【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
戦闘!世界の端っこ!(かっこいいBGM)


#128 世界の端っこで(二)

『生命』のインスタントバレット。それが藤波木陰のインスタントバレットに与えられた名前。「秘薬創造」という能力の名前がつきその名の通りこの世に存在しない植物を生み出すことが出来る。藤波の武器は植物による物理攻撃と未知の植物から生まれる『毒』である。

 未知であるが故に対策不可能。ただでさえ人類は全ての毒を克服した訳では無いというのに従来の毒を遥かに超えるものを片手間で生成できる。インスタントバレットはあくまで対象を世界とするものなので直接暴力を振るう能力だけという訳では無いが事前準備次第では多くのインスタントバレットを超える力を持つ。

 藤波の放った種から花のないバラのような植物が生えて、急速なスピードで硝太の方へと迫る。その数20、バラらしい棘のついた茎が正面から迫っていくその物量は対応力を鈍らせる。そんな硝太の足元にはライブ会場のスタッフが転がっている。回避すれば彼らに茎が突き刺さるだろう。

 

──毒か

 

 そのため硝太は全ての茎を回避ではなく全てナイフで切り、内部の毒ごと()()()()。硝太は藤波のインスタントバレットについて何も知らない。植物が生えてくることはもちろん、その条件やどのような植物が対象なのかすらわかっていない。その中で毒の存在に気付けたのはひとえに硝太の右目で生えてきた植物に与えられた遺伝子情報を見抜いたから。

 本能や感覚ではなく瞬時に植物の能力と行動を見切った判断力と反射神経に藤波は舌を巻く。ただ切っただけでは植物内の毒を撒き散らすだけだがその毒成分も破壊してしまえば無害化できる。しかし見た目は大きなバラでしかない植物に毒があるなんてまず考えない。毒があると見抜き、その対処法を考え先程は通用しなかったインスタントバレットで迎撃する、という思考をバラを見てから動き出すまでに終えたことになる。

 藤波の攻撃が終わると代わりに獣が入って硝太目掛けて大きな爪を振るう。振り回された2本の腕から何十回も引っ掻き攻撃が振るわれる。当然一撃でも当たれば致命傷だ。硝太はその爪の攻撃全て表情一つ変えずに受け流しながら倒れるスタッフを蹴り飛ばして着地場所を作ると、お返しと言わんばかりに獣の爪を直接ナイフで切る。抵抗なく獣の爪が真っ二つに切れて破片が地面に落ちて消える。

 

「───」

 

 獣は吠えることすらせず代わりに今度は牙を使おうとした獣を蹴って天井に押し付ける。天井にヒビが入るが獣にダメージがあるようには見えない。やはりナイフ以外の攻撃は致命傷にはならない。獣が反撃しようとするがそれも硝太が殴って止める。

 

──獣相手にインスタントバレットを使わない?何を警戒している。

 

 インスタントバレットで切れば無力化出来るだろう獣相手にあえて役に立たないフィジカル頼りの殴打しか使わない理由が藤波には理解できない。だが獣を残した状態で次の攻撃準備を整える時間が稼げた。

 

「このっ!」

 

 今度はバラのような棘のついたものではなくアサガオなどで見られる蔓を拡張、増量して鞭のようにしならせて硝太を叩こうとする。先程と違いどうせ無効化されるので毒は入れていないが鞭は先端のスピードが音速を超える。牽制として使うには十分だろう。十数本の蔓を生やして段階的に硝太に向けて放つ。

 だがそれも涼しい顔で避けられて何本かはナイフで切り落とされる。──それでいい。どうせ植物を使う自身のインスタントバレットでは斉藤硝太に勝ち目はないと藤波木陰は冷静に判断した。戦うのなら彼にとってもっと相性のいい相手がいる。

 硝太が距離を離したのを確認して再び獣が詰め寄る。その間に藤波は蔓ではない別の植物を錬成する。錬成したのは薄い緑色の小さなカボチャのような果実。スナバコノキ、という毒性の木を元に作り出したものでそれを鞭の攻撃を交わし続ける硝太に向けて投げる。硝太は鞭と獣の対処で種の対処に反応が遅れる。種そのものの回避は間に合ったがインスタントバレットの攻撃がそれだけで終わるはずがない。その瞬間、果実は爆発音と共に中の赤い煙をばらまいた。

 

「ッ!」

 

 スナバコノキの果実は水分を失い乾燥すると種を蒔くために爆発する習性を持つ。その最高速度はおよそ時速240km。その果実にはオリジナルのスナバコノキなら自前の毒があるが『生命』のインスタントバレットの力でその毒を別のものに書き換えた。

 硝太の立つ位置が赤い煙で覆われる。赤い煙こそが毒の成分。本能で気付いたのだろう、硝太は勢いよくバックステップを跳んで赤い煙から距離を離す。赤い煙は藤波と硝太の間に生まれているので藤波が吸い込む心配はなく、消えることなく滞留する。先程の毒液とは違いナイフで殺し切るのは難しくなるように霧状にばら蒔いた毒煙は互いの表情を隠し体もシルエットが浮かび上がる程度にしか見えなくなる。

 そしてスナバコノキの爆発音を合図に毒の効かない獣が突進、同時に硝太の背後から別の影が接近する。その存在は硝太が最初から把握していた伏兵。ほんの少しとはいえ毒を吸った上に毒から離れるためにバックステップを踏んだ硝太は体勢を崩す。それでもそれがただの攻撃なら対応が可能だった。攻撃を避けてカウンターで沈めてしまえばいい。しかしそのために背後から来た謎の影(アンノウン)を補足した──してしまった。

 そこに居たのは硝太と同じか少し歳上に見える高校生ぐらいの女性。アルビノという訳では無いが全体的に色素が薄く、身体も細い。身長こそルビーと同じぐらいだが健康状態は比較対象にならないほど悪く見える。硝太に走ってくる速さもお世辞にも早いとは言えず、見た目通り身体能力が低いのが伺える。だと言うのに硝太の右目は今までにない危険性をその女から感じている。

 

──こいつ、まさか。

 

 この場に出て硝太に攻撃するのだ。インスタントバレットだと言うのは間違いない。藤波と同じ『世界の端っこ』のメンバーであることも。それを念頭に置いた上で見てもその女は異常だった。

 精神状態の善し悪しではない、女の力が自分と同質であることに気づいてしまった。思わずかわそうとした体ではなくそれを主導した頭が固まる。頭が固まるということは思考が滞るということ、自己催眠が解けて身体が本能で足りない酸素を補給しようと呼吸を始め、心臓がドクンと跳ねる。そうして晒した大きな隙に女のボディブローが腹部に当たる。

 

「しまっ──」

 

 身体能力の低い女の攻撃だ、大した痛みはない。弱くても拳は拳、大きな隙を晒す。そしてその隙を見逃すほど敵は甘くない。固まった体に獣の追撃が走る。硝太の身体では掠っただけで重症、直撃したら即死の可能性すら有り得る。

 

「っ、らぁっ!」

 

 身体を無理矢理ネジって獣の爪をかわすと獣の体表にナイフを走らせる。普通の獣なら皮膚に当たる箇所が綺麗に剥がれる。それが生命体なら神経を空気に晒しているようなもので一瞬でショック死してもおかしくない激痛が走るだろう、しかしインスタントバレットで作り出した獣はそれでも怯みすらせずカウンターで硝太を弾き飛ばす。

 打ち合うのではなく横に転がりながら衝撃を流しながら倒れたが当たった際に骨の軋む音が聞こえた。見た目通りの質量と速度で殴り合いができる、見た目以上の凶暴性を持った獣モドキ。

 

「ん、ぐぅっ」

 

 獣に殴られたことで藤波が先程投げたスナバコノキの赤い煙の中に突っ込む。呼吸を再開した身体が反射的に赤い煙を吸い込む。

 

──藤波木陰(使用者)が目の前にいるんだ、強い毒性ないだろうけど…無毒って訳でもないか。

 

 吸い込んだ途端に全身に弱い痺れを感じる。弱めの神経毒、硝太の小さな身体では少量の毒でも全身に回る。今後出る症状を考えるなら嘔吐や頭痛が精々だろう。最悪感覚器官を潰して時間稼ぎもできる。吸っただけでそのまま殺せるような毒を錬成できるだろうがそれは藤波が毒だけ撒いて逃げないことから想像はしやすい。戦闘行動はまだ可能。

 今の硝太にとって問題はそこではない。赤い煙の中に入ったということはその場所は藤波の蔓の射程内に入る。赤い煙で視野が狭まった状態、獣と謎のインスタントバレットもすぐに攻撃に入る。

 

「畳み掛けるぞ!」

 

──蔓と獣はマトモに喰らえば致命傷…女も動きが遅いとはいえ、情報のないインスタントバレット。多分アレは僕のインスタントバレット対策、魂関係のインスタントバレット。

 

 硝太は多くの情報がある中で最優先項目は一見弱く見える女に決める。獣と藤波と違って明らかに戦い慣れてない、単純な喧嘩殺法ならその辺からおっさん連れてきた方が余程強い。だが女の動きで硝太は女の正体が大まかに掴めてきた。

 思い出されるのは初めて会った時の白岩。白岩のいる『colorful(カラフル)』の目的は未来視と硝太のインスタントバレットを使った未来の否定。あくまでそれは最大の目的のための準備のようなものだがその為に硝太をあえて殺さないようにしていたほど硝太の重要度は高い。それでも組織らしくどこかで死んでもいいようにサブプランを用意していた。

 

『あるんだろ?未来視でみた未来通りに動いても通常通りに稼働する魔法。例えば、死ぬことで発動するインスタントバレット──とか』

『…大体あっている、な』

 

 硝太のインスタントバレットほど重要視されてはいなかったようだがサブプランとしては生きている。このインスタントバレットの対象が『colorful(カラフル)』の人間ならわざわざリスクを犯してまで硝太を仲間に引き入れるのはメリットがないとまでは言わないがデメリットが大きすぎる。考えられるのはサブプランそのものに硝太を抱え込んでもいいと思えるほど大きなデメリットがあるのか、もしくはそのサブプランに必要なインスタントバレットすら『colorful(カラフル)』の元にないのか。謎の女の登場でそれは後者だとほぼ確定した。

 ならば、その女はこの場で殺しておくことは多少のデメリットを差し置いて大きなメリットになる。『colorful(カラフル)』からの重要度が上がれば交渉で有利になり、最悪の場合でも苺プロを守ってくれる最大の盾になる。硝太が『colorful(カラフル)』に入るのと引替えに、という前提がつくだろうがそれぐらいは必要経費として割り切るつもりだ。その為に家族から自身の素性を明かした記憶を消していない。

 

 その為にここで『世界の端っこ』を、詰める。

 

── コロせ

 

 自分の内側からの声を肯定する。心臓の鼓動は弱まり、呼吸は浅く、「人」としての生き物としての力が弱まる。反射機能を全て遮断してその代わりに神経伝達のみを加速させる。死にかけの病人とほとんど変わらない、変わるのは力の起こりが見えなくなるということぐらいなもの。身体が自己催眠だけで戦闘用の道具に()()()()()

 ナイフを逆手持ちにして、身体を小さく丸めたような形で構える。

 

「殺──す!」

 

 スポーツカー並の初速で突っ込む硝太、攻撃目標はシルエットが見える藤波木陰。最優先目標は謎の女だが戦闘用の道具は迷わず藤波を潰すと決めた。

 音速を超える速度で振るわれる蔓。爆音のソニックブームが発生する──が、その音が硝太の耳に入る前に音の本を断たれる。

 

 まず、植物とは生命である。

 声を出すことはなく、根を張って動くことはないがそれでも「エネルギー転換を行い、自己増殖し、かつ自己保存の能力をもつ複雑な物質系」という生物の条件を満たす。鞭のように使われた蔓も生命であることは藤波木陰のインスタントバレットの名前が『生命』であることからも分かる。そして、魂というのは感情や精神と言い換えることもあるがそれらは『生命』であれば大小関わらず持つもの。生物の条件である「エネルギー転換を行い、自己増殖し、かつ自己保存の能力をもつ複雑な物質系」を行うための昆虫的な本能ですら魂と言い換えることができる。その為人のみならず動物も、植物も、細菌ですら存在する。それを全て『奇蹟』のインスタントバレットの視界は捉える。まるでノアの方舟の逸話にある洪水で方舟に乗らなかった生物が全て死に絶えたように。例外なく、選別もなく。

 

「あっ」

 

 その攻撃は一息にも満たない速度で行われた。藤波と硝太の距離は約3m。その間の生命が例外なく切り殺された。藤波が出した蔓も、目に見えない細菌も、何の例外もなく。植物内にある水分が弾け、藤波に付着する。

 蔓で滅多打ちにしたと思った。鞭のようになった蔓はそれだけで硝太の小さな身体の骨を全て折れるだけの威力がある。当たらなくても蔓に関係なく硝太を切り殺せる獣もいた。硝太の反射神経と瞬間加速は脅威だが自身の目の前を覆うように作った蔓が盾になって初撃は防げると見込んでいた。

 目論見通り初撃は防いだ。ただ──初撃だけで硝太が急襲した時の対策が全て潰えた。

 

 硝太のことを最大の警戒で望んだ。死にたいと思った訳ではなく硝太の戦力を把握した上で最も犠牲無く硝太を詰みに持っていく方法を選んだ。正直上手く行きすぎて勝てると思った自分がいたのは否定しない。だが油断はしなかった。

 

 次の瞬間藤波を襲ったのは腹部に走った重い打撃。視界の生命を全て殺した攻撃に大きな準備も、代償も存在しない。無理矢理出すとするならあくまで硝太の持つナイフが当たらなければ意味がないことのみ。純粋なリーチの問題である。それを反応できない速度でカバーした。腕の代わりに突き出されたのは単純な蹴り。

 藤波の腹に入れたものが逆流して血と胃液と共に吐き出される。それがクッションになったとはいえ、それで痛い程度で済むほど硝太の蹴りは弱くない。世界レベルのピッチャーの投球とほぼ同等のスピードで吹き飛んだ藤波の身体が壁に激突して壁に大きな凹みを作る。当然一撃で気絶、なんなら死んでる。気絶してしまえばインスタントバレットは発動はおろか、制御することもできない。

 

 硝太の動き、そして藤波のダウンに一番最初に反応したのは獣だった。このメンバーの中だと喧嘩殺法とはいえ一番戦い慣れている。獣はあくまで近くに伏せているインスタントバレットが能力で作り出して操作しているものだろうが本人のセンスが噛み合って一番の脅威となっている。

 後方の憂いが無くなった硝太はスポーツカー並のスピードを一切緩める事なく姿勢を低くして今度は獣と最優先目標の謎の女の方へと走る。その距離約5m。それでも獣が反応して二本足とそこから生えた爪で切りかかる。

 

 ──遅い。

 

 しかし、既に遅い。獣の爪は半ばでへし折られ硝太の体は獣の横をすり抜け獣と女の後方に立つ。

 

 そして──女の心臓にナイフを突き立てた。

 女は一言も声を発することなく、その正体を知られぬまま糸が切れたマリオネットのように倒れる。貝原亮介相手ですら「殺す」ではなく封殺という手を使ったが今回は明確な殺人。インスタントバレットで刺したため血の一滴も体外に排出されないが手に残る感触が女の臓器を破壊したのが伝わる。

 やってみるまでは感じたことのない感触に気分が高揚するか、と思ったが実際は「こんなものか」と非常に冷めた気持ちになる。他人の生き死に揺れるような軟な心は持ち合わせない方がいいのでこれぐらいがちょうどいいのかもしれない。

 

 何はともあれまずは一人。後は獣をいなしながら獣の本体を襲撃してこの場を諌めてしまえばいい。最低でも近くに転がっている藤波か獣の本体に尋問をする必要があるが獣と追いかけっこしながらと考えるとそう簡単にもいかない。そう思ったのだが女が倒れたのを見た途端に獣が黒いモヤを出し続けるだけで動きが止まる。

 

「おい、出てこいよ。もう終わりか?」

 

 わざと声を出して挑発してみる。これで本体が出てこれば御の字、と思ったがそういう訳でもないので今先程刺した女の頭を踏み、獣の次の行動を待つ。

 だが獣はモヤを出し続けるとそのまま霧散してしまった。──退却か、と一瞬だけ考えたがそんなわけが無い。最低でも藤波を回収しなければ硝太にたた味方を殺されて捕虜を渡しただけになる。何より人の体が逃げるだけなら硝太が簡単に感知して追い詰められる。逃げるにしても獣を出し続けて防戦をしながら逃げる筈。

 

──そうか、まさか!

 

 硝太の脳裏に一つの可能性が走る。女の頭をサッカーボールに見立てて藤波の方に向けて蹴り飛ばすとナイフを構え直す。今度は順手持ち、斬り合い前提のスタイルに変更する。

 それとほぼ同時に心臓を潰したはずの女の身体がゆっくりと立ち上がる。獣の発していた黒いモヤを纏い、まるで合体した──否、獣を纏ったような形になる。

 そして、獣を纏った女は地面を蹴り飛ばして硝太に強襲を仕掛けた。

 




硝ちゃん強ぇー!このまま邪魔なヤツら全員ぶっ倒していこうぜ!
防御力がちゃんと生身の人間だから回避力特化してるけど当たる攻撃もダメージコントロール出来るからダメージを押さえながら相手の出方を伺うので素直に殺し合いの経験値が高い()キャラクターとなっております。
というかクロ君の獣普通に強いんよな…早くて硬くて馬力がある、シンプルな暴の化身。摩虎羅しか使えないけど調伏の必要がない伏黒ぐらいやばい。純粋に硝太がパワー負けしてるどころか走っても即追いつかれてるの怖い…

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次回も続くんじゃ
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