【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
不知火フリルや、寿みなみ。そしてアクアが芸能活動をしていることに焦ったルビー。アイドルグループを作るためにアクアはフリーの芸能人、有馬かなを加入させることを提案する


#10 コッテリしたオタって、なに?

 次の日。

 芸能科の2年教室前に出てくる1人の少女、有馬かな。そしてそれを影から観察する不審者、星野アクア、星野ルビー、斉藤硝太の3人。

 物音を立てず、注意深く観察する。芸能科の人脈がどう繋がっているかは入学したばかりの三人にはまだ分からないことだが、周りに人が集まっていることから人気があるのはよくわかる。少なくとも教室の片隅で何もせずにしている陰の者たちではないと言いきっていい。

 

「長年アイドルを追ってきた私の経験上、ああいう子はコッテリとしたオタの人気をめちゃくちゃ稼ぐ!」

「視点も分析もなんか嫌だな」

 

 よく手入れされた艶々の髪。あどけなさの抜けない童顔。天然おバカっぽいキャラクター。アイドルを語らせたら朝になるまで語っている程の知識量と理解力を誇るルビーがそう語っているのなら彼女、有馬かなはアイドルに向いていると見て間違いは無い。

 それはそれとしてルビーの視点も分析もかなり偏っているがアクアとルビーは転生して今の名前と体になる前からアイドルオタクだったので決して的違い、という訳でもない。

 

「コッテリしたオタってなぁに?」

「硝太はまだ知らなくてもいい」

「えー」

 

 そんな中一人だけ転生者ではなく、それどころかアイドルを知らないためコッテリしたオタという単語の意味を理解できない硝太が隣のアクアに聞くがアクアは軽くあしらう。

 知らなくていいと言われた硝太は膨れながらも追求することなく後ろに半歩下がる。

 

「人気でそうならいいじゃん、誘うだけ誘ってみたら?」

「えー、けど私とロリ先輩にはただならぬ因縁があるじゃない?」

「あったっけ?」

 

 見込みがあるならとりあえず誘ってみるかと聞くアクアの言葉にルビーはあまり乗り気では無い。硝太がミヤコを推薦した時の顔を覆って頭を抱える姿を比べたらマシではあるが、それでも自分の夢のアイドルを新しく集めようとする時の顔では無い。

 因縁云々こそないが、ルビーが乗り気でない以上そこまで言い聞かせるのも双方に良くない。それでもルビーが早くアイドルになりたいと言っている以上、何処かで妥協をするしかない。

 

「だってぇ!あの人私に感じ悪くない!?」

「まぁまぁ。繊細な人なんだよ、きっと…」

 

 ルビーが『重曹舐める天才子役』と間違えたこともあり、二人の出会いの印象は良くない。人は第一印象で相手の印象の大半が決まる、というのは有名な話だ。特に悪印象は心に強く残りやすい。今後その悪印象を取り払えるほどいいことが起こるかどうかも保証ができない。

 ルビーの判断次第なのでアクアも硝太もそれ以上は深く踏み込めない。

 

「とにかく呼び出しておくから話だけしてみろ」

「むぅ...」

 

 アクアは恐らくこの前の『今日は甘口で』のドラマ撮影の時に交換したのであろう、連絡先を出す。放課後に適当な公園にでも呼んで話をすればいい。本人が乗り気ならそれでよし、断るならまた別のメンバーを探す。それに断る理由のないルビーは微妙な顔をしながらも小さく頷いた。

 

「じゃあ僕はこれで」

「硝太?」

 

 その様子を見て、話が終わったと確認した硝太は話を切り上げ二人から離れようとする。

 硝太は安心出来る家にいるならともかく、学校内で一人で出歩くようなことはまずしない。人混みに巻き込まれるだけでグロッキーになるほどなのでいつもならルビーかアクアのどちらかかあるいは両方と共に行動する。少なくとも自分から離れようとすることは無かった。その為二人が硝太の顔を覗き込むように見る。

 

「どっか行くの?」

「放課後には合流するよ」

 

 ルビーの心配そうな声に硝太は言葉を濁して答える。嘘と隠し事が下手な硝太にとってこれが自分のやることを隠す最大にして唯一の方法だ。

 それを知っているからこそ、アクアとルビーは余計に心配をする。今現在硝太が一人で隠し事をするほどことがあるとは到底思えない。しかしなんでも話してしまうような硝太が隠し事をすると言うことはそれほどのことが確実に()()のだ。

 しかし二人のそんな心配とは裏腹に硝太は逃げるようにどこかへ走っていってしまった。歩くならともかく走ったとなればアクアとルビーでは到底追いつけない。

 

「探す?」

「やめとけ。かわされるだけだ。それなら硝太の周りに聞いた方が早い。変なことに頭突っ込んでそうだし」

「わかった。こっちでも調べておくね」

 

 ルビーとアクアは互いの顔を見ながら今後の方針を確認するとそのまま別れた。

 

 

◇◇◇

 

 その後二人とも特に大した情報が掴めないまま、有馬と約束した放課後になった。

 空が狐色になった時間帯にファンの目を気にしているのか隠れながら有馬かなは呼び出した先の公園にやってきた。

 

「お待たせ...」

「待ってたわ、遅いじゃない」

 

 少し緊張した様子で来る有馬にの目の前に立ったのは弁慶のように仁王立ちしていたルビー。予想より遅いので少し苛立っている。

 

「あ゛?永遠に待ってろ」

 

 苛立つルビー相手に呆れ半分、怒り半分といった様子でルビーの言葉に答える有馬。とてもこれからアイドルにスカウトする側とスカウトされる側には見えない。

 アクアのLINEにはルビーと硝太の事は書かれてなく、秘密の話をするような呼び出し方だった為ルビーと硝太が居る、と言うだけでその落差は大きい。

 

「なんで妹と弟もいんの?」

「用事があるのはルビーだからな」

「僕は付き添いです!」

「はぁ、気負って損した」

 

 アクアと硝太がただの付き添いで本命はルビーだと知った有馬はため息をついて近くのベンチに腰かけてスマホを操作し始める。アクアや硝太の予想以上に落胆が大きいようでそこには数秒前の緊張した乙女の姿は無い。

 

「──で、何の話?私も暇じゃないんだから20秒で済ませて」

「露骨すぎません?」

 

 アクアの用事でないためか態度が大きく変わっている有馬を残りの三人が白い目で見つめる。むしろ先程までの緊張が何処から発生していたのかが気になってしまうほどの急変に、硝太は一人頭を抱える。

 硝太程の共感能力がなくても有馬の態度の理由がアクアとルビーにあることはすぐに分かる。その上で硝太が読み取れる情報はどう考えても兄であるアクアがわざとそうさせるように仕向けたようにしか見えなかった。

 硝太は有馬の視線を確認すると有馬には分からないようにアクアの隣に立って小さな声で耳打ちする。

 

「ちょっと兄さん、有馬さん呼び出す時になんて言ったの?」

「大事な話があるから放課後ちょっと時間作れないか?ってだけ」

「兄さんはさぁ...」

 

 返ってきた反応が予想通りのもので硝太は分かりやすくガクリと肩を落とす。

 硝太の中でアクアマリンという男はそういうことをするかしないかどちらかと聞かれるとする方に入る。意図的にか無意識なのかは硝太も分からないが自分の兄は女性への耐性がありすぎて逆に女の子を転がすような行為をする。いわゆる女の敵と言うやつだ。

 そう考えるとアクアと有馬を二人で対面させるのは危険だと判断するしかない。いくらルビーがアイドルを共にやる人を探しているとはいえ、またアクアに転がされて入ってはルビーにとっても有馬にとっても良いこととは言えない。その上でルビーが有馬のことをよく思っている訳ではなく、二人でアイドルをやるという話にはあまり乗り気ではない。

 つまるところ付き添いの硝太が交渉をするしかない。

 

「ここは僕が」

「ダメに決まってるだろ!」

 

 そう思い前に進んだ硝太の肩をアクアが強く掴んで止める。しかしその程度で硝太が止まるはずもない。桁違いのパワーで動きを止めることなくアクアを引きずり、有馬の目の前に立つ。

 有馬の目が硝太を見る。アクアを引き摺っていることには欠片もそれを確認して硝太小さく口を開いた。

 

「有馬先輩、姉さんとアイドルをやってくれませんか?」

「アイドル?何よ急に」

「苺プロでアイドルユニットを組むって話があるんです」

 

 アクアがため息をついているのを確認しながら硝太は言葉を続ける。

 

「つまるところ、スカウトです!」

 

 硝太はできるだけの笑顔を作ってから掌を突き出してその手を取るように催促する。それに対して有馬の目は暗く、何かを考え込んでいる。硝太の作った笑顔があまりにも下手でそんな笑顔を作らせるような事務所からのスカウトに忌避感がある──という訳では無い。

 有馬からすればアイドルになるということは元天才子役という自らのブランドを失うことに等しい。そんな若手役者枠の仕事を失い、代わりに入ってくるのは出てきてはすぐに消えるアイドル枠の仕事。アイドル枠で成功さえすれば役者枠の仕事も帰ってくるだろうが、失敗した場合のリスクは高すぎる。苺プロには『アイ』という伝説級のアイドルがいたが、それも過去の話。最近はネットタレントのマネジメントが主なので成功する見込みも薄い。失うリスクが高すぎる上に得られる可能性も低い。賭けとするには無謀すぎる。

 

「悪いけど私には無理。他を探しなさい」

 

 少し考えはしたものの、有馬は特に迷いを見せることなくキッパリと断った。

 人気は低迷中とはいえあるにはある『役者の仕事』と今後続けられるのか分からない『アイドルの仕事』を天秤にかけた有馬は役者を取った。別に理解に苦しむ判断でもない常識的な決断。それが彼女自身の判断ということを理解した硝太は深々と頭を下げる。

 

「そうですか…失礼しました」

 

 有馬の選択は硝太にとっては当初考えられていた可能性の中で一番高い選択だったので特に驚きはしない。しかし有馬からは目に見えて直前の元気を失っている。

 有馬がそれを疑問に思う前に180°回転して硝太を止めようとしていたアクアに向き合う。

 

「断られちゃった…」

「せめてもう少し粘れよ」

「だってぇ…本人の気持ちが一番大切じゃん?」

 

 情けない硝太に容赦のないツッコミを当てるアクア。硝太はただでさえ幼く見えるのに表情も声もより幼く見えるようになる。アホ毛も沈み、それなりにショックを受けていることが第三者目線でもわかる。

 

 

「じゃあ、次はお兄ちゃんだね」

 

 ルビーがそんな硝太を後ろから抱き締めてアクアを()に選ぶ。いつも硝太とルビーに甘いアクアもげんなりしており、その表情を唯一見ていない有馬は再びスマホに向き合う。

 

「なんでだよ」

「なんでって…硝太の次はお兄ちゃんでしょ?」

「勝手がすぎる」

 

 勝手ながらも悪意のないルビーの物言いにため息をつく。アクアは内心でルビーに再挑戦させようと思っていたが、硝太が撃沈した以上ルビーも断られる可能性が高い。硝太とルビーより好感度の高いアクアが直接行った方が勝率は高い。──勿論、ルビーはそんなこと考えてすらいないだろうが。

 

 硝太と同じように有馬の目の前に立つアクア。有馬の目がアクアを捉える。

 

「頼む、有馬かな。妹とアイドルをやってくれ」

 

 片膝を下ろして有馬にことを頼むアクアはまるでファンタジー世界の騎士のようで有馬も顔を赤くして慌て始める。硝太と相対した時にふざけていたという訳では決してないがそれでも人が変わったような姿に硝太は「役者さんって凄いなー」と独り言をつぶやく。

 

「俺も酔狂でアイドルやってくれなんて言わない。有馬はそこらのアイドルよりずっと可愛い。有馬になら大事な妹を任せられる」

「えっ、でも…」

 

 なんという殺し文句。大人慣れした女性ならともかく年齢的には生娘でしかない有馬の声が恋する乙女のそれになる。

 周りに観客がいたら黄色い歓声が響いていただろう。それほどまでアクアと有馬の姿と行動は世界から分断された空間を形作っている。

 

「頼む」

「む……無理!」

「頼む。有馬のこと信頼しているんだ」

「もうっ!何度言われても無理なものは無理!絶対やらないから!」

 

 

数分後。

苺プロ事務所。

 

「苺プロへようこそ。歓迎します」

 

 有馬が契約書にハンコを押した。

 有馬かな、苺プロ加入。




有馬加入。
アイドルグループ企画、始動!
…ここまではいいんですけど。

次回は第一章〜共通ルート〜最終回。
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