アクアは大体原作通り復習なんて終わったんだ!モードです。
このまま終わっておけば良かったね、ほんと…
北海道ライブ前日。B小町の面々はJIFのような当日現地入りではなく前日からリハーサルを行っている。B小町は2度目となる単独ライブ。客は1000人はいるライブ会場で客が一人もいないのに舞台の上に立つとその広さに客が満杯に入ったことを考えて肝が冷える。今は客の代わりにミヤコと硝太の事務所の人間と当日客を捌いたりライトや撮影用ドローンなど会場の機械を動かす会場側のスタッフ。曲に合わせた演出を行うためにはアイドル達の努力だけではどうにもならない、彼らのような縁の下の力持ちがいてこそ成り立つ。
「この広さはJIF並ね」
「いやーこんなに広いところで単独ライブができるようになるとは思わなかったよ〜」
JIFのようなイベントなら何度か行ったが単独ライブでこの規模は流石に初めてで3人とも舞台の上に立って軽く歩いて景色を確認する。
「じゃあ一番最初から初めて行きましょうか」
「はい!」
スタッフが音頭を取ってリハーサルが始まる。その間ミヤコと硝太はそれを見ているが特にやることはない。スタッフの動きは事前に確認してあるし、最終確認なだけあってB小町の3人にちゃんと合わせている。
「上手く行きそうだね」
「ええ、何とか」
直前までいつもの仕事に合わせて北海道ライブの仕事も受け持っていたミヤコの顔には疲れが見える。しかしそれもルビー達のライブの為、清々しさすら感じる。
「みんな結構人気になったよね」
「そうね、ルビーなんて特に」
今のB小町の人気は大手事務所が本気で売り出しているグループには劣るものの、ルビー一人で見れば下手な大手事務所のアイドルグループのメンバーの誰かより知名度と人気がある。まさかルビーがデビューしてからまだ一年しか経っていないとは思えない急上昇ぶりに事務所は大慌てだ。『ドームライブ』という目標を立てていたが実際にその夢が掴める希望が見えると皆次が続かなくなる。『苺プロダクション』は残念ながら芸能事務所としては小さい。現状の仕事がYou〇uberやネットタレントのマネジメントというのもあって人数を最小限で回してきたのが災いしてアイドルマネジメントができるスタッフが社長のミヤコしかいない。このままB小町の仕事が増えるとミヤコが通常業務を回せなくなる、とまで言われている。中にはB小町を苺プロから切り離して権利を別の信用できる大手事務所に売るという案まで出てきてしまう始末。「ドームライブ」はミヤコの夢である為その案を切り捨てた硝太だがその案を出した従業員も決してB小町やルビーを煩わしく思っている訳ではない。むしろこれ以上輝けると信じているからこそそういう考えが浮かんでしまっている。この問題に対して、硝太は文字通り何も出来ない。事務仕事を多少変わることはできるがそれではなんの足しにもならず何とかできる人を連れてこようにもそういったツテもない。今ですらB小町のライブについて行く意味は欠けらも無い。意味がないのなら、どうせ負担になるのなら、隠し持ったナイフで首を切り落としてしまった方がミヤコが時間をルビーに投資しやすくなる。しかしこれもミヤコに止められてしまっているのがあって硝太には出来ない。元からそうだと言われてしまえばそれまでだが芸能事務所の社長息子という立場な硝太は芸能分野において完全に役立たずである。
「ルビーの調子はどう?」
「今のところ、これといったアクションはないかな。高千穂の死体が死後何年も経ってるやつで良かった、思い出されるトリガーが比較的少ないから」
役立たずなりにルビー、ひいてはB小町3人の様子を見守りをしていた硝太にミヤコは社長としてルビーの様子を聞く。高千穂で雨宮吾郎という男性の死体を見て以降、ルビーの様子が変わった。精神病を患っている硝太ならその辺の機微にも気付ける…と言ってしまえば聞こえはいいが実際は他人の心を知れる特殊能力が生えてくる訳でもなくエンパス体質も勘違いを産む原因になりかねない悪手だ。それでも硝太は家族としてと同時に仕事としてB小町3人を見ていた。
雨宮吾郎の死体は死後時間が経っているということと、事件がインスタントバレット周りのことと言うのがあって詳しい捜査は行われず打ち切られ、ルビーには聞き込みに来る警官もいなかった。心の傷はふとした時に蘇るが逆に言えばトリガー自体が少なければ記憶の底に沈み忘れられる。今回の場合ルビーに雨宮吾郎という男を忘れるのが治療としては最良だと硝太は判断した。そういう意味では今のアイドル業務に追われているルビーはある意味いい環境なのかもしれない。
「でもなんか隠し事は増えたね。最近コソコソ連絡取り合ってる誰かがいる」
「…まさか恋人って訳じゃないでしょうね」
しかし代わりなのか新しい問題が増えた。硝太はルビーが誰かしらから頻繁に連絡を受け取っている。
ミヤコは即座にルビーに恋人が現れた可能性を考える。アイドルにおいて恋愛はご法度とされる。ルビーがそんなことを知らないはずもなく、隠す理由としては当然有り得る。今のルビーの精神状態で恋愛をする余裕があるとは到底思えないが2人はルビーの心を全て見通せるわけではない。むしろ
「いや、そういうものでも無いみたい。毎回連絡の履歴がご丁寧に消されている、姉さんの私物が増えた形跡もないし、秘密裏に合う時間もない。学校の時間もフリルに見張らせているから間違いないと思う」
──いつから不知火さんにルビーの監視を任せたんだろう。
そんなことを考えながらもルビーが恋愛をしている可能性は限りなく低くなった。これからもルビーの確認は続けるようだが会っていることがないとはいえ連絡の履歴が念入りに消されているのは何かありますよと言っているようなもの。ルビーが何かしら関わっているの間違いない。
「最悪の可能性を考えると…芸能関係の大物に手を出されたとかかしら」
「だとしたらそいつの所属会社と癒着してる広告代理店あたりをそいつごと消しさればいい」
「止めなさい、硝太が言うと本気に聞こえるから」
──本気なんだけどな。
もし仮にミヤコの言うような展開になったらミヤコには残念だが、ルビーを守るためにもその大物とやらにはこの世から消えてもらうしかない。今のルビーが健全なお付き合いができるわけが無い、そこから手を出すということはルビーを欲を満たすための存在として見ていることであり、そんな汚物がどれだけほかの人物に愛されていようと世界に存在していい理由はない。もちろん、所属事務所含めた関係者も皆殺しにして外には最小限の情報も流さないようにするぐらいの配慮はする。
ニュースの展開次第ではしばらくドームライブは諦めてしまうことになるが苺プロに迷惑がかからなければ『次』がある。硝太としては最悪の場合に取れる選択肢としては最善としか思えない。
「この手の問題はどうしても直接メスを入れられないのよね。私はルビーの本当の母親でもない、ただの養育してるだけの保護者だから」
「でも今の姉さんを守れるのは僕とお母さん──あと兄さんだけだ。アイさんじゃない」
「…そうね。息子に励まされるなんて、私も少し疲れたのかしら」
「だから自分を労わってって言ったんだ」
ミヤコは自分の顔をそっと撫でる。最近は美容にも時間を取れていない。仕事中に見る顔は年上か同年代ばかりだが一度アイドルに目を向けるとどうしても年齢差を感じてしまう。
するとドンっ、と音が鳴ってリハーサル中の照明の光が消える。B小町の3人も機械が止まったのを見てダンスと歌が止まり、かけていた曲だけが流れる。停電のようにも見えないので機械の一部に故障があったのだろうか。
「何やってんだ!」
「すみません!ちょっと機材にトラブルが──」
スタッフの中でもリーダー格にみえる偉そうな人間が若いスタッフを叱責する。スタッフ達も何が起こったか分からないようで忙しく辺りを走り回る。
ひとしきり若いスタッフを叱ったリーダーがミヤコの元まで駆けつける。
「すみません。ちょっと機材にトラブルがあったみたいで、申し訳ありませんがしばらく楽屋に戻ってもらってもいいですか?」
「わかりました。あの子達には休憩と言っておきますね」
「ありがとうございます」
休憩には少し早いが復旧にはしばらくかかるようだしそれまでここにいても特にメリットはない。ミヤコは3人の元まで歩くと休憩の旨を伝えて楽屋まで行くように命ずる。
その間、硝太は周りのスタッフの様子を見ていた。
──なんだ、なんか引っかかる。
ライブは明日。そんな時に設備トラブルなんてあったら慌てるのは当然。スタッフ達も何故こうなったのかが全くわかっていないように見える。予想だにしないトラブル、別部屋に行くB小町。広さの割には人の気配が少ない会場。
「硝太、行くわよー」
「僕見てくる!」
B小町の3人が先に楽屋に戻っていくのを見てミヤコが動かずにじっと考えている硝太を楽屋に行かせようと声をかける。
だが硝太は勢いよく飛び出すと楽屋とは逆方向、スタッフが慌てていじっている機械の方へと走る。初速から自動車並のスピードで走り出す硝太に当然ミヤコは追いつけない。
「見てくるって──何を?」
駆け出した硝太はスタッフ達の頭上に回り、何をしているのかを確認する。機械部分に集まる人がいない、気になるのは配電設備。一斉に止まったことから照明そのものに不具合があると言うより照明を統括しているシステムに問題があるとするのは自然な流れ。照明以外は動いているので停電や会場のブレーカが落ちた訳でもない。となると考えられるのが照明のみを統括しているブレーカ。当然スタッフも何人かはそちらに向かう。
「制御室のやつら戻ってこないけど」
「じゃあそっちか?」
スタッフ達の声から自体を大まかに理解した。
硝太は一旦スタッフから離れると指笛でツクヨミから借りた八咫烏、ヘルメスを呼ぶ。丁寧に入り口から入ってきたヘルメスを腕に止めさせる。
「姉さんたちの護衛に回れ」
「カァァ」
本来なら硝太がB小町の護衛につくべきだが怪しい点が多いのでヘルメスに護衛を任せて硝太自身はナイフを袖口に隠して会場に戻る。スタッフ達が行き交う場所から離れ、向かうのは制御室。
そこにはうずくまった体勢でパソコンに向き合いながら処理している何人かのスタッフの姿があった。問題は制御の方という考えは間違っていなかったようで、傍から見たら問題が分かったのだから解決ももうすぐと思うだろう。
硝太の存在に気づかずパソコンをいじっているスタッフを冷たい目で見下ろす。右の青い瞳が輝いたその瞬間、素早く引き抜かれたナイフがスタッフの首元を切った。
スタッフ達は電池が切れたおもちゃのようにピタリと動きを止めて、その場に倒れる。スタッフ達は白目を剥きながら口から泡を吹いているが命に別状はない。
「下手だな。まだ
硝太はナイフを軽く手で回して自らが切ったスタッフの首──ではなく首元についた何かしらの残穢を指す。
そう。このスタッフ達は何者か操られていた。操られていた、と言うがその精度は
「流石死体との付き合いが長いだけある。ソムリエにでもなったどうだ?」
挑発的な硝太の物言いに引っかかり奥から姿を表したのはうさぎ耳の着いたパーカーを羽織った女子高生。特徴的な目つきの悪さはいつになっても変わらない。彼女の名は藤波木陰。硝太たちの通う陽東高校一般科2年生──否、3年生。つまり硝太とアクアの1つ年上の先輩に当たる。そして彼女は硝太と同じくインスタントバレットの所持者、常人離れした精神性を持つ悪意を持った人間。
一度は敬称をつけた藤波先輩と呼んでいた硝太だが最初から尊敬してはいない。とりあえず先輩だからとつけていた敬語も今はもうつけてすらいない。最初から信用しておらず敵として立つのなら遠慮なく殺せる。
「何のつもりだ藤波木陰。こんなライブ会場を襲撃するメリットがそっちにあるとは思えないが」
「しばらく見ないうちに随分と甘くなったようだな、女を誘うなら誘い文句ぐらい考えておけよ」
「そっちに女としての自覚があるなら、そうさせてもらう」
硝太はナイフを持ったまま藤波木陰に急接近する。硝太には相手のインスタントバレットが何なのか詳しくは分からないが反対に藤波の方は硝太のインスタントバレットを知っている。この時点で情報戦において硝太は不利。特に強み弱みがわかりやすい硝太のインスタントバレットは長期戦になればなるほど勝ち目が無くなる。その為一気に距離を詰めて一瞬で息の根を止める。
動きの起こりを見せない縮地という歩行法で2mある距離を瞬きより早くゼロ距離まで接近する。周りより身長が低いおかげで一気に距離を詰めるだけで体の大部分が視線から外れる。動く前振り無しに2mの突進は誰であろうと呆気にとられる。縮地で出来た勢いを殺さずナイフが振るわれる。反応が間に合う訳もなく硝太のナイフが心臓を貫く──筈だった。
しかしコンクリートに勢いよく叩きつけたような音と共にナイフは空を切る。
──硬い、いや
硝太のインスタントバレットは簡単に言ってしまえば『魂等の本来存在しないを見て、直接介入することができる』能力。事実上あらゆる防御を例外なく無視して対象を破壊、生命体であれば殺害することが出来る。その影響は他者の能力──この場合はインスタントバレットにも反映される。それ故未来視の結果に直接介入し破壊することで未来視を破ることができる。だがこの能力も決して万能ではない。
あくまで対象への攻撃はインスタントバレットの能力を活かした技であり、本質的には『魂などの物質的には存在しないものが見える』だけでしかない。つまり硝太本人は見ることしか出来ず、その対象を殺しているのはあくまでナイフ。硝太の本体は『見る』ことしか出来ないのだから介入するのは道具でなければならない。万能のようで本人が手を加えることは出来ない──故に硝太のインスタントバレットには『奇蹟』の名が与えられている。
簡単に言うと、硝太の身体さえ止めてしまえば硝太はインスタントバレットとしての影響は無に等しい。そして、ナイフというゼロ距離まで接近する必要のある武器を使うということは、身体を敵の近くまで晒す必要があるということ。なので硝太を止めるだけなら通行上にインスタントバレットを用いたトラップを仕掛けるだけでいい。ただのトラップでは回避されるかトラップごと破壊される。だから藤波木陰は物理的な意味では最強のトラップを用意した。
硝太の身体の表面に黒いモヤがつく。先程まで何も無かったはずの場所に、ソレはいる。丸太のような太い4本足。その先には引っ掛けることではなく引き裂くことに特化したような形の曲がった爪。頭部からは子供の落書きのようなギザギザした鋭い牙が見える。
「──ちっ」
舌打ちするより早く硝太はナイフを持った手を引き戻すと黒いモヤの攻撃をすんでのところでかわして自身のインスタントバレットで視認。その頭部と思われる箇所を蹴って元いた場所に戻る。
その黒いモヤ──獣は硝太が藤波木陰の攻撃を始めるまでは存在しなかった。今でも硝太は周りに隠れる生きた人間の気配を察知しているがその気配が動いた様子はない。戦い自体は見られているがインスタントバレットの関係者なのか分からない。もし二点とも気づいていたら硝太もそちらから攻撃をする。そうではないということはその獣は硝太が接近するより早く行動したということ。人体であれば不可能な加速もインスタントバレットで生み出されたものなら可能である。移動時質量を持たず、空気抵抗も存在しない。移動も転写すればいいだけで先程のスタッフ達のようなマニュアル操作でもないなので事前に仕掛けておけば硝太の動きに反応できなくとも自動で防ぐことができ、物理法則に縛られる人の身体に対応するように仕掛けておくことも可能。ただ相手を傷つける為だけに生み出された破壊衝動が形をなしたような獣。そんな獣には見覚えがある。高千穂にて貝原亮介を打ち倒した硝太と白岩を見ていた獣。あれは硝太の放った弾丸を防ぐ膂力と瞬発力を持っていた。弾丸を防げるのなら人サイズの肉体の突進など朝飯前だろう。今大事なのはそれが藤波木陰によって持たされたものではないということ。つまり硝太の周りには藤波木陰の協力者がいる。複数人と同時に戦うことになるだけでなく、別の敵からの強襲を警戒しなくてはならない。
硝太の頭の中で藤波木陰の危険度が上がる。
「無傷か。そこは当たっておけよ、人として」
「こいつ──」
硝太の急接近から獣の衝突からの動きのほとんどを見えていなかった藤波は硝太の身体を見て傷を受けていないことに文句を言う。通常の人間ならあの一瞬でズタズタにされていた。
── コロせ
貝原亮介を倒した時に使ったインスタントバレットとはまた違う硝太が
「──来るか」
藤波木陰は手を広げると手のひらから植物の種が彼女の足元に落ちる。それを硝太は視界に収めながら獣と藤波木陰を見て今度こそナイフを構えた。
唐突なバトル展開──つまりいつものですね、ハイ。
というわけで次回からは戦闘!世界の端っこ!となります。
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なんて所で殺し合い始めるんだ君ら