【硝子玉の子】   作:みっつ─

21 / 149
前回のあらすじ
ルビーと有馬のアイドルグループのマネージャーとなった硝太。その最初の仕事として帰宅する有馬の付き添いを行う。
その帰り、硝太は名も知らない少女に「早く起きないと死ぬ」と告げられる


#14 お昼休みは芸能科で

 陽東高校芸能科はセキュリティの問題なのか追っかけ防止のためか一般科とは違う棟になっている。とはいえ、いくら建物が離れていようと硝太の脚力の前にはお隣さんに行くのと変わらない。

 

「ねーえーさーんー」

 

 纏まった休みが取れる時間帯、昼の昼食時間になると芸能科の教室に侵入してくる小柄な男子─硝太がやってきた。

 ルビーどころか同い年の女性の平均より小柄な体に童顔と中学生どころか小学生にしか見えない硝太はある意味で人の目を引き付ける。おまけに昼放課を告げるチャイムの後一分と経たずにつく足の速さ。変わったものを見慣れているはずの芸能科のクラスメイトも思わず奇異の目を向ける。

 その視線に警戒しながらもルビーの目の前でかつ、教室を見渡せる位置に素早く移動したのは硝太の持つ勘故の行動だろう。

 

「硝太、今日もこっちに来たんだ」

 

 当の本人(ルビー)はクラスメイトのような目線は向けずに自然と空いた席に硝太を誘導する。ルビーからすれば遊びに来た硝太を自身に近い適当な場所に座らせるのは中学生の頃から慣れたことだが別クラスどころか別の科、別の棟から遊びに来るのは珍しくルビーの隣の寿みなみも口をぽかんと開けてルビーと硝太を見比べている。

 

「ん、ありがとう。兄さん友達と食べるって」

 

 みなみが近くでそうしているとは気づかず硝太は持ってきたルビーのものと比べるとふた周りほど大きい弁当を近くに置くと、懐から出したなにかの薬を口に放り込む。

 硝太からすれば一般科で唯一信頼出来るアクアが彼の友人と食事をするため事実的に一緒に弁当を食べる相手がいないからルビーを頼りにしたのだろう。硝太も個人で友達を作れ、と言ってしまうのは簡単だがそれが簡単では無いことはルビーは百も承知。

 

「硝太も話し相手ぐらいは作らなきゃダメだよ」

「…姉さんいるからいいもん」

 

 ルビーが出来るだけオブラートに包んで言ってみるが硝太は視線を逸らして口篭りながらも拒否反応を示す。仮にミヤコが同じことを言ったとしても硝太はそれを『命令』と判断して形上の友人を作る程度で済ませてしまう。

 硝太は人一倍寂しがりではあるが本心から友人を望んでいる訳では無い。彼の世界は家族で完結しており、その他の人間はいわば物語のキャラクターのようなもの。好き嫌いの差はあれど家族と同列に入ることは無い。

 

「話し相手って言うなら寿さんいるし」

 

 しかしルビーに対して弱い硝太はルビーの圧に耐えきれず、寿みなみの方に視線を向けて助けを求める。が、みなみは少し苦笑いした後ルビーの方に加勢した。

 硝太は女子に対する免疫がない。家族の一人として過ごしてきたのでミヤコとルビー相手なら見た目相応、小学生のように甘えるのだが警戒心の強さからコミュニケーションの経験が少なく、同時に異性に対する免疫がない。そんな硝太の初めての友人が寿みなみなので余計硝太の精神ダメージが大きくなる。

 

「ははは…せやけどクラスで一人は寂しいやろ?」

「ぐっ…それは、そうなんだけど」

 

 姉と唯一の友人と圧が強まりただでさえ小さい硝太がどんどん丸まり、小さくなっていく。ルビーもみなみも硝太にそれほど圧をかけている訳では無いが硝太も友人どころか話し相手一人出来ないことの問題は知っているので返す言葉が無い。その理由も寂しいから等ではなく、二人の見られ方や学校生活のサポートに使える人がいないという少しズレた理由なのだが。

 

「斉藤くん」

 

 ダンゴムシのように丸まり、小さくなる硝太の隣から救いの女神のような声がかかる。美男美女の多い芸能科でも頭一つ抜けた美貌とオーラを纏う美少女。不知火フリルが放課時間に少しでも交友関係を作ろうと考えた人の輪から出てきて硝太の隣に座った。歩く場所から人が掃けていくのはまるで旧約聖書モーセのようであり、硝太もその立ち振る舞いに魅了されるものの、すぐに切りかえて救いの女神の方に向き直す。

 

「あ、不知火さん。どっかした?」

 

 どっかした?なんて気安い発言に二、三歩引いた位置で眺めていたクラスメイトがざわつき始める。

 それに幼い顔つきからは予想出来ない鋭い目で応じる硝太の視界を封じるように隣に自然と座った不知火は手に持っていたコンビニの大きな菓子パンを机の上に置いて視線を誘導させる。

 

「一般科とは棟が違うけど、思いのほか早かったから、どうやってきたのかなって思って」

 

──思いのほか…?

 

 近くで聞いていたルビーは不知火さんの発言が少し引っかかったがそれ以上に捨てられた子犬のように警戒心が高い硝太が余計に気を配らないように身体で壁になったり、菓子パンや話題の提供で誘導する姿は姉であるルビーから見ても見事なものだった。

 流石テレビで引っ張りだこの美少女タレント。人を見る目がある。

 

「あーそれ、聞いちゃう?」

「聞いちゃう聞いちゃう」

 

 そんなことをしているとは気付いていないだろう、フリルの誘導にまんまと乗った硝太は少し迷った顔をしながら頬をかく。

 

「この階の男子トイレの窓、開いてたんだよ」

 

 少し罰が悪そうな顔をしながら硝太が言った言葉に寿みなみもルビーも、聞いてきた不知火フリルも数秒理解出来ずに時を止めたように声が止んだ。少し離れた位置から四人をチラチラ見ているルビー達のクラスメイトの小声が無ければ本当に時が止まったと錯覚してしまっただろう。

 

「…飛んできたの!?」

 

 数秒時間をかけて硝太の言った言葉を理解したルビーが驚きのあまり立ち上がりながら硝太に詰め寄る。

 

 そう。硝太はルビー達のいる芸能科の教室の棟の男子トイレの窓が空いているのに気付いて普通科の教室から文字通り跳んで侵入したのだ。硝太の影の薄さが無ければ今頃普通科の教室は入学したての新入生が飛び込み自殺をしたと大騒ぎだっただろう。

 男子トイレの窓も決して広くない。よくある900mm×700mmの小窓で当然のことながら人が飛び込むものとして設計されていない。その上で持っていた弁当を崩すことなく運んでくるという追加のミッションも難なく成功させている。硝太の小学生にしか思えない体躯と脅威の身体能力が合わさったからこそ成し遂げられる離れ業。

 

「うん、まぁ、そう」

「硝太ー!」

 

 詰め寄られた硝太はルビーの圧に屈して即認める。硝太の動きがいくら現実離れした離れ業であろうとルビーからすれば庇護対象の弟が自分に会い来るためだけに危険を犯しただけ。

 普通会いに行きたいと言うだけの理由で校舎の間を跳んでショートカットしようと思うやつはいない。出来る出来ないの問題ではない。

 

「危険なことはダメってミヤコさんにも言われてるでしょ!」

だって、姉さんに会いたかったんだもん(らっへぇ、へぇはんにはいははっはんはほん)!」

 

 思いっきり頬をつねって引っ張るルビーに余計な抵抗はせずに言い訳をする硝太。硝太も振り払うのは簡単だがここだけ切り取れば微笑ましい姉弟のやり取りだが、ルビーは本気で怒っている。

 

「まぁまぁ、ルビーちゃん。その辺で許してあげへんと…」

「はぁ…それもそうだね」

 

 周囲の目を気にしてみなみが宥めるとやっとルビーが手を離す。クラスどころか学校の中でも随一の美少女不知火フリルに普通科にいるはずの合法(違法)ショタとただでさえ周囲の目が刺さりやすいのにルビーが騒ぐと余計に変な噂が立ちかねない。

 ルビーの手が離された事で硝太が机の上に突っ伏すが大した問題では無い。

 

「大丈夫?」

「ああ、平気平気。気にしないで」

 

 隣でつねられているのを見た不知火が心配そうな目で見ていることに気付いて硝太は何事も無かったように不知火の方に顔を向ける。

 

「それより…なんか悩みでもあるの?」

「え?」

 

 不知火の表情が動画の停止ボタンを押したように止まる。表情の変化しかない為周辺に気付かれてこそいないが逆に隣で顔色を見ている硝太にはその変化は頷いているのと同じようなものだった。

 

「悩み…っていうか不知火さんの周りに変なやつがいたり、いなかったり?入学式の時からさ、なんかちょっとモヤモヤしたのが見えたからそーなのかなって」

 

 不知火の方から何も言わなかったからか硝太は話を続ける。不知火は鉄仮面という程では無いとはいえ表情は余り変わらず、感情が読みにくい。人の感情に機敏な硝太だからこそわかったと言えるがその分周りからの理解は無い。

 

「…まぁ、あるよ。悩みの一つや二つ」

「人気タレントも大変やなー」

 

 そこで不知火は『人気タレント故の悩み』へ話をスライドした。沢山の番組に出る為自分の時間が無いとか、一緒に仕事する人はみんな年上でジェネレーションギャップがあるとか、事務所の束縛が結構強いとか。実際これも問題ではあるので悩みではある。

 みなみも同じ芸能人として納得出来るのか同情的な目線を送る。ルビーも分かりやすく想像出来るのでみなみと同じ反応を見せる。

 

「仕事柄、仕方ないことだけど」

「…」

 

 しかし、硝太だけは納得がいってないようで黙りながら不知火をじっと見つめる。睨みをきかせている訳では無いがその瞳が「逃がさない」と言っているように不知火は感じた。

 

「僕、その言葉嫌いだな」

「硝太、言い方」

「確かに君は人気なタレントさんだけど、ここではただの不知火フリルだろ?」

 

 少しぶっきらぼうな言い方になりながら食事を口に運ぶ硝太。ルビーが姉らしく窘めるものの、硝太は不機嫌なのを隠せていない。

 不知火フリルは確かに人気な美少女マルチタレント。確かにそれ故の悩みを抱えてしまうのは仕方ない。それを学校で吐き出すのは不知火の自由であり、硝太も愚痴を聞くぐらいだったら喜んでする。しかし不知火は仕事柄仕方ないと言い切った。それではアクアマリンが『今日あま』撮影時にぶたれたのと何も変わりはしない。

 特に硝太は不知火の抱えてる悩みのひとつに当たりをつけている。その悩みも芸能人として仕方ないと言いきってしまうのは簡単に許せることでは無い。

 

「大切な仕事なんだから辛いことの言い訳にしちゃいけないよ」

 

 硝太の言いたいことに気付いたルビーが不知火の方に向き直す。硝太は思っていることがわかりやすいタイプだが、別に大して考えていない訳ではない。母から受け継いだものとはいえ、彼なりの正義感で動いている。

 

「…みんな君みたいな子だったら、いいんだけどね」

 

 硝太がわかりやすいので不機嫌な理由を察した不知火が諦めの感情を見せながらも右腕で頬杖をつき、残った左手を硝太の頭に乗せる。

 

「けど、ありがと」

 

 表情は変えないままだが、不知火の素直な言葉と行動に硝太は顔を背ける。元々異性への耐性がない上に人の感情をダイレクトに感じてしまう硝太に「推し」にあたる女性から頭を撫でられるのは流石に感情の整理が聞かないらしい。

 その証拠に隠しきれていない耳は茹でられたタコのような赤い色になっている。

 

「…不知火さん。僕は、さ。同い年、なんだけど」

「あ、そっか」

 

 最後の抵抗に放った言葉を聞いて頭を撫でてる相手が見た目のような小学生ではなく高校生ということを再確認した不知火は小さく笑う。

 

「最近さ、あからさまに私のこと狙ってる人がいるんだ。結構遊んでるって噂あるし断りたいんだけど、偉い人達と仲良い人でさ」

 

 聞かれるリスクを考慮したのか特定出来るような言葉を避けながらも愚痴を出し始める。封じ込めていたからか、不知火の口調は変わらないものの感情が籠っている。

 

「あー断りづらいやつやなー」

「狙ってる?何を?」

「恋人にしようとしてるってこと」

 

 同じ芸能人として思い当たる節があるのか、みなみは少々気まずそうに頷く。対人経験の少ない硝太に言葉の意味を説明しているルビーは苦い顔をしており、似たような経験があると感じさせる。

 

「マネージャーに言っても上手く断れとしか言ってくれないんだ」

 

 マネージャー、つまりタレントから信頼されるべき大人すら相談されても「上手く断れ」としか言わないのなら不知火が口を閉ざすようになるのも無理は無い。マネージャーや芸能事務所から止めろと言わないということはそれほど権力と結びついた関係であることは間違いなさそうだ。

 

「…そっか」

 

 不知火の言葉を聞いて硝太は不知火の抱えている感情を理解したのかルビーの方を向いて彼女と全く同じ苦い表情を見せる。

 いくら恋愛ごとに疎い硝太でも立場の高い人間と仲がいい人間を敵に回すことがどういうことになるのかは分かる。最悪立場の高い人を敵に回す、とまでは行かなくても仕事に影響する可能性を考えるといくら嫌でも強く断りたくなくなる気持ちは理解できる。これは恋愛では無い、悪意のないだけのパワハラだ。

 

「面白くない話でしょ?」

「…面白い面白いじゃないよ。経験上、小さなことであれ悩みの共有はしといた方が気持ちが楽だ」

 

 悩みは抱えると解決しないだけではなく、自分の心の脆い箇所になる。小さいことかもしれないが塵も積もれば山となるというように小さい悩みも積み重ねれば手痛いダメージになる。何でもかんでも話せばいいという訳では無いが、悩みを共有出来る相手を作っておくことだけでも少しだが楽にはなる。これは硝太が地獄のようなトラウマを持ちながらも生きていくための処世術のようなもの。それが不知火にも該当するというのは硝太なりの判断である。

 

──アクアマリン(兄さん)もそうだけど芸能人ってのはみんな()()なのか?

 

 アクアマリンも今日あまでの怪我を気にしていなかった。不知火も『このぐらい大丈夫』と言って気にしていない振りをしてしまう。なまじ演技力があるせいですぐに騙されるし早い段階で大人に触れて成長しているからか本当に痛みに強い。

 だからといって傷つくこと言われたりされたりして黙っていい理由にはならないが。芸能人だから、なんて理由はむしろ傷んだ心を誰かに愚痴として出すための言い訳として使うべきだ。

 

「けど、やっぱりどうにかしたいな」

 

 言うだけで楽になるというのはあるがそれでも問題は残る以上不知火さんが悩みを言ってくれたのに自分には解決する力がないのが悔しい。

 

 一人で悩む硝太を見つめる三人の目は少し温かいものになっていたことに、硝太は気づかなかった。




一般科に友達がいないから芸能科に特攻するしかない硝太くん。
キミ、一応一般人だよね?
それはそれとして姉さん(ルビー)に会って甘える為なら何してもいいと思ってるあたりシスコンが滲み出てる。まだお姉ちゃんに甘えたいお年頃なのです。
それはそれとしてちゃんと飯食え。

あっアンケート始めました。
他のSSと比べて投稿ペースが遅いということで週二投稿に切り替えようと思っているのですが読者の方はどう考えているのかな、と思ったので。期限はとりあえず二週間、その後票数が多い方を選択します。週二投稿になる場合曜日は金曜日か木曜日のどちらかになるかと思います。大したことは考えずエイヤッで構わないのでよろしくお願いします
もちろん感想、高評価もいつも通りお待ちしております。どんなものであれ嬉しいので

正直投稿ペースが遅いので週二投稿に切り替えて欲しいかこれまで(月曜日19時に本編、他の曜日に番外編を不定期に投稿)の方がいいか

  • 週一投稿
  • 番外編等も一話としてカウントして週二投稿
  • 番外編等は一話としてカウントせず週二投稿
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。