硝太が武術(暴力)でとあるインスタントバレットを沈める。それを見て助けに行ったいろはの発言で硝太の頭はとある事象に支配される。
それは彼が何より直視してはならない最悪の事実──
拳銃を突きつけられる硝太は微動だにせずクロを睨む。その瞳から青い光は失われ、代わりに睨むだけで殺すようなキツイつり目が見える。
クロ自身半グレ集団にいた経歴があるのでそれだけでビビったりすることはないがまだ闘志の尽きない硝太に関心すらしてしまう。しかし、今気にするべきはそんなことではない。硝太の背後にいるのは魔女。本来この時間にいるはずのない故人。故に、クロ達『世界の端っこ』からすれば彼女が今ここにいる時点で負けとも言える。
「待て」
そんな硝太に魔女が釘を刺す。戒めとしてなのか銃口で軽く叩くが硝太はこれっぽっちも反応しない。魔女も期待していなかったようで硝太から視線を外して近くにいるクロを見る。
「ごめん、クロ君」
硝太の時とは違い、申し訳なさそうな顔をしている。中立を謳っている魔女だがその辺のクソガキとそれなりに付き合いのあるクロではクロの方を心配したり想うのは当然と言える。
クロはゆっくり立ち上がると首を横に振った。「今はそんなこといい」そんなイメージを聞きとった魔女は再び硝太を銃口で軽く叩く。
「銃を下ろして、両手を上げろ。その辺に脳みそをぶちまけたいなら撃つけど」
硝太は観念したようで言われたとおりに銃を地面において両手をゆっくりあげる。どんな化け物でも後頭部に銃をつけられれば抵抗する手段はない。両手を上げて抵抗できないようにされてしまえばその辺の一般人と何も変わらない。
硝太が抵抗出来なくなったのを確認してクロは硝太が背中で捉えている獣を消して先程魔女が言おうとした言葉を聞きに行く。
「どういうことだ」
魔女はこちらに来る予定はなかった。彼女が中立の立場を選んでいるのがその理由だが、クロ達は魔女の援護が受けられるとは考えもせずに作戦を作った。苺プロのライブに侵入して彼の姉のルビーを使って硝太を誘導、そして暗殺すると。
彼女の未来視からの情報を得たが魔女の未来視は硝太が変えてしまえるのは事前に知っていたのでそこまで期待できるものでもなく、魔女の支援は実質ないと言ってもいい。そんな中絶望的な状況だったからとはいえ助けに来たのだから理由ぐらい聞いてもバチは当たらないはずだ。
魔女もそう聞かれるのはわかっていただろうに聞くと分かりやすく罪悪感を感じている顔が見える。
「私達がこいつを殺すにはこいつの魔法を解除しなくちゃいけなかった…だからみんなを誘導した」
「誘導?」
「斉藤硝太に殺意を持って殺そうとするように。木陰ちゃんを陽東高校に入学を薦めたのも、斉藤硝太の情報を流したのも。全部このためだったんだ」
魔女は硝太への殺意をとめどなく見せながら魔女は自らの行いを口にする。まるで警察の取り調べを受けた犯人が自供するように。
「なんでもってそんなこと」
「私にとっては未来だけど、未来視の説明したよね。覚えてる?」
「ああ」
魔女のインスタントバレット、『時間』のインスタントバレットは世界の全ての情報を記すとされるアカシックレコードから特定の時間の情報を見る能力。
過去から未来まで世界に起こるあらゆる事象が記されたアカシックレコードにはたった一つの例外も許されない。例えば魔女が自分が死ぬ瞬間をみたらその時になったら何が起ころうと死亡するが逆に言えばそれまでは槍の雨が降ろうと核兵器を落とされようと生存する。それは魔女だけではなく全ての人、物が該当する。全ての時に連続性がある以上、レコードが溝をなぞるように脇に逸れることなく最初から決定された結末へと進んでいく。過去も未来も一本の線のように繋がっているため都合よく切り替えることはできない。
時間は繋がってる以上たった一つの不整合も発生しない。あらゆる例外は発生せず、ただ流れるのみ。故に無敵、未来を見る魔女ですら抗えない。
「未来視で見る未来は一縷の望みも許さない、全てが既定路線。それを都合よく切り替えるってのは世界を作り直すに等しい。いくらIBと言えどそんなことはできない…はずだった。」
「だけどそいつは違った」
魔女は頷いてクロの言葉を肯定する。
話の対象になっている硝太はクロを視界に捉えたままピクリとも動かない。両手を上げているので抵抗の意思は無さそうだがここまで話をしていたら何かしら琴線に引っかかると思ったが案外そういう訳でもないらしい。瞬きもしないせいでこの男の時だけ止まってしまったのかとすら思ってしまう。
「うん。インスタントバレットにはそれぞれ運命の名前が与えられる。私なら『時間』、クロ君なら『創造』──こいつの名前と魔法はもう知ってるよね?」
「名前は『奇蹟』──能力は硬度無視の攻撃だったか」
クロは魔女や木陰から聞いた硝太のインスタントバレットについて答える。硝太の持つ『奇蹟』のインスタントバレットの能力は物理法則に縛られずに攻撃することができるクロや藤波のものより攻撃に特化したもの。より具体的に言うなら魂に干渉して攻撃することで物理法則に縛られずに行動することができる。だから、魔女が見た未来を無視できると考えた。魔女が見た未来はその時点で魔女の魂に刻まれたもの。見た時点で未来が確定するとするなら硝太のインスタントバレットならそれを否定できてもおかしくない──と。だが現実はそうではない。魔女のインスタントバレットはあくまで『見る』だけでアカシックレコードには既に世界が生まれてから滅ぶまでの全てが記されているのだから。
未来を変える、なんて希望に満ち溢れたような言葉だがそれを行うために必要なのは文字通りの世界の破壊。それも人が蘇るとか、海を割るとか大きな奇蹟だけではない。テストのケアレスミスを修正するとか、明日の遅刻を無くす、といった一見本人の意識次第で何とかできそうなものでも未来視で確定してしまえば抗うことは出来ない。アカシックレコードから見てしまえば個人の考えも意思もインスタントバレットも全て同一であり、無価値なものでしかないのだから。
そこから例外が生まれたのだと誰もが考えた。アカシックレコードでも見れないものがあるとか、不可能な未来など存在しないとか。そんな一縷の希望を見出してしまった。
「そうだね。奇蹟…ものが動く軌跡じゃなくて宗教的な意味を含む奇蹟。クロ君、聖書って呼んだことある?」
「いや、別に」
「私はね、こいつの能力は魂に干渉する魔法じゃないと思ってる。こいつの魔法は──」
硝太の魔法を予想する魔女の言葉に硝太が反応する。言いかけた言葉に被さるように記憶から言葉が再生される。
───見ててね、アクア。これが
ピクリとも動かなかった硝太に誰かがアクアに話しかける優しい声が聞こえる。それはもうどこにも存在しないただの幻聴。幽霊に等しい、意識すらする必要のない戯言。
「ああああああああ!!!!来るな!壊れろぉ!」
なんの脈絡もなく突然暴れ出す硝太に銃を突きつけている魔女も反応が遅れる。戦いにおいて一瞬にも満たないその差は大きな変化を生む。
魔女が引き金を引くより早く硝太は獣が居なくなった場所に震脚を行い、流れるように鉄山靠を当てる。防御手段のない魔女が崩れた隙に身体を捻って肘打ちが襲い掛かる。
しかし、硝太は自身のインスタントバレットを使っていない。つまり未来のインスタントバレット──否、アカシックレコードには逆らえない。魔女は既に自身の死の未来を見ている。そしてそれは、この瞬間ではない。
捻ったアキレス腱から突き刺すような痛みが走る。先程の激しい戦闘で疲労した身体を無理に動かしたことで筋繊維が断裂したのだ。
「っ、くっ!あああ!」
それでも硝太は身体を止めることなく肘を振り下ろすが、魔女は転がってそれをすんでのところで躱す。かわされたことで宙をきった肘の勢いに身体が負けて硝太の体は魔女の転がった方向とは逆に転がる。
「壊れろおおお!」
魔女と距離を離されて尚、諦めない硝太は拳を逃げる魔女に振り下ろす。だが、それより先にクロに出された獣が硝太の四肢に組み付いて壁に押し付ける。勢いのあまり壁にヒビが走る。硝太の身体も衝撃に耐えきれてないようで骨の折れた音がクロにも聞こえた。
「ごめん、助かった」
「それよりどうするつもりだ。殺すのか」
「うん、そうだね。何はともあれこいつは危険だ。文字通り世界を壊す──いや、今はいっか」
魔女は鉄山靠の衝撃で悲鳴をあげている全身、特に関節を気遣いながらゆっくりと立ち上がる。
クロは獣に押さえつけるように指示しながら魔女に殺すのかどうか尋ねる。銃を突きつけても魔女はすぐに引き金を引くことはなかった。それは魔女の中で
「ああああ!!!消えろぉぉ!」
また一際大きな奇声をあげたと思ったら硝太が押し付けられている壁が揺れる。首元に噛み付けばそのまま殺せるだろうに獣はただ硝太を壁に押し付けるだけで硝太の奇声も止める様子は無い。
「クロ君?」
硝太をかみ殺そうとしない獣を不思議に思ったのとほぼ同時に再び壁から一際大きな音と衝撃が走る。また一回、また一回。リズムを刻むように鳴る音は壁に入ったヒビをより大きくしていく。
獣が硝太の腕を壁にめり込ませようと手足を破壊する以上のことは出来ない。簡単に殺せるのにわざわざ痛めつける理由はどちらにもない。──だから、この音と衝撃の発生源は獣ではない。
寸勁。寸打とも呼ばれる体重移動を利用し、自分の体重を一気に相手にぶつける技。先程女を殴りつけた時に使った八極拳の技のひとつ。極めれるのは困難であるが達人となればテイクバック無しで瓦30枚以上を割ることすらできる。硝太は混乱しながらもテイクバック無しで壁を攻撃しているのだ。しかしクロと魔女にはそんなこと想像すらできずただ壁にヒビができるのを眺めるのみ。
そして何度目かの音と共に壁が割れた。何度も金属製のハンマーで殴ったように壁がボロボロになったところにトドメを刺されたようでコンクリートの壁が一瞬で瓦礫へと姿を変える。すると硝太の身体を押し付けていた獣の体が壁の向こうに持っていかれる。獣が踏ん張っていたのは硝太を壁に押さえつけていたからだ。 その為急に壁が壊れただけで獣の体勢が簡単に悪くなり、拘束が弱くなる。その瞬間を見逃すような男では無い。
獣をかわすと即座に魔女へと手を伸ばす。壁が崩れてから1秒にも満たない時間の間に、硝太はその手で魔女の頭を鷲掴みにした。あとは握力で頭蓋骨を砕くだけ。人の頭蓋骨を砕く程度の力はまだ硝太にも残っている。素直に考えるならこの時点で魔女は詰み、なのだが先程の肘打ちの時と同様未来視の結果を変えることはできない。
「うわあああ!!消えろぉ!」
「化け物め」
魔女は冷たい目で自分より小さい体躯の硝太を見下ろす。混乱状態のせいでインスタントバレットを使えない硝太はどれだけ暴れようが魔女とクロ──『世界の端っこ』の誰かを殺すことはできない。
硝太の手から魔女の顔が外れる。硝太の手に付着した血で滑ったのだ。魔女は最早何も考える必要はない。ただ落ちた拳銃を再び拾うか、クロの獣に硝太を殺させればいい。
硝太を殺せば──あとはもう魔女のやることは決まっている。
「邪魔なんだよ、君は。クロ君の
魔女は落ちた拳銃を手に取り、再び硝太を狙う。
今度は確実に引き金を引いて息の根を止める。クロへの言い訳も、布石も考えなくていい。ただ、作業として殺すだけ。
種は出尽くした。会場のスタッフを止められる限界も近い。終わりにしよう──死んだはずの少年。
魔女の指が引き金にかかる。その瞬間だった。
───させないよ
突如、彼女の頭の中に知らない声が聞こえた。──いや、知らないわけがない。知らないはずがない。これまで何度も聞いたことのあるとある女性の声。出会ったことがなくても斉藤硝太を危険視するのなら必ず頭の中に入れていなくてはならない存在。もう死んだはずの女、もう世界から失われたはずの声が幻聴として聞こえる。
「星野アイ!───はっ」
油断した訳では無い。ただ、一瞬だけその声に気を取られた。死人であれ、彼女が斉藤硝太にとって一番重要な存在であると知って意識していたからこそ、混乱状態の硝太より優先するべきだと反応的に判断したのだ。
それに魔女が気付いた時、目の前にいたのは──右目を青く輝かせた一人の
あの一瞬で正気を取り戻して尚且つ、『時間』のインスタントバレットに唯一有効な自身のインスタントバレットを使用するためにナイフを取りに行く判断をしたことになる。戦闘において反射的に最適解を選べるのは以前と変わらないがあの一瞬で正気を取り戻してすぐに動けた事実は信じられない。
「──ラプラ──」
「遅えよ」
魔女は自身の『時間』のインスタントバレットの能力の一つで逃げようとする。『時間』のインスタントバレットの効果は未来を見るだけではなく、あと2つ仲間にすら隠していた能力がある。そのうちの一つは魔女が今こうしてこの場に存在できる理由。そしてもう1つは小規模かつ消耗が激しく連発こそ出来ないが非常に強力な能力『時間操作』自分の時間を飛ばすことができる──簡単に言ってしまえば前準備無しの瞬間移動。これで相手に大きな干渉をすることはできないが逃げるだけなら十分すぎる。
──だがそれもナイフを持った硝太の前では悠長な判断でしかない。
バン、と拳銃の発砲音のような音が響くと共に──否、その音が届くより早く滑るように走った硝太の身体が魔女に突き刺さる。ナイフは貫通するが、魔女の身体から血の一滴も出てこない。肉体に傷を負わせず、魂を対象にした直接攻撃。
「──かっ」
貝原亮介の時と同様、魂が肉体から分離した魔女は瞬間移動も何も出来ずただ倒れる自分の体を見下ろすことしか出来なくなる。
呼吸や心臓を動かすといった無意識の領域は犯していないが今はそれすら硝太の指先ひとつで止めることができる。そしてそれは『奇蹟』のインスタントバレットを介した行動なのでアカシックレコードに書かれていないことでも自由に行える。
「次は、お前か?」
「…」
魔女を完全に無力化したのを確認して硝太は次にクロに視線を向ける。クロは冷や汗をかきながらも獣を出す。
しかし2人の距離が近すぎて獣が襲いかかるより硝太の刺突の方が早いのを頭の回転が早いが故にクロは理解してしまった。
「仲間がやられてるのに、意外と冷静だね」
「正直僕も驚いてるよ。これもお前の魔法の効果か?」
素直に負けを認める気にもなれず、クロはほんの少しだけ皮肉を言ってみる。
数年前、仲間の死を見た時は正常ではいられなかった。暴走した獣で仲間の亡骸すら壊してしまいかねない程で混乱状態の硝太に似ていた。インスタントバレットだからなのか、そんなんだからインスタントバレットになったのか、感情的な人間で癇癪で人を殴ることなど数え切れないほどある。そんな男だったクロが藤波を蹴り飛ばされ、十色を切り倒されて、魔女を行動不能にされてもまだ冷静さが残っている。その理由はクロにも、硝太にすら分からない。
「…それは無いよ。所詮僕達は人の愛し方を知らない不良品なんだ。ただ僕と君達が違うのは一点だけ」
迷いなく直進する硝太。クロは獣で対抗するが間に合うはずもない。獣の肌を撫でるように回った硝太がナイフを突き出す。
「僕には──お母さんがいた。お前達にはいなかった。それだけだよ」
硝太が言葉を言い切る前に、深瀬クロの意識はシャットダウンした。
お、落ち着けライト!
うわ!急に落ち着くな!(有名すぎるコラ)
この話だいたいこれで済む。結局漫画のインスタントバレットの主人公勢力「世界の端っこ」が実質的にボコられたことになる訳だから反感買いそう…と思いながらも彼ら基本的に人としては優しくなりたい半グレの集まりだし本気で殺しの世界に生きていける化け物と殺し合いは流石に無理があるよな。と考えてこのオチになりました。
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実はプロット段階ではここの戦いお互いに相手の本気を見せて脅威に感じた結果引いて終わりだったりする。…流石にズレ過ぎてるな…