【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
硝太達のバレンタインが終わるがその裏で次の動きが始まっていた。


第五章〜Re:〜
#123 兄姉弟(きょうだい)


 

 バレンタインから数日。POP IN 2のMVがアネモネから出た。苺プロの方で確認をした後MEMちょの手によってB小町公式You〇ubeチャンネルにて公開。

 公開一週間も経たずに2000万回再生を記録。火種となる登録者数にMEMちょの広告戦略は売ったがあくまで出たばかりのアイドルグループが記録したとは思えない、最上手のアイドルグループと同等の数字だった。動画についたコメントのほとんどはセンターのルビー。

 ミステリアスでダーク、それでいて人間の本能をそのまま支配するような妖艶な歌声と踊りは彼女だけの世界を築いていた。存在感がある、というだけではない視界には別の人間もいるのにその気配を奪ってしまうかのようなあっとうてきカリスマ性。彼女を見た誰もがかつて月に魅入られた暴君のように狂う。──今のルビーはさながら10年以上前に新人ながらアイドル界の覇権を取っていたB小町のアイを連想させるほど、強い力を持っていた。

 

「MEMちょ、自分のチャンネルはいいの?」

 

 とはいえ苺プロからすればたった1回のバズ。どれだけルビーの存在感があれど時間が経てば簡単に忘れ去られてしまう。MEMちょはバズが新鮮なうちに新たなバスを読み込む為に多数のユーチューバーにコラボの打診をし続けながらショート動画等使って毎日投稿を心がける、という普段の活動と共に行うには無理があることをしていた。

 当然体を壊す訳にも行かないので栄養剤片手に寝る間も惜しんで編集作業をしても間に合わない分は自分のチャンネルの工数を減らす対策をしてしまっている。

 

「仕方ないよ、今は『POP IN 2』のバズを維持する方が大事だからね〜」

 

 新人アイドルにとって新曲はそう簡単にポンポン出せるものではない。これまでアイがいた頃の昔の曲に頼っていたB小町にとって新曲は一番バズが狙える瞬間だった。だからこそMEMちょは事前に打てるだけの広告戦略を打ったのだが、それで得た大きなチャンスを失うのは愚かにも程がある。旧B小町が成し遂げられなかったドームライブを目指す為にもこのバスは出来るだけ長く続けさせなければならない。

 

「わかった、じゃあやれるだけやろう」

「話聞いてた!?」

「うん。だってMEMちょの動画はともかくB小町の方は元々苺プロのものでしょ。僕ならいけるけど?」

 

 あくまで個人事業主であるMEMちょの個人動画には硝太や苺プロは干渉することができない。だがB小町は苺プロがプロデュースしているアイドル。動画も基本的にMEMちょが編集作業等しているが契約上苺プロ内で行ってもなんら問題はない。苺プロの他の従業員は事務作業を増やしてしまうだけだが、基本的に暇な硝太なら問題はない。

 考えられる問題としては高千穂にて戦った『偶像』のインスタントバレットがまた動き出すことだが今現在colorful(カラフル)と手を組んでいて手は出しづらい。それに高千穂であれだけ大きなことをやったのだから龍珠組に狙われていることも承知しているだろう。次の行動は控えるとみて間違いない。その間の硝太の主な仕事はルビーのメンタル把握と苺プロの護衛ぐらいなもの。MEMちょの動画編集に付き合うぐらいのことはできる。

 

「うーん、大丈夫だよ」

 

  MEMちょは腕を組んで硝太の編集技術があるのかを思い出す。アクアは『今ガチ』にて動画作るスキルがあったが硝太がそのようなことをした記憶はない。だがミヤコの動きをコピーして料理を作るような子のことだ。アクアの動きも既にトレースは済んでおり、編集技術は問題ないだろう。だが、センスの話となると話は別だ。

 動画のどこを切ってどこを入れるか。どう編集して視聴者の意識を動かすか。そういったセンスは硝太にはまずない。時間があるときならMEMちょがサポートしてあげればいいが今はただでさえ時間が惜しい。残念ながらそこまでやる余裕はなく、MEMちょが指示をするなら最初から一人でやってしまった方がいい。

 

「そっか」

 

 MEMちょの言葉に硝太は残念そうにはするが食い下がることはせず素直に引く。MEMちょの思考に同調して自分の言った言葉がどれだけ短慮な発言なのか理解した。自分にできることなど殺し合いを除けばMEMちょやアクアマリンと比べてしまえば大したことは無い。当然のことをやれればいいだけだったアビ子の時とは違う。

 

「気持ちだけ貰っておくよ。それに、硝ちゃんにはもっとやるべきことがあるでしょ?」

「やるべき事…」

「ルビーを守ってあげて」

 

  MEMちょが優しく頭を撫でながら斉藤硝太が本当にやるべき事を口にする。彼女はインスタントバレットのことはおろか、ルビーに危険が迫っていたことすら知らない。しかし隠し事が下手なのが災いしてある程度は知っているのだろう──と硝太は推理している。

 実際MEMちょは高千穂で硝太が戦闘中にかけた電話で大体の事情は察している。まさか硝太の正体が世界すら破壊しうる魔法使いだとは思ってもいないが苺プロの中枢にいる数人しか共有されていない重大な事実があるということにはもう気付いている。だがそれを知ろうとはしない。調べることも引き出させるために言葉を誘導したりする訳でもなくあくまで相手が言うのを待つ。一生言ってくれなくとも構わない。これはMEMちょがどうでもいいと捨ててる訳ではなく、「伝えるべきことならいずれ知るからその時でいい」と割り切っているのだ。より正しく言うなら、斉藤硝太という男を信じている。

 

「今は私よりルビーが大変な時期だよ」

「…そうだね」

 

 仕事が多いMEMちょに配慮していたつもりなのに逆にMEMちょに配慮されていた。情けないことこの上ない。

 

 MEMちょから離れると硝太は会社兼自宅の屋上までかけ登る。ミヤコどころかアクアも来ない、誰にも話を聞かれないスペース。硝太が登ってきたのを見た八咫烏の1羽が近くに止まる。ツクヨミから任された、ヘルメスと名付けられた個体は「カァ」と短く鳴いて餌をよこせと強請る。硝太はポケットに入れたパンの耳を短くちぎってヘルメスの目の前に落とす。ヘルメスがパンの耳を加えて食べ始めたのを見て、硝太も口を開く。

 

colorful(カラフル)と協力することにした…もちろん、ツクヨミと手を組んだことを忘れた訳じゃない」

 

 ちゃんと「手を組もう」と口にした訳では無いがcolorful(カラフル)のリーダーが連絡用の端末を渡したのである種の契約は既に成されたと見るべきだ。書面で残したりしなかったのはあくまで芸能事務所の社長の息子という側面を持つ硝太がインスタントバレットが関わるような世界に完全に一致させない為の気配りだろう。なので実際は手を組むと言うより、硝太側がcolorful(カラフル)から情報を横流しされるということになるが実質的にそれを見て硝太がどう動くかは情報を出すcolorful(カラフル)が自由に操作できると言ってもいい。

 

「アイツら貝原亮介を君にぶつける為に放置していたようなやつだけど、協力するんだ」

 

 どこに向けてでもない硝太の言葉にいつの間にか硝太の背後にいたツクヨミが答える。ツクヨミが使うワープに近い──というよりそのものな技。インスタントバレットの魔法かと疑ってしまうが本質的には違うものらしい。

 colorful(カラフル)の不審な動きはこれまで気にならなかったわけではない。フリルのストーカーに追いかけられている時に仕掛けてきた七辻。白岩の言葉から『偶像』のインスタントバレット──これまでの事件を全て仕組んできた主犯格は硝太のインスタントバレットを覚醒させるために手を出さなかった可能性が高い。フリルのストーカー被害、硝太が死にかけたことで多くの影響が残った。高千穂の件にしても、原因である貝原亮介を処理しておかなかったせいでルビーに変化が起きてしまったと考えても間違いではない。つまりcolorful(カラフル)は硝太にとって敵となるはずだった。そんな相手にまるで従うような動きを見せたのはツクヨミにとっては予想外。基本家族以外誰も信用しない硝太が味方を作るだけでもおかしいのにこれまで最大の警戒対象だったcolorful(カラフル)を味方に選んだ。何か意図があるのか、と疑ってかかるがツクヨミの目にはそういったものは見えない。

 

「構わない、その辺は僕もあまり変わらないよ。フリルには既に話を済ませてる」

「…そう。君の人生だ。君がどうしようと私は止めないよ」

「助かる。それでツクヨミ、ひとつ聞きたいことがあるんだが」

 

 硝太は話を変えて立ち上がると人の目がないのか確認してツクヨミに向き合う。

 

「姉さんのこと…いや、あの雨宮吾郎ってやつのこと、どれぐらい知ってる?」

 

 雨宮吾郎。高千穂の戦いで出てきた動く死体(リビングデッド)の一人、しかし彼は龍珠組の関係者という訳ではなくインスタントバレットでもない。ただの現地にいた医者。colorful(カラフル)や世界の端っこに所属していた、といった特殊な経歴も無い。そんな男が何故あの場にいたのか。ただ動く死体(リビングデッド)にされたのは運悪く『偶像』のインスタントバレットとエンカウントしてしまったということで間違いないが、気になるところはまだある。彼には最近10年以上目撃情報がなく、行方不明になっていた。あの山が多い田舎ならちょっとしたボタンの掛け違いで人が死ぬのも、それから10年以上見つからないのも珍しくはあるがありえない話ではない。問題は何故そんなものを『偶像』のインスタントバレットは使用したのか──否、死体が全然腐っていなかったことから見て行方不明になった時10年以上前に『偶像』にやられたことになる。だがその場合大きな違和感が発生する。今までフリルのストーカーは『偶像』のインスタントバレットの実験だと考えられていたがその場合雨宮吾郎が死んだ10年以上前に使いこなせたのはおかしい。他に考えられる方法もあるにはあるがその場合も不自然な点が同時に浮かび上がってしまう。これはあくまでフリルのストーカーがインスタントバレットの実験だった、という推定から導き出した結論でしかないので矛盾、とまではいかないが不自然なのは事実。

 ルビーの問題を解決するためにはおそらくそこを追求しなければならない、そう思った。

 

「ひとつ聞いていい?なんで私が知ってるって思ったの?」

「君が高千穂のことを思い出深いと言っていたから。あとは勘かな」

 

 ツクヨミはバツが悪そうな顔をする。どうやら自分の発言に後悔しているらしい。ツクヨミが高千穂に慣れていたので何気なく出身地かと聞いた時に「思い出深い場所」と言っていたのを思い出しただけだが、これだけでバツが悪い顔をするということはツクヨミは慣れた相手には意外とポンコツな疑惑が生まれたがそこは口に出さないでおいた。

 それよりツクヨミが後悔する理由がわからない。ツクヨミにとって高千穂が思い出深い場所であることにこれといった問題は無い。雨宮吾郎と関連付けられる、という言葉もツクヨミはその神話から高千穂と関係があるだけでそこに暮らす雨宮吾郎はまた別の話だと話を持って行けるのにそう言わないということはツクヨミは雨宮吾郎について何らかの秘密を持っている。

 

「もうひとつ聞いていい?なんで?」

「やっぱり姉さんのあれだけの変化はおかしい…多分ハズレだろうけど。なりふり構っていられない」

 

 これだけツクヨミに強く訴えかける硝太だが心の中ではルビーと雨宮吾郎に特に関わりはないと思っている。理由は簡単、雨宮吾郎は10年以上行方不明になっており、その間活動した記録がないからだ。当然ルビーも初対面だった。初対面の人間の死に様でルビーがあれだけの怒りや憎しみを持てるはずが無い。もしルビーがそんな人間なら母親のアイが亡くなった時点でこの世に生きていられるはずがない。雨宮吾郎の死に方も特にルビーのトラウマを早期させるようなものには見えなかった。

 冷静に考えるのなら雨宮吾郎とは別個体の動く死体(リビングデッド)、つまり『偶像』のインスタントバレットに使われていた龍珠組の組員に何かされた可能性のほうが有り得るし、それ以上に雨宮吾郎と共に遭遇したらしい魔女と名乗る未来視を使いこなすインスタントバレットに何かされた可能性が高い。

 それでも雨宮吾郎に疑いの目を向けるのは言ってしまえば硝太の勘でしかない。だが誰よりもインスタントバレットらしい、怒りや憎しみだけではない恐れや孤独を知った破壊衝動を持つ硝太の勘はそう笑い飛ばして済ませられるものでも無い。

 ツクヨミは俯いて深く考える。雨宮吾郎のことを調べている時間が無駄になる、ということでは無い。16年前に亡くなった雨宮吾郎の情報は今現在ほとんど残されていないが硝太の情報収集能力ならツクヨミが知り得る雨宮吾郎の事を知るのは不可能では無い。細かなものと不可解なものを繋ぎ合わせて行う作業は無謀に見られるが硝太なら数ヶ月で終わるだろう。だがその時硝太は選択を迫られることになる。

 星野亜久亜海()星野瑠美衣()。どちらかを天秤にかけて救うほうを選ばなくてはならない。兄を救うには姉の惨状を傍観しなければならず、姉を救うには自らの幸せを見つけていた兄と敵対しなければならない。どちらを選んだとしても硝太はもうあの双子の弟ではいられなくなる。そして、本来の硝太はその選択を決して迷わない。

 

「そっか、じゃあ」

「…MEMちょともさっき約束したんだ。姉さんは僕が守る。」

 

 そして、その時硝太がどちらを選択するのか──それはツクヨミにも想像できない。神すら知らぬ選択をこれから迫られることになる硝太をみて尚、ツクヨミは諦観することしか出来ない。今口では姉を守ると言っても状況次第では兄の幸せの為に見捨てるかもしれない。言葉の通り兄の幸せを壊して姉を止めるかもしれない。ただこれだけは言える。斉藤硝太ではどちらも助けることはできない。どちらを救い、どちらを地獄に落とすかその時が来たらどれだけ後悔すると知っても選択するだろう。それが自らの責任だと自分に言い聞かせて。




MEMちょとかいう名誉姉。MEMちょ関係の話ちょっと進めようと思いましたがルビーが闇堕ち(?)してる状況でそんなことしてる場合じゃねー!ってなりました。

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アニメのFINALSEASONが終わる前にこのSSも最終回まで駆け抜けたいな…
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