白岩と名乗った男と交渉して、白岩のいる組織に手を貸す代わりに組織にあるフリルのストーカーを扇動した硝太にとっての敵、『偶像』のインスタントバレットについて聞く。
白岩は硝太に情報提供を行った後なんの契約もせずに姫川宅から出て行った。盗聴器やGPS等を仕込んだ様子もなく、本当に話をして情報提供をしただけで帰って行った。
念の為何か仕掛けられていないか念入りに確認した後、2人はソファに腰かける。ソファの前の机には白岩が置いていった大量の書類なUSBメモリ。硝太の個人情報が書かれたものは持って帰ったが硝太に渡せる情報、
「話をしに来ただけだったね」
「言葉通り、僕と手を組みたいだけなんだろう」
一息つくフリルを横目に硝太はソファから身を乗り出して書類を手に取る。
フリルは硝太の背後から硝太が手に取った書類を読み上げる。
「えっと、未確認生物A、及び未確認生物Bを『傀儡』と名称を変更する。『傀儡』は予め決められた
「一応書類だからね。実働部隊が偉い人向けに書いたやつなんだろう。…どこのSCPだよ」
二人で書類に書かれた情報を確認していく。そこに書かれている傀儡についての特徴はこれまで考えられてきた推理と特に乖離した点はない。
『傀儡』は予め決められた命令通りに行動する元人間の事。その命令はとある地点まで歩くと言った簡単なものから特定対象の殺害を犠牲者を除き誰にも知られずに行う、と言った複雑なものまで多岐にわたる。与えられる命令のレベルは『傀儡』にする人間の理解が出来る範囲となっているが、命令のレベルによるが死体から作り出すことも可能であり許容範囲は広いものと推測される。『傀儡』は常人を遥かに超えた膂力と耐久性を持ち、他のインスタントバレットと同様、物理法則の影響をほとんど受けなくなる。『傀儡』は命令された場合もしくは命令を阻害された場合に対象に対して強い攻撃性を持つようになる。命令を遂行し終わると『傀儡』は意志をなくし再び命令されるまで一種の植物人間のような状態になる。
以上が白岩達が纏めた『傀儡』についての情報でこれはこれまで硝太達が集めた
「
「じゃあ次は『偶像』のインスタントバレット…か」
偶像のインスタントバレットは使用者の脳内世界に対象者を塗りつぶす洗脳型のインスタントバレット。対象者の年齢層は若い女性が多いがこれは使用者の趣味なのか空想に浸かりやすい年代を狙っているのか不明。
発現度は【3/5】と推測される。生身の人間にかける型だからか使用者、対象者含め一般人への不可視の効果は無いが対象者──以後『傀儡』と呼ぶ。──は物理法則が通用しなくなる。
書いてあることはとんでもないが言われてみれば理解はできる。──だがあくまで組織側も理解できていないインスタントバレットなのでこの情報の信憑性は低い。これについては最初から期待できない情報だったので構わない。
「
「えーっと…あった。これだ」
次に目的とも言える
資料には未確認生物Aと書かれた文字の上に二重線が引かれて『傀儡』と訂正されているものがある。先程読んだ『傀儡』についての資料内容からして病院で襲ってきた個体のことかと思われる。
本名「
次の資料にある未確認生物Bも同じように『傀儡』と訂正されており、同じ龍珠組の組員が書いてある。
『龍珠組』とは主に日本で活動する指定暴力団の一つだ。組織の規模は大きいが明確に警察やほか組織とやりあったという情報は降りてきていない。東京の郊外で幅を利かせている厄介者、というのが一般人の感覚だろう。硝太もフリルも龍珠組の認識としてはあまり変わりはない。ちょっと組織として大きいだけの普通のヤクザ、という認識で間違いないと思われる。
ヤクザの年齢層について詳しく知らない硝太だが30歳という年齢は若い部類に入っているように思う。取引の護衛、という担当はおそらく人の目につくところに出ることは少なかったのではないだろうか。いくら顔が広いとはいえ、急に消えても組員達も気付くまでにある程度のラグがあったものと推測される。
「ブツって?」
「わざわざ護衛をつけてるんだ。
ブツ、と黒塗りされている訳でもなく伏せられているものにフリルが気にして呟く。
ヤクザが金稼ぎに使うものといえば女と薬が代表的なものだろう。日本なら不動産取引やホスト、闇バイトを使った空き巣等考えられるが関係ない組織のはずの白岩の資料で伏せられているということは白岩達からしても伏せておきたくなるもの。そして取引に護衛を用意するということは薬か武器、それも銃器だと想像できる。
「そっか。」
銃と聞けばフリルは自然と硝太が撃たれた時のことを思い出す。硝太を撃った拳銃はウェルロッドという第二次世界大戦中にイギリスが制作した特殊作戦用の拳銃。一般的な拳銃とは何もかもが違う特殊なもので尚且つ軍用銃なので海外でもそんなに出回っているとは思えない。ヤクザが使うのなら安価で尚且つ扱いやすいM1911やトカレフ、マカロフ辺りにするだろうし取引に使われるのもそちらのはずだ。それらなら海外の一般市場にも出回っているので特殊なものに比べれば入手は容易。
だがそれらの理由を並べても無関係とは思えない。元より普通の生活をしているのなら見るどころか思い浮かべる事すらないマイナーな拳銃だ。拳銃を持っていたのがストーカーの共犯者、おそらく『偶像』のインスタントバレット本人だと考えるととても無関係には思えない。
「となると龍珠組について調べる必要があるな」
ヤクザの名に恥じない悪どいことをしている龍珠組だが、そんなヤクザだからこそインスタントバレットの存在を隠すのには都合がいいのかもしれない。そうなるとストーカーの共犯者を何とかするには龍珠組にも手を出さなければならない。
硝太たちのことをよく知っているはずの白岩が情報提供を組むための条件として使ったの今後何かしら動きを見せる可能性が高いから。
「またネット漬け?」
「一応それも試してみるけど…相手は暴力団だ。最低でも足は必要だろう」
調査の方法としてあかねの誹謗中傷対策のようにネットの海から情報を見つけ出す方法がある。時間はかかるし正しいかも分からない不安定なものだが相手が暴力団である以上何が起こるか分からない。群れで襲ってくる可能性を考えたらインスタントバレットより厄介とも考えられる。フリルとしてはそちらで探って警察を陽動して捕まえてもらう。というのが理想の形だったが硝太はフリルがそう考えていることを見抜いたのか首を横に振って否定する。
ネットの海から情報を集めていって対策出来るのはカメラから逃げられない芸能人達や自分が被害者になるという発想すらない無知な人間ぐらいのもの。切った張ったで生きている暴力団相手に通用する方法とはとても思えない。ネットの検索はあくまで手札の一つ程度にしておいて、本命は足を使った捜査で絞り込んだ方が効率もいい。
「でも調べるって言ったって。」
「白岩って男はUSBも残してる。多分中身は画像ファイルか動画だ」
机の上に置かれている書類の近くにポツンと置かれたUSBメモリを手に取ると指紋をつけないための手袋だけつけて部屋の中にある姫川のノートパソコンを取り出す。当然硝太が使ったこともなければ触ったことすらない。
まさか姫川のパソコンを使って中身を見るつもりではないだろうか。ウイルスでも入っているかもしれないのに硝太とフリルは現在自分のパソコン等を持っていないからと言って姫川のものを使う姿に流石のフリルも顔色を青くする。
「姫ちゃんのパソコンだよ」
「個人のパソコンのハックぐらいなら…はい、できた」
しかし最早他人のパソコンがウイルスにかかるなど気にすることもない硝太は姫川のパソコンを数分の時間もかけずにハッキングして一応メモリの内部データチェックを行う。個人パソコンの無許可使用にハッキング、間違いなく犯罪行為である。もしUSBメモリの中身がウイルスなら姫川のパソコンはこの時点でお釈迦になるか汚染されるかだが中身は硝太の予想通りただの動画と画像ファイルだったようで多数の動画と画像だけが並んでいる。
「ヒヤヒヤさせないでよ」
「龍珠組も銃器密輸に関わっているような組員が半年単位で消えてたら流石にピリつくだろ」
今ならまだ硝太の存在を誤魔化せるだろうにパソコンにまで手をつけて証拠と傷を増やすようなことをするので肝を冷やしているフリルの事を気にせず硝太は画像ファイルを確認する。多数の画像からちゃんと調べれば場所の絞り込みは可能だろう。暴力団が密輸に使えるような場所が全国何処にでもあるとは思えないのである程度の数だけ持っておいてそこを何回も使うようにしているはずだ。そして『傀儡』となった男は龍珠組の銃器の密輸に関わっている。そんな男が半年も消えれば龍珠組も高飛びやスパイ活動などを疑ってあくまで周りにバレないように調べ始めるはず。つまりその場所に張り込めば簡単に釣れる。
「危なすぎない?」
「策はある」
ヤクザを避けるどころか釣ってしまおうと考えるのはもう驚くこともない。白岩もそのつもりで情報を渡したのだろう。硝太のことを調べ尽くしているはずの白岩が渡しても問題ないと考えたということは硝太は龍珠組と関わっても対処出来ると考えてのこと。危険なのは間違いないが何を言うにしても今更なのでこれ以上は追求しない。
「とにかく明日、この辺りを調べよう。時間は空いてる?」
ファイルの内容を確認し終わった硝太の言葉にフリルは黙って頷く。その後、硝太は家主に何も言わずに最初からいなかったかのように姿を消した。
次回はようやく龍珠組回ですね。
因みに今回出てきた傀儡、という単語ですが
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未確認生物Aと未確認生物B、コレどこかで聴いた様な…?