【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
アクア、有馬を苺プロのアイドルグループに誘うことに(ゴリ押しで)成功
妹の応援としては兄貴してますけど弟の教育には最悪ですね


#11 毒を食らわば皿まで

 時は少し遡る。具体的に言うと高校入学前、ドラマ『今日は甘口で』の打ち上げパーティの時まで遡る。

 

 白いドレスに身を包んだ有馬と白のセーターとズボンとフォーマルな格好をしたアクア、そして上下ジャージにサングラスと場の雰囲気にはまずあわない服を着ている硝太達三人と原作者の吉祥寺がなんでもない話に華を咲かせていた頃。

 

「やぁやぁ、最終回評判だったよ」

 

 そう言いながら四人に、というより少し離れた位置にいたアクアに話しかけてきたのはプロデューサーの鏑木という男。整えられた綺麗なスーツに細部まで気を配った服装と、如何にも偉い人と言える格好をしている。年齢は40代から50代程。有馬と吉祥寺には軽く会釈をしたものの、硝太のことは目に入らなかったようで気付かずにアクアと一対一で話を始める。

 

「アクアくん、だっけ。君苺プロの子だよね?」

「はい」

「どことなくアイくんと似た顔つきをしているよね」

 

 その発言を聞いた瞬間、少し離れたところで吉祥寺と有馬と話をしていたはずの硝太が音も立てずにアクアの目の前に出てきた。

 右手にはフォーク、左手は料理の皿を持ちながらその皿をアクアの目の前に庇うように突き出す。右手のフォークの先には鏑木。アクアの発言1つで迎撃──いや殺害出来る体勢を作っている。狙いは鏑木の顔にある目。目をつき刺せばその奥にある脳へ直接攻撃出来る。人に暴力を振るうことに決して慣れてはいない硝太だが、咄嗟に取る手段はかなり殺意を感じるものになっている。

 

「待て、硝太」

「おっと、可愛い護衛を連れてるようだね」

 

 それに誰よりも早く気付いたアクアが硝太の肩を掴んで止める。それに従って硝太は黙ったままフォークを握り直すと、鏑木の方を睨みながらも食事を再開する。

 睨まれているはずの鏑木だがいくら硝太が人畜無害な子供に見えたとしてもフォークを目に向けられているのに欠片も動揺せずに余裕の表情を崩さない。

 

「すみません。こいつにはきつく言っておきます」

「構わないよ。えーっと話はなんだっけ。ああそうだアイ君──」

「彼女に、なにか御用ですか?」

 

 鏑木が『アイ』というワードを出した瞬間硝太は食事を中断してフォークを握り直す。狙いの先は先程と同じ。しかし今回はアクアの方を全く見ておらず、鏑木の全身を捉えている。アクアがその肩を掴み、引き離そうとするが反応は無い。

 迷いも無駄もない切り替えを見た鏑木は『アイ』を硝太のブロックワードと判断したのか言葉を濁す。

 

「いや、彼女には何も無いよ。アクア君によく似てると思っただけで。」

「…」

 

 しかし硝太の警戒は全く緩んでおらず、むしろアクアの静止を振り切って刺し殺してしまいそうな殺意を顕にする。

 最低限の倫理観を持っていながら『アイ』というワードを続けて出しただけでアクアでは止められない。そう思った鏑木の横から女性の手が硝太の首根っこを掴む。有馬のものだ。

 

「ちょっとアンタこっち来なさい」

「えちょっ!有馬先輩!」

 

 有馬に掴まれると親猫に運ばれる子猫のようにだらんと力が抜けて引きずられて行く。それでも食事を落とさないように皿を器用に持っているのは流石というか。飯に対する執着が凄いというか。

 力技で有馬を突破しようとした硝太だったが、すぐに吉祥寺に宥められ、そのまま有馬に行く先を委ねる。

 

 有馬に引きずられていく硝太を眺めていたアクアだったがすぐに鏑木の方に顔を向け直す。

 『アイを殺した犯人を見つけ出し、その手で殺す』という復讐を掲げているアクアからすればアイの名前を出した上に詳しそうな鏑木は貴重な情報源だ。先のDNA検査で血縁関係こそ無かったものの、アイのことを知っている存在としては無視できない。

 

「アイに詳しいんですね」

「ああ、昔一緒に仕事をしたことがあってね。そこで色々とお世話してあげたよ。それこそ、事務所で内緒に男の子と会う時のお店とか」

 

 鏑木にとっては何気ない発言だが、それはアクアにとっては喉から手が出るほど欲しい情報だった。

 

「誰と会っていたか、分かります?」

 

 アクアの目に輝く星が黒く染る。いつもの整ったの見目好い人を惹きつける顔からからうってかわり、威圧感すら与える表情。しかし硝太の威嚇にも怯まなかった鏑木からすれば『変わった』、程度の違いでしかない。

 しかしその『変わった』は鏑木からすれば有利な交渉をすることが出来る材料になる。

 

「そうだねぇ…教えてあげてもいいけどここは交換条件と行こう。キミはアイに似て美しいからね」

 

 少し考えた鏑木は手を突き出してアクアに交換条件を叩きつけた。

 

 

◇◇◇

 そして、時は戻る。

 有馬が苺プロに加入したのを見届けた後アクアマリンの後ろについて行く。

 

「──で、恋愛リアリティーショーに出ろって言われたんだ」

 

 アクアは硝太の部屋に行き二人になる。

 その日話を詳しく聞いていなかったものの、打ち上げパーティーに出た為多少の事情を知っている硝太に復讐のことを隠しながらも次の仕事とその経緯を打ち明けた。

 そこから返ってきた反応はあまり良くない。表情がコロコロ変わるためわかりやすい硝太が苦い顔をしている。

 

「…兄さん、僕の意見を言っていい?」

「ああ」

 

 重苦しい雰囲気を出した硝太は目を細め、いつもの小学生にすら見える童顔から切れたナイフを想像させる顔に変わる。演技の欠片もできない硝太の素の感情表現。アクアは硝太の反応をじっと見つめる。

 

「反対だ。あのおっさん、怪しすぎる。アイさんの情報を出せば兄さんが釣れるって判断されてるよ」

 

 硝太はパーティーの間ずっと鏑木を警戒していた。元々警戒心が強いためアクアと何故か有馬と吉祥寺は例外としてそれ以外の全員に警戒心を向けていたが、鏑木に対するものはより強い警戒心だと言うのは傍から見てもよく分かる。

 

「それでも、鏑木Pがアイに詳しいことは間違いない。俺は乗ろうと思う」

 

 アクアも硝太が鏑木を警戒する理由もわかるし共感出来る。アクアはアイの情報さえ得られればいいと思っていたためまんまと釣られる事になったがあのタイプの大人はちゃんと約束は守る。

 恋愛リアリティーショーという懸念点はあるものの、そこで何かをしろではなく番組に出ろとしか言われてないので交渉はそこまで厳しいものでは無い。

 

「──そこだよ。僕が怪しいと思うとこ」

 

 アクアの判断を聞いた硝太は警戒をより一層強めて語尾も強めに放つ。

 

「どういうことだ?」

「どうしてあのおっさんは兄さんの事を()()()()()()()()()って強調して言ったの?」

「それは…」

「アイさんは故人だ。しかも兄さんとは性別すら違う。あのおっさんの目から似てると思ってもとても名前を出せる相手じゃないよね」

 

 アクアは驚きのあまり息を飲んだ。

 アイは既に故人。亡くなっている相手で彼女に似ているなんて同じ事務所であってもそう簡単に言うのだろうか。まだ相手がルビーならわかる。アイの全盛期と同年代でかつ見た目も似ているルビーの例えにアイを出すのなら硝太も理解が出来た。

 しかし、相手はアクアだ。アクアとアイは、硝太の目線では似ているとは言えない。仮に似ていたとしても性別すら違う相手に似ているなんて褒め言葉として使うことはまず無いだろう。何より『アイ』と言うワードを先に出したのは鏑木。アクア側が誘導した訳でもない。

 まだアクアがアイのことを知りたいだけならいい。しかしアクアがアイのことを調べるとそれだけアクアとアイを結び付け二人の親子関係に辿りつくものが現れる危険性がある。

 

「あのおっさん、何か知ってるのは間違いない。下手に手を出すと足もと掬われる」

 

 もし鏑木にアクアとアイの親子関係、そこから発展してルビーとアイの親子関係もバレたらどうなるか。彼が黙って一人で抱えてくれるのならそれでいいが、そこから話が拡がって芸能記者から世間へと公開されたら。硝太自身「苺プロが大変なことになる」としか理解していない。しかしその事実は彼が最大限の警戒をして最悪鏑木を文字通り口封じする選択させるには十分すぎる。

 アクアは硝太が最悪その手段に移る可能性を知っているからこそ、鏑木との関係を切る事は出来ない。アクアが仮に鏑木との関係を切ったとしても硝太は鏑木の周囲を探ろうとするだろう。アクアからの情報が無くなれば対面で情報を取ることを考えるかもしれない。コミュ障で嘘のつけない上に隠し事も下手な硝太が鏑木と接触し続ければそこから情報がバレる可能性もある。アクアからすれば間に誰かクッションを入れておかないと安心はできない。

 

「兄さんがアイさんのことを詳しく知りたいのは分かる。だけどこれ以上そのおっさんと接触するのはリスクが高すぎる」

「そうか?むしろここで断ったら『何かまずいものを隠してます』と言っているようなものだろ」

 

 アクアの言うことも一理ある、と判断した硝太は強く言えなくなり頬をふくらませる。

 確かに鏑木と接する以上言葉巧みにこちらの情報を探られる危険はある。しかし鏑木も番組にさえ出れば交渉に出した『アイ』に関する情報は間違いなく出してくれるので損しかない賭けという訳では無い。陥れる為にアクアに話を出したとは思えないので純粋に番組を盛り上げるためにイケメンが一人欲しかった、その為に彼が知りたがっている『アイ』を引き合いに出したという程度の話で済むなら仮にバレたとしても情報を広げられる前に対策は取れる。

 

「…むぅ。毒を食らわば皿まで、か。分かった。一応僕の方で鏑木勝也については調べておくよ」

「悪い」

「いいさ、どうせ調べなくちゃいけない奴だし。重要度がひとつ上がっただけ」

 

 アクアとの会話を切り上げると硝太は後ろにあるノートパソコンを立ち上げる。その画面にはとある映画のキャストや製作者の名前が所狭しと並べられていた。

 その映画のプロデューサーの場所には無機質に鏑木雅也の名前が書かれていた。




今回はちょっと巻き戻りまして今日は甘口での鏑木のやり取りでした。
忠犬→狂犬と化した硝太君。アクア(お兄ちゃん)は大変です。

次回、選択。
次からは二章となります。

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