雨宮吾郎…一体誰マリンなんだ…
「あ、フリルちゃん」
その日の撮影を終え、予定もないので帰ろうとした背中に声をかけられる。振り返るとそこには少し懐かしい人ともう一人、初めて見る男の人がいた。
「片寄さん、お久しぶりです」
片寄ゆら。明るい青みのかかった髪色に水色っぽい瞳を持った最近有名な女優。共に知名度も人気も高い芸能人であるフリルと片寄だがフリルはマルチタレントとして女優の仕事もするが仕事の殆どは演技ではなく仕事のほとんどがバラエティなどのドラマや映画とは違う仕事なのもあって親交はそこまで深くはない。
彼女と出会ったのは初めて硝太と二人きりで出かけることになった日より前、彼女が出るドラマの番宣で出た時以来だ。
「うんうん久しぶり〜今バラし?」
「ええ」
片寄は軽く手を振ってにこやかな顔を見せる。片寄の笑顔を見ると前回会った時に硝太との恋愛話に食いついてきたのを思い出す。
にこやかな顔を見せる片寄に対して横の男は笑おうとしている顔が引きつっており、片寄のノリに乗り切れていないのが分かる。横にいる男はルビーのような金髪でかなり若作りしているようだが一度硝太の母親を見てるフリル目線だと無理しているようにしか見えない。年齢は30代程だろう。
「ああ、ごめん。この人はミキさん。私の飲み友達」
「あはは…こんにちは、不知火フリルさん」
「初めまして、不知火フリルです。」
ミキ、と呼ばれた男は見た目の年齢で考えると腰が低い。清純派、として売っているフリルほどでは無いが異性と会うことを制限されることの多い片寄が恋愛感情無しとはいえ会っているのだから芸能関係者なのは間違いないがプロデューサーやディレクターと言った感じでもない。片寄の事務所の社員、と言ったところだろう。
そんなことを考えているとミキが右手を差し出してくる。軽い挨拶で済ませると思っていたところに握手を要求されたので少し意外にも思ったが特に悪感情がある相手でもない。フリルも握手で返す。
──その時、握った右手に違和感を感じた。
「どうかされました?」
「あ、いえ…なんて言うか。もしかして、会った事ありますか?」
フリル自身、ミキと呼ばれる男に見覚えはない。だが感じたことない違和感に全身の毛が逆立つ。フリルも芸能人のしての経歴はそれなりに長い。初対面の人相手に緊張する、なんてことはまずないのに。緊張を超えて警戒している自分がいる。警戒の仕方といい、感じる感覚といいまるで自分が硝太になったようだ。
「…自分の記憶が正しければ初対面だと思いますが。似た顔をしたものは世界に3人はいる、と言いますし自分のそっくりさんがいたんですかね」
ミキはフリルに特に警戒している様子はなさげだ。フリルの言葉を笑って流す。フリルの勘違いなら全てが丸く収まるのだがそんなに簡単に考えられなくなっていた。
「あ、そういえばフリルちゃんあの話はどうなったの?」
「あの話?」
「この前会った時のアレよ、アレ」
簡単な挨拶も終わり、このまま別れるのかと思ったが片寄はフリルとの距離を近づけるとこの前に話を掘り返す。片寄の言う「この前会った時のアレ」はフリルの記憶が正しければ硝太の事しかありえない。一応他の人も当然のようにいる場所でまさか恋愛話を持ちかけられるとは考えるはずもなく油断していた。
「あーその、それは、ですね…」
「進展した?」
キラキラした表情でワクワクしながら言葉を待つ片寄と対称的にフリルは珍しく顔を悪くする。硝太との関係だが相棒、友人としては進展したと言っていいだろう。最初から事件のことを共有する仲として共に歩んできた。硝太の知らない世界の視点から推理のミスを修正したりやれることはやってきたと思う。それでも、恋愛関係となると横ばいとしか言いようがない。バレンタインチョコは渡したがあの恋愛オンチの硝太に何かしら変化が訪れる──と考えるのは都合がよすぎるというものだ。
「ん?何の話ですか?」
「ミキさんは知らない女の子の話〜」
何も知らないミキは一人で放ったらかしにされ、片寄に縋ろうとするがまたも放ったらかしにされる。実は不遇な人なのかもしれない。ミキは片寄の恋人や恋人候補にも見えない。だが事務所の人間として考えるとすこし距離感が近い気もする。
「そういう片寄さんは?」
「私はそういうのないから、仕方ないよ。忙しくてさー」
仕返しのつもりで片寄にいい相手がいないのか聞いてみるが片寄はそういうのいない、忙しいの一点張り。「忙しいのはこちらも変わらないのですが。」という言葉は飲み込んでおいた。普通に考えて清純派二人の近くに男がいること自体がおかしいのだ。氷室はなんだかんだ文句ばかりだが実際硝太は事務所側に恩を売っているのでバレても見過ごしてもらうことがある。だが片寄の場合はそうもいかないだろう。お互いこの時期は仕事が詰まっているし事務所の目をかいくぐって相手を探すのも難しい。
「あ、けどもうそろそろで大きな仕事が終わるかな。それが終わったらね、しばらく休み取ることにしてるんだ。山にでも行こうかなー」
「山登りですか、いいですね。私はその辺り忙しいので共には行けませんが」
話が
「あ、もう時間だ。じゃあねフリルちゃん。今度はその子のことちゃんと教えてね。」
片寄が何か思い出したように時計を見て時間を確認すると軽く手を振ってその場を後にする。ミキも軽く会釈をした後片寄の背後について行った。
なんてことはない、ただの同業者とのコミュニケーション。こんなことフリルは毎日当然のようにやっている。わざわざ記憶するまでもない話。だと言うのに片寄について行くミキの姿がどうにも引っかかって、頭から抜け出せなかった。
◇◇◇
その頃、陽東高校。
人が滅多に寄り付かないような物置部屋。そこはとあるインスタントバレットの術によってひとつの空間に繋がる扉が作られていた。
「存在」のインスタントバレット。諸木亮太。インスタントバレットたちの組織、『世界の端っこ』のメンバーで同名の拠点を作り出した魔法使い。彼が作り出した世界はまるで子供の遊び場がそのまま広くなったような空間で、中には本棚に冷蔵庫にテレビにと様々なものが置かれている。普通の世界とは隔絶した場所でありながらテレビや電気は普通に来るのがインスタントバレット
「おっ、お疲れ木陰ちゃん。」
藤波木陰。陽東学校にいる硝太とはまた別のインスタントバレット。普通科2年生で硝太とアクアの1つ年上の先輩に当たる。
「もう3年生かー。調子はどう?」
「どうって、特に変わりねぇよ。斉藤も大人しいしな」
陽東高校も芸能科があることを除けば偏差値が少し低いだけの普通の高校。藤波は硝太のようにマトモに学生生活を送れなかった過去を持つとはいえ進級出来る学力は当然持っている。藤波にとって1番の障害である1年の斉藤硝太も最近は特に動くことがないので進級になんの障害も無い。それは来年に控えた卒業でも同じこと。
普通科の生徒達は今頃来年の進学先について頭を悩ませているところだろう。やれ頭のいい大学には入れないだの、やれFランしか行先がないだの嫌になる言葉が教室中を行き交う。見方を変えれば運が良ければ芸能人とも会える陽東高校にいながら自分もあのステージに上がれると助長しないのはいい所なのかもしれない。
それは置いておくとして藤波の場合はわざわざ大学に入る気はない。藤波自身ある程度頭は働くほうだと自認があるが、いいところには金と頭脳の両面で無理がある。そこまで行きたがる理由もなく、むしろさっさと働きたいとすら思っている。
「なら、大丈夫そうだな。大学とかどうする?」
「別に興味ねぇからいいよ。私もその辺で働くわ」
「別に気にしなくてもいいのに」
「馬鹿やろっ、私が気にすんだよ。」
藤波は大学に行かずに働こうとしているのに対して諸木は進学を勧めはするものの、特に強制することも残念がる事もなく藤波の決断を受け止める。諸木もやっているのはただのバイト、つまりフリーターなわけで収入はお世辞にも高いとはいえない。住んでいる場所がインスタントバレットで作り出した『世界の端っこ』のお陰で家賃と電気代が実質無料になるのはあるが食費や水など金がなければ何ともならないことも多い。藤波の高校入学の資金ですら、諸木一人では賄うことも出来ない。藤波も働きに出ればある程度暮らしは楽になる。藤波はあくまで『世界の端っこ』を家ではなく遊び場、秘密基地のように扱っているとはいえ、今後は世俗との関わりも必要最低限に抑える必要が出てくる。実質諸木と同居──という道を歩むことになるだろう。
「そういえば深瀬君は?最近来ないけど」
「彼女で忙しいんだろ。──ったく、今この瞬間に斉藤が来たっておかしくねぇのに」
「斉藤は落ち着いてるんだろ?」
今後の進路といえば──と考えて諸木は大学進学をしている深瀬の名前を出す。彼も藤波と同様、ちゃんと家と過ごす場所があり、『世界の端っこ』はメンバーと集まる場所として扱っている。なので毎日来る訳もなく、一週間で一度も来ない、というのもそこまで珍しくなかった。だが最近は来ない日が圧倒的に増えたように諸木は感じている。藤波も同じようで先程までの落ち着いていた理由を棚に上げて、いない深瀬を非難する。
「別にいいさ、ここはただの秘密基地だからね。」
「んな、気楽な状況でもねぇだろ」
気楽にソファでくつろぐ諸木を見て藤波は現実に引き戻させる。
最近は
斉藤硝太、インスタントバレットに目覚める前ならともかく現在は純粋な戦闘力では『世界の端っこ』と同等クラスだと踏んでいる。
諸木のインスタントバレットは性質上、戦闘力はゼロに等しいが逃げ隠れる生活をするには向いている。最悪の場合、今の世界との繋がりを全て消して『世界の端っこ』に引きこもってしまえば斉藤硝太とはいえ手を出せないはず。だがそれでは仮に成功したとしても緩やかな死を迎えるだけ。気楽に生活できるものでも無い。
そんな時、二人の傍らに一人の少女が音もなく現れる。
「なら、君達に道は2つしかない。先に仕掛けるか、斉藤硝太を懐柔するか」
「──魔女さん!?、──ったぁ」
二人の傍らに現れたのは黒いローブがトレードマークの魔女。急な来訪者と言うだけでも驚きなのにそれが魔女だと知った諸木は驚きのあまり飛び上がって近くの棚に頭を打つ。頭を打った痛みにもだえるがそれが魔女がいるのを夢では無いと知らせている。
「何を急に」
魔女の急な来訪に藤波も驚きは隠せないものの、諸木が醜態をさらしたお陰でいくらか冷静になれた。その頭のまま魔女と話を始める。
「言葉の通りだよ。君たちが今後生き残るために道は2つしかない。斉藤硝太を殺すかこちらに引き入れるか。判断は任せるけど」
「んな急にそんなこと言われたって」
「でもそれしかないのは君達も知ってはいた、でしょう?私のインスタントバレットも
魔女が言うのは残念だが本当のことだ。
「なら、殺すか」
「待ってよ、すぐ殺す殺すって。こっちの目的は話したんだしお互いの邪魔にはならないでしょ?なら味方に引き入れる方がいいよ」
「無理だよ」
だが藤波は即座に殺害を決定。諸木がすぐさま止めにかかる。互いの心象はそこまで良くないとはいえ、硝太は『世界の端っこ』の今の目的──未来視の否定を聞いている。これは硝太の今後の行動に足を引っ張るものではない。つまり本来戦う必要はないのだ。あくまで『世界の端っこ』と敵対している
「魔女さん」
「私はどちらに転ぼうと止めないよ。というか止められない」
殺し合いに固執する藤波を見て諸木は魔女に助けを求めるが、魔女は首を横に振って断る。魔女は『世界の端っこ』のメンバーではない、あくまで中立の立場。メンバーでもないのに意思決定に影響を及ぼすことはできない。
そんな時、二人の男女がドアから組織ではなく作り出された世界の『世界の端っこ』に入ってきた。男の方は高千穂にもいた金髪の少々やさぐれた目つきの悪い青年。──深瀬クロ。女の方はクロどころか藤波よりも年下の少女。艶のある黒髪をツインテールにしているが目には光がともっていない。名を綾倉いろは──否、深瀬いろはという。クロと共に深瀬家に引き取られた養子、そして彼女もまたインスタントバレットであり『世界の端っこ』のメンバーでもある。
彼らの来訪と共に逃げるように魔女が姿を消した。まるでツクヨミが行ったワープのように突如現れた霧共に消える。
「いろはは木陰ちゃんに賛成かな。クロ兄ぃは?」
いろはは木陰に賛成、つまり硝太を殺す派。いろはは硝太のことを何も知らないが、硝太と同じ排他的な性質を持ち、倫理観に薄いのもあって殺すことに抵抗感が無い。『世界の端っこ』に入れるか殺すかのどちらかで揺れるような相手を仲間とは呼びたくない、と考えている。
そんな義妹に答えを催促されクロは俯いて考える。高千穂で魔女に出会った時から彼なりに答えを考えていた。遠目に見た斉藤硝太という人物の事。自分たちはかけ離れた恵まれた人生を送っておきながら人を殴る蹴ることに抵抗がない所かナイフで切り合うことにも抵抗がない。近くに控えさせたクロのインスタントバレットで作り出した『獣』に気付いて即座に発砲する危機察知能力と反応速度。どれをとっても素人離れしたセンスだ。
「…そうだな。アレとやり合うのは骨が折れる。弾丸一発で『獣』の一部が剥げてた」
『世界の端っこ』のメンバーはインスタントバレットという頂上的な力を持つとはいえ、それを除けばせいぜい喧嘩が強いぐらい。戦闘慣れも戦闘センスもお世辞にも高いとはいえない。今勝つなら複数人で囲んで魔法の出力でゴリ押しするしかない。
シンプルな戦闘力なら『世界の端っこ』でも最強のクロでさえ、インスタントバレットの相性が多少いい程度では普通に戦って勝ち目があるとは思えない。むしろ自身のインスタントバレットで作り出した『獣』に傷が入るということは防御も対して役に立たないということ。ゴリ押しで進めるにしてもリスクは高い。
「なら」
「でも仲良くしろ、って言って受け入れるようなやつでもない──あいつは殺そう。こっちにはまだ使える策はある。使えて1回だが上手く行けば簡単に斉藤硝太を殺し切れる。」
諸木が希望を持ったもつかの間。クロは硝太を殺す決断をした。危険であることは放置できない理由であり、クロは魔女や藤波が考えるほど対処は難しくないと思っている。理由は二つあり、一つは前述のゴリ押しが通る相手だから。
「策?」
「ああ、星野ルビーを使う」
斉藤硝太という男は決して家族を見捨てられない。たとえ罠だと頭で理解しようと、自分が殺されるとわかっても守らざるおえない。
これは生物が持つ生存欲求を遥に超えた本能。魔女のおかげで星野ルビーは今
──だが、『世界の端っこ』は本当の意味で理解していなかった。家族を餌に使われた硝太がどれだけ恐ろしい存在になるのかを。
久しぶりのキャラ紹介
深瀬クロ
インスタントバレットの主人公。金髪に三白眼の目つきの悪い青年。インスタントバレットでは高校生だったが本作では大学に進学している。幼少期に母親に捨てられた経験を持ち、『深瀬』はクロを引き取った義理の親の苗字。本当の名字は不明。
特に勉強してるような描写こそないが成績優秀な天才肌な優等生──に見えて頭がいいだけで売られた喧嘩は片っ端から買って相手をボコる戦闘狂。不良グループに一時在籍していたがその性格のせいで全員ボコして一匹狼に。インスタントバレットに目覚めたことで魔女から『世界の端っこ』に招待される。
実はかなりオタク気質で惚れっぽい。好みはお姉さんもの。
深瀬いろは
黒髪ツインテールのクロと共に深瀬家に引き取られた少女。旧姓は綾倉。元は被虐待児で劣悪な環境に過ごしていたものの、十色という名前の姉とクロと共に仲良く過ごしていたのだが放火事件で十色は死亡、彼女も重症を負う。二度と目覚めないものとして処理されているが
幼い頃からなんとなく姉とクロは結婚するものだと思っていた──というのもあってクロのことをクロ兄ぃと呼ぶ。
『創造』のインスタントバレット。
深瀬クロのインスタントバレット。彼の攻撃性をそのまま表したような獣を具現化する。クロが獣に出せる命令は破壊の命令のみで「特定のものを持ってこさせる」「盾にする」といった命令は下せない。獣は黒いモヤのようなもので身体を形成したり、犬や猫のようなもの他の生き物のように肌と毛を持ったりするなどサイズと形状が不確定で「飲み込んだものはどこかへ消える」という謎の性質を持つ。インスタントバレットとしての物理法則に対抗する能力を持つのはおそらく獣の方だと思われる。
名前に反して雑に攻撃力だけは高いのでかなりゴリ押しが効くインスタントバレット。
◇◇◇
久しぶりに登場した片寄ゆらさん。
この人の登場2回目だった気がするんだけど…この小説結構長い気がするんだけど、それでもまだ2回なんだ…
そしてそんな間も新たな敵──じゃないな、『世界の端っこ』が遂に動く!
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