#141 イブツ(一)
これは、俺──雨宮吾郎が
具体的に言うと出産から4ヶ月後。
アイの妊娠に気付いたストーカーと思われる男に殺されて死んだと思った生きてました、なんてドッキリならテレビでもやらないような品のない事を当然の事のように考えていつネタバラシが来るかなんてことを考えているうちに2ヶ月。そもそも赤子の脳は物事を考えるのに向いておらずアクアも実質意識はないのに近い状態だった。
何はともあれドッキリでも夢でもない現実だと気づき始めて赤子になった自分を受け入れた頃に驚きのニュースが舞い降りた、なんと生後3ヶ月にして弟が生まれたとの事。ちなみにお腹の子供の性別は男の子の方が比較的早くわかるそうだ。今回もそうであり、アクアが産まれるより早く、弟が生まれることが決まっていた。もちろん、出産するのはアクアを産んだ母親、星野アイでは無い。アイの戸籍上の母親、つまり養母である斉藤ミヤコである。ミヤコからすれば数ヶ月の差とはいえ養子の方が先に子供を産んでいるのだから複雑にもなる。
アクアは双子の兄である。だが妹であるルビーは何処の馬の骨かも分からないがアクア同様、生まれ変わって第二の生を受けており、純粋な赤子とは言えない。
「これで弟も誰かの生まれ変わりだったら面白いね」
周りの大人が見てないからとはいえ、そんなことをさも当然に言う赤子のルビーにアクアは純粋に引いた。
「だとしたらこの家は呪われてるよ…」
アクアとしてはアイには普通の赤子を産んで欲しかった。子供を産んでもアイはまだ幼い子供だが、母親になる決意を汲んだ側として、アイには普通の子供を産んで育ててもらいたかった。生まれ変わり自体懐疑的なものであるがなってしまったのだから今更仕方がない。新しく産まれてくる弟ももし誰かの生まれ変わりだったら、と考えると恐ろしい。もしそうなってしまったらこの家はなにかに呪われているのでお祓いに行ってもらった方がいい。
「もしかしたら子供ってみんな赤子の頃は前世の記憶があるかもね。それを親に隠すんだよ」
「やめてくれ、本気で考える」
何を考えているのか分からない、呑気な発言をする
「ミヤコさん来たねー」
そうしているうちに出産の為入院していたミヤコが子供を抱きながら帰ってきた。
因みに出産当日はルビーとアクアも病院まで行っていたが実際に赤子に立ち会えたのはアイだけだったのでアイは事前に会っている。今日はその子が家に帰る、お迎えの日。窓から様子を見ると抱っこ紐の中で力尽きたようにぐっすり寝ている赤子の姿がある。生後1ヶ月も経っていないだろうにもう既にアクアとルビーと同じぐらいの大きさなので比較的大きな赤子だ。
「ただいま〜」
「おかえりー!ミヤコさん、硝ちゃんは?」
帰宅したミヤコをアイが出迎える。アイは抱かれた赤子に手を振ったり、ほっぺたをつんつんしたりとかなり好き放題している。
「疲れて寝ちゃったわよ、って変に名前覚えるならあだ名はつけないでって言ったわよね」
「そっかーじゃあルビーたちに紹介だけしてあげようよ!」
「はいはい」
アイに誘われてミヤコがベビーベットに乗ったアクア達の方へと歩み寄ると硝太を抱いたまま顔を見せてきた。
「二人の弟の硝太よ、仲良くしてあげてね。」
ぐっすり眠っている弟、硝太は寝息を立てているが抱っこ紐に力強くしがみついて、木の上で暮らしている猿のように寝ている。アクア達のいるベビーベッドに寝かせてあげようとするが硝太は抱っこ紐にしがみついているせいでミヤコの胸の辺りでプラプラ揺れるだけでベットに降りない。
「この子、力強いわね」
仕方なくミヤコは抱っこ紐事ベビーベットに寝かせる。ふかふかのベッドに寝転がって降ろされたと気づいたのか抱っこ紐をポイッと投げ捨てる。どうやらミヤコから離れたくなかっただけらしい。赤子なんてみんなそんなもんだが意外と力強く執着が強かったりする。
「そうだ、社長呼んで写真撮ろうよ!」
「いいわよ、あの人忙しいんだから。それより双子にお乳あげた?」
赤子が家に来たのだから記念に、と写真を撮ろうとするアイだがミヤコがやんわりと断る。元々硝太は壱護が降ろそうと考えていた子どもだ。仕事が忙しいのもあってわざわざ時間を割いて来るはずがない。
普通の子供は両親から祝福されて産まれてくるものだが硝太はこの時点で片親からの愛を受け取れないのがほとんど確定してしまっている。今更そんなことを追求してもしょうがないのでミヤコも気にしないことにしているがアイは笑顔の裏で少し不安げな表情を見せる。
彼女からすれば壱護は自分をアイドルという職につけてくれた恩人である。元々アイドル業に憧れはなく、惰性で走ってきていたとしてもアイドルをやれて幸福が欠片もなかったわけがない。それを与えた壱護が実の息子を一度も見ないような反応をするのは衝撃だと思う。アクアは
それでもアイはそんな真意を隠しきってしまう──否、嘘で消してしまう。
「それがさールビーはおっぱい飲んでくれるんだけどアクアが哺乳瓶からしか飲まないの」
「そう…硝太も男の子だから心配ね」
壱護への感情を消したアイは不満の理由をアクアが母乳を飲まないことにすり替える。前世男としての記憶のあるアクアはアイの胸にしがみついて母乳をねだる、なんて恥知らずなことが行えるはずもなく、哺乳瓶から飲んでいる。同じく前世の記憶があるはずのルビーは恥ずかしげもなく、というより乗り気で吸っているのだが…この辺りは常識の差だと思う。
対して硝太は今のところ前世の記憶がある赤子には見えない、となれば普通の子供だろう。なのでミヤコには心配しないで欲しいのだが「心配しないで」なんて口にした日には大騒ぎなのでもちろんそんなことはしない。
──それでも一応、聞いておくか。
しかし、念の為硝太に前世の記憶がないか聞いておくことにしよう。案外ルビーの言っていた発言も的外れなものでないかもしれない。
子供の頃の記憶は成長するにつれて完全に忘れ去られるのではなく、結びつける回路が消える為思い出せなくなる、なんて研究をどこかで聞いた記憶がある。ルビーの仮説が正しいのなら大人になる時にはアクアの中にある雨宮吾郎としての記憶も思い出せなくなるのだろう。きっと前世なんてどうでも良くなって星野アクアとして過ごす事になる。
「まず私たちがご飯食べちゃいましょ」
「はーい」
アクアが内心考えている間に母親二人は自分たちの分の食事を作ることにしたようでキッチンの方へと移動する。子供達は寝ている(狸寝入りだが)なのでタイミングとしては悪くない。
その間にアクアはゆっくりと身体を起こすと隣で寝ていたルビーも起きる。ルビーはアクアより早くハイハイで硝太のベビーベットまで近づくと血の繋がらない弟に手を振る。
「硝太〜く〜ん〜お姉ちゃんだよ〜」
「おい待てアイに聞こえるぞ」
気の抜けた声で弟に挨拶するので流石のアクアが止めに行く。アイが少し離れているとはいえ産まれて数ヶ月の赤子が急に喋り出したら驚くだろう。喋るどころかベビーベットで立ち上がって産まれたばかりの弟に手を振っているのなら尚更だ。
「えーいいじゃん」
「良くない、一先ずアイ達が寝るまで…いや硝太、だったか。この子が普通の赤子なら夜泣きとかで起こされ…」
「ムン!」
警戒されない時間帯、基本的にアイが寝てる時間はアクアとルビーが個人的に活動する時間だった。昼頃は身体に逆らえない睡魔が訪れることが多いがその分夜間は比較的自由に動けた。
だがこれはあくまで二人が前世の記憶を持ち、幼そうなルビーですら、ある程度の社会性を持っているからであり、硝太が前世の記憶を持たない、心も身体も生まれたばかりの赤子なら夜泣きで母親を起こしてあやしてもらおうとするだろう。そうなればアクアとルビーが夜間に行動できる時間が無くなる。
ここからは一人の大人のして赤子の生活スタイルに合わせる必要があるな、と身体は子供のくせに一人前の大人として考えていると硝太がいきなりむくりと起き上がり、手を振るルビーに目掛けて手を振ってきた。
起き上がる、とは言っても片腕の力も使って半身を強引に押し上げただけだがそれでも産まれたての子供がやるには無理がある。それに加えてもう一つ。
──今、こいつ殴ろうとした?ルビーを?
硝太の手はルビーとは違って握られていて手を振ると言うより振り下ろそうとしている形に見えた。身体を押し上げた無理な体勢だったから、と言われればそれまでだがそれにしては直接的すぎた。まるで大きな音による不快感で反射的に音の方向に拳を向けようとした、という形に見える。赤子なので反射的に暴力を振っても別におかしくはない。
だがルビーに向けられた拳には悪意があるように見えた。──黙らせる、のが目的では無い。殺すのが目的のような、幼稚園児がアリの巣にお湯を流すような残虐性と異常性。まだ言葉すら話せない子どもが目の前の相手を殺そうとする、それも自分と同じ人間を──アクアはその可能性を考えて一瞬背筋が冷えたがすぐに首を振って否定する。
硝太はまだ生まれたての赤子だ。目的は暴力ではなく、音のした方向に手を振った程度のことだろう。仮にそうだとしても子供がアリを潰すのだって興味本位でやったり、命について何もわかってないからすることだ。共感性を身につけさせれば自然と収まる。
むしろこの行為が硝太を転生者ではない、普通の赤子だと証明しているようなものである。普通なら赤子になった自分と同じ大きさの赤子が急に姉を名乗って喋りかけてきたら驚くだろうし、別の反応を示す。それ自体も少し前のアクアのように「まだ現実を受け入れていない」「夢か何かだと思ってる」で済まされそうだが。
「ん?どうかしたのー?ルビー」
何か音を聞きつけたのかキッチンからアイが歩いてくる。先に気付いたアクアは急いでルビーの首根っこを掴んで寝かせる。二人の身長が低いせいで傍から見たらアクアがルビーを抱きしめているように見えるがこればかりは仕方がない。ルビーはアクアの意図に気づいたのか不服な顔をするものの、先程までのように赤子らしく狸寝入りをする。
「きゃーっ、かわいいー」
アクアがルビーを抱きしめている形で二人で狸寝入りをしているのを見たアイが2人の様子を写真に撮る。その時、スマホのフラッシュの光が硝太を照らす。
「んみゅう!」
急な光にびっくりしたのか硝太が今度は脚を振り上げてアイを攻撃しようとする、が距離が遠すぎてその攻撃は空を切り、ベビーベットのクッションに当たる。厚めのクッションの下から鈍い音がした。勢いが良すぎてクッションではなくフレームに足をぶつけたような音。
思わず硝太の目に涙が浮かぶ。大泣きする数秒前、と言ったところか。
「ああ。ごめん、ごめんね硝ちゃ──っ」
鈍い音にアイもすぐに気付いてあやすために硝太を抱き上げようと手を伸ばす。その時、今度は高い音と共にアイの手が硝太から離れた。
狸寝入りしながらも片目を開けて様子を確認していたアクアの目にはアイの笑顔が一瞬だけ剥がれたように見えた。
「いったぁ…」
静電気でも当たったのか、痛そうにするアイだが手を軽く振ると再び硝太に手を伸ばして今度こそ抱き上げる。
「どうしたのー?」
「大丈夫!」
キッチンからミヤコの心配そうな声が聞こえたがアイはすぐに首を横に振りながら安心させる。そして硝太を抱きしめ軽く揺らす。泣き出しそうだった硝太もアイにあやされて逆に満面の笑みでアイの顔に手を伸ばす。
「きゃっきゃっ」
「硝ちゃんお姉ちゃんの顔が気になるのー?将来有望だねぇ」
硝太の手がアイの頬に触れ、撫でるように動いて右目の方まで動き、止まる。流石に目に直接触れる訳では無いが目の周りをなぞるように触れている硝太の手をアイは払いのけようとすらしない。まるでそう誘導したかのように微笑む。
「んーそうかー硝ちゃんは。うん。分かった」
何に納得したのかは分からないがアイは納得した様子で硝太の額から顔にかけて撫で回す。その最中、ほんの一瞬だがアクアの目にはアイの瞳が
過去編、回想、色々言われますがまぁそういうことです
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赤ちゃんの時間はそこまで長く書くつもりはない。何せキャラがみんな動かないからね!