フリルってヒロインにありがちな可愛い!じゃなくて美しい!綺麗!って感じだよねってところに母性が盛られました。
硝太をお使いに行かせるというていでフリルの元まで誘導する。硝太にそんなことをした理由は悟られているだろうが元々感は鋭いが基本素直な子なのでその辺のことはどうでもいい。
「…フリル」
硝太とフリルが合流しているであろう場所付近まで行く。二人が何をしているのか盗み見ようとしたのだが、二人の姿は見えない。人通りがそれなりにある場所なのでフリルが人目につかないように場所を移したと考えるしかない。だがルビーには思い当たる場所がない。硝太はただお使いに行っただけ、フリルの目的もバレンタインチョコを渡すだけなので一般的な思考なら放っておいてもいいはず。むしろ普通の姉としては応援してあげるべき。
しかしそう思うと同時にルビーの心中は複雑な事になっていた。みなみが言っていたように弟に恋人ができることに対して複雑に思うところもある。だがそれ以上に大きな懸念点があった。
「フリル、知ってるんだろうな…」
硝太の持つインスタントバレットと言っていたデタラメな力。その力によって高千穂で巻き込まれたのをルビーは片時も忘れていない。今までも普通の人とは違う子だとは思ってはいた。格闘技やスポーツの映像を見ても大したことないように感じられる程の身体能力。人の気持ちに共感するエンパス体質を持ちながら他者を避けて、理解を拒む孤独感。幽霊が見えるようなことを多々言っていた幼少期から持ち続けている強い霊感。どれをとってもマトモとは言えないものだったがそれでもちょっとおかしなとこがあるだけの子だとルビーもアクアも信じていた。自分達が転生した子供、ということもあって
それを、きっとフリルは知っている。硝太の殺し合いを知って、黙っている。証拠なんてない。彼女から直接聞いた訳ではない。だがフリルのストーカーに硝太が刺されたこと、それから二人でいる時間が長くなったことを踏まえると無関係とは到底思えない。おそらく、硝太を刺したのがフリルのストーカーだと言うのは嘘で硝太を狙ったインスタントバレットとかいう魔法使いの1人なのだろう。そう考えるとこれまでの不審な点が全て一本にまとまる。
── 逃げられない理由があったんだろ。自分の命を秤に乗せても捨てるだけ大切なものがあったんだ。
フリルのストーカーに刺された硝太を見たアクアの言葉が脳裏に過ぎる。あの後フリルから話を聞いてフリルを守るため、としていたが考えてみればいくら友人とはいえ硝太が命を張るのはおかしい。フリルの認識はどうであれあの時も硝太は『家族』を守る為に行動したのだ。つまりあの時点からインスタントバレットの事件は始まっていた。そしてそこに巻き込まれたフリルは硝太から話を聞いてインスタントバレットのことを知ったが、硝太に押されて協力している──というのがルビーの推理だ。
フリル側が硝太をわざと戦いに行かせるような行動を取るとは思えない。だが同時に『やる』と決めた硝太をフリルが止められるとは思えない。そのためこのような推理になった。
仮にこの推理が正しいとしても、フリルは悪くない。硝太を巻き込んだ存在は別にいてフリルもある意味その被害者だからだ。ルビーはフリルに恨みや怒りは持たない。それでも、止められなかったフリルを硝太の伴侶とすることをルビーは承認できない。ただの友達ならいい。友達には友達の距離感があり、互いに隠し事をすることも嘘をつくことも当然あってそれをお互いに理解している。だが恋人──家族は違う。硝太の恋人になるなら硝太が危険なことをするのを彼が嫌がっても止められる人でなければならない。ルビーは姉として、その線引きだけは譲れない。
だからフリルには悪いが今日は邪魔する予定だった。硝太を誘導だけさせておいてチョコの受け取りはさせるが告白だけはスマホを鳴らすなりして止めさせるつもりで近くに来ていた。だが見失っては仕方がない。そもそも硝太は恋愛ができるほど情緒が育っているはずがないので縛られるものが増える恋人関係は硝太は嫌う。最低でもミヤコさんが止めるなりなんなりしそうなものだが。
「何やってんだろ私」
心を落ち着かせるとそんな言葉がポロリと出る。これは硝太の幸せを害する行為だ。硝太には硝太の人生があってアイドルでも芸能人でもないのだから恋人1人作ることぐらい硝太は自由にしていいはずなのに。今のルビーにはそれが身の毛もよだつ程の忌避感がある。高千穂前、フリルとの買い物に行く硝太を見た日からこんなことを考えてしまっていた。──アイ以外の人と付き合う硝太を見たくない、アイ以外の人と恋をして結婚する硝太でいてほしくない、と。
個人の幸せを否定する、それこそ夢を押し売りするアイドルの貞操観念を押し付けるような行為だがそう思ってしまった。
「あれ?」
そんなことを考えている間に足を進めていると知らない場所を歩いていることに気付いた。開けた場所で周りには数人のおじさんが川に向かって釣竿を降っている。考え事をしている間にいつの間にか近所の釣りスポットに来ていたらしい。近所にこんなところあったんだ、と思いながらも釣りをする気は無いので釣り場に背を向けたその時、懐かしい声が聞こえた。
「ちっ、調子悪いな」
どうやら声の主は釣りをしていて今日の結果はそこまで宜しくないらしい。周りと比べても大振りな竿の動かし方から釣り以外も調子が良くないことが伺える。振り返って声の主の姿を確認したルビーの瞳に映ったのは金髪の男だった。年齢は50代ほど、丸い背中はかなり老けてみえる為60代と言われても通じると思う。そのくせ隠しきれないギラギラしたオーラは業界人であることを証明している。
ルビーはその男に見覚えがあった。あの日と変わらない──訳ではなくかなり老け込んではいるものの、面影はある。わかりやすい金髪にサングラスの特徴が変わらないのはある意味彼のキャラクター性と言ってもいい。
ルビーは思わずその男に近付き、男の名前を尋ねる。
「壱護さん…?」
金髪の男──斉藤壱護の動きが止まる。
聞き間違いを願っているようにゆっくりと体が捻られて隠されていた顔が見える。まるで夢でも見ているかのように驚いている顔がそこにある。
「…ルビー」
斉藤壱護はありえない、と小さく呟いたあとルビーの名前を言う。これまで疑惑だったものがそれで正解だと理解した。斉藤壱護はルビーの全身を舐めまわすように見て偽物ではないと確認すると小さく尻もちをつく。
「何やっているんだ、こんな所で」
「それは私のセリフ。ミヤコさんと硝太をほっといて何しているんです」
斉藤壱護。彼は苺プロの元社長で地下アイドル同然だったアイ達旧B小町をドーム直前まで連れていった敏腕プロデューサーでもある。──そして、同時に斉藤ミヤコの旦那、つまり硝太の実の父親。
だが硝太は父親の存在を知らない。理由は簡単。アイが亡くなり、硝太が記憶喪失になる直前に姿を消したから。あの頃は自殺したと思われていた、だが今こうして生きているということは失踪したということだろう。今の苺プロの近所に釣りするほど余裕があるらしい。
「私、死んでると思ったんですよ。硝太と一緒に心中したって、ミヤコさんも──。何してるんですか!ミヤコさん今一人なんですよ!」
「…」
ルビーはこれまで記憶の隅に置いていた壱護の記憶と共に止めていた言葉をポロポロと吐き出す。アイが亡くなり、B小町は光を失った。新たな輝きも奇跡もなく、B小町は解散。それを見て消えていく社員、それでもとしがみついてくれた社員の為にミヤコが子育てと硝太の治療をしながら必死に守ってきた苺プロを放ってこの男は何をしていたのか。
詰め寄るルビーに壱護は言い返すことができるはずもなく唇を噛み締めながら押し黙る。彼なりに罪悪感があるのだろうが今のルビーからすればそんなものどうでもいい。
「硝太だって!あれから記憶喪失になってママのこと忘れて…でも家族が大事だからって」
「…硝太?」
「今も頑張って…間違えても…頑張ってるのに…」
硝太が記憶喪失になった一番の原因は、アイの死。それは間違いない。最愛の姉を失ったストレスは常人では言い表せないものだっただろう。それを4歳にして背負うことになった硝太が障害となり、全てを忘れてしまうのは無理もない。だが、記憶を失うトリガーとなったのは少し違う。
それに一番関わっているとルビーが思っているのが壱護の存在だ。壱護の存在で今の硝太──わけのわからないインスタントバレットなんてものを振り回して殺し合いに行くような硝太が作られた。それが間違いであることは言うまでもないが硝太がその決断をしたのに、記憶にすら存在しない壱護の影響があったのは間違いない。
ルビーは感情のまま壱護を押し倒して胸ぐらを掴み、泣き叫ぶように訴える。
「なんだアイツ、まだ生きてたのか」
硝太が記憶を失ったことに後悔して自分の選択を悔やむ──そう思っていただけに壱護が言った一言がルビーに深く突き刺さった。聞き間違いか、幻聴か。
しかし変わることのない冷淡すぎる声にルビーは先程までの自身の訴えが夢の出来事ではないかと疑った。
それは心の底から硝太のことをどうでもいいというような声だった。最早憎しみすら感じない、好きの反対は嫌いではなく無関心、というのを証明するような声だった。
「え?」
「ミヤコが苺プロを守っているのは知ってた。あいつなりに社員のことを守ってくれたのは嬉しく思う。──だけど、硝太をまだ生かしてたのか。捨てとけば良かったものを」
「何を言ってるの?硝太が、何?」
罪悪感すら感じさせず、むしろミヤコに落胆したようにも聞こえる。「そんなものも捨てられないのか」と。ルビーには信じられなかった。親が息子を出来が悪いの罵るどころか捨てるべきと判断し、捨てずに育てきったのを期待から外れていると落胆することが。
確かにミヤコにとって硝太は仕事とプライベートな時間を割食う重しだったかもしれない。それでも誰がなんと言おうと硝太はミヤコの息子だ。親は子供を愛するものではないのか。しかし壱護が語る硝太は子供と言うより投資先のように感じた。今後良くなるなら支援してその儲けの一部を貰う。落ちていくのなら全ての援助を切って生ゴミのようにまとめて捨てる。そんな冷淡さ、というより冷徹さは認めたくないがミヤコより硝太に似ており、血を分けた親子だと理解させられる。
「ルビー、もうアイは死んだんだ。硝太に使い道はもう無い。連れてたって邪魔になるんだ。捨てるか施設にでも投げるべきだ。そっちの方がお前も無駄なことをする必要が無くなる」
「硝太を捨てて置けばいい」という発言に動揺するルビーを「まだ硝太には利用価値がある」と思っていると勘違いしたのか壱護はルビーに諭す。「もうアイはいないのだから硝太はいなくてもいい」と。その発言で硝太のこれまでに察しがついたルビーは感情のまま壱護を投げる。しかしルビーの力では壱護に再び尻もちをつかせる程度で、力一杯振った反動でルビーは近くの壁にぶつかり、力なくもたれる。
──硝太は、道具なんだ。
良い悪いではなく、現実としてそういうものだ。決心をした硝太が自分をそのように扱うのは壱護の教育が記憶喪失した後にも深い傷のように残っているからだろう。
許せない。殺してやりたい。──そう思うと同時に、ルビーには一つの考えが浮かんでいた。
「…壱護さん、硝太がいなくなったら私はもっと売れるってこと?」
「ミヤコの負担が減って、どうなるかだろ。余った時間をどうするかはミヤコの自由だ」
「じゃあ壱護さんなら私をもっと売れさせれるんだ」
硝太のことを邪魔として扱うのなら、それが無い状態の壱護は今のミヤコより仕事に集中できて結果が残せると言っているに等しい。自分が上手くできなかった言い訳に利用しているだけならもう視界に収める必要性すらないが壱護の発言内容とルビーの記憶に残る壱護の姿からして壱護の言葉は言い訳ではない。壱護は旧B小町をドームライブ直前まで連れていった。たとえアイという光があったとしてもそれ単体で成り上がることが出来るほど芸能界が甘くないことはルビーもこれまでで理解させられた。アイと壱護、光と影。この2つが揃ってやっと旧B小町はドームライブに手が届く。
「…何が言いたい」
「私、もっと売れたい。手伝ってよ」
──この人が硝太のことを見る必要はない。私が守ってあげればいい。もっと売れて、最強のアイドルになればいい。そして私が、硝太の重しになる。
一目で硝太の父親だとわかる鋭い目つきにしり込みすることなく、ルビーは簡潔に、しかし誰よりも強い願いを言葉にする。
壱護の瞳の奥にアイの幻が映る。皮肉なことだが、壱護が硝太の父親であると同時にルビーはアイの娘。姿形はよく似ているし、発言1つで情景が重なる。
「逃がさないからね、壱護さん。硝太を捨てたこと、言い訳にしないでよ」
ルビーの強い言葉に、壱護は首を縦に振る以外、何も出来なかった。
色々あるけど壱護登場おめでとう。
…ずっとセリフとか地の文でしか語られてなかったけど。
原作ではしれっと登場した壱護ですが本作ではちょっと活躍を盛る方向性で行こうかと。何せ主人公の父親ですからね。ジャンプの三原則は血筋・友情・勝利ですし推しの子も一応ジャンプ漫画ですから。
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ルビーは壱護に対しても湿度高いな…