ルビーが深掘れ☆ワンチャンに出演、注目の的となる。
「ねぇ、斉藤壱護って人知ってるよね?」
その日の仕事が終わり、マネージャーの氷室に家までの送り迎えをしてもらっている時間。フリルは不意に呟くような声で聞いた。
硝太の現状、彼が呟いた父親という言葉が気になったフリルはその日のうちに斉藤壱護について調べ始めた。だがアイドルのような表に出る訳でもない斉藤壱護の情報はネット上に現れることはなく、苺プロの元社長、という情報しか出てこなかった。
となれば人伝に聞くしかない。そうなった時フリルがいの一番に考えたのは長年共に居て信用できるマネージャー、氷室となる。
「あ?斉藤壱護だぁ?」
「私が子役の頃、自作DVD作ってたでしょ」
氷室はフリル達がまだ子役の頃、アイ事件を参考にした教育DVDを自作していた。芸能界によくある事件をまとめて危機感を煽る、よくあるやつだがその内容はかなり細かく社外に出たら一瞬で問題になるような内容だった。そんなものを作れるほど調べていた氷室なら斉藤壱護について詳しいのではないか。
そう思って聞いたのだがどうやら正解だったようですぐに氷室は納得したように頷く。
「ああ、あれか…よく覚えてたな。いや、あんなストーカーに追われれば嫌でも思い出すか、悪かった。で、それを今聞くってことはあの餓鬼の問題か?」
氷室に斉藤壱護という個人名のことを聞くということは彼の息子である硝太関連だとすぐに気付かれる。氷室には既にフリルが硝太のことが好きなことを言っているので今更隠す理由もない。
あの硝太が信用する程の大人だ、フリル個人の問題はもちろん硝太の現状について話してもいいと思っている。だがまだ少し早いと思っている自分もいる。
硝太が精神状態がおかしい理由は大体ルビーの活躍がアイの活躍に被ったせいで日常的にトラウマを刺激されているから──と推理はできるが彼の持つ魔法、インスタントバレットと呼ばれる力関連の話だった場合精神科の適切な処置は悪化しか招かない。なので今回は適当にボカして伝えることにする。
「硝太の為でもあるけどあの事件やっぱり不思議なことが多いから」
「だろうな、あれは多分真犯人は芸能界に噛みつけるお偉いさんだろ」
「どうして?」
「ドームライブ直前のアイドルを刺し殺されたってショッキングなニュース、1週間──いや、1ヶ月は持ち切りだろうに実際は数日ぐらいですぐ鎮火したんだよ。びっくりするぐらい情報が出ねぇからニュースの方もやる気失くした、って思ったんだがな。お偉いさんが事件に関与してるってなら話は別だ、だろう?」
まるで偉い人間を憎んでいるような物言いだがそういった人間が事件に絡んだ時報道規制が敷かれるというのはフリル自身、ストーカー事件の時に経験しているため下手なことは言えない。自分がそういった偉い人間の庇護下にいたからこそ今仕事にありつけているのだ。
同じ理屈でアイの事件が世に広まると面倒になるというのもわかる。アイに被害者という属性がついて世間に触れる機会を増やせばB小町に「仲間が被害にあっても突き進める強い女」という印象がつく。何より過剰な悲劇性はドラマを産む。いくら象徴を失ったアイドルグループとはいえ、ドームライブ直前まで行ったのだ、そんな属性がついて立ち上がるのを嫌うものは少なくなかったはずだ。
「それは悪く考え過ぎじゃない?」
大手事務所の稼ぎ頭のマネージャーがこんな発言をしたと外部の記者に聞かれたら大問題だ。こんな車に録音機はないし、乗っているのもドライバーの氷室を除けばフリルだけなので問題にならないが──硝太を突き飛ばした時といい、元ヤンを疑うほどガラが悪いのは変わらない。
フリルはジト目で睨むが氷室はいにも返さず言葉を続ける。
「それはともかく、だ。当時のB小町の立場ってのはお偉いさん方からすれば目の上のたんこぶだったんだよ」
「どういうこと?」
「東京ドームってのはな、俺たちみたいな大手でもそう簡単には使わせて貰えない。資金力は当然、ファンを捌ける警備会社のコネも必要だし、舞台に立つアイドルの実力も相当高くないと始まらないんだよ。そんな舞台に中小規模の苺プロのアイドルが立ってみろ、今後のアイドル業界を引っ掻き回される」
「ああ、そうか。影響力」
中小のアイドルグループで大手と戦える。そんな夢見事は言葉にするほど簡単では無い。人気を取るにはキャラクターの魅力は当然だが露出──昔ならテレビ、今ならSNSを含め、どれだけ見られるかが重要だ。相当なアイドル好きを除けば曲も知らない、メンバーの誰も知らない知らないアイドルのライブに行ったり曲を聴いたりしようとはふつうは思わない。見られなければそれは世界に存在しないのと同義。人気を出すには人に見られることが大前提、実際現在のB小町もピエよんのチャンネルに出たことでスタートダッシュを切った。
これが大手のアイドルなら似た手段をより強い効果が持つものを、何回も使える。例えば有名タレントがプロデュースしたとか、有名な作曲家が曲を書き下ろしたとか、メンバーがドラマで主演を勝ち取って曲が流れるとか、実際にその会社にある分野でなくてもコネを使ったものを含めれば相当な数がある。こういった露出の手札は当然ながら他の分野で当ててる大手の方が数も当たる可能性も高い。
それが無かった旧B小町はかなりスロースターターだったと思う。当時はSNSで一発逆転を狙うことも難しいので地下から出ることなく終わる量産型アイドルとして終わるはずだった。それを何とかしてしまったのが斉藤壱護という男だということになる。
「だからアイドル部門抱えてる会社からすればB小町はどうにかしてたたきつぶしたい相手だった。出来ればドームライブなんて計画される前にな。うちの社長も相当本気だった、確かB小町が武道館出た辺りから相当気を張ってた。斉藤壱護がいなければその頃に潰してたな」
フリルの所属する事務所にもアイドル部門がある。大手事務所の中ではそこまで大きくはないがフリルの場合自身の姉がそこに所属していたので内情もそれなりに聞いている。
彼らには大手のプライドとそのプライドを積み立てられるだけの力がある。その気になればB小町の社会的に孤立させて人気を減らす手段も取れただろう。大手の圧力で多くのファンが入れるキャパのあるライブ会場、グッズを作り売る制作会社等に苺プロと仕事をさせないようにしてしまえばいい。
悪くいうのならタレントの実力がどれだけ高かろうと、人気がどれだけあろうと売り込む事務所が弱ければそういった圧力で簡単に潰される。それはアイだって例外ではなかった。氷室の言い方からしてそれを本気でやろうと社長は考えていたとわかる。周りに警戒されたりと、それなりにリスクのある行為だがそれでもやるだけの利はあると思われる力があった。
だが結果としてそうはならなかった。それは社長にブレーキが効いたというより、斉藤壱護の根回しがあったからだろう、という予想を氷室はしている。
「彼は凄いよ、大手にはとても届かない規模で大手顔負けの根回しが出来る。他の会社だとな、B小町と斉藤壱護を引き抜いてしまおうなんてことを本気で考えたところもあったらしい」
大手の圧力をどうかわしたのかは分からないが、比べるまでもない規模と資金力の低さをものともせずB小町は右肩上がりで成長して行った。それを見た他会社が引き抜こうとした、と言っているが苺プロを引き抜こう、傘下に置こう、ではなくB小町と斉藤壱護を引き抜くという発言からその頃の苺プロの格がわかる。
珍しく氷室が手放しで褒めるので何かあったのかと勘ぐってしまう、が実際何もないのだろう。口が悪い氷室が褒めるほど斉藤壱護のタレントを目立たせる技術、仕事を持ってくる技術の高さがわかる。
「今んとこ斉藤壱護は苺プロにいない。歳的に引退にはまだ早いし何してんだろうな」
「知らないの?」
「知らねぇよ。何が楽しくて男のケツ追っかけるんだ。フリルもいい加減、あのガキの事は忘れろ、星野ルビーの流行ももう時期終わる。今のB小町はあれ以上成長しねぇよ」
「なんで?」
なんで硝太の話からB小町の話が出てくるのか。
なんでB小町が成長しないと言い切れるのか。
まるで硝太の人間性ととB小町の人気が直結しているような言い方にフリルは首を傾げる。ただフリルがB小町好きだから彼女たちに近い硝太に絡んでいたとするなら氷室の言い方は理解できるが、フリルの恋愛感情を知っている氷室がその発言をするのはおかしい。
いつもの硝太嫌いから遠ざけようとしているのか、それにしては龍珠組までの行き来は素直に話していた。まだ慣れてない、嫌いではあるようだが殺したくなるほど、自社のドル箱を関わらせたくないほど嫌ってるという訳でも無さそうだ。
「星野ルビーはあの頃のアイと同じだ。だが斉藤壱護はもう苺プロにはいない。アレレベルのプレーンがいるならともかく無ければ沈むだけ」
フリルの「なんで?」を氷室は「B小町が今以上に成長しない理由」と考えて答える。
どれだけタレントの実力や人気があろうと事務所が弱ければ勝ちあがれないのは先程散々聞いた。どれだけ釣りが上手い人間でも泥船に乗っていれば船が沈んで漁すらできない、ということだ。だがこれは斉藤壱護が今苺プロにいないという前提になっている。売れるのに優秀な頭脳役が必要ならば、今B小町が売れている理由と斉藤壱護を結びつけるのが自然なはずだ。
「戻ってるかもしれないじゃん」
「自ら見捨てた息子がいる会社に戻れるかよ。プライド以前の問題だ」
「硝太が見捨てられたって」
「状況的にわかるだろ。今苺プロにいないあの人が死んでないとするなら」
「…そう」
最近人気になったB小町を見ると今苺プロに斉藤壱護が居るのかもしれない、と思ったフリルだが氷室の言う通り、硝太のいる苺プロに戻れるはずがない。
おそらく斉藤壱護が苺プロを離れた原因はアイの死と硝太の本質を知ったこと。どちらか先かは分からないがどっちか片方でも夜逃げしてしまうのは無理もない。
だが同時に一つ思いついた可能性がある。「苺プロ」という会社に戻っていなくてもタレント本人に『助言』をすることなら可能ではないのか。あるいはB小町の出番を増やすようち根回しすることもできるのではないか。そう考えれば硝太とルビー急変もB小町の急激なブレイクも説明がつく。
だがこれはとても残酷な推測だ。斉藤壱護が援助したことでB小町がブレイクしたのなら苺プロが取るべき手は斉藤壱護を苺プロに戻すこと。あの氷室が手放しで褒める存在だ。上手く引き入れれば硝太の言っていた夢である『ドームライブ』も決して夢では無いだろう。そうすればルビーの問題もゆっくりと収まっていくかもしれない。だが同時にそれには大きな制約がつく。硝太の存在だ。もし斉藤壱護が硝太の本質を知って逃げたとするなら罪悪感からルビーを助けようとする気持ちは浮かんでくるだろうが硝太を認めよう、子供として愛そうとする気持ちは浮かんでこない。逆に硝太を排斥しようとする動きが出ても不思議では無い。硝太の母親がそれを許すとは思えないが硝太自身がそれを知った時、
フリルがずっと懸念していた斉藤壱護の調査回…と言ってもこれまで書いてこなかった壱護の情報を並べただけですけどね。
正直な話、本編同様に壱護がいないとルビー達があれ以上売れることはなかったので壱護の力は必要。だけど硝太の力は…
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氷室のおっさん、口では文句垂れるが直接的な行動を取らないのはある意味答え言ってるようなもんだぞ