まぁ今日は幕間なのでスレ時代に書いてた時系列的にこの辺りの話乗っけます
都内にある大きめのカフェ。古くからあるのか、店内の内装は古めで真新しさは感じられない。しかしそれが逆に落ち着きを感じさせる丁度いい場所となっている。カップルや家族が席を埋めつくしている中で硝太は目の前に座るカップルにひとつ相談をした。
『少し前のバレンタインの時から自分の中に知らない感情が芽生えている』という話。硝太も自分の体なので自分が1番よく知っている。それはどういう動きが出来る、どれだけの体力があると言った身体的な話はもちろんの事、どういう感情を自分は持っているかということも知っている。
そんな自分ですら知らない感情。最初はアクアに聞いてみたが適当に流され、ルビー、ミヤコ、有馬と流され続けた硝太は人の感情の機微に詳しいある種の専門家に頼ることにした。
『今日は甘口で』の作者、吉祥寺頼子だ。硝太には恋愛ごとを理解することは出来ないが今日甘のヒロインが持つ恐怖症については強い理解を示せる。多くの精神障害を持つ硝太が読むだけで共感して半ば憑依のような状態になってしまう程の完成度。それだけのキャラクターをかける吉祥寺なら、と思い硝太は自分の感情を聞いた。その結果信じられない衝撃の答えが返ってきて今こうして目の前のカップル──ノブユキとゆき、通称ゆきゆきカップルに相談をしている。
「お前それ、脈アリだぞ」
話が終わるやいなやノブユキは真面目な顔で(硝太にとっては)爆弾のようなセリフを解き放った。
「…あ?」
裏表のない似たような性格からか硝太の友人達の中でも1番親しい、ある意味硝太の親友と言えるノブユキの言葉に硝太は分かりやすく口を歪ませて反抗の意を伝える。
「バレンタインに手作りチョコ貰って落とされたって訳だろ?まぁ分かる。ゆきはどう思う?」
ノブユキはそう言うと手元のジュースで喉を潤して隣に座るゆきに言葉を投げかける。ゆきは硝太の話を途中からキラキラした目で聞いており、いつもの5割増でテンションが高い。
「これは両思いでしょ。間違いない」
「だよなー」
決めゼリフのようにかっこよく言い放つゆきに同調するノブユキ。目の前のバカップルの掛け合いは嫌味のない、純粋に恋愛話を楽しんでいるようにしか見えない。流石の硝太も二人に言われては感情で否定する訳には行かない。少なくとも両思い──彼女が自分のことを恋愛的に好きだとは到底思えないのだが。
「つまるところ、二人も頼子ちゃんと同じ結論ってこと?」
二人に聞く前に吉祥寺の元で聞いた時、吉祥寺にゆきとほぼ同じ反応をされたのでよく覚えている。
吉祥寺も目をキラキラ輝かせて話を聞き出そうとしてきていた。ゆきが硝太を弟扱いするのなら吉祥寺は硝太のことを息子扱いしている。なんてことを思っていた硝太だがもしかしたら吉祥寺にも弟扱いをされているのではないかと認識を変える。
「いや、その話で好きじゃないって言う方が無理あるって。相手の女の子はともかく硝太はさ、嘘つけないし正直じゃん」
「そうそう」
「そんなもんか」
ノブユキとゆきという現在進行形で恋愛しているカップルの2人の意見が何も示し合わせずに揃ってしまうと硝太も『そういうもの』として納得せざるおえない。納得はする。しかしそれでも飲み込めないことがある。仮に自分の抱く感情が恋愛感情だとするならそれはそれでいい。その感情が理解できないのと持つことが出来ないのは全くの別問題。知らずのうちに自身がそういった感情を持つようになってもおかしくは無い。
だが、相手も同じ感情を持っているというのはまず有り得ない。ノブユキも『相手の女の子はともかく』と言ったように相手の女性が同じく恋愛感情を僕に向けて持っているのは流石におかしい。有り得ない。
「それでさ、その女の子ってどんな子なの?」
「へっ!?」
するとこちらの頭の中を覗き見たようにゆきが相手の女性の話を引き出そうとしてきた。ノブユキも「確かに」と呟くとすぐさまゆきに加勢する。
「同じ学校なんでしょ?俺たちが知ってる子?」
「芸能人?一般人?」
「アクアの友達とか?」
相手の女性の事は二人は当然知っている。有名な芸能人だしアクアマリンとは知り合いだ。なんなら二人とも会ったことがある。
名前を出すだけなら話が盛り上がるだけだが、二人がその女性がもしかしたら斉藤硝太のことを好いているかもしれない。という懸念を抱かせたままで名前を公開するとどうしてもマイナス印象が着いてしまう。彼女の名誉の為にも名前を公開する訳には行かない。
「その…名前は…」
「特徴だけでも!な!」
「むぅ…」
断ろうとするもノブユキも諦めが悪く、特徴だけでも聞き出そうとしてくる。そこから有名な芸能人で調べようとするのだろう。周囲の客からは理解できないようにしているようだが、ここでノブユキとゆきにバレたらやっていることは同じだ。しかし2人のキラキラ輝く顔を見ると無理、と断ることも厳しい。
「その…綺麗な人なんだ」
「もっと具体的に!」
ゆきに具体的、と楽しそうに言われるがそう言われても困る。出来るだけ特定出来ないように、かつ二人にも彼女の美しさがわかるように。
難しい内容だが決して無理では無い。
「黒く艶のある丁寧に手入れされた長い黒色の髪、傷1つなく、病的なものも感じさせないハリのある肌。瞳は宝石みたいで、引き込まれる。スラリとした長身にバランスの良い肉付き。けどちょっと胸は足りないかな」
──彼女の見た目は誰が見たって文句の付けようのない完成された芸術品と言ってもいい。母の影響で、多少の整形には理解がある僕だが彼女は化粧こそあれど整形してる後はとても見えない。つまり生まれながらにあの美貌を持っているということになる。親の顔が見て見たい。
「お?」
「姿勢が良くて、歩き方とか書く文字も整ってるんだ。育ちがいいのかな。けど物を食べる時は両手で大事そうに食べるのに結構口につける。大口開けて食べたりしないからだと思う。声の通りもいいんだ。特別大きな声でもないのにゲーセンの中でもすっと耳に入る」
──出会う前、お嬢様学校に行きそうと思っていたがその印象は崩れることは無い。多くの番組に出るため努力したのだろう。パリコレモデルですら見劣りする自然な足取り。どれだけ顔が良くても姿勢が悪ければマイナス印象を持たれるからか、姿勢が良くスラリとした長身をより目立たせている。
「硝太?」
「入学してすぐの僕にも優しくて、ずっと構われっぱなしなんだ。笑っちゃうよね。芸能界のことも僕よりずっと詳しくてね。色んな番組を見ていて知識をずっとアップデートしてる。努力を努力って思わないタイプなんだと思う。兄さんの昔の作品とかも調べ尽くしてるぐらいには情報通なんだ」
──入学したての頃はとても迷惑をかけた。今でもそうだが初対面の人とマトモに関われない僕に構いすぎるのでもなく、コミュニケーションを諦めるのでもなく自然と話しやすい環境と対応を作った様は気取ってるだけの大御所の芸能人とは比べ物にもならない。芸能界への知識がない自分が言うのもおかしな話だが彼女にはMCも向いてると思う。
「硝太?も、もういいぞ?」
「まだまだ。僕の性格にも病気にも理解のある人で、変に気を使ったりせず普通に接してくれるんだ。少し、じゃないな。かなり距離が近すぎるのは困り事だけど。静かながら愛嬌もあって計算されたような美を素で形作ってる。それに…」
「もういいって!」
硝太の認識ではまだ半分程度しか語っていないはずなのにノブユキが机から身を乗り出してきて動きを止めて来る。
「長い、長いよ」
「いや、ゆきが具体的にって言ったんじゃん」
「それにしてもだよ。まぁ硝太くんがその子の事好きだって伝わったのは良かったけど」
そこまで言われてしまうと「どうやら二人はそこまで情報を欲しがってはいなかったようだ」と硝太も判断せざるおえない。その証拠に聞き出してきたのは二人なのに若干引いてる。
「硝太のやつ、あかねの時よりお熱じゃね?」
「あかねの時は初恋して即失恋だったし…結構可哀想な事になってたからね。それに失恋してすぐあの事件でしょ?そりゃ弱気にもなるし優しくしてくれたらコロって落ちるよ」
「そんなもんかぁ?」
ノブユキとゆきは二人で硝太に聞こえないような声で『今ガチ』の頃を思い出す。黒川あかねの自殺未遂の件でアクアの補佐という裏方とはいえ『今ガチ』の参加を無理矢理始めた硝太。今恋愛感情を理解していないのだからあの頃も当然理解をしていない。それでも『今ガチ』参加していたメンバーから見て硝太はあかねに恋をしていた。自殺未遂まで追い込んだSNSの攻撃に怒るだけでなくあかねを攻撃したアカウントの個人情報を3日もかけずに全て特定という常人離れした行動をするほどにあかねへの思いは強く見えた。それはあかねを見る硝太は弱気で泣き虫な見た目通りの年齢の子供にしか見えなくなるほど。あの時は『好みの女の子』を演じていたあかねを見たアクアも素が見えるほどに照れていたこともあり、兄弟だから女の趣味も同じと盛り上がった。その結果何故か番組外で、しかも兄弟で一人の女の子の取り合いの恋愛勝負が始まった。
そこまでは良かったのだが結局その勝負は硝太が負けた、と言うより土俵に上がることすらなく即退散というなんとも可哀想な展開になってしまったのだ。今にして思えば恋愛感情を理解できない硝太にあかねをかけてアクアと勝負するのは精神的にも厳しかったのだろう。結局あかねを救ったのがみんなで作った動画ということもあり、硝太は結局あかねに何もしてあげられずに番組が終わり、その後通り魔にナイフで刺されて生死を彷徨うと踏んだり蹴ったりの結果となってしまった。実際は硝太の中で恋愛感情が生まれたのはバレンタインの時の言葉が原因なのでゆきの予想だと時系列に大きなズレが出るのだが、それに気づくものはいない。
「あかね姉ちゃんがどうかしたの?」
「いや、良かったなって。あかねの事あんまり引き摺ってないみたいで」
「ん??それってどういう…」
硝太の認識では関係ないはずのあかねの名前が出て首を傾げる。硝太の認識ではあかねと恋愛をしていた認識は無い。あくまでアクアとの恋を後押ししたと言うだけなのでゆきの言う『引き摺る』意味がわからない。
──でも、『もしかしたら』と考える。
あかねに恋をしていた場合。あの
自分はきっと、もっとマトモな人間になれていたのだろうと思う。そういう意味では未だに『引き摺っている』と言えるだろう、と。
ふと、そこに声がかかった。
「硝太」
いつも学校で聞く特別懐かしくもない慣れた声に硝太は首を回す。声の主はかなり、3人が使っているテーブル席の真横にいた。
「長く艶のある黒髪」
「傷一つなく、ハリのある肌」
「「宝石のような瞳」」
ノブユキとゆきは再び互いに耳を近づけて硝太とテーブルの近くにいる人に聞き取れないような声で
「フリル、何かあったの?」
二人がそんなことを話しているとは気付いてすら居ない硝太は相手の名前、つまり自身の想い人の名前を呼ぶ。呼ばれたフリルは少し嬉しそうに目を細めると硝太のすぐ近くまで近寄る。
不知火フリル。芸能界に疎い人間でもその美貌と名前ぐらいは知っていると言える美少女。日本人で美少女と言えば?と聞かれれば海外でも彼女の名前が上がるほどの知名度。もし恋人を求めたら多方面から引く手数多、あくまで恋敵がアクアしかいなかったあかねとはまた違った難易度と言える。今はベレー帽のような帽子と硝太のものに似た黒色サングラス等で変装しているがもし正体がバレたらファンが押しかけてくることは間違いない。
「今日はちょっと収録があったんだけどね。丁度終わったところで帰ろうと思った時に窓越しにキミが見えて思わず」
フリルはカフェにある比較的大きな窓を指さす。確かにこの場所は丁度外が見える。フリルが何気なく歩いていた時に硝太の姿を見て入る、というのにはなんの違和感も感じない。
「ノブ、いい?」
「お、おお」
一人で立ってるフリルの相席の許可が得られた硝太は2人がけの長椅子の奥へと行き、フリルの座る場所を作る。硝太が空いた場所をポンポンと叩くとフリルはゆきとノブユキに一礼して空いた場所に腰を下ろす。
「なんか飲む?今度は僕が出すよ」
「大丈夫。私今沢山持ってるから…すみません、
「かしこまりました」
流れるように近くにいた店員に注文をしたフリルは硝太のすぐ隣、肩が触れ合う距離まで接近する。
「ノブ」
「ああ。やるしかねぇな、これは」
フリルの自然な硝太への距離の詰め方を見たゆきは小さな声でノブユキと意思疎通を行う。重要なワードこそ出していないが半年以上カップルをやってきた二人にはそれだけで十分だった。
知名度、美貌、世間的な立ち位置。どれをとっても同年代の女性のなかで恋人とするのは最難関と言っていい。
しかし、希望がない訳では無い。硝太の話では不知火フリルは硝太に手作りチョコを渡したらしい。仮に友人たちにも配っていたとしても多忙なマルチタレントが手作りチョコを大量に作れるとは思えない。つまり数少ない手作りチョコを渡すほど近しい相手ということになる。
それに窓から硝太が見えたからという理由だけでバレるリスクのあるカフェに単身で入る。硝太に気付かれると嬉しそうに口角が上がり、硝太は1番奥まで行ったのに肩が触れ合う距離まで近寄る。これで無関心というのは少々無理がある。フリルが硝太のことを好きか嫌いはは別としてくっつけるのは無理では無い。
──なんとしてでもこの二人をくっつける!
先輩カップルによる硝太&フリル仲良しカップル結成大作戦が──今、始まる。
ラブコメ…だと!?
硝太の恋愛展開に一番喜んでくれそうな人って言ったらまぁゆきゆきカップルよな、ということで登場しました先輩カップルノブユキとゆき。
硝太に青春させたくなったらとりあえず突っ込んどけばいいので割と便利な役どころ
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次回はもうちょっとだけ続くんじゃ