【硝子玉の子】   作:みっつ─

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幕間って普通本筋から離れた番外編的な話を書くものだと思うんですけどなんかこれまでの幕間普通に大切な話がしてきた。
まぁ今日もそうなんですけどね!

アンケートは次話投稿時間までやります。



幕間4 レンアイ

「そういえばお兄さん、今ガチ出とったな」

 

 お昼休み、今日も硝太を含めた4人で集まっていると不意に寿が『今ガチ』の話題を出す。

 

「今ガチ見てるの?」

「せやなーウチああいう恋愛もの好きでなー」

 

 硝太とルビーは兄のアクアマリンが出演すると知っているから見ているが、寿も見ているとは思っていなかったのか硝太は弁当を口に運ぶ手が止まり寿に顔を向ける。

 芸能人と言えど年頃の少女なら恋愛モノが好きなのも珍しくない。寿の目がいつもより輝いて見えるのもそういうことだろう、と硝太は普段より雑に結論をつけた。

 

「うーんけどお兄ちゃんの恋愛をテレビで見るってのもなぁ」

「ひゃぁー」

 

 そんな寿に対してルビーはしわくちゃのおばあさんみたいな顔に変わり拒否反応が出てしまう。

 『今日は甘口で』のように演技している俳優としてなら作品を見るのになんの嫌悪感も無かった。むしろ兄の出番だ、と喜んでいた節さえある。しかしリアリティショーとしてアクア本人として誰かと恋愛する様を見せつけれるのは非常に気まずい。その上完全に皮かぶった演技をして星野アクア本人はこういう人だと見せているのも含めて微妙な顔になるのも無理は無い。

 硝太もリアリティショーと名乗った番組で兄が陽キャを装っているのを見るのはまるで50超えたおばさんが「まだいける」とか言いながら昔の学生服を出しているようなもの。おいそれと口には出さないが中々キツいものがあると感じさせる顔をしている。

 

「流石姉弟、顔つきは違っても表情が同じだ」

 

 その中で一人だけズレた感想を出した不知火。実際ルビーと硝太は血が繋がっておらず顔つきから変わってくるのは当然だが、それでも共に過ごしているだけあり表情がよく似ている。アクアは五反田の所に、ミヤコは仕事とそれぞれ忙しい中でコロコロと表情の変わるルビーと共に過ごす時間が多く、その変化をよく見ている硝太とそんなルビーらしい変わりようだと言える。

 

「もしかしたら番組内でキスとかするかもしれんしなー」

「前のシーズンのカップルはキスしたしね」

「「うへぇ〜」」

 

 恋愛演技だけならともかく『キス』と直接的かつ、(特に日本では)恋人同士しかやらないような行動の例を出されるとルビーと硝太の姉弟は0.000001秒のズレもなく、不味いものを食べたような顔と声を出す。その反応が面白くて寿と不知火は思わず口元を抑える。

 実際リアリティショーと言ってリアリティさを押し出したとしてもエンタメはエンタメ。全く話が盛り上がらずに終わるような展開は演者も出演も避けたいのは当然なので盛り上げたくなった男女がビジネスカップルとなってキスをするのもおかしくない。

 恋愛ドラマでも濡れ場ならともかくキスぐらいなら普通にやるのでそれぐらいなら事務所も許容範囲だろう。

 

「演技した兄さんの人格を好きになった人とキスかぁ」

「複雑以外に言いようがないね」

 

 しかし二人にとってアクアはそんなシーンを演技する役者である以前にこの世に二人としていない兄である為そういった行動は複雑だし、気持ちのいいものでもない。

 

「恋愛ドラマの相手役を好きになるなんて話別に珍しい訳でもないけどね」

 

 一頻り仲のいい姉弟の事前準備無しの息のあったコンビネーションを楽しんだ不知火は口元のパンクズを拭いながら芸能界あるある、というより役者あるあるを言う。

 

「そうなの?」

「ドラマ内での話だけどね。あくまでキャラに憑依って言うか自己暗示してる形だからありもしない恋愛感情で撮影終わったらすぐ冷めるし。ああいうの出たいんだけどな」

 

 4人の中で唯一役者としての経験がある、と言うより多くのドラマで主役や主役級の役を貰っている不知火だからこその視点と経験をルビーと寿は興味深く聞くが芸能人では無い、硝太は別の場所に視点をつけた。

 

「不知火さんはそういうのに憧れあるタイプ?」

「そうだね。私結構小さい頃から芸能界いるから色んな人を好きになったりされたりしたけど、これといった恋愛はしてこなかったからね」

「ふーん、恋愛嫌いだと思ったよ。この前のやつもそうだし」

 

 この前の、というのは先日不知火が語った自分を好きな人からめちゃくちゃなアプローチを受けるという話。純粋な悩みとしてその感情に共感したと思っていた硝太は思った通りの結果とは違う結論が出力されて肩を落とす。

 

──みんな、恋愛を知っている。

 

 硝太には恋が分からない。元よりそれほど情緒が育っていない。母や兄姉から深く愛されているというのに出力しているかしていないかはさておき『愛』を理解できなていない。

 硝太は内心有馬は理解しやすい相手、理解しきれた相手と思って接しているが実際の所彼女が持っているアクアへの恋愛感情を差し引いた『有馬かな』への理解が深いだけで一緒に『今ガチ』を見た時の豹変ぶりは理解が追いつかずに思わず泣きそうになりながら母に縋った。

 

 みんな知っていて、その感情に一喜一憂するような恋を知らない硝太はある意味同級生と同じ土俵に立てていない。するかしないかは置いておくとしても話は通じないし、『当たり前』を共有することが出来ない。

 硝太に足らない感情は決して恋だけでは無い。硝太には人として欠けたものが多すぎる。

 

 幸せを知らない、友情を知らない。誰もが持ちうる感情の大半が欠けているくせに無心、恐怖、嫌悪感、嫉妬、焦燥と言った感情には人一倍敏感で感じやすく理解している。人は自分の持ち得た感情しか出せない。ほかの世界を見ても理解するには知識を通さなければそれは狂気となる。それがどんな善人の行動で、他の人からは『良い』とされるものであったとしても。

 

「それはそれ、これはこれ。別に好きじゃない人から強引に迫られるのは恋愛以前に普通に怖いし」

 

 不知火の話は考えなくてもわかる当たり前のこと。知らない人間に急に迫られたら誰だって怖い。その感情は硝太も人一倍理解できるし共有出来る。

 では、もし相手が『好きな人』だったら怖くないのだろうか。怖くないのだとしたらその境界線は何か。理解している相手を『好きな人』というのならそれは無理がある。いくら理解していてもそれはその人が見せるいくつかの側面でしかない。外れているかもしれないし、何かを隠しているのかもしれない。不知火は硝太のように「最悪死んでも構わない」と思えるような精神状態では無いのは分かる。だからこそ分からない。なんで、不知火はそう思ってしまうのか。

 

「人の心ってよく分からない…」

 

 硝太がポツリと零した言葉は悩みを共有出来たと思ったら違った間違いを恥じたのか、或いは初めて得た不知火と寿という対等に話してくれる話し相手でさえ『理解できない人間』というカテゴリに入れてしまったのか、その違いは隣にいるルビーと本人にしか分からない。

 

「そう?私は斉藤くんって結構惚れっぽい性格だと思うけど。これまで恋愛してこなかったの?」

 

 顔を下げる硝太に不知火は何気ない疑問をぶつける。恋愛が分からないなら今までそのような経験がなかったのか、高校生で恋愛をしたことがない人がいないとは言わないが一般的には珍しい部類に入るだろう。その上あくまで不知火の認識とはいえ惚れっぽいと考えるとしてこなかったのは不自然と思っても仕方がない。

 

「…」

 

 硝太が顔を上げると不知火と自分の間に様々な絵の具をぶちまけたような雑な色と形をしたワンピースのような衣類を着た何かがずいっといた。顔は骨格から歪み、元が男性が女性かすら分からない。ソレはあからさまに()()()()()モノで他の3人はもちろん、硝太を除いて誰にも見えないもの。肉体がないそれは付き合わせた机からホラゲーのジャンプスケアのようになんの前触れもなくいきなり出てきたと思ったら大きく口を広げる。

 ソレは硝太の目と鼻の先で硝太の顔を覗き込む。歪んだ顔は端から黒く変色して吐瀉物を混ぜ込んだような色になる。ソレに見覚えは無い。しかしその気配からどこにでもいる死霊の一つだろうと硝太は死んだ魚のような目でソレを見据える。ソレは何かを言おうと口を開けているが珍しく声は聞こえない。 いつもなら『見るな』や『こっちに来い』だの声が聞こえるのに、ソレは口を広げながらも喋る様子を見せない。

 

──気持ち悪い。

 

 理解できない感情を皆が楽しそうに語っているからか、自分だけ死体として放置されているような気になってしまう。会話に加わっている上に三人にもちゃんと認知されているのに自分だけ置いていかれてるような気がしてくる。

 

「あーほら!硝太はマザコンだから!」

 

 硝太が急に死んだ目をして黙ったのを見て大体の事情を察したルビーが代わりに答える。その答えが同級生達に対して良くない受け取られ方をするだろう答えだったが実際そうなので硝太も否定しない。

 

「お母さんのどんなところが好きなの?」

 

 否定しない硝太の顔色が悪いことを見た不知火だが、問い詰めるようにその話を続ける。

 

「お母さんは僕を救ってくれたから。暗い地獄にいた僕のために泣いてくれたから。優しい人だから、幸せになって欲しい」

 

──幸せがなんなのか、どうやったら幸せになるのか、よく分からないけど。

 最後にそう付け加えようとしたが、好きなところをあげろという指示に対してそれは蛇足だと思って直前で口を止めて話をとぎらせる。

 しかしそれでも見た目のこともあり今まで実年齢より幼く見えていた硝太の印象とは全く違った反応が出てきてルビーを含めた三人とも唾を飲み込む。

 

「そういえば硝太くんって…同い年やったね」

「うん…子供の顔で大人な顔してると顔がいいって思う」

 

 本来の硝太が見た目よりかなり大人しい人物だと知った二人は硝太の顔をじっと見つめる。

 ただでさえ母と姉を除く女性に慣れてないのに美少女二人、しかも片方は日本が誇る国民的美少女に見られて硝太は顔を一瞬でゆでダコのように赤くする。

 

「なんでさ!?」

 

 硝太の子供っぽい対応に三人は吹き出しそうになるのを押さえながら笑った。




書いて何となくルビー・みなみ・フリル・硝太の仲良し4人組いいなーって感じしますね。硝太の人としての問題点を3人がかなり薄めた上で面白要素を引っ張り出してくれる。何より硝太とフリルの掛け合いは書いてて楽しいしちゃんとお姉ちゃんしてるルビーが可愛い
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