【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
ミヤコさんの旦那ってことは硝太パパってことだよ壱護


#122 バレンタインの時間(六)

 

 斉藤家。

「おつかれー」

「姉さん。」

 

 リビングに戻ると、してやったり顔で笑っているルビーとその両隣を陣取ってルビーを挟んで会話をしている有馬とMEMちょがいた。ミヤコとアクアマリンはどうやら席を外しているらしい。

 ミヤコが居ないのは非常に都合がいい。有馬とMEMちょに手を上げて軽く挨拶だけして2人の斜め後ろ、つまりルビーの真後ろに立つ。

 

「狙ったね?」

「狙ったよ」

 

 ルビーの声には悪意は無い。心底楽しそうなルビーの笑顔を見ていると怒る気分も失せる。そもそも最初からルビーが何かしら仕組んでいることは知っていた。B小町の活動の為だと勘違いこそしていたがこればっかりは騙される方が悪い。それにこうして楽しそうにしているルビーを見るとルビーの強い憎しみの感情が嘘のように見える。──だが硝太は見逃さなかった。ルビーの中にほんの少しだけ変化が訪れているのを。

 

──colorful(カラフル)の一件がバレた…訳がない。となるとフリルとの件か。変に出ると刺激するだけだし、観察するしかないんだけど

 

 

 

「ねぇねぇ、何があったの?」

「ううん、なんでも!ただ華の女子高生を冬の中夜道に立たせた悪ーい男の子がいるって話ー」

 

 面白い話題の匂いを嗅ぎつけたMEMちょが聞くとルビーが更に調子に乗ってこちらに目配せをしながら回りくどい言い方をする。

 

「硝ちゃん…」

「アンタねぇ。ほんっとあの朴念仁に似てきたわね...」

 

 MEMちょはニャハハハ、と軽く笑いながらも呆れた顔を見せ、有馬が握り拳を机に押し付けながら呪詛のような言葉を漏らす。

 

「兄さんには似てないですよ?」

「朴念仁がアクたんってことは予想がつくんだ」

 

 MEMちょが「硝ちゃんそういうこと興味無いと思った」と小声で言う。流石に彼なりの気遣いなのだろうが、アクアマリンの有馬先輩の対応が雑なのは言うに及ばず、と言うやつだ。

 

「あんた周り見れるくせにそういうことになると理解力ゼロなんだから。気をつけなさい」

 

 そう言うと有馬先輩は何処から出してきたのか大きなお菓子のケースを出してきた。様々なチョコが入った大きなボックスだ。チョコレートを作る動画でできた代物…という訳ではなく市販品。おそらく事務所の人達にも似たようなものを配ったのだろう。従業員の机に同じようなお菓子の箱が置いてある。センスは間違いなく社会経験のあるMEMちょのものだ。

 

「これ、私とMEMちょから。受け取っときなさい」

「あ、ホワイトデーは気持ちだけでいいよ〜」

 

 右手にフリルからの手作りチョコ、左手に2人からのお菓子ケースを受け取り、両手が塞がる。2人からのチョコが大きいのもあって

 

「はい、じゃあこれお姉ちゃんチョコー」

 

 その上にルビーがチョコを重ねる。ルビーからのチョコはケーキ屋で売ってそうなスイーツだ。ルビーからのチョコはスイーツ系が多いが、毎年違うもので、尚且つ見た目もいい。センスの良さは頭一つ抜けている。

 

「おおっ…ありがとう」

「硝ちゃんモテ期だねぇ〜」

「うんうん。硝太モッテモテー!可愛い弟がモテモテでお姉ちゃん嬉しいよ!」

「姉さんめちゃくちゃ楽しそうじゃん」

 

 先程からルビーが心底楽しそうだ。まさか懸念点を分かってそう見えないように演技しているのか。──否。本気で弟がバレンタインというイベントに右往左往しているのが面白いのだろう。

 落とさないように近くの机にみんなから貰ったチョコを置く。こうしてみると渡すチョコにもかなり個性が出るらしい。フリルの手作りに、有馬とMEMちょの市販品ながら豪華なもの、ルビーのスイーツ系とこれまで見てきた皆の人間性が形になっているような気がする。

 そこにトイレから出てきたのか玄関の方からミヤコが姿を現す。彼女からトイレの芳香剤の匂いが少し残っているのでトイレにいたのは間違いなさそうだ。

 

「あら、楽しそうね」

「お母さん」

 

 ミヤコは机の上に並べられたチョコを一つ一つ見るとフリルのチョコをじっと眺める。すると口元が少し緩ませた。誰よりも優れた観察眼を持つミヤコの事だ、手作りだということを即座見抜いたのだろう。もしかしたら作っている人が誰か、というところまで見抜いたのかもしれない。

 

「硝太。貴方...いえ、やめておくわ」

「え?なになに?」

 

 硝太は体に染み付いた動きでミヤコの腰の辺りに抱きついてそのまま腕と身体をあげてあすなろ抱き、と言われる体勢になる。ミヤコの首に顎を置くいてそこからもらったチョコを改めて眺めてみるが硝太にはミヤコが何を思ったのかまでは分からない。

 ただミヤコからは少し複雑な感情が入り交じっているのは見えた。これまでの人生が実質引きこもりだった息子が家族以外からチョコを貰うということはどういうことか、考えてしまったのだろう。

 

「マザコンめ」

 

 有馬先輩が小声で毒づくが今更硝太もミヤコも慣れっこなので大した問題では無い。そんなことより大元の目的が硝太にはある。確かにバレンタインで友だちにチョコを配る文明は知らなかった。義理チョコ、というのはノブに聞いていたがそれとも違う何処かやさしい響きだ。

 だが、それはそれ。これはこれ。母親からの(本命)バレンタインを受け取っていない。義理は義理、友達は友達。それは決して動かないものなのだから本命は死ぬまで本命、の扱いである。

 有馬がマザコンと気持ち悪がるのも当然というかむしろそれで済ませてるだけ優しく思える

 

「ねーねーお母さんは?」

「はいはい。用意してくるね」

「はーい」

 

 硝太のバックハグを解くとミヤコは冷蔵庫に行き、例のブツを取り出す。その箱を見て一番最初に反応したのはMEMちょだった。

 

「お、最近SNSで有名なところじゃないですか」

「そうなの?硝太もアクアもこういうの好きそうだから買ってきたんだけど」

 

 MEMちょが言ったようにミヤコが選んだのはSNSの人気店のチョコ。バスらせのプロを自称するだけのことはあり、ネットに詳しいMEMちょだから一目で気づけたが箱から見て取れるのは店のロゴと中にあるものの大体の形とサイズぐらいでしかない。ミヤコも単に息子とアクアに渡すバレンタインとしてはこれぐらいが一番いいという判断で選んだものである。

 

「アクアには先に渡しておいたから。はい、硝太の分。悪くなる前に食べちゃってね」

「ありがとう!お母さん大好き!」

 

 ミヤコからチョコを受け取って即抱き締める硝太。抱きついたおかげで胸に当たったのはわざとではなく運が良かったということにしておくことにした。

 ◇◇◇

 時は少し遡る。まだ硝太がフリルからチョコを受け取っている時のこと。ルビーは硝太の本当の父親──斉藤壱護の姿を見つけ、話をしていた。

 実の息子である硝太のことを落ち目の株のように切り捨て、まだ持っているミヤコに悲観的な言葉をつくその姿は社会人としても父親としてもダメな部類に入る。だが彼はこれでも実績ゼロの状態から新人アイドルグループを東京ドームのライブ直前まで導いた敏腕プロデューサー。人としてはともかく仕事人としてはこれ以上に優秀な人間は日本中探しても2桁にもならない。壱護もミヤコにある種の負い目があるのでアイドルをやるルビーが頼る人物としてはこれ以上の人物は存在しない。

 

「ほい、これ」

「なにこれ、連絡先?」

 

 少しして落ち着いた壱護は懐に入れていたメモ用紙に何かを書き、ルビーにちぎって渡す。そこに書かれていたのは電話番号、壱護の携帯の番号ということだろう。

 

「俺はもう苺プロの人間じゃねぇ。お前が有名になるってんなら俺と会う数は減らした方がいいだろ」

「ならL〇NEでいいんじゃ」

「アホか、ミヤコにバレんだろ。俺はあいつにバレない範囲でしか助けねぇからな。その番号も、絶対に登録するな。履歴も毎回消せ」

 

 ぶっきらぼうな物言いだが真っ当な発言。実際アイドルの異性関係はかなり厳重で誰もがカメラがついたスマホを持つ現在では独裁国家を疑うほど厳しい状況にある。ルビーと硝太が二人で遊んでいても、目に入れても痛くないほどに可愛がっていても何も言われないどころか祝福すらされるのは硝太が弟という立場というのもあるがそれ以上にアイドルの恋愛ごとに絡むほどの年齢に見えないというのが一番大きい。有り得ない話だが硝太が順当に成長して年齢に違和感を持たれない見た目になり、なおかつ今のB小町が旧B小町ほど有名になればこれまでのような関係ではいられないだろう。精々SNSで匂わせるのが限界。事務所によっては家族とすら連絡が取れなくなる、壱護も戸籍ではルビーの父親にあたるが実際の父親ではなくあくまで養父。それも世間的には知られていないので外にいるのを見られたら良くない妄想をされる。

 

「わかった」

「まずはネット方面はミヤコに任せるとして…知名度を稼ぐならコネが欲しいな。コネとなるとお前たちが出ていたJIF、アレは誰の差し金だ?」

「差し金って…MEMちょが番組でお世話になった人って」

「…っとなると多分アクアが出てたリアリティショー。鏑木か」

 

 なんだかんだアクアとルビーの活躍をちゃんと確認しているようでルビーたちB小町が明らかにコネで勝ち取ったと見られるライブのJIF、そしてアクアの参加した恋愛リアリティショー「今ガチ」から鏑木の名前を導き出す。事前に調べる時間もなかったのにスラスラと鏑木の名前が出てくるということは番組やライブの裏に誰がいるかを既に把握しているということ。

 仕事人としてはちゃんとしている、姿にルビーは少し感心した。

 

「そういえば硝太がなんかその人に言ってたな。何が狙いか?とか」

「あいつのことはどうでもいい。鏑木なら都合がいいな、視聴率のいい番組をわんさか持ってやがる。今度のライブに呼び出せ」

「呼び出すって、どうやって?」

「JIFに呼んでくれたお礼とかでそれなりの規模のライブで呼ぶんだ。理由なんて適当でいい、アレは金の成る木を見逃すタチじゃない。目的がバレた方がやりやすい」

 

 鏑木に会ったことがあるのか、人間性をわかった上で話しが進む。ルビーとしては出会ったこともない人なので本当に上手くいくかは分からないが出来ると確信させられる言葉が、壱護にはある。

 

「呼び出してライブを見てもらって!凄いライブ出来るアイドルだから番組に呼ぼうってこと!?」

 

 壱護のライブに呼び出すという案に目を輝かせたルビーが乗っかる。ルビーからすればライブを評価されて番組に呼んでもらうというのは理想的な形だ。実際、アイもとある映画の撮影で人気が出て番組に出るようになった。そこからアイのキャラが知れ渡り、人気が爆増。ルビーなら同じ流れでドームライブも夢では無い。

 だが、壱護の考えるやり方は別にある。

 

「それもいいが、やり方を考えろ。そうだな…企画の持ち込みにしよう。原稿と内容は俺が考える。ルビーはそれを鏑木に渡せ。勿論、私が考えましたって面しとけよ。バレるだろうが好意的に見られる」

 

 壱護のやり方はもっと複雑な、言ってしまえば裏口のやり方。ライブに呼び込んだ鏑木に壱護が考えた企画書をルビーが渡す。芸能界に直接関わっていなくても上の人間が喜ぶような案を出すことなど壱護からすれば朝飯前。後は番組側の予算ややり口を考えて企画書を出してルビーが考えた体にして渡す。鏑木は面白いものならなんでも使う。現在は地下アイドルに毛が生えたようなルビーの案でも絶対に使う。そうすれば視聴率の高い番組にルビーを半ば強引に差し込める。そこからレギュラーとなればYou〇ubeで2万人程度の影響力から人気は爆発的に高くなる。人気を得るには「知ってもらう」が第一。

 

「どういうこと?」

「この業界…いや、何処でもそうか。いかに裏口を見つけていいポジションを取るか。正攻法で攻略出来ると思うなよ。特に芸能界は裏口推奨でな、時にはファンの多数の応援よりお偉いさん一人のプッシュで役が動くこともある。いいポジションが欲しければ金と力を持つやつにしっぽを振っとけってことだ」

 

 理想だけを語るのなら、正攻法だけで勝ち抜くのが一番いい。外野から見てもその方が応援されやすいし、アイドル達のモチベーションにもなる。方向性を間違えた事の成功体験はまるで麻薬のように人間を狂わせてしまう。しかし、そんな理想を通すには能力は当然だが時の運や周囲の運といった本人たちにはどうしようもない要素が最低限必要になってしまう。アイとルビーですらそれには抗えない。──ならば裏工作が必要なのは当然の話。芸能界ではそういった方法が正攻法より重視されることも多い。そして、壱護は誰かにそれを教わることもなく裏工作で芸能界を突き進める才人だ。

 

「なにそれ、私水商売の女じゃないんだけど」

 

 偉い人間に媚びを売れ、としか聞こえない内容にルビーは眉をひそめて抵抗する。芸を磨いて評価される。誰もがそうなって欲しいと思っているし、そうであるべきだと思っている。だが悲しいかな、ただでさえテレビは悪しき文化の影響が色濃く残り、裏の力がより強く働く。誰もがSNSで言葉や情報を出すことが出来る情報社会ですべての情報を取り込むことはできず、「知る」行為ですら取捨選択が入る。

 それをルビーも知ってはいるが言葉として強調されたことで理解を拒もうとしている。そんなルビーに対して壱護はルビーの瞳を睨むように強く見ながら言い放つ。

 

「だがな、これは忘れるな。ただ利用されるだけの便利な女になるなよ、ルビー。利用されているように見せかけて全てを奪い尽くせ。お前はアイの娘、俺の孫だ。出来ないわけが無い」

 

 星野ルビーはただの客寄せパンダではない。『ホンモノだ』群がる人間を火に群がる蛾のように燃えると気付いても逃げられない、逃げようとも思わせずただ焦がし続ける。それだけの狂ったカリスマ性。アイには壱護が妊娠出産をしたことを知っても尚、隠してでもアイドルをやらせたように()()()()()()()()()()()()()()を持っている。娘であるルビーにもその可能性がある。ならば裏工作なんてまどろっこしい方法が必要になる奴らを全員ルビーに狂わせてしまえばいい。

 

「──わかった」

 

 壱護の言葉に、短くルビーは返答する。その両目の瞳には全てを飲み込む真っ黒な星が輝いている。その瞳を見て、壱護の口角は自然と上がる。アイドルをプロデュースしたい欲がある訳ではない。だが、今にもなってこんな『化け物』を出せるかと思うと苺プロ社長時代から残っていた血が騒ぐ。

 

「鏑木に渡すようの資料については追って連絡する、分かったらミヤコに不審がられる前に帰れ」

 

 それでも平然を装い、ルビーに帰宅を促す。ルビーがそれに従い、黙って釣り場を後にする。その背中を感じた壱護は興奮を抑えるのに必死だった。




芸能人を支える男として腕前だけなら100点、社長としては夜逃げするので0点、父親としては…な人壱護。
まぁ普通に最低クラスなんだけどよりにもよってその息子が硝太なのが有馬ママとかアイママみたいなほかの親と比較できなくて狂う。これ系の話だとミヤコさんが一番頭おかしい(褒め言葉)だから

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それはそれとしてルビーに向かって「俺の孫」は相当気持ち悪いよ
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