【硝子玉の子】   作:みっつ─

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前回のあらすじ
今からガチ恋始めますに出演したアクア。その映像を姉(二人)と母と見ていた硝太。
有馬とルビーの豹変に恋愛は怖いと学んだ。


#16 亡霊の気配

 学校の放課中、周りの知り合いたちが友人同士で話しているのを見て関係ないと本を取り出したアクアの机の前に硝太が現れる。

 いくら警戒心は高いとはいっても、幼い精神性を持つ硝太に孤独は耐えられない。芸能科に行けば話し相手がいるが纏まった時間がなく芸能科に邪魔する気にもなれない硝太の行先は基本的にアクアと決まっている。

 

「兄さんさー、なんでキャラ作ってんの?」

 

 余程授業がつまらなかったのだろう。眠たそうな顔でアクアの机に体重をかけながら器用にバランスを取っている硝太は何気無しにアクアの仕事の話を始める。

 

「なんでって、番組の為だが」

「盛り上げ役は別にいるし、別に兄さんが素の性格でいても変わらないんじゃない?」

 

 アクアの素の性格は放送を見たルビーが言っていたように陰キャ、要するに陰気で暗い。番組の構成上、あまり目立つようなキャラでは無い。

 しかし、アクアの目的はあくまで鏑木への交換条件を満たす、番組に出演するということだけ。アイの情報を貰うだけなら番組を盛り上げたり、キャラを作ってまで応じる必要は無い。

 

「今回の仕事でそれなりに名を売れば今後も鏑木さんのとこで使ってもらえるかもしれないチャンスだ。番組を盛り上げる為にキャラを変えるなんてよくある事だ」

 

 数や精度に差はあれど誰しもその人向けの顔というものがある。嘘が下手な硝太でさえ、相手によって対応を変えるのは普通にやっており、別に不思議な話でもない。出来て当然、やって当然の話。この場合アクアは俳優として、番組に出演する者として番組用のキャラクターに作っているだけ。いくらアクアが番組に出演する理由がアイの情報を貰うためとは言ってもそれで番組を蔑ろに考えるほどアクアは腐っていない。キャラを作る演技も差はあれどアクア以外も5人もやっている事だ。残りのメンバーの自分をよく見せる程度の嘘は何も番組だけという話でもない。硝太に言っても欠片も理解できない話だがやってることは合コンと変わらない。

 

 

「…キャラを変えるって要するに嘘つきじゃん。リアリティ番組としてどうよ」

 

 だが、それも嘘であることには変わりない。硝太が少し迷いながらもそう思って深く食い込むように突っ込んだ言葉にアクアは一度黙る。

 リアリティ番組を名乗るならリアリティの文字通り現実感、つまり真実を見せるべきという硝太の意見はそれこそ大半の視聴者が望むものだろう。

 当然のことだが映画やドラマで演じている俳優や女優の素顔というのは分からないことが多い。テレビの先でよく見る姿はあくまで演技している姿であり彼、あるいは彼女そのものでは無い。俳優と女優人気に引っ張られているとはいえあくまで彼らの仕事は『演じる』、つまり別の人間のキャラクターを映すこと。視聴者もそれを求めている。だがリアリティ番組で求めるのはいくら出てくるのが有名な俳優だったとしても彼らの素の人間性(キャラクター)だろう。まさか出演してまで自分を出さないとは思わない。

 

「嘘は身を守る最大の手段でもある」

「…どゆこと?」

「硝太は知らなくてもいいことだ」

「なんだよ、また仲間外れ?」

 

 アクアのぶっきらぼうな発言に硝太は眉間に皺を寄せて不満を呈する。本人としては怖い顔でビビらせようとしているのだろうが、アクアからすればちっさい子供がちょっと怒ってるというレベルでしかない。

 硝太の場合致命的に覇気が足りない。

 

「まぁ、いいや。兄さんがそういう態度取るのは今に始まった話じゃないし。それよりさ、黒川さんとかどう?」

「急にどうした」

 

 急に話題がアクアの共演者の話になったのでアクアも苦虫をかみ潰したような顔になる。この手の話題はルビーでもうやった。ルビーは鷲見ゆきを推していた為推す人物こそ違うが硝太の言い方からして言いたいことはルビーと同じ「アクアが付き合う人を決める」類いだろうと推測される。

 

「いや別に…ちょっとあの人、必死そうだったから…」

 

 歯切れの悪い硝太にアクアは首を傾げる。ルビーは強引ながらも元気よく「この子はいい子だよ!」と推してきていたが硝太は何故か遠慮するように言っている。

 

「おい」

 

 そこに一つ声がかかる。

 硝太の背後、アクアの正面にその声を出した女性がいた。全体的に覇気の足りない硝太と比べて高圧的な女性の声。演技派の俳優でも出せないようなドス黒い印象を持たせるその気配は堅気の人間では無い。ポケットに手を突っ込んだまま動かしていないのもあってかなりガラが悪い。

 しかしシルエットだけなら見た目は幼く見える。こういうところは有馬に似た要素が大きい。だが、その目はアクアにさえ、マトモな人間とは思わせないほどに黒く染まっている。

 

「斉藤硝太ってのは、どっちだ?」

 

 女は硝太の背後から動かず、二人を見下すように眺める。人を訪ねてきただけなのに死刑宣告のように錯覚してしまう。

 

「僕だ」

「…二年の藤波木陰だ。ちょっとツラ貸せ」

 

 アクアが何も言わないことを確認して硝太が振り向いて、藤波と名乗った女と対面する。「誰だ?」ではなく「どっちだ?」と聞いてきたということは硝太にどんな要件があるかは別として斉藤硝太がこのクラスにいる、だけでなくアクアか硝太のどちらかというところまで絞り込んでいたということになる。そうなると嘘をつけない硝太はもちろん、アクアにも誤魔化しは出来ない。普段は硝太の事を気に求めないはずのクラスメイトの視線が硝太と藤波木陰と名乗った小柄な女に集中される。別のクラスどころか学年も違う女子生徒が遊びに来る。それだけなら仲のいい友達やカップルを想像するだろうが、本人達はもちろん、傍から見ている者たちでさえそんな錯覚には陥らない。仲がいい友達どころか毎日のように殺し合う、血で血を洗うような仲と説明された方が納得するだろう。それほどまでに二人の気配と存在は異様だった。藤波は小さな女の子くせに一昔前のヤンキーのような口調で親指で外に出るように促す。

 

 藤波がそうしているのを見て硝太は袖口を軽く触ると重々しく頷いた。

 

◇◇◇

 

「この辺でいいだろ」

 

 一昔前前なら昼時に多くの人が集まっていた校舎の屋上。今は昼時でもなく、それどころか屋上へ行く階段には鍵をかけて屋上まで行けないようにされている。その為屋上の上は人の影も姿も、視線すら感じられない。そんな屋上までつくと藤波は、小さい声でそう呟いて立ち止まる。

 藤波が立ち止まったのを見てついて行く間ずっと黙っていた硝太は5mほど離れた場所に同じように立ち止まると左手の袖口に右手を通す。藤波は硝太に背中を見せている。流石に硝太よりは大きいものの、高校生として見るとかなり小柄な背中は今はガラ空き。

 

「まず、袖口に隠した厄介なものから下ろしてもらおうか」

 

 しかし、藤波は振り向くことなく背後にいる硝太が袖に何か仕込んだことを的中させた。ガラの悪さや高圧的な態度の割に警戒が薄いと思っていたがそれは勘違いだったようだ、と硝太は評価を改める。

 

「…ただのシャーペンですよ」

「ふざけんな。目に突き刺せば立派な凶器だろ」

 

 藤波が振り返り、再び硝太と対面する。距離は5m。藤波の言う通り、シャーペンを隠している硝太だが、この距離なら気付かれていたとしても藤波を仕留めることは可能だ。仮に藤波が防御を取ったとしても小柄な女子の体と瞼ぐらいならシャーペン一本でも充分貫ける。無論、ただ『出来る』だけですぐさまやる気は無い。鏑木の時もそうだが、すぐにでも出来るようにはしても実際に動くのはあくまでアクアやお母さんの代行行為として行う。自分自身の感情で殺人なんかしたらそれこそ自分は殺人鬼になり、お母さんを殺人の母親にしてしまう。そう言った理性は人間誰しも持ちうるもので、それがあるから犯罪を踏みとどまることが出来る。

 

 しかし、今目の前にいる相手にとってその理性は邪魔になる。

 

 硝太の目に映る藤波は人の形を保っている悪意の塊のように見える。孤独、殺意、嫌悪、不信。言葉にするのもはばかられるような悪意が人の形をしている。アクアやルビーのような毎日会う家族とは強さは桁違い。

 その中でも一際目立つ死の匂い。細い針で鼻を貫くような鋭く、目立つ匂い。

 

「流石人殺し、と言ったところですか」

「お前──っ!」

 

 硝太の言葉が琴線に触れたのか藤波が強く足を踏み出す。が、それ以上進みはしない。悪意の塊でありながらそれを放出しない理性も持ち合わせている、ということなのか分からないが藤波は地面を強く踏むだけで直接手出しはしてこない。

 

「はぁっ──まぁ、そうだよ。私は人を殺したことがある。このナイフでな」

「───っ!!」

 

 怒りを必死に抑えながら藤波は先程までずっと手を入れていたポケットから小ぶりの折りたたみナイフを取り出す。

 驚かない。藤波が人を殺したことがあることぐらい、見ればわかる。その得物がナイフというのも別に不思議な話では無い。少なくとも、シャーペンで人を殺そうと考えるよりナイフで人を殺そうと考える方が()()だ。

 藤波の言葉にも嘘はないだろう。彼女の取りだしたナイフは血などの跡こそついていないものの、非常に濃い死の残穢が残っている。

 驚くほどに穢れた折りたたみナイフは使い手の手によく馴染んでいるように見える。藤波はソレ強く握り、軽く振る。

 

『アイ、ドーム公演おめでとう。双子の子は、元気?』

 

 脳を直接デカい棒ヤスリで削るような痛みと共にねっとりとした気分の悪い男の声が再生される。

 男は深くフードを被っており、顔は見えない。しかし体格から大凡20代から30代ほどと推測できる。男は白い薔薇の花束を手に、前に立つ。そして殺すバラの影には刃の反射光がこれから起こることを告げる。

 

 それは偶然必然だった。

 それは悪夢現実だった。

 故に、変革することは出来ない。如何なる魔法を用いても、引き起こった事象を無かったことには出来ない。

 

 

──なん、だ?

 

 突然湧き上がる謎の人物とその不思議な姿。本来硝太の目の前にいるのは藤波木陰ただ一人。変な人物どころか男がいるわけが無い。

 存在しないはずなのに、この世の何よりも強く残る記録。知らないはずなのに、その嫌な幻覚は収まらない。

 

 

「うっ──」

 

 胃の中に腕突っ込まてれてかき混ぜられたような気持ち悪さと吐き気に思わずその場で膝をついてしまう。風船が膨らみ割れるようなイメージと共に頭が割れるのではと思ってしまうほどの鈍い頭痛がおこる。世界の輪郭が不明瞭になり、ゆっくりと揺れ、残像(現実)幻覚(空想)が繋がる。

 倒れ、あやふやになった世界でも顔を上げると視界に入る藤波の持つナイフの死の残穢はより強く存在を主張する。

 まるで道標のように。

 まるで証明のように。

 

「お前、やっぱり()()()()か」

 

 藤波のゴミを見るような見下す目に硝太が映る。吐きそうになるのを必死に抑えている子供の姿がなにかに重なったのか藤波の目には生気を感じない。

 

「同じ…?」

 

 藤波の生気を感じない目に、敵前と気付いた硝太がゆっくりと立ち上がる。その姿は酔っ払いのように足元が覚束無いものの、並の女子高生と同様の力しかない藤波となら力勝負に限れば充分勝てる。それも力勝負に持ち込めば、なので大したことは無いのだが。

 

「『インスタント、バレット』。お前も持ってるだろ、デタラメで馬鹿げた力。あの子は世界を撃ち抜く魔法の弾丸って言ってた」

 

 インスタントバレット。耳に入ってきた知らない単語とまるで夢物語のような話に全身に入れたはずの力が緩む。

 ここまでもったいぶったような話し方をしておいて厨二病でも恥ずかしくて言い出さないようなことをこちらも知っている事実のように言ってくる。何故そんなことを知っているという前提で話が進められているのか。妄想を垂れ流す友達と勘違いしている、或いは妄想を聞いてくれる相手が欲しいなんて可能性を考えたがそれはありえない。少なくとも藤波は『斉藤硝太』という名前を知っており、それがいるクラスと人物をアクアと本人の2択まで絞り込んでいる。その上で「お前も知っているだろ」ではなく「お前も持っているだろ」と言った。妄想癖の虚言癖の可能性は限りなく低い。

 

「はっ──なんですか、それ。僕、空想と現実は分けて楽しむタイプなんですけど」

「なら見せてやろうか。私の魔法」

 

 まだ疑っている、とやっとわかったのか藤波がナイフを再度ポケットにしまい、手を握って前に突き出す。不思議なことは何もないはずのその動きを見た途端、まるでスイッチが入ったように撃鉄を起こす幻聴が鳴った。

 

──コロセ。

 本能(生身)の自意識が命令する。コロセ、殺せと。アレは世界にはあってはならないものだと。理屈が無いはずなのにそれがまるで世界の常識、生きている意味のように強く命令を繰り返す。

──コワせ。在るという証拠をケせ。

 藤波の命どころか存在そのものを否定するような酷い命令は強い憎しみを思わせる。が、彼女とはこれが初対面で憎しみを持つ程の事を彼女はしていない。

 

 前後関係があやふやになるような状態なのに、頭は驚くほど冷静になっている。必要な情報量を絞れるからだ。むしろ「生きる」という行為には今の肉体は合っていない。不知火フリルと初めて出会った時とは逆だ。あの時は人間ではなくなるぐらい高揚していたが今回はいつもと同じ、否。いつもより安定している。

 殺すのは簡単だ。藤波が言ったようにシャーペンで目ごと脳を突き刺せば済む話だ。手足なら兎も角、どんな人間であろうとであろうと脳を損傷されれば再生はできない。確実に殺せる。

 

 心臓の鼓動が弱く、薄くなる。呼吸も必要なく、瞬きなんて以ての外。あれほどの敵を殺すのなら「人」としての機能があっては負ける。相手はそれだけの上物だと、地獄触れた脳が判断した。無駄な感情も、戦いの高揚も要らない。戦いに偶然なんてない。どれだけ幸運であろうと、どれだけ相手が優れていようと関係ない。袖口に潜ませていたシャーペンを逆手で握る。シャーペンを潜ませていることは藤波には既にバレている。だがその藤波との距離は5mほど。今の自分なら藤波が手を広げるよりも早く初撃に入れる。

 動きは警戒されないように自然体に。ギリギリまで殺意を出さず、その瞬間を狙う。一瞬、文字通り瞬きの間に終わる。藤波がこちらの狙いに気付いて■■を使うか、藤波より先にこちらが動くか。速度勝負では無い。単純な、判断力勝負──だが、それが現実になることは無かった。

 

カァァァァァ、カァァァァァ

 

 どこから湧き出たか分からない烏の鳴き声がまるでこちらの体を包むように響いた。それを合図にするように冷たい血が、「人」の機能を取り戻す。

 理由がないとはいえ殺意はある。実際に殺すのは出来る。しかしそんなことをしたら僕は二度あの家に帰ることが出来ない。お母さんも二度と抱きしめてくれないだろう。

──それは嫌だ。死ぬより嫌だ。

 

「暴力は、いけない」

「…なんだよ、それ」

 

 絞り出すような声に興が冷めたのか藤波は握った手を開くことはなく素直に下ろす。握られた手から腐卵臭がしたのは何かの間違いだろう。

 頭の中では誰かが「殺せ」と言い続けているがもう無視することにする。そのせいか息は苦しいし、心臓の音が強く響く。

 

「僕、もう帰ります」

 

 目の前にいる藤波の顔が見たくなって背中を向ける。敵に背中を見せることの危険度は十分承知しているが、それより今はなんとしてでも家に帰りたかった。

 

 

 最後に、後ろから刺してくる藤波の視線により強い殺意が点ったように感じた。

 

◇◇◇

 

 昼休み。ルビー、みなみと共に食事していた不知火フリルはふと思い出したように呟く。

 

「ねえルビーさん、今日は斉藤くん来ないの?」

 

 仕事の量が多く、入学式すら出てこれないほど多忙で今現在も仕事で休むことが多いフリルは別クラスどころか課すら違うのに毎日のように来る同い年の男の名前を出す。

 

「え?硝太?硝太は…来てないね」

 

 硝太は来る前に連絡等をする訳では無いが長い放課時間が取れたらまずルビーの方に顔を見せていた。ルビーの、というよりアイドルグループのマネージャーになることを決めてからはアクアよりルビーを優先するような行動が増えており、今となっては芸能科のクラスメイト全員に顔と名前を覚えられていると言っても過言では無い。そんな硝太が昼休みに来ないのは珍しい。普通科の授業が伸びており、まだ辿り着いていない、という可能性もあるがそういう時の硝太は文字通り手段を選ばない。それでも来る気配が無いのだから今日は来ないと思った方がいいだろう。

 

「普通科の方でお友達と食べとるんやない?」

「まさか、お兄ちゃんとならまだしも新しい友達なんて出来てないよ」

「流石にそれは可哀想やない?」

 

 みなみは普通科で新しい友人が出来た可能性をあげるものの姉であるルビーに即座に否定される。普通科での硝太を一度も見ていないのに友達は出来ないと決めつけるように言うので流石にみなみも柔らかめのツッコミを入れるがみなみも内心では普通科で友達を作るのは難しいだろうとは思っていた。

 

 まず初めに硝太の対人経験の少なさから出る警戒心の高さ。どれだけ友人を作りたいと思っても周りを信用出来ないなら一匹狼を貫いた方がいいと判断するのも珍しい話では無い。初対面ではすぐに握手を求められるという長年共に過ごしたルビーやアクアから見れば別人のような異例の対応を受けたみなみでさえも隠すのが下手な硝太の警戒心の高さは充分見抜いていた。

 芸能科に来てもルビー、みなみ、フリルの3人を除いた生徒とは会話どころか目すら合わせようとせず、警戒するように周囲に目を配ることも多い。まるで暗殺予告を受けた有名人を守るSPのような集中力を見せる時もあるほどで普段幼い性格と風貌をしているのも重なるとかなりチグハグに見える。

 

 理由はなんであれ硝太が来ない可能性が高いと知ったフリルは少し寂しそうな顔で机に座って手に持ったおにぎりの袋を開ける。

 

「結構面白いんだけどな、あの子」

「硝太が?」

 

 フリルの何気ない発言にルビーが首を傾げる。中学生までの硝太の評価はそもそも気にされること自体が少ないほどに影が薄かった。評価されたらされたで狂犬、一匹狼を気取ったコミュ障、アクアと仲良くなるための一番の障害等悪口のオンパレードだったがフリルの面白いという発言は純粋に硝太に好意がある発言のようにルビーは感じた。

 ルビーは硝太の事を弟として大好きだし可愛がっている。だがそれと同時に硝太の良くないところは見ているし、傍から見るとそのような点が目につくタイプだと言うのも理解している。だから表面的に硝太を見ようとすると中学生の頃の友人たちの評価はかなり妥当に見えて来る。そういう意味ではルビーは硝太を悪く言った中学時代の友人たちを責められなかった。

 

「結構冷めてるように見えて実は誰よりも他人をよく見ている。けど人と接するのが怖い。人嫌いなようで人好き。人好きのようで人嫌い。面白いんだよね」

 

 フリルの声からはこれといった感情は見られずクールで落ち着いている。しかしながら日本が誇るマルチタレントは伊達じゃない。たった数回会っただけで長年共にすごしたルビーと同じぐらい、硝太の内心を見て判断している。

 硝太は他人への警戒心は強く、それこそ首輪のついていない狂犬のように見ることもあるが硝太は元々かなり人懐っこく、寂しがり屋な子供だった。一匹狼なんて有り得ない、周りに信頼している人がいないと何も出来ないしやろうともしない。いくら人嫌いになっても寂しがり屋な点は変わらない。そんなところに気付いたフリルの目は間違いなく一方向に縛られない、人を見る目がある卓越されたタレントの視線だろう。

 

「それにちょっと気になる点もあるしね」

「気になる?なんかあったん?」

「うん、これは…ま、2人ならいっか。」

 

 フリルが手に持ったおにぎりを頬張って飲み込むまでルビーとみなみはフリルの気になる言い方が引っかかっていた。

 

「今年の初めさ、番組の企画で占いをやったんだけど」

 

 今年の初め、つまりまだ三人とも中学生だった頃、フリルがレギュラー枠を持っているテレビ番組の企画で占い師に今年の運勢を占ってもらったのだ。

 それなりに長く続く番組ならよくある新年の占いで当然フリルもその占い師に運命を占ってもらった。その占い師は霊能力者も名乗っており、ついでにレギュラーメンバーと対面して見てもらったのだ。

 

「その時に言われたんだよ。とんでもないモノが憑いているって」

 

 霊能力者を名乗る占い師はフリルを一度見ると、冷や汗をかきながら言ったのだ。『とんでもないモノが憑いておる。これ以上は命の危険だ』と。タレントの1人がそれを茶化すと占い師は怒りながら冗談では無い、と言って逃げ出し出演を断ってしまったのだ。

 元々嘘くさい見た目をしていたので事務所の人も周りの同業者も、フリル自身ですら全く気にせずに記憶の片隅に追いやっていた。硝太に出会うまでは。

 

「え…」

「その時の占い師がかなり慌てていてね。お蔵入りになっちゃったからだーれも知らない。だけど彼、言い当てたんだよね。生霊か、って」

 

 その時の占い師がインチキ霊能力者だったとして。フリルに見えたとんでもない霊が本当はない偽物だったとするなら硝太がそれに即座に気付くのはおかしい。まだその時の占いを共に見たタレントやADが言うのならわかる。しかしその映像はお蔵入り、つまり実際に見た者以外は気づくはずがない。

 それどころか『生霊』と断定したのだからソレを見えているのは間違いない。硝太は嘘が極端に下手ということを知っているルビーからすれば硝太が何気なく言っただけ少なくとも硝太には見えているのだと分かるが、硝太が嘘をつけないということを知らないフリルからしても硝太の発言と霊能力者を名乗った占い師の言葉は嘘ではなく真実だと思えるようになっていた。

 

「え?硝太くん霊感とかあるん!?」

 

 硝太がオカルトな発言をしたと聞いていなかったみなみが首を勢いよくルビーの方に回してつめかける。『とんでもないモノが居る』と言われても相手がインチキ霊能力者だと笑っていたのが事情を知らないはずの子供も同じようなことを言ったことで信憑性が一気に上がる。

 もし硝太に霊感があればその信憑性はより上がる。

 

「あ、ああ、うん。硝太小さい頃から凄く霊感が強くって、何も無いところを指差したりすることよくあったなー」

「けどその時、びっくりするぐらい落ち着いてたよね。多分斉藤くんにとっては生きた人間(私達)より霊の方が身近だったんじゃないかなって」

 

 ホラーゲームを始めとして霊はプレイヤー等を攻撃する敵として扱われる。実際に霊を信じている人は少ないがもし居たとしたら霊は恐怖の対象だろう。何せ実体がないのだから常識が通じない。何をしたいのかも、どういう存在なのかも分からない。分からない、というのは恐怖に繋がる。

 だと言うのに硝太にとっては身近なものであるようで霊より人間、赤の他人を警戒しているように見えた。霊の方が硝太は怖くない、理解出来る。霊の方が相手にするのには慣れている。いくら対人経験の少ない硝太であったとしても人と話すより霊を見る方が日常と判断するのは間違いなく異常だ。

 

 小さくて子供っぽいという見た目で目を引くような点がありながら影は薄い。寂しがり屋のくせに人一倍他者に恐怖して嫌っている。そのくせ一般的な恐怖である霊には恐怖すら持たない。

 

「…これ、怖い話?」

「まぁ、そうなるかな」

 

 顔を真っ青にしてフリルを見るみなみに対して、言われた当の本人は平気そうに頷く。信用出来なかった心霊話が急に現実味を帯びてくるのは相当怖いだろうに、フリルは我慢するようなこともせず自然体でいる。

 

「だ、大丈夫なん?そ、そのとんでもないモノ?ってまだ不知火さんに憑いとるんやろ?」

「別にこれといって異常は無いしいいかな」

 

 みなみがさらに心配をしても「別に異常は無いから」と気にする素振りすら見せない。フリルからすれば憑いているか憑いていないかはどうでもよく、硝太がそういう霊とか亡霊の類いのものが見えるという方が面白いと考えている。

 フリルにはその『生霊』の正体は何となく分かっている。この前硝太が心配して話しかけてくれた時にはもう思い当たる節があり、相手が特になにかしてくる様子もないので変に騒ぐより放っておいた方がいいと判断したのだ。

 

「けど、硝太は霊能力者とかじゃないよ?」

「別に大丈夫。解決しなくても自然に治ると思うし」

 

 硝太が霊能力者といった解決できる人間ではなく、見つけることだけができると知っているルビーも心配そうにフリルを見るがフリルは先程と変わらず食事を終わらせる。

 

「あ、お兄ちゃんからだ」

 

 それとほぼ同時にルビーの懐の辺りから音が鳴る。ルビーが懐からスマホを取り出すとそこにはアクアからの着信が来ていた。学校内で連絡をしてくるなんて珍しいな、と思いながらアクアからのL〇NEを開く。

 

「───は?」

 

 ルビーの素っ頓狂な声に周りにいたみなみとフリルがルビーの背中に周りL〇NE画面を確認する。

 

 そこには『硝太と連絡がつかない。そっちに行ってないか』とだけ書かれていた。

 

「…また、か」

 

 周りの2人が驚いて互いの顔を見合せているのに対して非常に悲しそうな顔を見せながらも慣れた様子でルビーはアクアに返信を始めた。

 




インスタントバレットから藤波木陰参戦!
そして明かされる硝太の真実!
硝太の理解度がやけに高い不知火フリル!(流石ヒロイン!)
フリルに取り憑いてる謎の生霊とは!?
そして藤波木陰から別れた途端失踪した硝太の行方は!?
なんでルビーは「またか」なんて言ってるんだ!?

今日はこんな感じです。
ちなみに藤波木陰はib-インスタントバレットのキャラクターでインスタントバレットの方では中学生として登場しましたが、本作はインスタントバレットから数年後の世界としてるので硝太の先輩として登場します。

というわけでキャラ紹介です
藤波木陰
ib-インスタントバレットの登場人物
とある女性に集められた元野良ibの1人。同じくその女性に集められたib達とチーム『世界の端っこ』を結成。
植物を自在に操り、仮想の植物を生み出す『生命』のインスタントバレットの持ち主。とある事件からcolorful(カラフル)には人類を滅ぼせる危険なインスタントバレットの使い手と認知されている。
今日の話では高校での登場だったので制服だったが私服はいつもうさぎ耳のパーカーを着ているおり、それがアイデンティティの一つとなっている。
実は多額の借金を残した父親に逃げられた後女手一つで育ててくれていた母を薬物と売春で亡くしている。ある意味硝太の有り得た未来の一つとも言える女性。それが原因で学校にも通っていなかった…のだが、とある人物の助けも借りて本作では無事高校進学に成功して(普通科ではあるが)有馬と同じ2年生となっている。

・『生命』のインスタントバレット
能力名「秘薬創造」
この世に存在しない植物を作成し、自由自在に操る魔法。植物を作る過程で植物を介する必要があるとはいえこの世に存在しない、抗体を作ることが不可能な毒を作ることも可能。
能力の都合上火などの外的要因には弱いが出来ることの幅は広く薬の創造から条件さえ整えば地球上全てに特定の毒を散布することも可能。
植物の知識のみならず毒の知識も必要とするとはいえそれさえあれば格上狩りも容易にできる非常に強力なインスタントバレット。
基本的な対処方法は射程外からミサイル等で周りごと焦土とするか、発動前に仕留める。
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