『世界の端っこ』、遂に動く──!
インスタントバレットの陣営は書く上の制限多いけどなんだかんだ楽しいんだ
「北海道で単独ライブ!?」
『POP IN 2』のバズからMEMちょが新しく火をつけたネタはさらに広がり、B小町の活動が軌道に乗ってきた頃、苺プロにとある提案が来た。
B小町のライブを北海道でやらないかと提案が来たのだ。それもJIFのような大型イベントではない単独ライブ。ライブ会場の収容人数は千人。小さなハコでもなく、ほかのアイドルなどの力を借りれないシンプルに新生B小町の実力が分かる。ミヤコはこの提案を快諾。ネット発ということもあり、B小町の主戦場は今やネット。都会でなくても全国にファンが点在している今のB小町なら北海道でのライブも問題ない。
「ええ。なので今日からいつものルーティンと共に北海道ライブの調整も入れていきます」
「おお〜大変になりそうだねぇ」
これまでのライブの調整のことを思い出して、これからの苦労を憂うような発言をしながら、楽しみな感情を隠しきれていないMEMちょ。ルビーも有馬もこれまでの活動で手応えを感じているのもあってやる気が見える。JIFの前、まだ纏まっていなかったあのころからまだ1年も経っていないとは信じられない纏まりを見せる。
「となると外部のトレーナーにダンスとか見てもらわないといけませんね」
「そこは私達が調整するわ。貴女達は自分が出来ることをしておきなさい」
「はーい」
報告を終えるとミヤコはすぐさまパソコンに向き合う。有馬が言ったような外部のトレーナーの誘致に広告戦略、最近出てきたメディア出演の調整等苺プロ社長としてやることは多い。
外部のトレーナーはJIFの時には硝太が連れてきた「今ガチ」の二人がいたがそれ以降は別会社に委託する形で行っている、今回も同じ方で問題はないだろう。広告戦略はMEMちょが忙しくなるので苺プロとして打てる手は全て打つ。苺プロが抱えているほかのY○uTuberやネットタレントがが広告として出るのもそうだが、昔使われていたビラなどの広告も昔ほどの力がないとはいえ決して無駄では無い。
アクアも最近ファッション誌のモデルやドラマの脇役など特に目立つ訳では無いが新しい仕事が入ってきている。どうやら『東京ブレイド』の舞台の成功が業界から見て相当気を引いたようでネット番組のレギュラー枠に推薦する声も多くある。それらの調整も苺プロが担当する。これまで少人数で仕事を回してきた苺プロからすると急激に仕事が増えて参ってしまう。大手ならこれぐらい仕事が増えたとしても空いた手で何とか会社を回すことができたが苺プロではそうともいかない。ミヤコとしては早急にB小町とアクアに専用のマネージャーを付けてあげたい──が、ルビーとアクアの事情もあってそう簡単にマネージャーをつけてやることはできない。特にルビーは高千穂での一件から有名になるためにこれまで以上に必死に──最悪嘘を使ってでも、褒められた道ではなくとも進もうとしてるのが見受けられる。アイドル活動を必死に進めるのはミヤコとしても嬉しいのだが、その為に色んなものを犠牲にしては意味がない。ルビーの人生はアイと違ってアイドルで終わりにするべきものではないからだ。ミヤコは適当なところでセーブが効くように気遣ってきたがそちらに手を回すのが厳しくなる。
「硝太、ちょっと来て」
妥協案ではあるがミヤコは近くでなにやら調べ事をしている硝太に声をかける。マネージャーを外してその後自分たちが関わってはいけない世界に両足を突っ込んでしまった末っ子だが、内の事情は当然詳しく事務作業も得意な方。こういう時に仕事を任せられる人材として考えていい。
「ん、何?」
「お母さんこれから北海道ライブで忙しくなるから…ルビーのこと、ちゃんと守ってあげてね」
有馬とMEMちょと3人で揃って曲のフリの練習をしているルビーの方向を差す。硝太もルビーのことは心配していたのでこれだけでミヤコの伝えたいことは全て伝わった。
「任された。お母さんも自分の身体はちゃんと労わってあげて」
ミヤコの心労を察した硝太はPCを置くとB小町の中に入っていく。その姿を見てミヤコは独り言をつぶやく。
「…私、何言ってるんだろ」
最近安定しているとはいえ、元々精神障害抱えた息子に危ない娘の世話を頼む、なんて親としては正気の沙汰ではない。本当の親なら二人とも精神科の病院に連れていく。今はともかく今後もルビーのアイドル活動を続けるのは危険な要素がどうしても目立つ。だがルビー達が考えているようにアイドルの寿命は短い。ここはミヤコ達にはどうしようもないポイントでそれ故に今のルビーの足を止めたくない。
社長としても、親としてもどっちにも振り切れない中途半端な決断をしている自分に億劫になる。そんなところを硝太にすら感じ取られて「ちゃんと労れ」と言われてしまっているのだから親としても社長としても失格だ。
「…壱護がいれば」
ミヤコは仕事をする手を止めないながらも今ここにいない夫のことを考える。親としては合格点にはとても届かない男だったが社長としての手腕は間違いなく今のミヤコ以上にあった。大手の寡占状態である芸能界で小規模な苺プロのアイが伝説のアイドルとして語り継がれるのはアイの魅力だけではなく彼の手腕もあったのは最早誰も否定しない。アイドル達にはバレたら立場を悪くするようなことはさせず(アイの出産と子育てを除く)、上手く相手の懐に入って仕事を取ってきてその小さなチャンスを決して見逃さず、爪痕を残させるどころか視聴者の視線を奪うようにしているになっていた。
彼なら間違いなく今のルビーをもっと有名なアイドルにさせる為に奮闘していただろう。高千穂で見た死体も所詮他人のものでルビーは事件に関係していない。硝太の件も同様。ならばルビーは胸を張ってアイドルをやれる、と言うだろう。
──結局やってることは同じ、って言いたいけど違うわよね。そんなに甘くない。
一見今と変わらない対応に感じるが、壱護なら本当に気にしないように振る舞わさせることもできただろう。ミヤコにはそれが出来ない。出来ないからと落ち込んでいる場合では無い、と奮起こそしてみるが不安なのは隠しきれない。結局考えてしまうのは、壱護がいればこの状況を変えられたかもしれないという有り得ない妄想だった。
◇◇◇
『POP IN 2』の公開から世間の見るB小町が変わった。それまではちょっと有名な地下アイドル、それなりに名が売れたインフルエンサーが参加してるアイドルグループ、といった形でB小町の人気の大体半分はMEMちょだった。MEMちょはそのキャラクターと動画内容から男女共に多くのファンを抱えているのもあり、層が厚い。中には「MEMちょがアイドルに興味を持ったから、B小町のアイに脳を焼かれていたから作られたグループ」という見方をしてるファンも少なくない。実際に大手事務所ではなくB小町のアイがいた苺プロというのが絶妙にそれらしい。彼らからすればMEMちょの抱えるいくつかの企画の一つとしてB小町を応援してきていたのだ。
そんな中での『POP IN 2』の公開、世界に広がったその曲の中でセンターを務めるルビーに誰もが心を奪われた。これまでとても上手いとは言えなかった歌は別人のように澄んだ歌声になり、よく育った体幹と表現力から生まれたダンスにも磨きがかかった。何より一度見たら記憶に焼き付いて離れないそのカリスマ性はB小町の人気は勿論、ファン層ですら大きく変えた。『POP IN 2』のコメント欄はルビーを褒める言葉に埋め尽くされ、動画の再生回数はドームライブを複数回やるような大手アイドルグループと同等。芸能界がそれを見逃すはずなく、B小町は新曲を引っさげていくつかの歌番組に参加した。先程ミヤコ社長から話があった単独ライブも一度やった地下の小さなハコとはレベルが違う。
人気になったことは嬉しい。最初はやる気のなかったアイドル活動も、軌道が乗れば楽しく感じてしまうのが人というものでファンが振る白いペンライトを見ると「自分は愛されている」「見てくれている」と努力が報われた、ある種の全能感を感じた。
だがB小町が有名になったのはルビーの影響。MEMちょにはスタート直後からの固定ファンがいて、『POP IN 2』の影響でルビーのファンが明らかに増えた。これまでは少し多いぐらいだったルビーの赤いペンライトの色が会場全体を埋めつくしたのは傍から見れば壮観だったろう。後ほど撮影したデータを見させてもらったが真っ赤な光の中にチラホラと黄色のペンライトが光っているぐらいで、最初の頃は少ないながらもいた白のペンライトはいつの間にか消えていた。番組のインタビューも8割はルビーに向けてのもの、残りはグループ全体へ向けたもの。今どきそうそう来ないはずのファンレターもルビー宛にポストが一杯になる程届いていた。新しい動画を出してもやれ「ルビーの衣装かわいい」「ルビーちゃん綺麗」とルビーを称える言葉で溢れる。たまに動画でルビーが口にする
どうせ次の北海道ライブも赤いペンライトばかりだろう。B小町にいるだけの売れないアイドルの有馬かなはアクシデントでもなければ視界に入っているだけ。
──もう誰も、私を見ていない。
せいぜいルビーを着飾るモブのB程度。B小町のファン層的にも有名だった頃の「子役有馬かな」を愛していた人すらほとんどいない、そうなれば「アイドル有馬かな」に興味がある人も自然と消えていく。
──ルビーになりたい。
何度もそう思った。天真爛漫で、可愛くて、人に愛されるようなアイドルの花形といえるあの子に。
──ルビーに落ちてきて欲しい。
同じ視点に立っているはずなのに、同じ景色を見ていたはずなのに。なんなら子役の時はもっと高い位置にいたはずなのに。いつの間にか広がりすぎた差が誇らしいものではなく嫉妬心に変わっていた。
MEMちょとルビーと話している間、社長が硝太にルビーの護衛を頼んでいる声が聞こえた。当然だ、社長からすればルビーは愛娘であると同時に苺プロの大事なアイドル。彼女が色々と危なっかしいのを除いても守ろうとするのは当然の話。
──B小町ではなく、ルビーを守る。そんなの、当然の話。私を守ってくれる人はいないなんて、愛してくれる人はいないなんて、当然の話。
「どうしたの?先輩?」
ルビーの底抜けに明るい声が聞こえる。本当になにかあったと思ってるわけではない、ただの日常会話の範疇。本当に幸せそうな顔をしている恨めしい。まさか同じアイドルグループのメンバーが嫉妬しているだなんて思ってもない。
「なんでもないわよ、私なんかよりアンタは体調気をつけなさい。センターなんだから」
「うん、任せて」
心配の感情が見えなかったのか気楽に返される。ただこれだけで彼女の意識が強くなっても困るのだが。
「姉さん、ちょっといい?」
「ん、なぁに?」
そこに社長にルビーもお守りを頼まれた硝太が話しかけてくる。ルビーは硝太の頭に手を伸ばすと自分の胸まで引き寄せて抱き締める。
そういえば最近、硝太とルビーがよくくっついている気がする。元々甘えん坊の硝太が姉のルビーに甘えるのも姉として甘やかしたいルビーが硝太を甘やかすのも決して珍しいものではなく二人を見る日は1日1回は見るものだったが最近は寝る時も二人で抱き合っていたり、暇さえあればルビーが硝太に触れている気がする。こんなものを見て、
「僕、お母さんにB小町のお守り頼まれたから」
社長には『ルビーの』お守りを頼まれた硝太だが彼は三人の前で『B小町の』お守りを頼まれたと言った。嘘をついたわけではない。自主的にMEMちょと私も守るべきだと思っただけ。
──まぁ、ルビーの為なら二人とも見捨てるのでしょうけど
もう出会って共に過ごして1年経つ。硝太の優先順位は何となくわかってきた。1番に社長のミヤコさん、2番にルビー、アクア。その後は3番目にMEMちょや私等の苺プロ関係者が続く。もしB小町の全員に命の危機があったら迷いなく硝太はルビーを選ぶ。そういう子だ。
「へぇ、そうなの。じゃあお姉ちゃんからもお願いしようかな」
「うん、任せて。姉さん達はみんな僕が守るよ」
能天気に見えるなルビーは硝太を抱き締めるとクルクル回り始める。硝太も硝太で特に表情を変えずに回っている。
そうしてみると自然と呆れてしまう。そもそもルビーを守るやなんや言っているが一番危険なのはこの子である。つい最近まで左腕がぶっ壊れていたのを忘れているようだ。
「守る守るって、アンタは守られる方でしょ」
「硝ちゃん末っ子キャラだもんね〜」
──MEMちょ違う。末っ子なのはそうだけど話の方はそうじゃない。
少しズレたMEMちょの反応を聞き流しながらクルクル回る硝太の頭をポンポンと優しく叩く。こんな
「…ダメだよ先輩」
「ルビー」
「硝太は私の弟だもん」
硝太の頭をポンポン叩いていたのが不服だったのかルビーは硝太を大きく持ち上げるとそのままお米様抱っこの体勢になる。筋肉が詰まっているせいで見た目以上に重い硝太の全体重持ち上げても軽い顔をしているのは相当な力だがそれを瑣末事に感じるようなルビーの声で現実に引き戻される。
重いというより冷たい、尖った氷柱をそのまま突き刺すような冷ややかかつ鋭い声。先程までの偽物でも明るい声は別人のものと思ってしまうほどの声にMEMちょも困惑の声を出す。
ルビーは硝太をお米様抱っこから再び抱き締める形に抱き直す。その瞳は黒い星が瞬き、口角がゆっくり上がっているのが非常に気色悪かった。
ヤンデルビー…実在したのかっ!
スレにいた人たちすら覚えてるのか分からないアクア死亡後のifルビー、ヤンデルビー。因みに名前自体は僕が勝手に考えました。まぁ今のルビーはその状態に近いってことで。
それはそれとして次は北海道ライブです、原作だとしれっと終わったけどまぁ本作だと原作でちゃんとやったところナレで終わらせて隙間埋めてるような形だし。さすがライブシーンは書きませんけど。書きませんけど!
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闇星ルビー。ヤンデルビー。