【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
入学式後。美少女マルチタレント不知火フリルと出会い『奇跡』の出会いをした硝太。不知火フリルの周りの不安定さに一抹の不安を抱えながらも兄姉と共に帰宅する。


#9 早くアイドルにしてよー!

「ミヤえもーん!早く私をアイドルにしてよー!」

 

 斉藤宅に辿り着くが早いかミヤコに泣きつくルビー。そばには興味なさげに本を読むアクアとその隣で何か難しいことを考えながらSw○tchでゲームをしている硝太。

 遊び要素があるとはいえ、ルビーが泣きつくような自体になっているのにアクアも硝太も特に動かないということは学校で何かあったな──と、ミヤコは一人で考える。

 アクアは母であるアイを失った後の唯一の血の繋がった家族である妹に対して言わずもがなシスコンであり、硝太は周りの状況に影響を強く受けるタイプだ。そんな二人がルビーが泣きついているのに我関せずを貫くのは非常に珍しい。

 

「急かさないで...アイドルグループ作ります。はい、オーディションって訳にも行かないの」

 

 とはいえ、ミヤコもルビーにできることは少ない。アイドルというのは昔はソロでやるのが多かったが今はA〇Bなどの影響もあり、グループが一般的だ。アイも最強のセンターという肩書きがあったとはいえB小町というグループの一アイドルに過ぎない。

 そしてグループを作るとなった場合必要なものは多い。人を雇うスカウト、衣装や曲を作る、あるいは外部に任せる場合その中継となる人物。手続きも必要だしおいそれと作ることは出来ない。

 何よりグループのメンバーが足りない。アイドルになるような顔のいい女の子はただでさえ母数が少ない上に意欲のある子は大手のオーディションに応募する。アイドルになりたいのならそれが最も早く簡単で堅実的だ。そのため苺プロのように決して大きくない、そもそも十何年もアイドルグループを作ってなかった事務所がオーディションやるとしてもくる子に期待はできない。

 

「でも、このままじゃ虐められる!」

「その時は僕が何とかする」

 

 焦るルビーの「虐められる」という言葉に一番早く反応したのは予想通り硝太だった。強い目つきでこちらを見てくる目はとても手先だけはゲームに集中しながら出してる目とは思えない。ルビーの為なら人殺しすら躊躇しない、そのような決意すら感じさせる。この子はマザコンなのはその通りだがシスコンとブラコンの気配もある。

 とはいえ、硝太がルビーのいじめに介入したらその先は事件が発生するだけだ。この子ならこういう時間違いなく、いじめっ子を粛清する。幼い頃にも同じようなことがあったからすぐにわかる。あの時はきつく言い聞かせたが、なんだかんだまた同じことをやるという嫌な確信がある。

 

「元よりアイドルのメンバーなら苺プロから探せばいいでしょ」

苺プロ(ここ)から?誰かいい子いるの?」

 

 待っていましたと言わんばかりに硝太の顔が輝く。ゲームを中断して音も立てず、というより音が到達するより早く、ルビーの隣に移動する。

 

「そりゃもちろん。苺プロだから他の事務所とゴタゴタがなくて、可愛くて、姉さんとの相性もよく、オマケにアイドルに詳しい!」

「そんな子いた?」

 

 楽しそうに硝太が喋る特徴に合う子は残念ながらこの事務所にはいない。──いないのだが、硝太はまるでその子を恋人を自慢するように言う発言から嘘とも、妄想とも思えない。この子は別にアイドルに詳しいわけでも好きなわけでもないのに、そんな子がすぐに浮かんでくるとは思えない。

 ルビーなら知っているかもしれないと思ってルビーの方を向くとルビーは明後日の方向を向いており、こちらと目を合わせようとしてこない。

 

「硝太」

 

 先程まで本に集中して黙っていたアクアが硝太を落ち着かせるように声を出す。この場で一人だけ硝太のおすすめが分からないミヤコはアクアの言葉を聞き逃さないようにアクアの口元に視線を集中させる。

 

「ミヤコさんがアイドルになったら、誰がマネジメントするんだ」

「あ、そか」

 

 硝太は大事なことを忘れていたと気付いたようでまた考え始める。アクアはそんな硝太の様子を見ると呆れた様子でため息をついて再び読書に入り、ルビーは顔を手で覆い隠して頭を抱え始める。

 本当にわかっていなかったのは私だけのようだ。と、ミヤコは一時思考放棄状態に陥るものの、すぐさま復帰して硝太を見る。

 

 

「え?硝太、勘違い、よね?」

「苺プロの人で、可愛くて、姉さんと相性良くて、アイドルに詳しい。そんな人お母さん以外に誰がいるってのさ」

 

 ミヤコの間違いであって欲しいという願いを乗せた問いを硝太は邪な気持ちを一切含まない笑顔かつ食い気味で否定する。

 硝太は確かにアイドルに詳しくない。アイドルの常識を知らない硝太なら子持ちで、40代に入った女が10代のキラキラした子とアイドルをやれないということを知らない。

──いや待って。アイドルに詳しくなくてもそれぐらいわかるでしょ!?普通!?

 ミヤコの母親としての心配は尽きない。

 

 

「硝太、私貴方の母親なのよ?年齢だって若くない。冗談で言うならともかく、本気で考えてはないわよね?」

「アイさんだって二人を産んだんだ。それにそこらのアイドルなんかよりお母さんの方が何百、いや何億倍も可愛い。美容にだって気を使ってるし、努力家だ。出来ないはずがないって、思ったんだけどなぁ」

 

 惜しいなあ、なんて口にしながら代案を考え始める硝太。しかし硝太の出す代案は代わりの(アイドル)を探すというよりプロデュースやマネジメント方面の人が誰かいないか探すという意味だろう。

 硝太からすれば「アイドル=可愛くて歌って踊れる人」程度の認識で尚且つ二人を産んだアイを含めたB小町以外のアイドルを知らないのだから、条件だけならミヤコは十分合致する。これはミヤコには知る由もない事だが、硝太にとっての理想の女性像、女性の象徴のような存在は母親であるミヤコから動くことは無いのでこれ以上の案はまず出てこない。

 

「お前ミヤコさんのアイドル衣装見たいだけだろ」

「あっバレた?」

 

 ミヤコの引きつった顔を見ながら硝太は40代女性のアイドル衣装という傍から見たら中々きついが本人は楽しそうなものを夢見る。

 同時に、そんな彼女がステージに立ってドームをサイリウムで染めあげる姿を想像している。硝太からすればミヤコが一度芸能分野から外れて夜職に行っていた事はなんとなく察してはいるものの、それ自体は確定情報では無い。だが、苺プロとしての夢だったプロデュースしたアイドルがドームライブを成功させるという夢をその当時の社員と接したからか同じように共有している。硝太本人のマザコンも相まってその夢は「叶えさせたい」という形ではあるが夢と言っても間違いじゃない形まで変化している。

 それでも、流石に40代はきつい。

 

「と・に・か・く!私はアイドルやらないからね!」

「ぶー、いけずー。なら姉さんと兄さんに代案あるの?」

 

 ミヤコの言葉に対し可愛らしく頬をふくらませませて不満を言う硝太をミヤコは真面目に対応するとなぁなぁになると察し一先ず無視してアクアとルビーの方を向く。ルビーは顔を横に振って案がない、と言うがアクアは本から再び視点を外してポツリと呟く。

 

「フリーなら、いるじゃん」

「え?いるの!?」

「おいおい、兄さん?正気?」

 

 アクアが「いる」と言ったことでルビーは少し驚いた表情でアクアの方を向くが、先程までの乗り気は嘘だったと言うように硝太が苦虫を噛み潰したような顔で苦悶の声を出す。あのただでさえ常識知らずの硝太がアクアの意見に反対を出すというのはかなり珍しい。恐らくアクアに対して同調して誰のことを言っているのかが分かっているのだろう。それで微妙な反応を出すということならアクアも問題児を出すのか、とミヤコは少々気構えながらアクアの続きの言葉を聞く。

 

「フリーランスで、名前が売れてる割に仕事がなくて...顔が可愛い子」

「...」

 

 硝太の頭の中にいる人物とアクアの考えている人物が一致していることを確認したようで硝太が先程ミヤコがしたような引きつった顔を作る。

 

「流石に受けてくれないと思うけどな。有馬先輩は」

 

 硝太がその顔で出してきた女優はミヤコ視点から見て自分を出すより何倍も常識に反った答えだった。




硝太…本当に気持ち悪いよ…
アイドルの常識を知らないため、実母をアイドルにしようとする男。

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