もうちょっとだけ続くんじゃ
後日。
硝太は
「随分急だね、なんかあった?」
先日会って話をしたばかりだと言うのに呼び出されたことに疑問を持ちながらも相手が友人とのこともあって特に怒ったり不服な様子を見せることはなく硝太は席につく。
対してゆきゆきコンビは某巨大な人造人間が謎の生命体と戦うロボットアニメの父親のように仲良くお揃いのサングラスをつけながら机で手を組み、その上に顎を乗せて顔の半分を隠している。二人の背丈が違うとはいえポーズ自体は全く同じせいでコピペしたようにすら見える。カップルとは不思議なものだ。
「硝太、俺はお前の友達としてお前の恋を応援したい」
「えっ、何急に」
そんなズレたことを考えているとまず最初にノブユキが口を開く。いつもはっちゃけている彼らしくないシリアスな声に硝太も緊張する──訳では無いが戸惑いを見せる。
先日話した硝太の感情──それも恋愛感情についての話をカップルが盛り上がって茶化しているのだが硝太はそれにすら気づいていない。
「敵は強いわ、残念だけど今の貴方ではどうしても力不足よ」
「あっ、ゆきもそっちなんだ」
困惑している硝太に今度はゆきがポーズを1ミリたりともずらすことなく告げる。2人のやっていることが面白すぎて最早内容が入ってこない。
──片方がゲ〇ドウをやるなら片方は冬〇をしていればいいのに。
「つまり僕は〇月ってこと?」
「俺たちの策に乗れ、でなければ帰れ」
「無理すんなノブ。口が笑ってる」
「ふっふふ──」
ノブはシリアスな声こそ崩していないものの笑いを堪えきれておらず、口がニヤけて体がピクピク震えている。そうしているうちに耐えきれなくなり2人同時に吹き出すとそそくさとサングラスを片付ける。どうやらカップルの遊びに巻き込まれたらしい、と片付ける。
ノブユキはノリがいいので彼一人ならこういうことはよくある。基本硝太はノブユキの特有のノリには乗っていける方でケンゴがツッコミを担当することが多いが今回は話題のせいもあって硝太が乗り切れていない。代わりに彼女のゆきが乗っているのだが、2人の世界に入っていて硝太は自分が邪魔者のようにすら感じている。
「…じゃ、とどのつまり2人は僕で遊びたいわけだ」
「言い方が悪いなぁ、私達は善意なのに」
「何を言ってるのかよくわかんない」
「いいから座れ座れ」
ノブユキに催促された通り椅子に座ると示し合わせてかのように店員が硝太の分の水を置いて去っていく。
硝太は乾いた口を水で潤すと2人の言葉を待つ。
硝太が黙ったのを確認してノブユキがいつもの声色で「早速本題なんだけど」とつけて喋り出す。
「不知火さんは落とすってのは硝太なら別に無理じゃないと思うぜ?」
彼の言う本題、というのは先日の硝太の恋愛相談の件。彼本人は恋愛相談ではなく自分の体の不調を説明しただけだろうが2人からすれば恋をしたことのない人が恋を知って戸惑っている、というラブコメだとよくある構図にしか見えてない。
そんな彼が恋した対象がまさかの日本どころか海外でも日本の美少女は?と聞かれて誰もが一番最初に名前を浮かべると言われるマルチタレント美少女JK、不知火フリル。その人気は留まるところを知らず、当然彼女に恋をした男など数え切れないほどいる。本来なら手の届かない星のような存在だが、ノブユキは硝太の場合はその星が手元まで近寄っているのではないかと思っている。
理由は先日フリルが来た時に店内から硝太が見えた、という理由で会いに来たり、わざわざ手間隙かけて手作りチョコを作ったりなど多岐に渡るが何より硝太を見るフリルの目が恋をした乙女のそれだとゆきが見抜いたことが一番だと思っている。こういう時の乙女の勘は当たる、とノブユキは思っている。それ故に次の日には硝太を同じ場所に呼び出し先輩カップルとして星を掴める手段を考えようとしているのだ。
「落とす?フリルを?」
「あー落とすってのは恋人になるとか、そういう事ね」
ノブユキの意見をすかさずゆきがフォローする。ゆきのフォローがなければ「フリルを落とす」を「建物から突き落とす」と解釈するところだった。
「なんだよ急に。別に恋人とか欲しがった記憶ないんだけど」
またカップル2人の遊びか、と思った硝太は一気に不貞腐れた顔になる。正直なところ、硝太は自分に恋愛感情が芽生えていると思っていない。
今はルビーの問題があり、そんなことに構っていられる余裕は本来ないはず。もし今そんな感情が芽生えるのなら、ルビーのことを本気で思っていないと証明しているようなもの。硝太としては何があっても認めたくない。
だが2人がそんなことに気付くはずもなく話を進める。
「いやいや甘いよ硝太。砂糖より甘い、なんならこのカフェのスイーツより甘い」
「糖度どれぐらい?」
「100」
「死ぬぞお前」
硝太の考えの甘さをスイーツに例えるゆきとその考えの甘さを糖度100と言うノブユキに硝太の遠慮の無いツッコミが刺さる。当然例え話ではあるが2人の甘さの認識はかなりバグっていることがわかる。
ちなみにギネス世界記録には22.2度の桃が2015年に登録されている。現在はそれより高いものも出てきているそうだが糖度100とは100パーセント糖分でありそんなものを腹いっぱい食べるなんてことをしていたら肥満からの高血圧で即死亡である。
「んんっ。いいか、硝太。お前不知火フリルと仲良いだろ」
友達関係ならではの掛け合いも楽しいが要件はそれではない。ノブユキは咳払いをして話題を戻す。
「そうだね。2人で買い物とか行く」
「なら他の有象無象よりチャンスは多いはずだ」
「チャンスって…」
「強みを活かせ、硝太!お前の強みはなんだ!」
いきなりわけのわからない会話に巻き込まれたものの、ノブユキの言いたいことはなんとなくわかる。要は不知火フリルと仲良いのならただのファンより付き合える可能性は高いだろうということだ。硝太にやる気があるのかないのかはまた別の話。そうなるとノブユキの言う「強み」を硝太は知らない。ただ文字取りに強い理由を聞かれればインスタントバレットと答えればいいが聞いている内容とは少しズレているし、そもそも2人はインスタントバレットの件に関わっておらず、今後も関わらせる気もない。
「──コレ」
しばらく考えて硝太は右腕の袖をまくって力こぶを見せる。確かに硝太の膂力は文字通り人間離れしてはいるが、恋人にしたくなるような強みではない。硝太の膂力だけを見て恋人になろうとするのならそれは恋人を戦術兵器として見ていることになってしまう。
ノブユキはなんとも顔をひきつらせてなんとも絶妙な表情を見せながら手で空を掴むように絶妙に掴みづらいアクションをする。恋愛ごとに敏感なノブユキにそう言われてしまうと硝太としては何も言えない。
「いや、もっとその…あるだろ」
「税金の計算出来ることとか?あっ、兄さんと姉さんの今年の年末調整僕が書いた」
「それいる?」
「いるでしょ」
「いや、年末調整書けます、って言われて『抱いて!』ってなる女の人はいないって」
硝太があげる長所をどれだけ見ても恋人にしたくなるようなポイントは見当たらない。そもそも普通の人からすればそういう長所は好きな人に見てもらいたい、モテたいという衝動から作られるものが多いが硝太は生まれた時から母親に救われたおかげでそのようなことを考えることが一切なかった。つまりモテ度という意味では一般人の中で最底辺に当たる。一応母親譲りの顔はかなりいい方に入るがどこをとっても小学生のような体ではショタコンを除いて意味が無い。
ゆきはため息をつくと指を軽く回して硝太から長所を引き出させる作戦から硝太の短所を打ってひっこめる作戦に変える。
まずは容姿。顔とシルエットは小学生並みのお陰で赤子のように張りがある。だがこれでも硝太は高校生、変えなくてはならない点は多い。
「──まずは服だよね、春夏秋冬芋っぽいジャージは流石にダサい」
「髪も切らせよう、俺の通ってる美容室教えてやるよ」
「後はメイクしてみるとか。ほら、最近男の人もメイクするじゃん」
「んー硝太の子供顔をメイクで良くしたら人形みたいにならないか?」
「えーそう?それがいいかもしれないじゃん」
またカップルがやいのやいの楽しんでいるのを見て硝太はまた水を飲んで寂しさを紛らわす。服はほとんど一年中ジャージと制服しか来ていない硝太の私服なんて大したことは無い。フリルとの買い物の際もルビーの方がどこかから持ってきた服を使うほど。髪も他人に刃物を向けられる事に恐怖感があるのでミヤコ以外に切ってもらったことはない。他人に切らせるぐらいなら自分でナイフで切ってしまった方が早いし安上がり。なので2人の考えているアドバイスを硝太が実践できるかと言うと怪しいのだが、硝太も特にそれを言う気はなくただ見守る。
「硝太?聞いてる?」
「ごめん『まずは』以降聞いてなかった」
「最初からじゃねぇか。全く、しっかりしろよな」
ノブユキは話を聞いていない硝太に対してもにこやかな顔を見せる。
「…まぁ2人が楽しいならそれでいいよ」
「何言ってるんだ、お前も楽しまなきゃ意味無いだろ」
「そうそう。恋ってのはね、想いだもん。想いはパワーなんだよ、硝太」
想いが力。そのワードに近い言葉を硝太は聞いたことがある。──インスタントバレット。心の内にある悪意を力にしたデタラメな魔法。2人はインスタントバレットのことを知らないしインスタントバレット本人でもない──と硝太の青い右の瞳が教えてくれる。だがゆきの言葉はあまりにも芯を捉えすぎている。まさかインスタントバレット走らないが悪意が力になるメカニズムを知っているのではないか、そう考えると冷静になれない。
「ゆき、それってどういう──」
硝太は勢いよく立ち上がると目にも止まらないスピードでゆきゆきコンビの隣に立つとゆきの両肩を掴む。彼女が他の男に手を出されそうになっている──という状態だがノブユキは驚きこそすれ硝太を力づくで引き剥がそうとはせず硝太の瞳を強く見る。ゆきも表情一つ変えずに人差し指を硝太の鼻先に置くと幼稚園児に教えるように優しくゆっくりと伝える。
「好きな人のためだったらいくらでも頑張れるでしょ?恋する人が綺麗に見えるでしょ?好きな人にいいとこ見せたくて自分を綺麗にするのよ、その結果が自信になるしそうなれた自分も好きになれる。だから真っ当に恋した方がいいんだよ」
「──そうか。」
ゆきの優しい回答に拍子抜けした。こんなものただ『肉を食べたから人の体は動けます』と言っているようなもので理由ではあるがインスタントバレットに当てはめられるものでも無い。硝太の行動の参考には欠片もなりはしない。だが同時に安心していた。
ゆきはインスタントバレットに関係ない。ゆきを殺す必要はない。安心しきった硝太は千鳥足のような足さばきで自分の座っていた席に戻る。
「だから、綺麗なんだ」
「だろ?俺の彼女」
「ちょっとノブ…!」
普通の彼氏持ちの女性向ける言葉としては最底辺に当たる言葉をノブユキが考えることなく褒め言葉として受け取り惚気を見せる。
カップル成立から半年以上経ってこれなら放っておけば勝手にくっついて今以上に幸せになれる。
──良かった。2人はやっぱり僕の『ともだち』だから、幸せになれる。
硝太は下手な笑みを見せた。
友達としてはめちゃくちゃ良好な関係のゆきゆきと硝太。
友達なので結構気の抜けた会話となっておりますがたまにはいいよね。
因みに先輩してるゆきですが硝太と同い年、ノブユキが一つ上となります。たまに忘れそうになる設定…
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