ツクヨミが再び硝太に変装、
そんな頃ルビーは硝太が芸能科に来ないことで不審に思う。
放課後。三兄弟が
何事もなくツクヨミと入れ替わり、スマホも返してもらった硝太は手に持ったもう1つのスマホのデータをウイルスやダミーが無いかは精査した上で自身のスマホにいくらか送る。
そのスマホは何処から手にしたのか、と言うとツクヨミが硝太の変装をしている間、
そんなものを渡すのだから
敵とすれば脅威だが、相手の目的がわかると余計な所に手を出す気はないのがわかるので必要以上の警戒はむしろ悪手と分かる。ならば無駄なことはせず相手の意図に沿って行動した方が利がある。
それよりも重視するべきはルビーの現状。最初は単なる違和感だった。いつもの姉じゃない。そう気付いた時にはもう遅かった。天真爛漫で、悪く言えばアホの子よく言えば天然で綺麗で真っ直ぐな姉の雰囲気が変わっていた。
そこには闇があった。性質でいえばインスタントバレットの持つ破壊願望に近い。違いがあるといえばその発端は善意のような破壊願望とはほんらい対照的な感情から生じていること。芸能界という舞台がそうさせたのか、ルビーの感情は酷く捻れていた。このままだと行けないと思い、その感情に方向性を与えた。
──馬鹿な話だ。一歩踏み出すのを諦めていれば、ルビーの問題は時間と共に解決したであろうに。
方向性を与えた結果ルビーは闇を封じ込めることに成功した──ように見えて実際はそんなことはなく、むしろ見えにくくなっただけで強くなっているようにも見える。
ルビーがこうなってしまった原因は二つ。一つはルビーの闇に方向性を与えてしまった硝太。もう一つは高千穂にいた雨宮吾郎という男。どういう意図かはともかく
その原因は分からない。だが雨宮吾郎という存在が苺プロにおいて最悪の伏せ札だったのは間違いない。
「…考えても仕方ないか」
今更何か考えたところで雨宮吾郎の影響は既に発生している。ここからはルビーの傷を出来るだけ減らすことを考えなくてはならない。
「何を?」
「──わっ」
余所事を考えていたとはいえ、背後にいたルビーに気付かず、体が跳ねる。今回は
「姉さん」
「今日の硝太は大変だったねー、もしかしてそっちでチョコ…はないか」
「うん無いけど」
ルビーはいつも通りの元気な笑顔を見せている。しかし瞳の奥は全く笑っておらず、その裏は今日の昼に来なかったことを気にしているのがわかる。毎日のように行っていたのが一日だけ来なかったら疑いの目を向けるのは当然。疑われるのは計算内だが怒りの感情が見えると肝が冷える。
──ツクヨミに変わったことがバレたか?…いや、直接見ていないなら姉さんも確証は得られないはず。僕がボロを出さなければいい。
ツクヨミの変装は技量が高い。あかねやアクアのようなキャラクターに対する演技力が高いのとは少し違う、違和感を持たせない技術。それにツクヨミはルビーに会っていない。だからこそ疑問を持たれているとも言えるが、小さな疑問なら問題ない。人は自分にとって都合のいいことを信じやすい。ルビーが信じやすい思考への誘導は容易なので決定的な証拠には、結びつかない。
「硝太のやつカラスに餌をし忘れたんだと」
「ああ、よく家に来る子?硝太も変なことするよね〜」
前を歩いているアクアが朝のことを思い出して答える。実際はルビーが聞いているのは昼の話なので若干ズレているが、ルビーを騙すには丁度いい。硝太は否定せず話題を変える。
「兄さんも姉さんも帰ってからが大変だよ。事務所に変なの届いてるかもしれないから」
「その辺はミヤコさんが何とかするだろ」
アクアとルビーがいくら芸能人で贈り物をしたいと考えても直接会いに行けるのは陽東高校の生徒ぐらいしかいない。彼らからすればアクアは手頃な場所にいるイケメン、という形でアクアのちゃんとしたファンはあのチョコの量からしてあまりいないだろう。当然アクア達のファンがみんな生徒というはずがなく、特にアクアのファンはほとんど今現在彼の代表作ともいえる『東京ブレイド』の舞台で知ったファンだと考えられる。2.5次元と『東京ブレイド』のファン、今はこの2種類だろうが今後はもっと増える。その中からアクアにバレンタインを渡しに行くファンなんてそんな数はいないだろうが仮にも国民的マンガの舞台でメインキャラの一人を演じたイケメン俳優、全くないなんてことは無い。
ノブユキの時と同様、こちらもアクアが受け取る前に事務所が処分するだろう。
「硝太、変なのは失礼でしょ」
「自分の所属も明らかにできない相手からの贈り物なんて金銀財宝でも変なものだよ」
なんであれ気持ちが籠っているプレゼントを無下にするような言い方にルビーが突っかかるが硝太は悪びれもせずに言い返してみる。
「贈り物」というワードでルビーは昼の会話を思い出す。今日芸能科に来なかったら硝太に向けてフリルからの
その為にもルビーはわざとらしく硝太を誘ってみる。
「あ、贈り物といえば」
「ん?」
「硝太、ちょっと帰ったら荷物だけ置いてお使い頼んでもいい?」
「いいけど、今じゃなくて?」
「そうそう。お姉ちゃんが行っていいって言うまでダメだよ」
「なんか企んでるな」
「まぁね〜」
お使い頼んで今一人で買いに行かれては誘導など出来るはずもないので出ていくタイミングはルビーが細かく決める。特にバレても問題ないので繕うことなくわざとらしさ満載で煽るように笑いながら硝太とアクアの前に出て背を向ける。
アクアはルビーに疑いの目は向けていたものの、アホ毛ではてなマークを作っている硝太の顔を見て大まかな事情に察しがつく。
「お使いはいいが変なとこ歩くなよ、天井とか壁とか」
「え?なんで?」
「何でもだ。普通に考えろ、硝太がルビーの弟ってことはもう世間にバレてるだろ」
察しがついたなりに、小さな助言を与える。ここで人が会いにくることを言わないのはアクアなりの善性か、それとも硝太達の関係を楽しんでいるのか。硝太に「決められたところを走るのは危険だからやめなさい」ではなく、「ルビーの弟という世間の目があるからそれ相応で動きなさい」と言うことで目的を隠す意味でも使える。
「えー、面倒くさい」
「必要なことだ。これからB小町はもっと売れる。お前もそれ相応の対応ができるようになれ、弟を名乗るなら尚更だ」
「全く、弱いやつに合わせるのは疲れるよ」
心底面倒くさそうな顔を見てアクアは兄として必要なことを説くが硝太は納得しきれていないらしい。当然のように壁を走ったり、天井に張り付いたりなど重力を無視した軌道で走れる硝太からすればその辺を歩いている人に合わせて歩くだけでも怠惰に思えてしまう。硝太の場合ただ走るのが早いから、という次元の話ではない。他者と歩幅を合わせて歩く、という当然のことですら難しいのだ。例えるなら利き手とは逆の手だけで生活するようなもの。大きな作業ならともかく、細かい作業は全くできない。
「それでも、必要だ。お前の基準には誰も合わせられないからな」
だがそんなの多数の人間からすればただの言い訳に過ぎない。どれだけ苦しくても犯罪が正義とされないように、悪は悪と割り切って考える。人間社会を生きるならそのルールに乗っ取らなければならない。ルールを書き換える、なんてことはできないし、してはならない。硝太の基準でルールを作っても今度は残った多数の人間が何も出来なくなってしまう。切り捨てるなら多数派から溢れた少数派だと言うのは考えなくても分かる。
「──悪かった。そうするよ」
他でもないアクアにその現実を突きつけられ、流石の硝太もふざけた顔が出来なくなり、素直に頷く。硝太は
硝太はアクアに現実を言われたことより、アクアに言わせてしまったことを恥じた。
──何やってるんだ、僕は。
誰だって自分の兄弟が人の股から産まれるのも烏滸がましい人の形をした化け物だと思いたくない。幼少期からずっと兄姉として、介護人のように見守っていたアクアとルビーはその傾向がより強い。だが現実はそうではない。硝太はインスタントバレットというデタラメな能力を使いこなす化け物。高千穂の旅行先で知ったその事実を、二人とも意識しないように生きていた。それを意識させるどころか口に出させてしまった。ルビーの時と同じように、相手の心に傷を作ってしまった。硝太の軽い気持ちで、簡単に。反省なんて馬鹿馬鹿しい。反省しようが後悔しようが時間が元に戻らないのなら無意味でしかない。
以降、誰も口を開く事なく斉藤家に帰宅した。
帰ってからすぐ、ルビーに頼まれたお使いを済ませる。お使いの内容はどこにでもある日用品。帰りに寄って買うでも済ませられたもので分かってはいたが、人払いである。
問題は何故人払いをする必要があったか。最近のルビーならむしろ家の外に出さないようにする。買い物も必要だとしても同行しようとするはず。何かを企てようとしても時間は簡単なお使いをしている間しか稼げず、なにか出来たとしても弟である硝太に隠し通すのは厳しく、隠し通すメリットはない。
「急に思い出したように言うってことは…
そこまで口に出してふと思い出す。
ルビーのアイドルとしての一番最初の仕事、ぴえヨンダンス耐久動画の時の事。あれはぴえヨンが最初はドッキリ企画にしようと考えていたいたものを硝太が否定してぴえヨンブートダンスになったのだ。つまりドッキリ企画をやる時一番邪魔なのは硝太。その瞬間のみ隠せれば良いのだから、隠し通す必要はない。そして今のルビーはドッキリ企画を迷うような精神状態ではない。
「そうか、ドッキリか!」
「えっ!?」
思いついたまま口にするとヘンテコな声が耳に届く。その方向に首を回すと、そこには素直に驚いた表情のフリルが立っていた。
整えられた綺麗な黒髪。こちらを覗き込んでくる猫のような瞳。キレイなスタイルはギリシャの彫刻品を初めとした芸術品の数々に勝るとも劣らない。顔はほのかに赤く、白い息が目立つ。立ち姿は待ち人がいるように見える。
「──何してんの?」
「こんばんわ、ちょっといい?」
ここにいるはずのないフリルの登場に自分の反応の衰えを感じながらも要件を訪ねる。フリルは少し困ったような顔で近くの公園を指さした。
◇◇◇
事前連絡も無しで急に来たフリルを世間の目から隠すように近所の公園へと駆け込み、近くのブランコに座る。
「急で驚いたよ、何かあったの?」
フリルの様子からルビーが誘導したのはフリルに会わせる為だと言うことが分かった。先程考えていたドッキリ企画説は否定されたことになる。だがその場合ルビーが呼んだのだからフリルが来た理由にインスタントバレット関係が否定される。だがインスタントバレット関連の話でないとすると2人っきりになる理由がない。
彼女が何の連絡も無しに会いに来るのには必ず理由がある。それもそう単純な理由では無い。苺プロの人間では無いフリルがここまで来るというのはフリルの事務所から見ても、苺プロから見ても、そして第三者から見ても変な勘繰りを起こしてしまう。
「そんなに難しい理由じゃないよ」
フリルはこちらの心を見透かしているようにこちらの懸念を否定する。
「ただ今日学校に居なかったらどうしたのかなって思っただけ」
「心配かけたのか...ごめん」
今日は突然芸能科に行かなかったので心配をかけていたようだ。それはそれとしてスマホで連絡するなりL〇NEで聞けばよかったのでは?と思ったが考えてみればスマホはツクヨミに渡していたことを思い出す。ツクヨミが無駄な返信をするとは思えないしフリル目線ではいつも来るはずの硝太が今日だけ突然来なかった、ということしか分からない。GPSも使えなければあの時点で硝太の位置を探るのは不可能。それこそ、魔法さえなければ。
フリルには話していなかったがフリルの立ち位置の関係上、フリルとツクヨミに今回の話はしてもいい。というよりして然るべきだろう。
「大したことじゃない。ただ
「
「単なる情報交換だよ。リーダーが直接来てね、あっちのインスタントバレットを明かしてもらった…『情報』というらしい」
首を傾げるフリルに今日出会った
「じゃあ
「うん」
先日龍珠組と話をした時に言ったように今現在の
「だからしばらくは気にしなくていい。なんかあったら話をするから羽を伸ばして──」
「でも、硝太は何か隠してるよね?…君の事だしルビー?」
話を切り上げて帰ろうとした背中にフリルの言葉が突き刺さる。
黙って首だけ回すとフリルが探偵が犯人を追い詰める時のようにそう思った理由を説明し出す。
「最近硝太がルビーのこと気にかけていた事は知っていたし。硝太はルビーのこと大好きだから、きっと私より先に気付いていただろうから対策は打つだろうなって」
フリルの言っていることは全て正しい。
高千穂の旅行の後からルビーの中にある一つ感情。絶望と近く、失望に遠い。その感情の名を僕は知らない。きっと一生理解することは無い。
それだけなら、ルビーを慰めるだけでよかった。その場にいたのはただの無関係の医者。だからどれだけ酷い死に様を晒しても勝手に折り合いをつけて解決していける。そう思っていた。
どこの誰かが手を加えたのだろう。殺意や怒りに方向性が生まれていた。この形はとてもよく知っている。それはルビーには、優しい姉にはあってはいけないもの。1度でもそれを使えば、簡単には戻れないもの。何がなんでも達成させるという熱意を吐き捨てた執着。凝り固まり、呪うことに特化した悪意。
ルビーにはソレを使わせる訳にはいかない。その為にルビーの心の奥でそれを生み出し続ける原点を破壊すること考えた。
なぜルビーにそんな感情が宿っているのか、どう殺せばいいのかは分からない。だけど放置したままではいられない。ルビーをそちら側に行かせる訳には行かない。
「──フリルに嘘はつけないな」
「君がルビーと同じぐらい真っ直ぐで、優しいからだよ。少なくとも、隠し事をしてるって当たり前のことで傷つくぐらいには」
「優しい?違うよ、フリル」
優しい。フリルは間違いなくそう言った。何かの間違いでもない。ルビーではなく斉藤硝太を指差して優しいと言った。優しさとは、心が暖かく思いやりがあることを示すと教わった。
──フリルはどこで勘違いしたのだろうか。僕が優しいなんて、あるはずがない。■■を見捨てた僕に優しいと言われる筋合いは無い。■■の言葉も、声も忘れた僕はただの臆病者だ。そして間違いなくあの日に惹かれている僕は人として壊れている。
「...僕は優しくないよ。ただ──優しくなりたいだけ」
自分の声とは思えないほど低く重い声でフリルの言葉に返した。絶望の縁、地獄の底で自分自身という名の感情をひたすら殺し続けた自分を救ってくれたお母さん。そのまま使いものにならない子供をここまで育ててくれた。彼女はとても優しい。そんな彼女の為になりたいと思った。それは、同時に優しくなることだったのかもしれない──と、今更ながら思う。
誰かに奉仕できるのは出処を置いておくとして優しさに間違いはない。
ただそれだけ。それ以上のものは斉藤硝太には無い。人として歪んでいるとはいえ、仮にもエンパス体質を持っているので人に共感すること、というより波長が合うことは少なくない。フリルのように助けられる人物を助けたいと思って行動することもあるにはある。だけどそれは斉藤硝太が優しいからじゃない。斉藤硝太が行動する時は必ず家族や友達に影響があるときでしかないのだから。今回のようにルビーやミヤコが不幸にならない問題には向き合う気すらない。本当に優しい人なら知らない他人にも優しくしただろう。だけど自分は知らない他人には優しくしようとすら思えない。彼らを理解したくない、共感したくない。
だから外を出る時も帽子やサングラスで人との間に自然と境界線を作る。そんな自分だから境界線の内側に来てくれないと友人になろうとすら思わない。フリルですらルビーがいなければ赤の他人で済ませていたし、
「そっか」
フリルは否定しない。きっと自分が考えたことも見透かしているのだろうが何一つそれは違うと言い返すことは無かった。ただ月が隠れた空を眺めている
その様子を見てフリルは優しい人なんだな、と思った。形だけ真似たような人間なら即座に僕の言葉を否定しただろう。君は本当は優しいんだ、そんな気持ちのいい嘘を並べて終わらせようとしたに違いない。けど彼女はそうせずに隣で小さくブランコを漕ぎながらぼーっと上を眺める。
「うん。僕は嫌われて当然の人間だよ。ましてやフリルに気にかけてもらうほどの人じゃない」
「...でも、私は嬉しかったよ」
「フリル?」
上を向いていたフリルの顔がこちらに向く。綺麗なペリドット色の瞳に頭をおろしている僕の姿が映る。
「君が計算づくでやったことだとしても、君が助けてくれたことは本当に嬉しかったんだよ。硝太が変な人でも、あの時の行動は決して──」
「──間違いなんかじゃないんだって」
「──ぅ、あ」
雲の隙間から月明かりが差し込む。
月明かりに照らされたフリルの姿がとても綺麗で、呻き声が出てきた。その姿はまるで僕が斎藤硝太として産まれた──ではなく救われた日のお母さんのようだった。
『ごめんね、硝太』
最初にそう言って泣きながら抱きしめてくれたお母さんの姿。『もう1人にはしない』と言い切ってくれたお母さん。それこそが僕にとってのオリジンであり、僕はそれに酬いるために生きている。フリルとってはあの事件がそうなのかもしれない。
今更、君が赤の他人だったら手を出していなかったとは言えない。もしそう言ったとしても必ず『でも私を助けてくれたのは硝太だよ』なんてこと言われるだろうから。
「硝太が自分は優しくないって言うなら、それでもいいよ。その代わり私が硝太が誰かを思いやれるいい人だって言い続けるから」
「フリルは強いね。僕はそんなに強くなれない」
「けど私は君のそういうところ、好きだよ。ちょっとした事で凹んで今もこうしてナヨナヨしちゃうけど。やっぱり大切な人のために頑張れるとこ」
もうちょっと自分の事を大切にして欲しいけど。と口をとがらせて文句を付け足すフリル。子供のような文句なのに、何故か涙腺が熱くなる。
「君が自分は優しくない、って思う理由は分からないけど。安心して。君が自分自身を許して認められるようになるまで、私が証明するから。何度でも」
「──ありがとう」
震えた声では、お礼しか言えなかった。
◇◇◇
夜風に当たり、少し冷えてきた時間帯。
身体の震えが段々治まってきたのを確認したフリルがカバンから小さな袋を取り出す。
「──と、言うわけではい」
丁寧に包装されたその袋の中には見覚えのない小さなハート型のチョコレートが幾つも入っている。
「あ、ありがとう」
袋の中のチョコレートをちゃんと見ると型でとってある跡がある。手作りチョコと見て間違いは無い。
「すごいね。一つ一つ手作りだ」
「始めてだけど味は保証するよ。硝太の分は一番よく出来た奴だからね。」
勝ち誇った顔のフリルはそう言うとブランコをスイングさせて飛び降りる。
しかし僕はそれよりチョコが何故手作りなのかということに疑問を持っていた。お菓子作りが趣味だったりするならわかる。しかしフリルは始めてと言い切った。ただでさえバラエティなどの仕事で時間が足りない上に初経験となると作るのは時間がかかるだろう。
それだけの思いを込めたチョコを僕にだけ渡す。その意図が上手く掴めない。みなみさんもルビーもフリルにとっては友達だろうに。
「え?なんで?」
「それは内緒」
フリルはこちらを振り向かずにそう答えた。
口調、声質こそいつも通りクールだが、声には熱が入っている。この場合の熱と言うのは勢いという意味では無く、体温が上がっているような状態を指す。やっと僕が落ち着いたというのに逆にフリルの状態がおかしくなったら意味が無い。そう思い手を出そうとしたが、それは途中ではばかられた。
「それじゃ、ルビーに悪いし私は行くね。また明日」
「ああ、また明日」
フリルは一人で足早に公園を出て行った。何か予定でもあるのだろう。嵐のように心を乱して去っていったフリルの背中は、もう見えない。雲から出てきていたはずの月も、役者がいなくなって公演の終わりを告げるようにいつの間にかまた雲の中に隠れてしまった。
一人残った硝太は徐ろにブランコを漕ぎ始める。フリルからもらったチョコの袋を開けて一つだけ摘んで口の中に放り投げた。
「甘...うん。美味しい」
口の中で溶け始めるチョコレート。少し甘すぎる気はするが初めてとは思えない出来前。余程頑張ったのだろうということが伝わる。だと言うのにいつの間にか湧き出た胸騒ぎは収まらない。不幸を告げるものでは無い。むしろ嬉しいはずなのに心臓が強く鼓動している。
とても甘くて、ちょっと寂しくて、すごく緊張する。フリルに
「知らない感情だ」
フリルと出会う少し前はファンを名乗っていたがフリルが出る作品を見る程度で熱心なファンという訳ではなくどちらかと言うとミーハーのようなものだった。
それが今ではキャラとして作っているわけじゃない本物に触れて、感じている。熱心なファンの人でも分からないようなことを知れたような気がする。だと言うのに、「まだ知りたい」「もっと一緒にいたい」と言い続ける自分がいる。胸の鼓動は激しくなり続ける。
「間違いじゃない──か」
あの時の判断を、自分は悔いる気は無い。確かに手傷は負ったし生死の境をさ迷ったがそれ以上のものを得られたから。
フリルは綺麗だな。見た目はもちろん、その精神性も含めて僕は彼女のことを綺麗だと思ったから。その輝きを見られただけで十分だ。
──十分?それは嘘だ。もっと触れたい。もっと近付きたい。もっと、彼女に──近くにいて欲しい。
「これは困った」
理解できない感情に浸されて戸惑い、本心から零れたその声に答えるものは、誰もいなかった。
きょ、今日…長いな…いや戦闘シーンでもあれば余裕で超えていくんでしょうけど恋愛シーンでこれだけ書けるとは思ってなかった…まぁ半分ぐらいスレにあったやつを改修しただけなんですけど
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この辺りからフリルがヒロインしてる…って思ったけど本格登場してからずっとヒロインだったわ