのに。「さりなは今ルビーとして楽しくアイドルやれてるよ」「アイドルとして推して欲しい」「私を見て」言いたい言葉はいくらでもあるのに、一つも伝えることも返答を貰うことも出来なかった。
だがそんなことを硝太が察せられる訳もなく、硝太はルビーが落ち着いたと誤解してアクアを揺すって起こす。
「兄さん、兄さん。こんな所で寝たらまた首痛めるよ」
「ん…?」
「宿行こ?お母さん達もうついてるよ」
硝太に起こされたアクアは目をこすって周囲を確認する。先程までいた雨宮吾郎の生家にまだ居て傍には有馬と黒川がまだ寝ている。
「…何があった。いや、硝太お前本物か?」
アクアの問いに一瞬ハッとした顔をした硝太だがすぐに表情を戻す。アクアとルビーの記憶の中にいる最後の硝太は硝太の変装をした見たこともない少女だった。硝太のように実年齢と見た目が全く一致しない女の子がいて、兄姉に気付かれずに仲良くなっている、とは考えずらい。可能性がゼロとは言わないが限りなく近い、といったところ。硝太を騙すか捕えるなりしていたというのも少女の見た目から感じさせる雰囲気や年齢には似合わず実際少女はアクアとルビーを攻撃することはなく、むしろ守るように動いていた。直接触って肉付き等から確認できるのはいつも距離感の近いルビーだけなので少し見た程度ではアクアには違いがわからない。そして二人の関係性は分からないのでまた硝太に変装して戻ってきたように見えてしまう。
「ああ、本物だよ。兄さん」
硝太は少し硬い笑顔を作りながらアクアの言葉を肯定する。それは硝太がアクアとルビーを騙したと認めたことになる。アクアもルビーもそこまで潔癖症ではないし、何より自分たちが特大の嘘と隠し事をしているので多少の嘘は気にしない。だが今回はそれで許される範疇を超えている。
嘘が下手な硝太が嘘を突き通したのはフリルのストーカーに刺された一件の事のみ。あの時硝太は自らに危害が及ぶことを知って皆の元を離れた。その記憶がアクアの中で蘇る。また、弟に1人でやらせたのか。アクアは後悔するが既に遅い。
だが硝太はそれを思い出させたことも、後悔させたことも謝る様子はなく言葉を続ける。
「偽物…ツクヨミは今しばらく体を休ませている。彼女は味方だよ、少なくとも僕と兄さん達にとっては」
彼女、硝太の変装をしていた偽物はツクヨミというらしい。なんとも聞き覚えのない、外国人みたいな名前。いつ知り合ったのかはともかくそのツクヨミとやらはアクアとルビーのことを好意的に見ている。それは硝太の兄姉だからなのか、もしくはツクヨミが個人的にアクアとルビーのことを知っているのか。
アクアは硝太の作った顔を見てしかめっ面で返す。
「味方…?」
「細かい事情は後。兄さんちょっとあかね姉ちゃん背負って宿まで歩ける?僕有馬先輩背負うから」
これ以上続くとめんどくさいのか、硝太は話を切りあげると近くで寝ている有馬を背負う。力はともかく、身長が圧倒的に低い硝太が有馬を背負うのには少し無理があるような気がしたが有馬が身体を丸めたためなんとか硝太は歩けるようになっている。だが当然ながら黒川を同時に運ぶことは出来ない。どうやらアクアを起こしたのは硝太の体では二人を同時に運べないからのようだ。
ならば二人も起こして自分の足で歩かせれば良かったのでは、とアクアは考えるがその裏に硝太の意図を読み取る。この一軒家は人が死んでいた場所、すぐ離れたいのは当然のこと。そして今現在ツクヨミという少女が硝太に変装していたのを知っているのはこの中だとアクアとルビーの二人。今回の嘘は硝太が何か大きなことをする為の布石だと考えるのが自然。なら今後の為にも真実を知るものは最低限で済ませるべきだ。アクアからしてみれば業腹だが硝太の嘘に悪意がないのぐらいはわかる。誰かを傷つけるのが目的では無い、守るための嘘。アクアに黒川を背負わせるのはせめてものの配慮だろう。
「…わかった。」
アクアは黒川を起こさないようにおんぶする。今日の一件は黒川と有馬には何も無かったとして情報操作を行うのだろう。硝太の変装も、突然襲いに来た偽警察や偽雨宮吾郎も。きっと都合の悪い夢として処理される。アクアとしては既に雨宮吾郎ではなくアクアなので気にする事はもうない。一つだけ心残りがあるとするなら、雨宮吾郎として生きていた頃に大切にしていた、ある入院患者──天童寺さりなの死に際に受け取ったキーホルダー。『アイ無限恒久永遠推し!!』と謎のワードと共にアイの笑顔の写真が貼られたキーホルダー。昔のガシャポンで手に入れられるもので、まだ旧B小町が大きく売れてない頃のグッズとはいえそれなりの量があったため旧B小町のグッズとしてはそこまでレアという訳では無いが、アクア──否、雨宮吾郎としてはとても貴重で大切なもの。
病弱で普通のファンのようにライブに行くことが出来なかった天童寺さりなが唯一足を運ぶことが出来た際に買ったもの。雨宮吾郎は死に際に受け取ったことで、親子でも恋人でもないただの病人とその病室にサボりに行く医者のたまごの間で許される遺品となった。
──せめて、キーホルダーだけでも回収したかったが。
硝太に「雨宮吾郎の持っていたキーホルダーが欲しい」と言う事が出来るはずも無い。仮に言ったとしても死人の持ち物を勝手に取ることを警察が許してくれるとは到底思えない。可能性があるとすれば雨宮吾郎がアイ推しだと気付いた硝太が雨宮吾郎とB小町の繋がりを断つために盗んだ、という可能性だがそれにかける程の勇気はアクアには無かった。
──ごめんな、さりなちゃん。ずっと大事にするって言ったのに。
強い罪悪感と共に少しスッキリした気持ちにもなる。アレは『雨宮吾郎』と『天童寺さりな』の間の話、生まれ変わりとはいえ別人になったアクアが干渉するべきではない。もうアクアは星野亜久亜海であって雨宮吾郎の後を追うことも意志を継ぐこともない、雨宮吾郎としての記憶も必要ないものだろう。
「ルビー、行くぞ」
黒川を背負ったアクアが未だに起きてはいるがアクアが起きてから喋ろうとしないルビーに声をかける。ルビーもここに来てショッキングなことばかりだったので精神的にも疲れている。声がまともに聞こえないほど疲弊していても仕方ないと思ったアクアが近付くとゼロ距離まで近付かないと聞こえないような声で呪文のように何かを呟いていた。
「嘘…せんせ…せんせ」
死体が片付けられて、もう何も無い場所に「せんせ」と呟き続けるルビーの声はもう全てに絶望したようでこちらまで悲しくなってくる。
だが、それよりルビーの発言はアクアが忘れようとしていた雨宮吾郎の記憶を一気に蘇した。
雨宮吾郎として生きていた時、医者という立場上「先生」、「雨宮先生」と呼ばれることは多々あったが「せんせ」と呼んできた相手は一人しかいない。彼女は既に亡くなり、いないはずだがそれを言ってしまえば雨宮吾郎も既に死に、星野亜久亜海となっているのだから彼女が星野瑠美衣になっていても矛盾はしない。そういえば雨宮吾郎が刺された時も「せんせ」と言っていた気がする。あの時はただ錯乱して何処かの先生とみ間違えているのだと思ったがもしかしたらルビーはちゃんと雨宮吾郎としてみて「せんせ」と呼んでいたのかもしれない。
──まさか、君は…さりな、ちゃん?
最初から、誰かの生まれ変わりであることは知っていた。だが既に終わった前世のことなどどうでもいいと思い、これまで互いに言うことはなかった。だがルビーの前世がもし天童寺さりなならどうなるのだろう。アクアは妹のルビーをある意味保護対象のように見ていた。兄が妹を守るのは当たり前。アイが亡くなってからは唯一の血の繋がった家族というのもあり厳しいぐらいに縛ってでも守ろうとした。もしかしたら自分はルビーに自然とさりなを重ねていたのかもしれない、と思った。それならこれからもルビーとの関係性は特に変わらない。ならば今ここで自分の前世は雨宮吾郎だと言うべきだ、有馬も黒川も寝ているので、硝太にさえ聞かれなければいい。そうすればルビーの悲しみを少しは拭うことが出来る。雨宮吾郎として天童寺さりなの死に際の顔を見た時の空虚感を思い出すとルビーに伝えるだけで今を生きているのだと安心出来る。
だが同時にそれを言ってどうする、と思う自分もいる。ただでさえ小さい声なので聞き間違いの可能性は高いし、そもそもルビーのつぶやきが先程までそこで死んでいた雨宮吾郎に向けてのものかまだ確定はしていない。第一、もし
ルビーの前世が天童寺さりなで雨宮吾郎の死を悼んでいるとしても、雨宮吾郎は死んでいることに変わりはない。死体が放置されていた、とかならともかくルビーとアクアが気絶する直前まで普通に歩いて喋っていたのだ。ルビーからすれば雨宮吾郎が死んだのは気絶する直前、魔女のような格好をした誰かに刺された時だろう。
あの魔女のような格好をした女はなにか気になることを言っていたので何やら仕掛けがありそうだがそれを解明するまではルビーを更に混乱させるだけなので黙ったいた方がいい。
「兄さん姉さん、行くよー」
アクアが悩んでいる間に玄関を開けた硝太が有馬を背負ったままそこに立っていた。その表情には呆れと若干の疲れが見える。
「ああ、今行く」
アクアは一先ず前世のことは忘れてルビーの手を引いて歩き出した。
硝太…お前、お前さぁ!ってなる回です。恋愛感情理解出来ない上にルビーの前世とか欠片も興味ないせいで「なんか中年男性一人死んでるけど…ま、いっか!」ってなってド畜生みたいな発言繰り返してる。
え?人死んでるだけで大問題だって?
──それはそう
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しれっと警察を追い払ってる硝太